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インキュベーションとは?その意味や施設、企業の取り組みを徹底解説

インキュベーションとは、起業家や新規事業に対する総合的な支援活動のことを指す。近年、日本でもその重要性が認識され始め、公的機関や民間企業によるプログラムが増加しているが、欧米と比べると発展途上の段階にある。この記事では、インキュベーションとはどんな取り組みなのか詳しく紹介する。

インキュベーションとは

まず、インキュベーションの基本的な概念や、その目的について解説する。

インキュベーションの定義

インキュベーションとは、起業や新規事業の立ち上げを目指す個人・チームに対して行われる支援活動の総称である。その支援内容は多岐にわたり、オフィス等の物的リソースの提供や、資金援助、経営ノウハウの共有など、包括的なサポートが提供される。

例えば、起業家やスタートアップ企業に対し、低価格のオフィス(インキュベーション施設)の提供や、事業計画の策定支援、マーケティングのアドバイスなどが行われる。加えて、ベンチャーキャピタルや金融機関との連携により、資金調達のサポートをすることも重要な役割のひとつとなっている。

語源と由来

インキュベーションという言葉は、英語で「孵化」や「卵をかえす」という意味を持つ “incubation”に由来する。この言葉が示唆するように、インキュベーションとは、新しいビジネスというまだ殻を破っていない卵を、適切な環境を与えることで優れた企業や事業に育て上げる過程を表している。

この概念は、1959年に米国ニューヨーク州のバタビアで、ある不動産家が空きビルを安価で中小企業に貸し出したことから始まったとされる。その後、1970年代以降、欧米を中心に普及が進み、現在では世界各国でインキュベーションプログラムが実施されている。(※1)

インキュベーションの目的

インキュベーションの最大の目的は、革新的なビジネスアイデアや技術を持つ起業家や新規事業を発掘し、その事業化を支援することで、新たな企業や産業の創出を促進することにある。それにより、地域経済の活性化や雇用創出など、社会全体の発展に寄与することが期待されている。

また、大企業においても、自社の将来を担う新規事業の開発や、外部の優れたアイデアや技術の取り込み(オープンイノベーション)を目的に、 新規事業支援の取り組みが活発化している。それにより、イノベーションの加速や新たな収益源の獲得を狙っているのである。

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インキュベーターの役割

インキュベーターが提供する支援リソースは、「人」「物」「金」「情報」の4つに大別される。「人」の支援としては、インキュベーションマネージャーによる伴走型のサポートや、豊富な経験に基づくアドバイスの提供が挙げられ、起業家の事業立ち上げと成長を後押しする。

「物」の支援としては、例えば創業初期の起業家や新規事業担当者に対して、低価格のオフィススペースを提供することが挙げられる。基本設備が完備された環境を整えることで事業立ち上げをサポートし、共有スペースを設けることで入居者間の交流や情報交換を促進する役割も担っている。

「金」の支援としては、直接的な資金提供に加え、資金調達に関するアドバイスや、金融機関との交渉サポートを行い、起業家の資金面での課題解決を支援する。「情報」の支援としては、市場動向や顧客情報の提供、専門的なノウハウの共有、ネットワーキングの機会の提供などを通じて、起業家の事業立ち上げと成長を後押しするのだ。

このように、インキュベーターは「人」「物」「金」「情報」の4つの側面から、起業家や新規事業担当者に対して多角的な支援を提供することで、新規事業や企業の創出を促し、社会の活性化に貢献しているのである。

アクセラレーターとの違い

インキュベーションと似た概念として、アクセラレーター(アクセラレーションプログラム)がある。両者はスタートアップ支援という点では共通しているが、いくつかの違いが存在する。

  インキュベーション アクセラレーター
支援対象 主に起業前~起業初期の個人・チーム 起業後の成長期のスタートアップ
支援期間 数か月~数年と比較的長期 数週間~数か月の短期集中型
支援内容 施設提供、経営サポート、資金援助など総合的 メンタリング、ネットワーキング、投資家とのマッチングなど

