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身に纏うは”意志の表れ”  「古着」は新時代を切り拓くステートメントだ

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古着が、個性を表現するモノから、新しい時代を切り拓く”意志”をまとうモノへと変化している。
1990年代に日本に爆発的な古着ブームが到来して以来、古着は「個性的な人々が自分らしいスタイルを表現する手段」としてそのイメージを確立させてきたように思う。絶対数が限られた貴重な服を形容する「一点物」という言葉は、古着ならではの希少性を象徴する。だからこそ、この世に1人しかいない「私」を表現するツールとして受け入れられてきた。

しかしいま、時代の潮流と重なるように、古着は新たなる価値を帯びている。
この記事では、若年層を中心にその規模を急激に押し広げている古着市場とその背景に触れ、それに呼応するように変化し始めたファッションの作り手たちにフォーカスしつつ、従来とは異なる意味を帯びる「古着」の可能性に迫りたい。

主役は”Z世代” 急拡大する市場規模

ここ数年、古着市場が勢いを増している。
2021年3月、世界最大規模の古着売買ECサイトを運営する米国のthredUP社が、古着市場に関する最新の報告書を発表した。米国の古着市場規模は、今後5年間で2倍以上拡大すると予測されている※1。

国内でも、古着を取り扱うヴィンテージショップを検索したり店舗と直接チャットでやりとりができるスマホアプリ「Vintage.City」が、日本初の古着メディアアプリとして注目を集めている。昨年末にリリースされ、この6月には累計ダウンロード数が20万を突破した。

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なぜ、いま再び古着に注目が集まっているのだろうか?
その背景には、近年消費者として影響力を増す「Z世代」と呼ばれる10代後半から20代前半の若年層の存在がある。

thredUP社が前年度に発表した報告書の調査によると、ここ数年における世代ごとの古着購入率において、24歳以下の層が最も高い伸び率を記録している※2。
イギリスでは、2021年6月、ハンドメイド雑貨の大手ECサイトを運営する会社 Etsy, Inc.が、Z世代向けの古着売買サイトDepopを約16億円で買収した※3。Depopはここ数年破竹の勢いで売上を伸ばしており、利用者の約90%が26歳以下であることを公式サイトで発表している。

今、古着市場の主役がZ世代であることは明らかだ。

※1参照:「2021 RESALE REPORT」thredUP https://www.thredup.com/resale/#resale-industry
※2参照:「2020 RESALE REPORT」thredUP https://www.thredup.com/resale/
※3参考:「Etsy is buying Gen Z-focused fashion resale app Depop for $1.62 billion」CNBC
https://www.cnbc.com/2021/06/02/etsy-is-buying-fashion-resale-app-depop-for-1point62-billion.html

古着って、ECOでCOOLじゃない?

この動向について、いくつか考えられる要因のうち、ここでは大きく2つに分けて言及したい。

1つ目は、環境汚染に対する意識の高まりだ。
社会課題の解決に前向きといわれるZ世代にとって、「古着」という選択肢は地球への負荷を軽減する循環型経済の身近な実現策として期待できる。
thredUP社が、「古着を購入すること」をテーマに11歳から18歳の女性にインタビューを実施している。彼女たちの回答からは、ファストファッションがもたらす環境への負荷を意識的に削減しようとする気概がうかがえる※4。

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2つ目は、Z世代から支持を集める著名人やオピニオンリーダーが古着を好んで着用していることだ。
近年活躍するZ世代のタレントたちは、自らが出演する作品や楽曲を通じてマイノリティーとして生きる人々の権利を訴えたり、人種差別撤廃のスタンスを明確に示したりと、社会を前進させようとする意志がはっきりと伝わってくる。彼らの勇姿に背中を押され、アクションを起こす若者は少なくない。
2021年1月、弱冠17歳にしてデビュー曲で全米・全英シングルチャート初登場一位を記録した、女優でシンガーソングライターのオリヴィア・ロドリゴ(以下、オリヴィア)。青春ミュージカルドラマでメインキャストを演じ、Z世代にとってアイコニックな存在として活躍するオリヴィアは、とあるインタビューでファッションに対する自らの倫理観を語っている。環境汚染や違法労働の温床になりかねないファッション産業の危険性を認識してからというもの、服の消費サイクルや買い物の仕方を見直しているという。彼女のウェブサイトで販売している商品は環境に配慮した方法で製造されるなど、行動力あるアクティビストとしての一面ももっている※5。

