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キーワードは「透明性」。 日本のデジタル庁は海外の成功例に続けるか

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近年、世界で最も注目を集める政治家の一人として、オードリー・タン氏の名前をあげる人も多いのではないだろうか。彼女は、10代のうちにシリコンバレーで起業を経験したアナキストであり、台湾史上最年少の閣僚でもある。加えてトランスジェンダーというさまざまな視点をあわせ持った人物だ。彼女の鋭い指摘はたびたび私たちに発見を与えてくれる。

このように、現代を牽引するキーパーソンともいえるオードリー・タン氏は台湾のデジタル担当大臣である。他国に漏れずコロナ禍に直面した2020年、彼女は台湾で大きな成果を残した。そのような流れもあり、「デジタル庁」は注目のワードでもある。

2021年9月、日本にもデジタル庁が誕生する

2021年9月、日本においてもデジタル庁の設立が予定されている。2020年9月に発足した菅内閣の公約としても注目を集めていたものである。行政のデジタル化を推進する司令塔としての役割が期待されている。
9月の正式ローンチに向け、すでに動き出したデジタル庁だが、特徴的なのは民間からの採用を積極的に行おうとしている点である。人員の5分の1である約100人を民間から採用することを発表し、すでに採用活動も始まっている。民間人材は公募され、民間人を庁のトップに置くとする意向も報じられている。

これは、民間からの人材登用により、より国民が使いやすい行政の形を目指すことを目的としている。デジタル庁ではnoteをはじめとするSNSでの発信や、Twitterを活用したロゴデザイナーの推薦募集など、これまでの行政よりも開けた活動が目立つ。これについて、内閣官房IT総合戦略室の広野氏は、

「基準となる行政システムやデータをオープン化して、誰もがそれを使って便利なサービスをつくれるようにする、『結果』としての透明感」と「いつ・誰が・なぜ・どうやってサービスや法律をつくりあげたかを、誰もがいつでもみられるようにする、『プロセス』の透明感※」

をデジタル庁では重視しているためだと述べている。

※引用:デジタル庁(準備中)「デジタル庁は「行政の透明化」を掲げ、noteでの発信を始めます。」https://note.digital.go.jp/n/n3690482b9676

なぜ日本にデジタル庁が必要なのか?

菅内閣は、デジタル庁の創設を公約の目玉としていた。では、一体なぜ日本にデジタル庁の創設が早急に必要なのだろうか。
少し日常の中で行政と関わる場面を想像してほしい。市役所に書類をもらうためだけに仕事を休んだり、早退したり、あるいは手続きが複雑すぎてよくわからない。いまだにハンコが求められる。マイナンバー制度が作られたものの、使用場面が少なく発行していない。各地域のサイトで情報を調べようとしてもサイトの使い勝手が悪い。そんな経験のある人は多いのではないだろうか。
さらに、コロナ禍の2020年、印象的だったのは特定定額給付金の支給だ。マスクの支給とも併せ、各自治体の窓口が混乱に陥ったことは記憶に新しい。

つまり、現状の日本の行政サービスは国民にとって使いづらい部分が多くあるのだ。上にあげたような問題をはじめとして、行政サービスの使いやすさを向上させるためにデジタル化が有効だと見られている。
そしてこの流れは、日本だけではなく、20年以上前から海外では進んでいたことである。ここで、日本より先行してデジタル庁に似た機能を行政に取り入れてきた国の事例を見てみよう。

海外の行政のデジタル化の動き

冒頭でも述べた、台湾の行政とデジタルの関わりは目を見張るものがある。その中でも特徴的なのは、「デジタル庁」や「デジタル省」といった組織を置いていないことである。にもかかわらず、台湾では行政全体にデジタルをうまく取り入れられているのである。

台湾は、新型コロナウイルスの蔓延のなかで、世界でもいち早く効果的な抑止を実践した。2020年のパンデミック初期に行われた、アプリを活用したマスクの普及もその抑止に貢献している。マスクの不足による混乱が起きることを早期に判断した政府は、全てのマスクを買い上げた。
その上で、30秒ごとにマスクの在庫情報が自動更新される「マスクマップ」と呼ばれるアプリがたった3日間のうちに開発された。本プロジェクトは、オードリー・タン氏を筆頭に、1000人にも及ぶ民間のエンジニアと共同で行われた。その後もお年寄りや子供でも使用することのできるように、さまざまなアプリへの対応が進められ、利用者は1000万人以上にものぼったという。

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他にも、デンマークもデジタル先進国としてよく知られる国である。2004年の時点で、公共料金の電子決済が普及している。行政からの通知も、日本のような紙ベースのものではなく、電子私書箱での受け取り、さらに選挙もオンライン投票が可能である。デンマークではデジタル化の推進が始まったのは2000年前後のことであり、そのポイントはあらかじめ国民に対して告示されていたデジタル化のプロセスにある。いつ、誰が、どのように、何をするのかがあらかじめわかりやすく展開されたことによって、国民からの安心感を得られたのであろう。

また、韓国も行政のデジタル化が20年ほど前から進められている。2001年に電子政府法が施工されたのち、国民向けのポータルサイトなどが整備され、各政権の元でデジタル化は重要な項目として取り上げられていた。「政府24」と呼ばれるオンラインで完結する行政手続きシステムなどは大きな役割を果たしている。

これらの国では共通して、デジタル化を推進するにあたって情報をオープンにすること、つまり「透明化」が重視されている。
先ほど述べたように日本のデジタル庁が「透明性」を重視するとnoteでも公式に発表しているが、これは重要なポイントであろう。多くの情報を扱うことになるため、国民にとって信頼できる透明性があることは必須の要件なのである。

「誰も取り残さない」視点が行政のDXを推進する

20年以上前から海外で行政のデジタル化が進んでいた一方で、日本でのデジタル化が立ち遅れたのはなぜだろうか。
行政だけにとどまらず、企業などにおいても、日本のDXは立ち遅れていると言われる場面はよくある。IT人材の不足はもちろん一つの原因ではあるかもしれないが、根底にあるのはDXへの潜在的苦手意識と視点の不足とも言えるかもしれない。

若者をはじめとするデジタルになじみがある世代と、そうではない世代に差があるのは当然だ。現状、行政や企業の手続きはデジタルになじみのない世代にあわせたままアップデートがなされていない。しかし、「デジタルな手続きは高齢者にとって使いにくい」という考えは思い込みではないだろうか。

DXの推進によって、むしろ誰にとっても使いやすい機能が増える可能性も大いにある。例えば、足の悪い人が市役所まで出向かずに手続きができる、といった点には大きなメリットがある。事実、上で紹介したような国では、高齢者まで巻き込んでDXが推進されている。一定の層の潜在的な苦手意識から、一度視点を変えて、どのように多くの人を巻き込んでデジタル化を推進していくかを考える必要があるのかもしれない。

9月のローンチに向け、勢い付く日本のデジタル庁。先行する海外の動きを見ると、その成果に期待したいところではある。企業のDXとともに長年足踏みが続いていた行政のDXがどのように動き出すのか注目したい。

 

取材・文:白鳥菜都
編集:竹内瑞貴