よりよい未来の話をしよう

アップサイクル食品とは?SDGsと関連する持続可能な食の未来を探る

使わなくなったり、古くなったりしたものに新しい価値を付与し、新たな製品へと生まれ変わらせる考え方、「アップサイクル」。

ファッション業界や建設・インフラ業界など、業界単位で取り組まれるものから、私たちが日々排出している缶や瓶といった廃棄物を使った事例など、いまでは幅広く様々なモノがアップサイクルされている。

この記事では、そのなかでも「食品」にフォーカスし、アップサイクルの取り組みを深掘りしていきたい。

▼アップサイクルについてより深く知る

アップサイクル食品とは

アップサイクル食品とは、これまでであれば廃棄されていた「食材」を活用し、新たな製品を生み出すことをいう。食べ残しや期限切れなどにより食品ロスとなった食材や、食品を製造する段階で不要になった食材、傷があるなどの理由から規格外とされ市場に流通しなかった食材などをアップサイクルする例が増えてきているのだ。

持続可能な社会を目指すうえで、食品のアップサイクルはこれから一層取り組んでいくべき分野であり、年々多様な事例が増えてきている。

アップサイクルとリサイクルの違い

ここで類義語である「リサイクル」との違いについて触れておきたい。

リサイクルとは、廃棄されるものを資源(原料や材料)の状態にまで戻し、そこから再利用することをいう。たとえば、着なくなった洋服を糸に、ペットボトルをポリエステルの状態まで戻すようなイメージだ。

一方でアップサイクルは、資源にまで戻すことはしない。元の製品の形は変えず、新たな付加価値を持たせることで、製品の形を生かしたまま別の新しい製品に生まれ変わらせる。

食品廃棄物の削減を目指し制定された「食品リサイクル法」では、「食品廃棄物の発生を抑制すること」と、「食品廃棄物から作られた製品の利用促進」を食品関連事業者に求めている。そのため「食品リサイクル」という際には、この定義に則った捉え方をする場合もあるだろう。

農林水産省の資料では、2021年度の最も多い再生品は飼料(全体の76%)、次いで肥料(16%)、油脂および油脂製品(4%)、メタン(4%)と続く。(※1)こういったものへのリサイクルは、ある程度長い間取り組まれてきた分野であり、食品リサイクルとしてイメージを持ちやすいのではないだろうか。アップサイクルは、それとはまた違う、新しい食品廃棄物へのアプローチと捉えられるだろう。

※1 参考:農林水産省「令和3年度食品廃棄物等の年間発生量及び食品循環資源の再生利用等実施率」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/attach/pdf/kouhyou-14.pdf

食品業界におけるアップサイクルの重要性

食品業界において、アップサイクルは注目される存在だ。

現代社会では「食品ロス」が社会課題となっており、食品ロスを減らすことが喫緊の課題となっている。食品ロス量はこの約10年ほどで減少傾向にはあるが、それでもかなりの量が毎年発生している。この課題解決に向け、アップサイクルは1つの鍵だと言えるだろう。

出典:消費者庁「食品ロスについて知る・学ぶ」をもとに筆者作成

また、先に述べた食品リサイクル法では、業種ごとに再生利用等実施率が定められている。直近の目標値では、2024年度までに業種全体で食品製造業は95%、食品卸売業は75%、食品小売業は60%、外食産業は50%の達成目標とされている。これらの目標達成の観点からも、食品業界においてアップサイクルは重要視するべきアプローチだと言える。(※2)

※2 参考:農林水産省「食品廃棄物等の再生利用等の目標について」https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_info/saiseiriyo_mokuhyou.html

▼食品ロスに対する取り組み、「フードシェアリング」について詳しく知る

アップサイクル食品の具体例

それでは、具体的にどんなアップサイクル食品があるのか見てみたい。日本国内、海外ともに、多様な事例がありそうだ。

国内の例

まずは国内の事例を紹介する。

食品へのアップサイクル:Oisixの「Upcycle by Oisix」

オイシックス・ラ・大地株式会社が提供する宅配ブランド「Oisix」では、「Upcycle by Oisix」というブランドでアップサイクル製品を販売している。りんごの加工現場で未活用となった「りんごの芯」を使ったチップスや、梅酒の製造で使われた梅を用いたドライフルーツ、おからを使ったパンケーキミックスや昆布の根本を練り込んだ素麺など、20種類以上の商品を展開している(2024年9月現在)。

