グリーンボンドとは、企業や地方自治体などが、環境問題の解決を目指す事業に使う資金を調達する際に、発行する債権のことを指す。この記事では、グリーンボンドの概要や事例、グリーンボンドに注目が集まっている背景などを紹介する。
グリーンボンドとは?定義と概要
まず、グリーンボンドの意味や要件を紹介する。
グリーンボンドの定義
グリーンボンドは、調達資金の使途が環境改善効果のある事業に限定されている債券のことを指す。つまり、発行者が調達したお金を、地球環境を良くする事業にだけ使うと約束して発行する特別な債券と言える。
例えば、再生可能エネルギーの開発や省エネ建築の建設など、環境に良い影響を与える事業にのみ資金を使用することを、投資家に保証している。これにより、投資家は自分のお金が確実に環境保護に役立つことを知った上で投資できるのだ。
グリーンボンドの要件
環境省のガイドラインでは、グリーンボンドとして認められるための3つの要件が定められている。
①調達資金の使途が環境改善効果のある事業に限定されていること ②調達資金が確実に追跡管理されていること ③発行後のレポーティングを通じて透明性が確保されていること
(※1)
これらの要件を満たすことで、投資家は調達資金が確実に環境事業に使用されることを確認でき、グリーンボンドへの信頼性が担保される。発行者側も、要件を満たすことでESG投資家からの資金調達が可能となり、サステナビリティ経営の高度化や資金調達基盤の強化につながるメリットがある。
グリーンボンド原則(ICMAガイドライン)
環境省のガイドラインに加え、国際資本市場協会(以下、ICMA)が定める「グリーンボンド原則」(※2)も多くのグリーンボンド発行者や投資家に参照されている重要な資料だ。このガイドラインは、グリーンボンド市場の健全な発展を目的としている。同ガイドラインでは、グリーンボンドの4つの中核要素として、以下を挙げている。
- 資金調達の使途
- プロジェクトの評価と選定のプロセス
- 資金調達の管理
- レポーティング
これらの要素が適切に検討・報告されることが、グリーンボンドにおいて重要であるということだ。
グリーンボンドの種類
また、ICMAの「グリーンボンド原則」では、グリーンボンドを4つの種類に分類している。債券によって調達されたお金が、どんな財源から返されるかによって、以下のように分かれる。
- Standard Green Use of Proceeds Bond(標準的なグリーンボンド):調達資金は「発行体全体のキャッシュフロー」から返済できる
- Green Revenue Bond(グリーンレベニュー債):調達資金は環境事業から生み出される収入により返済される
- Green Project Bond(グリーンプロジェクト債):特定のグリーンプロジェクトのために発行され、そのプロジェクトからのキャッシュフローにより返済される
- Green Securitized Bond(担保付きグリーンボンド):環境事業を含む特定の資産プールを担保とする債券
なお、最も一般的なグリーンボンドはStandard Green Use of Proceeds Bondである。債券を発行する側も投資する側も、適切にグリーンボンドを活用するために、ここまで紹介したような要件や種類を知っておく必要がある。
※1 参考:環境省「グリーンボンド及び サステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン 2022 年版 」
https://www.env.go.jp/content/000062348.pdf
※2 出典:ICMA「グリーンボンド原則」
https://www.icmagroup.org/assets/documents/Sustainable-finance/Translations/Japanese-GBP-2021_Appendix-1-2022-010822.pdf
グリーンボンド市場の現状と動向
次に、グリーンボンド市場の発展の歴史、現在の市場規模、そして今後の市場拡大の可能性について詳しく見ていく。
グリーンボンド市場の歴史
グリーンボンドの歴史は、2008年に世界銀行が初めて債券を発行したことに始まる。日本国内では、2014年に日本政策投資銀行が国内初のグリーンボンドを発行した。その後、2017年には環境省がグリーンボンドガイドラインを策定するなど、市場の健全な発展に向けた取り組みが進められてきた。
世界と日本のグリーンボンド市場規模
世界のグリーンボンド市場は、近年急速に拡大している。2021年〜2023年は毎年、世界の発行総額が5000億ドルを超えており、グリーンボンドへの関心の高まりが伺える。(※2)
日本のグリーンボンド市場も着実に成長しており、2020年には年間発行総額が初めて1兆円を突破した。2023年には発行総額が3兆円を超えるなど、市場規模は拡大の一途をたどっている。(※3)
今後の市場拡大の可能性
グリーンボンド市場は今後さらなる拡大が見込まれる。ESG投資の考え方の広まりを背景に、グリーンボンドへの注目度は今後ますます高まっていくだろう。加えて、法令整備や補助制度の追加によるさらなる普及も期待される。