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オリヴィアは、先述したZ世代向けのECサイトDepopのイメージモデルを務めたことでも話題を呼んだ。彼女自身もDepopのヘビーユーザーであることを公言している※6。
また、彼女のアカウントで販売された商品の利益額は、全て寄付金になる※7。
古着の購入が環境への配慮であるという意識、そのシステムを通じた社会貢献への態度。

今や、「古着」は単なる消費の対象ではなくなってきているのではないか。時代の要請やオピニオンリーダーの先導の下、社会に変化を起こす”きっかけ”として若い世代に広く受け入れられつつあるのだ。

※4参照:thredUP「GenZ Sound Off on Thrifting」https://www.youtube.com/watch?v=xwv-RFZqcZY
※5参考:「Pop Superstar Olivia Rodrigo Is All for Sustainable Fashion That’s ‘Good 4 U’ *and* the Planet」Brightly.Eco https://brightly.eco/olivia-rodrigo-sustainable-fashion/
※6参考:「Olivia Rodrigo is selling clothes from her videos and closet on Depop」INPUThttps://www.inputmag.com/style/depop-olivia-rodrigo-clothes-closet-videos-for-sale
※7参考:オリヴィアのDepopアカウントのプロフィールより https://www.depop.com/oliviarodrigo/

消費者、あるいは”私たち”からの反撃

消費者の意識変革に呼応するかのように、作り手もまた「古着」というキーワードを服づくりに取り入れている。
いくつかのブランドが、既製品や過去に制作過程で生じた端材を再利用して新しく服をリメイクし再流通させる試みを開始したのだ。

2020年6月、老舗高級ブランドGUCCIが、再利用素材を利用した商品を展開するシリーズ「Gucci Off the Grid」を発表した。本来であれば廃棄される材料を使用して、新しい商品を作り販売するという※8。同じく高級ブランドとして知られるCOACHは、2021年の春コレクションで、過去のシーズンで発表した作品を再利用してコレクションを組んだ※9。

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常に「新しさ」を追求し、古いモノや価値観を上書きしながら前進してきたファッション業界。最先端で業界を牽引するブランドの変化は、その影響力も大きいはずだ。
これらの取り組みの背景にはいくつか要因があるだろうが、そのうちの一つに、消費者サイドにおける古着に対する注目の高まりがあると考えるのは何ら不自然ではない。今や、古着市場はファストファッションのそれを凌駕する勢いで成長しているのだから※10。

これまで一方的にトレンドを生み出してきた作り手の側に、消費者サイドからのムーブメントが波及する。「古着」がまとった変化への意志は、ただ黙って流行りモノを受け入れるしかなかった私たちと市場の不均衡な関係に、風穴を開けるのだ。

※8参考:「グッチの新作「Gucci Off The Grid」“廃棄物”などを原料にしたバッグやシューズ」FASHION PRESS https://www.fashion-press.net/news/61701
※9参考:「2020 Was a Big Year for Old Clothes: How Vintage, Secondhand, and Upcycling Took Off」VOGUE https://www.vogue.com/article/the-year-in-secondhand-vintage-upcycling-sustainable-fashion
※10参考:Resale Expected to Be Bigger Than Fast Fashion by 2029
「2020 RESALE REPORT」thredUP https://www.thredup.com/resale/2020/

「古着」はステートメントだ

今、古着がかつてのイメージとは異なる地平を切り拓いている。
ただ、”私を表現できる”ことに価値があったモノが、”社会に変化を起こしたい”という意志を帯びたモノになった。

「個」を志向していた古着に、「社会」という軸が加わる。つまり、ただ単に「私」を表現するためのツールにとどまっていたものから、「古着を着る、あるいはつくることでこの世界に変化をもたらしたい」という、社会を動かすためのステートメントになったのだ。

個性の表現手段という点においても古着のはたす役割は健在だ。
時代や性別を超え幅広い選択肢がある古着は、一人ひとりにあったサイズを見つけやすい。筆者は男性だが、自分の体型を美しく魅せる選択肢として、レディースの古着をよく購入する。ジェンダーニュートラルな価値観が広く認められつつある現代において、本当の意味で枠にとらわれずに自分らしさを表現する手段として、古着はそのポテンシャルを開花させるのだ。

30年の時を経て、古着はもっとクールなものへと生まれ変わる。

 

取材・文:柴崎真直
編集:藤木美沙