環境にやさしいだけではなく、美味しく、消費者が楽しめる価値提供がなされている。

食品へのアップサイクル:クラフトビール

廃棄となった食品を活用し、クラフトビールを製造する例も増えている。原料が多様であることや、テイストへの工夫も見られ、今後のアップデートが期待できそうだ。ここではいくつか紹介したい。

  • 廃棄間際のパンを活用した「RE:BREAD」(高島屋横浜店)

横浜髙島屋のベーカリースクエアで販売されていた廃棄間近のパンを活用し、「ON TAP 江戸東京ビール」と協業してクラフトビールの製造・販売を行っている。本来使用する麦芽の20%をパンで代用することで、500種類近くのパンが販売される同店の閉店後の食品ロス削減につながっている。

  • 災害備蓄食品から作った「Loop Marunouchi」(Beer the First×三菱地所)

三菱地所保有ビルの災害備蓄食品をアップサイクルしクラフトビール化した事例。災害備蓄用の菓子を用いたことで、香ばしさが際立ち、心地よい苦味と華やかなホップの香りを味わうことができる。

  • ラーメンの端材を用いた「KAEDAMA ALE」(一風堂×UTAGE BREWING)

「一風堂おみやげラーメン」の製造過程で出る麺の端材を原料に製造。一風堂の豚骨ラーメンやチャーシューとペアリングができるクラフトビールを目指し、試行錯誤の末にでき上がった逸品だ。

素材へのアップサイクル:アップルレザー

りんごの芯や皮から作られる皮革、「アップルレザー」を聞いたことがある人も多いかもしれない。「アップルスキン」とも呼ばれ、ヴィーガンレザー(動物由来ではないレザー)の1つとして注目される。りんごの芯や搾りかすを乾燥させ、パウダー状になるまで分解した上で、樹脂を混ぜて製造する。完成したレザーのうち、りんごの割合は20〜30%程度になるそうだ。

最近では、青森県産のりんごを用いた国産アップルレザーも生まれており、動物を犠牲にせず、廃棄物のアップサイクルにもつながる素材として今後も発展が期待される。

建材へのアップサイクル:野菜などの廃材を建材化する企業・fabula

廃棄食材から新素材を作り、アップサイクルしている例もある。東京大学で行っていた研究からビジネスを始めた株式会社fabulaでは、廃棄野菜などを乾燥・粉砕・熱圧縮し、建材を製造。白菜で作った建材は、なんとコンクリートの約4倍の曲げ強度だというから驚きだ。(※3)

同研究室では、海藻、玉ねぎ、かぼちゃ、バナナ、オレンジなど様々な食材で研究を行っており、糖分と食物繊維の組み合わせでその強度が変わることを明らかにしている。(※4)素材由来の香りや色が楽しめることも魅力の1つだそう。

将来的には「食べる」ことも視野に入れているそうで、いずれ「食べられる建材」が普及する日が来るかもしれない。

※3 参考:株式会社fabula
https://fabulajp.com/
※4 参考:東京大学「余った白菜が建物になるってホント? →酒井雄也 GX入門/身近な疑問vs東大」https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00244.html

海外の例

海外ではどのような事例があるだろうか。洗練された空間にアップサイクルを取り入れたり、アップサイクル製品を可視化できる仕組みがあったりと、興味深い例も見られる。

廃棄食材のみを使ったアップサイクルレストラン

海外では、廃棄食材のみを使い食事を提供するレストランがあるようだ。代表的な例をいくつか紹介したい。

規格外野菜や流通されなかった魚、肉の切れ端など、そのままでは廃棄される食材を用いて料理を提供する。季節や手に入る食材によってメニューが変わるのも魅力のうちだ。

カラフルな店内も魅力。環境にやさしい、廃棄食材をアップサイクルした食事を、おしゃれに楽しめる点も魅力と言えそうだ。

 

  • フィンランドNolla

2018年にフィンランドの首都・ヘルシンキにオープンしたレストラン「Nolla(ノッラ)」。ゼロ・ウエイストをコンセプトにしており、リユース・アップサイクル・リサイクルを基本とするため、店内にはゴミ箱がない。

