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バリューチェーンとは?その意味やサプライチェーンとの違いを徹底解説

 

バリューチェーンとは、企業活動を価値創造の流れとして捉え、競争優位性を分析するフレームワークを指す言葉だ。本稿では、バリューチェーンの定義と概要、サプライチェーンの違い、バリューチェーン分析の手順と方法などを解説する。

バリューチェーンの定義と概要

まずは、バリューチェーン定義や具体的な内容を見ていこう。

バリューチェーンの意味と提唱者

バリューチェーンとは、企業の事業活動を価値創造の一連の流れとして捉える考え方であり、競争優位性の源泉を分析するフレームワークである。この概念を提唱したのは、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・E・ポーターであり、1980年に著書『競争の戦略』で発表した。

バリューチェーンの目的と価値創造プロセス

バリューチェーンの主な目的は、企業の競争優位性を構築し、顧客に提供する価値を最大化することである。実施する事業に関するすべての活動を対象に、各活動が生み出す付加価値やコスト構造を分析し、自社の強みや弱みを明確化・経営資源の最適配分を図るのだ。

バリューチェーンにおける価値創造のプロセスは、主活動と支援活動に分けられる。主活動は、購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスなどの直接的な価値創造活動であり、支援活動は、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達などの間接的な価値創造活動である。これらの活動が有機的に連携し、企業の競争力を生み出している。

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バリューチェーンとサプライチェーンの違い

バリューチェーンとサプライチェーンは、ともに企業活動を分析・管理する上で重要なフレームワークであるが、その焦点や目的、分析対象などにおいて大きな違いがある。次項以降では、バリューチェーンとサプライチェーンの主要な差異について詳しく解説していく。

バリューチェーンとサプライチェーンの焦点の違い

バリューチェーンとサプライチェーンの最も大きな違いは、分析の焦点にある。サプライチェーンが主に製品やサービスの物理的な流れに注目するのに対し、バリューチェーンは価値創造のプロセスそのものに注目する。

サプライチェーンは、原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでの一連の流れを管理・最適化することで、効率的かつ安定的な供給を実現することを目的としている。一方、バリューチェーンは、各事業活動が生み出す付加価値に着目し、それらを最大化することで競争優位性を構築することを目指す。

バリューチェーンとサプライチェーンの分析対象と測定指標

焦点の違いから、バリューチェーンとサプライチェーンで用いられる測定指標にも差異が見られる。サプライチェーンの分析では、主にモノやサービスの流れ、在庫管理、物流などが対象となり、在庫回転率、リードタイム、充填率、欠品率などの指標が用いられる。

一方、バリューチェーンの分析では、各活動が生み出す付加価値やコスト構造に着目し、利益率、顧客満足度、市場シェアなどの指標が重視される。これらの指標は、企業の競争力や成長性を評価する上で重要な役割を果たす。

バリューチェーンとサプライチェーンの改善の焦点と関係する部門

分析の目的と対象の違いは、改善の焦点と関係する部門にも影響を与える。サプライチェーンの改善では、主にプロセスの効率化やボトルネックの解消に注力し、調達、生産、物流部門が中心的な役割を担う。

一方、バリューチェーンの改善では、競争力のある活動の強化や弱点の改善に取り組み、企業全体(経営戦略、マーケティング、人事なども含む)が関与する。つまり、バリューチェーンの改善は、より組織横断的なアプローチが求められるのである。

以上のように、バリューチェーンとサプライチェーンは、企業活動を分析・管理する上で重要な概念であるが、その焦点、測定指標、改善の焦点、関係する部門などにおいて大きな違いがある。両者の特徴を理解し、適切に活用することが、企業の競争力強化と持続的成長につながるだろう。

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バリューチェーン分析の手順と方法

ここでは、バリューチェーン分析の具体的な手順と方法について解説する。

自社のバリューチェーンの洗い出しとコスト把握

バリューチェーン分析の第一歩は、自社のバリューチェーンを詳細に洗い出し、各活動のコストを把握することである。まず、主活動と支援活動を列挙し、それぞれの活動が価値創造にどのように貢献しているかを明確にする。

次に、各活動の直接・間接コストを算出し、表計算ソフトを用いて一覧化する。その際、コスト計算期間を統一し、担当部署を明記することが重要である。複数部署にまたがる活動の場合は、コストを合算し、コスト要因や活動間の関連性を分析する。