つまり、インキュベーションが、起業の芽を育てる「苗床」の役割を担うのに対し、アクセラレーターは、その芽を急速に成長させる「促進剤」としての性格が強いと言える。ただし、両者の違いは相対的であり、両方のプログラムを備える機関も多い。

※1 参考:鹿住倫世「日本におけるビジネス・インキュベーターの変遷と今後の展望―先進的取り組みに学ぶ日本型インキュベーターのあり方―」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/chosakiho200702_04.pdf

インキュベーション施設

前述の通り、インキュベーションには「インキュベーション施設」という場所の提供という一面もある。具体的にどんな場が提供されているのか、紹介する。

インキュベーション施設の特徴

インキュベーション施設の特徴は、以下のようなものがある。

  • 低価格のオフィススペース:インキュベーション施設では、一般的なオフィスよりも安価な賃料で、オフィススペースを利用できる。月額3〜5万円程度で利用可能な場合もある。
  • 基本設備の完備:インキュベーション施設には、オフィス運営に必要な基本的な設備が整っている。これには、デスク、チェア、インターネット回線、会議室、印刷機などが含まれる。
  • 共有スペースの存在:施設内には、利用者同士が交流できる共有スペースが設けられていることが多い。これにより、利用者間でのネットワーキングや情報交換が促進される。

これらの特徴により、インキュベーション施設は、創業初期の起業家や新規事業担当者にとって、事業立ち上げのハードルを下げる重要な役割を果たしている。施設が提供する低コストのオフィス環境や、利用者間の交流機会は、事業の成功確率を高めるために欠かせない要素となっているのだ。

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施設の目的と活用方法

インキュベーション施設は、単なるオフィス提供にとどまらず、事業立ち上げに必要なさまざまなリソースやサポートを提供することで、利用者の事業成功をサポートしている。

インキュベーション施設の主な活用方法は、以下のようなものがある。

  • 事業立ち上げ拠点としての活用:起業家や新規事業担当者は、インキュベーション施設をオフィスとして利用することで、事業立ち上げに集中できる環境を得られる。
  • 専門家のアドバイス:多くのインキュベーション施設には、経験豊富な専門家が在籍しており、利用者は事業運営に関する実践的なアドバイスを受けられる。
  • ネットワーキングの機会:施設内の交流イベントや共有スペースを活用することで、利用者は他の起業家や専門家とのネットワークを構築できる。

施設が提供する支援は、事業の初期段階において特に重要であり、“インキュベーション ”の本来の目的である新事業・企業の創出に大きく貢献しているといえる。

主な施設の例

日本には、地域の特性を活かしながら、起業家や新規事業担当者に対する継続的な支援を提供するさまざまなインキュベーション施設が存在する。例として、以下のようなものがある。

これらのインキュベーション施設は、それぞれの運営主体の強みを活かしながら、起業家や新規事業担当者に対するきめ細やかな支援を提供している。利用者は、施設が提供するリソースやネットワークを活用することで、事業の成功確率を高められる。施設側には専門性の高いインキュベーターの育成することはもちろん、長期的な支援体制の構築、産学官連携の強化などが求められている。

企業におけるインキュベーションの取り組み

続いて、社内外の新たなイノベーションの創出と事業化を図る、企業のインキュベーション活動について解説する。近年、企業における新規事業開発の重要性が高まるなか、様々な形態のインキュベーション活動が行われている。

社内ベンチャー制度

社内ベンチャー制度とは、企業内の従業員が新規事業のアイデアを提案し、会社がそれを支援する取り組みである。アイデアの提案者が社内ベンチャーの責任者となり、一定の予算と人員を割り当てられ、新規事業の立ち上げを目指す。

社内ベンチャー制度のメリットは、従業員の起業家精神を醸成し、革新的なアイデアを社内から生み出せる点にある。また、社外のスタートアップと比べ、親会社の経営資源を活用できるため、事業化のハードルが低いとされる。一方で、社内の既存事業との兼ね合いや、新規事業に対する評価の難しさなど、運用面での課題も指摘されている。