普段廃棄される野菜のヘタや皮などもなるべく料理に使い、どうしても出てしまう生ゴミはコンポストとして処理しているという。また、キャンドルを置く皿やバターを入れた器にワインボトルの底が使われるなど、利用する器などにもアップサイクルが自然と導入されており、店内全体でコンセプトを体現する取り組みがなされている。

 

 

  • 英・ロンドン「Silo

ロンドンに2014年にできたのが、レストラン「Silo(サイロ)」。こちらもゼロ・ウエイストをコンセプトにサービスを展開し、各国の廃棄ゼロに取り組むレストランに影響を与えている。

店内では、発酵、アップサイクル、コンポスト、リサイクルを用いて廃棄物を極限まで削減。たとえば野菜の切り落としやチーズの皮などの廃棄物は、地下室で発酵させることで調味料としてアップサイクルするそうだ。

店内の内装にも、食品パッケージを再利用したテーブルや、コルクと羊毛を活用した素材が床や天井に用いられるなど、至るところにアップサイクルが取り入れられている。アップサイクルを用いながら、スタイリッシュ、かつ一流の料理を提供する掛け算がしっかりとハマっていることが、持続的な運営の鍵なのかもしれない。

米国:アップサイクル食品協会

アメリカでは、2019年にアップサイクル食品協会(Upcycled Food Association)が立ち上がった。この協会はアップサイクルの定義を明確化するとともに、翌2020年、食品廃棄を防ぐ目的でアップサイクルされた原材料や製品を示す「アップサイクル認証」を発表。認証を受けた商品はロゴマークを掲示できるようになり、消費者もアップサイクルされた食品を選ぶことができるようになった。

こういった仕組みができることも、アップサイクルされた食品を可視化し、その動きを加速させることにつながるだろう。

▼サーキュラーエコノミーについて詳しく知る

アップサイクル食品のメリット

では、食品をアップサイクルするメリットとしては、どのようなことがあるだろうか。考えてみたい。

環境への影響

まず、アップサイクルはリサイクルよりも、その過程で生じる環境負荷が小さいことが挙げられる。リサイクルは物品を資源の状況まで戻すため、分解や溶解といったプロセスが必要となり、多くのエネルギーを消費することになる。

一方でアップサイクルは、素材をそのまま活かし新たな価値を生み出すことになるため、新たに資源を消費したり、CO2を排出したりするプロセスが小さい。環境負荷の低減につながる加工方法と言えるだろう。

経済的な利点

環境への影響ともつながるが、アップサイクルはその製造過程がリサイクルよりもシンプルになる。そのため、工場のコストが不要であったり、エネルギーや新たな素材の仕入れといったコストを省くことができたりと、経済的にも小さなコストで取り組むことができる。

企業のイメージ向上と消費者の意識変化

食品のアップサイクルに取り組み、食品ロスといった社会課題に対応していることは、ESG経営の観点から企業イメージの向上にもつながる。消費者や投資家へのアピールになるとともに、そういった製品が増えることで、消費者が環境に配慮した商品を知り、選ぶという行動変容を促すことにもつながるだろう。

アップサイクル食品の市場動向

コンサルティング会社アクセンチュアは、サーキュラーエコノミーの市場規模を2030年に4.5兆ドル、約540兆円に達するしている。(※5)食のアップサイクルについては、米国の市場で2019年時点で5兆1000億円と推定されており、その後も2029年までに年率5%以上のスピードで成長すると予測される。(※6)

環境課題へ取り組みが待ったなしになっている現状と、それによる環境意識の高まりなどからアップサイクルの概念が社会に浸透してきたこと、消費者・投資家からも重視されるようになっている背景などから、今後もこの市場の拡大が見込まれる。市場の拡大に乗じて、より食品のアップサイクルへの取り組みが加速することを期待したい。

※5 参考:アクセンチュア株式会社「サーキュラー・エコノミー」
https://www.accenture.com/jp-ja/services/strategy/circular-economy
※6 参考:株式会社日本経済研究所「食品廃棄物のアップサイクルと地域の可能性」
https://www.jeri.co.jp/wp-content/uploads/2021/10/20211021_%E7%89%B9%E9%9B%86_SDGs%EF%BC%8F%E4%BF%9D%E5%9D%82%E6%A7%98%E3%83%BB%E5%80%89%E6%9C%AC%E6%A7%98.pdf