自社の強み・弱みの分析とVRIO分析

自社のバリューチェーンを把握した後は、競合他社と比較しながら、自社の強みと弱みを分析することが必要だ。主活動と支援活動ごとに一覧表を作成し、「強み」と「弱み」をリストアップする。多角的な視点を得るために、様々な部署の従業員から意見を収集することが有効である。

さらに、VRIO分析を行い、自社の強みが持続的な競争優位性を持つかを判断する。VRIOとは、Value(価値)、Rareness(希少性)、Imitability(模倣可能性)、Organization(組織)の頭文字であり、各要素を「Yes/No」または5段階評価で判定する。すべてYesまたは高評価の項目を「競争優位」、Noまたは低評価の項目を「競争劣位」として、改善策を検討する。

バリューチェーン分析の結果は、経営戦略・事業戦略の見直し、組織編成の最適化、DX推進の基礎資料など、様々な場面で活用することができる。自社の強みを生かし、弱みを克服するための指針として、バリューチェーン分析を積極的に活用していくことが、企業の持続的成長につながるのである。

業界別のバリューチェーンとその事例

バリューチェーンは業界ごとに特徴が異なり、その理解と活用は企業の競争力強化に不可欠である。ここでは、製造業、小売業、サービス業の事例を見ていく。

製造業の事例

製造業のバリューチェーンは、一般的に「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という主要な活動で構成される。特に、製品の企画から設計、生産準備に至る一連のプロセスである「エンジニアリングチェーン」が価値創造の核心となる。

例えば、株式会社伊藤園の事例では、茶葉生産地との強固な関係構築による安定的な高品質原料の調達と、自社営業による直接的な販売体制が大きな強みとなっている。これにより、競合他社と差別化された付加価値の高い製品提供と、効率的な販売戦略の実現が可能となっている。

小売業の事例

小売業のバリューチェーンは、通常「商品企画」から始まり、「仕入れ」「店舗販売」「集客」「アフターサービス」という流れで構成される。小売業では、商品そのものの価値に加えて、消費者が商品を購入する過程や環境に価値を見出す仕組みづくりが重要となる。

アパレル業最大手の「ユニクロ」は、ヒートテックやエアリズムといった独自の商品開発や生産、直営店への輸送、店舗でのシンプルな陳列、セルフレジの利用といったバリューチェーンで事業を展開している。それらの工夫もあり、海外ファストファッションと比較すると、ユニクロは低価格にもかかわらず質の良い商品を提供することに成功している。

サービス業の事例

サービス業のバリューチェーンでは、「商品企画」と「営業」が特に重要な位置を占め、その後の「サービス提供」「カスタマーサポート」も価値創造に大きく寄与する。

株式会社メルカリの事例では、フリマアプリという新しい形態のサービスを提供するなかで、「受発注機能運営」に独自の強みを持っている。一般的なECサービスとは異なり、受発注業務をユーザー自身で完結させる仕組みを構築したことで、運営コストの大幅な削減と、他社との明確な差別化に成功している。加えて、匿名取引や安全対策など、ユーザーの不安を払拭する機能を実装することで、利用促進と顧客満足度の向上を実現している。

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まとめ

バリューチェーンとは、企業活動を価値創造の一連の流れとして捉える考え方であり、競争優位性の源泉を分析するフレームワークである。バリューチェーン分析を通じて、自社の強みを活かし、弱みを改善することが、持続的な競争優位性の確立につながるのだ。

バリューチェーン分析においては、自社のバリューチェーンを洗い出し、各活動のコストを把握し、強み・弱みを分析することが重要である。企業活動を通じた価値創造による優位性を保つには、VRIO分析を行い、経営資源を最適化し、継続的な分析と改善を行うことが効果的と言える。クロス分析やデジタル技術を活用することで、より効果的なバリューチェーン分析が可能になる。

バリューチェーン分析は、DX時代における企業経営に欠かせない存在である。自社のバリューチェーンを適切に分析し、その結果を経営に反映させることで、経営戦略や事業戦略の見直し、組織編成の最適化、DX推進など、様々な改善に繋がり、企業価値の最大化を実現することにも繋がるのだ。

 

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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