グリーンボンドは、発行者と投資家双方にとって、経済的利益と社会的貢献を両立できる魅力的な金融商品である。地球環境保全や社会・経済問題の解決に民間資金を導入する有効な手段として、今後ますます重要な役割を果たしていくと予想できる。
※3 出典:環境省 グリーンファイナンスポータル「国内におけるグリーンボンドの発行・投資への期待」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/bond/issuance_data/market_status.html
グリーンボンドが注目される理由
では、なぜグリーンボンドはここまで注目されているのだろうか?前項でも示しているが、その背景には、ESG投資の広がりがある。
ESG投資の考え方の広まり
グリーンボンドが近年注目を集めている背景には、ESG投資の広まりがある。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮した投資手法であり、長期的な企業価値向上や持続可能な社会の実現を目指すものである。
持続可能な社会の実現への貢献
グリーンボンドは、民間資金を活用して環境問題の解決に貢献する重要な手段として期待されている。調達資金が再生可能エネルギー事業や省エネルギー事業などに投入されることで、温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止といった具体的な効果が期待できる。また、グリーン投資や資金使途への個人の関心を高める啓発効果もあり、経済全体の「グリーン化」を促進する波及効果も期待されている。
環境改善効果と社会的インパクト
グリーンボンドによる資金調達は、地球環境保全への貢献のみならず、エネルギーコストの低減、地域活性化、災害時のレジリエンス向上など、多面的な社会・経済問題の解決にも寄与すると考えられている。グリーンボンドは、持続可能な社会の実現に向けた有効な手段として、今後さらなる発行拡大と市場の成熟が期待されている。
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グリーンボンドのメリット
ここからは、グリーンボンドのメリットについて詳しく見ていこう。
発行者側のメリット
グリーンボンドの発行は、発行者にとって様々なメリットをもたらすが、その中でもとりわけ重要なものとして、サステナビリティ経営の高度化が挙げられる。グリーンボンド発行のプロセスを通じて、組織内のサステナビリティ戦略立案、実行、リスクマネジメント、ガバナンス体制が整備され、企業の中長期的なESG評価向上や企業価値向上につながるのである。
また、グリーンボンドの発行は、資金調達基盤の強化と安定化にも貢献する。環境問題解決に関心の高い新たな投資家層を開拓できるとともに、投資家との対話を通じて相互理解が深まり、調達の安定化につながるからだ。さらに、環境を守る取り組み推進への積極性を示すことで、社会からの支持を得られるというアピール効果も期待できる。
加えて、市場状況次第ではあるが、グリーンボンドへの需要が大きい場合、好条件での調達が可能となる可能性もある。特に、従来の金融機関からの融資が難しい新興企業にとっては、事業性を評価する投資家から資金調達ができる可能性が上がることになる。
投資家側のメリット
投資家にとってのグリーンボンドの最大のメリットは、ESG投資を実践できる点だ。発行体のデフォルト(債務不履行状態になること)がない限り、安定的なキャッシュフローを確保できるとともに、環境を守るプロジェクトへの積極的な資金供給をアピールできる。つまり、経済的利益と社会的貢献を両立できるのである。
また、グリーンボンドは、再生可能エネルギー事業や省エネルギー事業など、今後の成長が期待される分野に直接投資できる機会を提供する。さらに、通常の債券と比較して価格変動リスクが低い可能性があり、長期的な温室効果ガス削減の流れのなかで、投資家自身の移行リスクをヘッジする手段ともなりうる。
加えて、グリーンボンドは、発行体の環境改善効果などに関する情報を分析・評価できる非財務情報の活用や、発行体のサステナビリティ/ESG戦略への理解向上を通じて、効果的なエンゲージメントを可能にする。これが発行体のサステナビリティ向上と投資家の長期的な投資成果向上につながる好循環を生み出すのだ。
環境・社会面からのメリット
グリーンボンドは、地球環境保全に大きく貢献する。民間資金導入を拡大することで、温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止などの活動をより広げられ、効果が期待できるからだ。
さらに、グリーンボンドは、エネルギーコスト低減、地域活性化、災害時のレジリエンス向上など、環境面だけでなく社会・経済問題の解決にも貢献する多面的効果を持つ。つまり、グリーンボンドは、持続可能な社会の実現に向けた強力なツールのひとつと言えるのである。
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グリーンボンドの課題とリスク
グリーンボンド市場の拡大に伴い、新たな課題やリスクも浮上している。ここでは、グリーンボンド発行における主要な懸念事項を3つの観点から詳しく解説する。
グリーンウォッシュ債券のリスク