アップサイクル食品とSDGs(持続可能な開発目標)

言わずもがな、アップサイクルはSDGs(持続可能な開発目標)の推進にもつながる動きだ。SDGsの観点から、食品のアップサイクルを見てみよう。

目標12「つくる責任 つかう責任」

SDGsの17の目標のうち、アップサイクルと関わりが深いのは12番目の「つくる責任 つかう責任」だろう。

この目標では、以下のような内容が掲げられている。

12-3:2030年までに、お店や消費者のところで捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす。また、生産者からお店への流れのなかで、食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす。

12-5:2030年までに、ごみが出ることを防いだり、減らしたり、リサイクル・リユースをして、ごみの発生する量を大きく減らす。

(※7)

こういった目標の解決策として、まさにアップサイクルは直結する動きだといえるだろう。とくに食品のアップサイクルという観点でも、12-3の目標などは、食における「つくる責任、つかう責任」を意識する重要な目標だと言える。

※7 引用:日本ユニセフ協会「SDGsクラブ 12.つくる責任、つかう責任」https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/12-responsible/

目標14「海の豊かさを守ろう」

SDGsでは、海洋資源を守る目標も掲げている。14番目の「海の豊かさを守ろう」がそれだ。

14-7 漁業や水産物の養殖、観光を持続的に管理できるようにし、2030年までに、開発途上の小さい島国や、もっとも開発が遅れている国ぐにが、海洋資源を持続的に利用することで、より大きな経済的利益を得られるようにする。

(※8)

この目標では、獲り過ぎることにより海洋資源が枯渇していくことを避ける目標も掲げられている。私たちは大量に消費し、大量に廃棄し、海洋の資源をどんどん消費している。その姿勢を見直すとともに、一度捕獲した資源を最後まで「いただく」という考え方からも、海洋資源である食品をアップサイクルする文化が根付くことは重要だと言えるだろう。

※8 引用:日本ユニセフ協会「SDGsクラブ 14.海の豊かさを守ろう]
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/14-sea/

▼飲食店等で余った食材を、生活困窮者の支援に繋げる仕組み「コミュニティフリッジ」について知る

アップサイクル食品のトレンドと今後

食品アップサイクルは、食品に限らず今後も様々な形をとって、可能性が拡大していくことだろう。年々多くの企業が取り組みを開始しており、また子ども世代がアップサイクルに触れる機会も増えているように思う。

たとえば、夏休みの自由研究に向けて、企業がアップサイクルのワークショップを開くような例も見られる。UCC上島珈琲は、2024年8月、三菱鉛筆と共同で「コーヒー×文房具でアップサイクル!夏休み親子体験イベント」を開催した。(※9)コーヒー抽出後のコーヒーの粉の活用について、家庭でもできるサステナブルな取り組みを体感することを目標に、まずトートバックに絵を描き、その後コーヒー染めをして、自分だけのオリジナルなバックを作成した。

このように、小さな頃からアップサイクルに触れる機会があることで、不要になったものを使って新たな価値を生み出すことが身近になったり、付加価値を生み出す「面白さ」を自分ごととして体感できたりする人が増えていくのではないだろうか。

※9 参考:UCC上島珈琲株式会社「UCCと三菱鉛筆が夏休みの自由研究企画で初のコラボ 抽出後のコーヒー粉を再利用し、世界でひとつだけのオリジナルトートバッグ作り 「コーヒー×文房具でアップサイクル!夏休み親子体験イベント」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000176.000074056.html

まとめ

この記事では、食品のアップサイクルの現在地に迫ってきた。

大量生産・大量消費がもはや時代遅れになり、「限られた資源をどう有効に活用していくか」が重視される現代社会においては、可能性に満ちた取り組みだと言えるだろう。

「やらなきゃいけないから」ではなく、「楽しく、かっこよく取り組める」といったことも、持続可能な社会の実現に向けたキーワードの1つではないかと思う。その点からも、食品アップサイクルには「楽しい」「かっこいい」といった要素が散りばめられ、誰もが前向きに選択していける行動の1つなのではないだろうか。

 

取材:大沼芙実子
編集:吉岡葵