オープンイノベーション

オープンイノベーションとは、外部のアイデアや技術を積極的に取り入れ、自社の経営資源と組み合わせることで、新規事業の開発を行う取り組みを指す。外部リソースの活用により、自社単独では実現が難しい事業領域への参入や、開発スピードの向上が期待できる。

オープンイノベーションの具体的な手法としては、スタートアップ企業との協業、大学や研究機関との共同研究、他社との事業提携などが挙げられる。特に、革新的な技術やビジネスモデルを有するスタートアップとの連携は、大企業にとって重要な選択肢となっている。ただし、社内外の知財管理やパートナー選定の難しさなど、運用上の課題もある。

コーポレートベンチャーキャピタル

コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は、事業会社が社外のベンチャー企業に投資する取り組みを指す。CVCは、財務的リターンのみならず、将来の事業シナジーを重視して投資先を選定する点に特徴がある。

CVCを通じたスタートアップ連携のメリットとしては、最新の技術トレンドの把握、自社事業とのシナジー創出、M&Aによる新規事業の獲得などが挙げられる。近年、国内企業によるCVC設立が活発化している。一方で、投資先の経営への関与の程度や、出口戦略の難しさなど、運用面での課題もある。

アクセラレータープログラム

アクセラレータープログラムとは、スタートアップの成長を加速させるための短期集中型の支援プログラムである。企業がアクセラレータープログラムを実施する目的は、有望なスタートアップの発掘と協業機会の創出にある。

プログラムでは、メンタリング(1対1で行う対話を通じて気づきを与える人材育成の方法)やワークショップ、ネットワーキングイベントなどを通じて、スタートアップの事業化を支援する。また、プログラム修了後も、スタートアップとの連携を継続し、共同事業開発やM&Aなどの可能性を探ることが多い。企業にとっては、自社の経営課題に即したスタートアップの発掘や、オープンイノベーションの加速につながるメリットがある。ただし、プログラム運営には一定のコストと人的リソースが必要となる。

以上のように、企業におけるインキュベーションの取り組みは多岐にわたるが、いずれも新規事業の創出と企業の成長を目的としている。自社の経営戦略や資源に応じて、適切な手法を選択し、外部との協業を進めていくことが求められる。

インキュベーションの課題と今後の展望

ここまでインキュベーションのメリットや取り組みについて紹介してきたが、インキュベーションには様々な課題が残る。

日本においては、起業に関するノウハウが十分に蓄積されておらず、支援体制の整備が欧米諸国と比較して遅れていることから、インキュベーションの重要性がより高いと言える。インキュベーションの取り組みを通じて、起業家精神の醸成や新規事業の創出が促進され、イノベーションの活性化につながることが期待されている。

それゆえ、専門性の高いインキュベーターの育成が急務であり、起業家や新規事業担当者のニーズに合わせた的確な支援を提供できる人材の確保・育成が求められる。加えて、短期的な支援だけでなく、長期的な視点に立ったサポート体制の構築も重要な課題である。

さらに、インキュベーションの効果を最大限に発揮するためには、産学官の連携強化が不可欠であり、各セクターが持つ資源や知見を有機的に結びつけながら支援体制を整備していく必要がある。これらの課題に適切に対処しながら、インキュベーションの取り組みを着実に前進させていくことが、日本のスタートアップの発展につながるものと考えられる。

まとめ

ここまで述べてきたように、インキュベーションとは、起業前後の企業や起業家に対する総合的な支援活動である。革新的なビジネスアイデアや技術を持つ起業家の発掘と事業化を通じて、新たな企業や産業の創出を促進することを目的としている。

企業においても、社内ベンチャー制度やオープンイノベーション、コーポレートベンチャーキャピタルなど、インキュベーションの取り組みが活発化しており、新規事業の創出や外部との連携を積極的に推進している。今後の日本経済の持続的成長のためには、インキュベーションは起業家の育成や新規事業の創出を促進する有効な手段として期待されているといえるだろう。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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