「グリーンウォッシュ」とは、実際には環境改善効果が乏しいにもかかわらず、環境に配慮しているように見せかける行為を指す。グリーンボンド市場においては、調達資金が適切な環境事業に使用されていない、いわゆる「グリーンウォッシュ債券」が問題視されている。
このようなグリーンウォッシュ債券は、投資家の信頼を損ねるだけでなく、グリーンボンド市場全体の健全な発展を阻害する恐れがある。したがって、発行体には高い透明性と説明責任が求められており、外部評価の取得や定期的な報告を通じて、資金使途の適切性を担保することが重要となる。
▼グリーンウォッシュについて詳しく知る
外部評価や報告のコスト増加
グリーンウォッシュ防止のために、グリーンボンド発行には外部評価の取得が不可欠となっている。加えて、発行後のレポーティングを通じて、資金使途の透明性を確保することも求められる。
これらの外部評価や報告の作成には、相応のコストがかかるため、特に中小企業や新興企業にとっては、グリーンボンド発行のハードルが高くなる可能性がある。コスト増加による発行体の負担を軽減するためには、評価機関の効率化や補助制度の拡充など、市場インフラの整備が急務である。
資金使途の制限
グリーンボンドの最大の特徴は、調達資金の使途が環境改善効果のある事業に限定されていることである。この資金使途の制限により、発行体は事業の選択肢が狭められ、財務戦略の柔軟性が損なわれる可能性がある。
特に、環境関連事業の比重が小さい企業や、新規事業への投資を検討している企業にとっては、グリーンボンドによる資金調達が困難となるケースもあり得る。グリーンボンドの発行を検討する際には、自社の事業戦略や資金需要を十分に精査し、最適な資金調達手段を選択することが肝要である。
グリーンボンドの発行事例
グリーンボンドは、日本国内でも様々な発行事例が見られる。ここでは、その具体的な事例をいくつか取り上げ、発行の背景や資金使途などを解説する。
日本政策投資銀行の発行事例
前述の通り、日本政策投資銀行は、2014年に国内で初めてグリーンボンドを発行した機関である。同行は、再生可能エネルギー事業や省エネルギー事業など、環境改善効果のある事業に対する投融資を積極的に行っており、グリーンボンドの発行を通じて、これらの事業への資金供給をさらに拡大させる狙いがあった。
同行のグリーンボンド発行は、国内の他の発行体にとって先駆的な事例となり、その後のグリーンボンド市場の発展に大きく寄与したと言える。同行は、発行プロセスを通じて蓄積したノウハウを活かし、グリーンボンドに関する情報発信や普及啓発活動にも力を入れている。
東京都の発行事例
東京都は、2017年10月から継続的にグリーンボンドを発行しており、これまでに22件の発行実績がある。(※4)都は、「世界一の環境先進都市・東京」の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギーの推進、気候変動適応策の強化など、様々な環境施策を展開している。
グリーンボンドの発行を通じて、これらの施策の財源を確保するとともに、都の環境施策への投資家の理解促進や、ESG投資の呼び込みも企図している。調達資金は、都営地下鉄の省エネルギー化、都有施設への再生可能エネルギー導入、海岸防災施設の整備など、幅広い事業に充てられている。
民間企業の発行事例
民間企業によるグリーンボンドの発行も活発化しており、例えば、NTTファイナンスは17件、日本電産は4件の発行実績がある。(※4)これらの企業は、自社の事業活動に伴う環境負荷の低減や、環境関連事業の拡大を進めており、グリーンボンドの発行を通じて、その取り組みを投資家にアピールするとともに、安定的な資金調達を図っている。
また、グリーンボンドの発行プロセスを通じて、社内の環境マネジメント体制の強化や、環境情報開示の拡充にもつなげている。こうした民間企業の取り組みは、日本のグリーンボンド市場の裾野を広げ、サステナブル経済への移行を加速させる上で重要な役割を果たしている。
※4 出典 グリーンファイナンスポータル「国内におけるグリーンボンド発行リスト」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/bond/issuance_data/issuance_list.html
まとめ
グリーンボンドは、調達資金を環境問題の解決に貢献する事業に限定して使用するという特徴を持つ債券であり、近年急速に市場が拡大している。ESG投資の考え方の広まりを背景に、持続可能な社会の実現に向けた有効な手段として注目を集めているのだ。
発行者にとっては、サステナビリティ経営の高度化や資金調達基盤の強化、社会的支持の獲得などのメリットがある。一方、投資家にとっては、ESG投資の実践や経済的利益と社会的貢献の両立、グリーンプロジェクトへの直接投資機会などが魅力となっている。
環境・社会面からも、グリーンボンドは温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止といった具体的な効果が期待でき、経済全体の「グリーン化」を促進する役割を担っている。今後は、グリーンウォッシュ債券のリスクや外部評価コストの増加などの課題にも留意しつつ、さらなる市場の成熟と拡大が望まれる。
文・編集:あしたメディア編集部
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