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SOGIハラスメントとは?現状の課題、法的ガイドライン、未来への取り組みを解説

「SOGI(ソジ)ハラスメント」という言葉をきいたことはあるだろうか。近年、社会の多様性が尊重されるなかで、この問題に対する関心が高まっているが、まだ十分に理解されていない側面も多い。セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)やパワー・ハラスメント(パワハラ)などと同じ、ハラスメントの典型的な事例の1つである。

そこで今回は、SOGIハラスメントに焦点を当て、その定義や対策方法、取り組みを解説する。

▼「SOGI」についてより深く知る

SOGIハラスメント(ソジハラ)とは

SOGIハラスメントとは、性的指向や性自認に基づく差別的な言動や行動を指す。これは、LGBTQ+の人びとに対する直接的な差別や、無意識の偏見による不当な扱いも含まれる。そもそもSOGIは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の略称であり、LGBTQ+の人びとをはじめ、全ての人が対象となり得る。

SOGIハラが問題になっている背景

SOGIハラスメントが問題視されるようになった背景には、「性の多様性」が社会で広く認知されるようになったことが挙げられる。

以前は、性的指向が異性のみに向いていること(ヘテロセクシュアル)や、性自認が生物学的な性と一致していること(シスジェンダー)が当然とされてきた。しかし近年では、さまざまな性のあり方を尊重し、共存する社会を目指しており、SOGIハラスメントの問題が注目されるようになっているのだ。実際に、2020年6月の改正パワハラ防止法の施行により、SOGIに関する企業の対応が法律でも義務付けられた。(※1)

そもそも「LGBTQ+」という言葉は、性的マイノリティを指すものであり、多くの人びとにとっては自分には関係のない問題のように感じられるかもしれない。しかし、「SOGI」という言葉は、全ての人が持つ性の要素を指している。そのため、SOGIへの理解が一般化すれば誰もが性のあり方に関する問題を自分事として捉えることができるようになる。

こうした考え方の広がりにより、SOGIという言葉を用いることの重要性が認識されつつあるのだ。これにより、SOGIハラスメントの問題は特定のグループに限らず、社会全体で取り組むべき課題として理解が進んでいるのである。

▼シスジェンダーやヘテロセクシュアルについてより深く知る

※1 参考:高井・岡芹法律事務所「パワハラ防止法・パワハラ防止指針を踏まえた 「職場の SOGI ハラ」「アウティング」 防止に関する措置義務の留意点」(2020年9月1日)
https://www.law-pro.jp/wp-content/uploads/2021/01/news20200901.pdf

SOGIハラスメントの具体例

具体的にどのようなことがSOGIハラスメントに該当するのか。本章では、SOGIハラスメントの具体例を「学校や公共の場での事例」、「職場での事例」に分けて解説する。

学校や公共の場での事例

とある高校の授業で、異性愛を前提とした結婚観を問う授業が行われた。その内容とは、将来的に結婚を望んでいない人を挙手させ、そのうえで「何歳で結婚をするか」や「子どもは何人ほしいか」などの人生イベントを中心に将来設計を描く、というものであった。また、その内容をふまえて、将来の妻や夫に手紙をかく、といった時間も設けられたという。

学校で当たり前のように行なわれている授業が、性的マイノリティの方や家庭環境への配慮に欠けた内容になっている場合があるのだ。(※2)

※2 参考:Educasphere 川村学園女子大学教育学部児童教育学科学科長 内海﨑貴子「学校におけるハラスメント ―セクシュアル・ハラスメントを例として―」
https://kyotokai.jp/wp/wp-content/uploads/2023/09/%E2%91%A6%E7%AC%AC9%E5%8F%B7_%E6%95%99%E8%82%B2%E6%B3%95%E8%A6%8F%E3%83%BB%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E7%AE%A1%E7%90%861%EF%BC%88%E5%86%85%E6%B5%B7%E5%B4%8E%E5%85%88%E7%94%9F%EF%BC%89.pdf

職場での事例

2022年、イラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営するピクシブ株式会社に務めるトランスジェンダー女性の社員が、職場で継続的にハラスメントを受けたなどとして、同社と元上司の男性に対し約555万円の損害賠償などを求めた訴訟を提起した。

訴状によると、原告の女性が同社に入社直後から、侮辱する言葉や性的いやがらせなどのハラスメントを受けた、としている。原告は、社内のセクハラ窓口の担当弁護士に相談。会社側からは、元上司の男性について、原告と同じ部署にしないことや社内の飲み会に参加させないといった措置を約束されたが、反故(ほご)にされたという。

結局、原告の女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの診断を受け、「職場環境配慮義務に違反している」として、5月に提訴した。(※3)同社は、SOGIハラと、セクハラがあったことを認めて謝罪し、賠償金を支払う方針を示した。また、同年には『ハラスメント撲滅宣言』を出し、社内でのハラスメントをなくすための方針や取り組みを発表した。(※4)

また、このほかにも、職場内で本人の意向に反する性別として扱うことや、昇進や雇用機会における不公平な扱いも事例として該当する。

※3 参考:毎日新聞「ピクシブがSOGIハラ認め謝罪 性的指向・自認否定で賠償訴訟」(2022年9月8日)
https://mainichi.jp/articles/20220908/k00/00m/040/322000c
※4 参考:pixiv「ハラスメント撲滅宣言」
https://www.pixiv.co.jp/declare/anti-harassment

SOGIハラスメントの対策と予防

SOGIハラを防止するためには、あらかじめ防止策を立てて実践していくことが重要である。企業や組織がおこなうべき対策を、実際に行われている具体的な取り組みをみながら解説していく。

大阪府

大阪府では、全ての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を目指し、1998年に「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を制定。しかしながら、性的マイノリティの人たちの状況はこれといって改善せず、社会の多数派とは異なるものとして、差別や偏見を受けるなど、苦しい状況が続いた。

こうしたなか大阪府では、性的指向及び性自認の多様性が尊重され、全ての人が自分らしく生きることができる社会の実現をめざし、2020年10月30日「大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例」を新たに施行。本条例施行後は、性の多様性に関する理解を深める施策に取り組んでいる。性的マイノリティに対する誤解や偏見、差別をなくし、当事者が抱える課題の解決が目的だ。(※5)

※5 参考:大阪府「性的マイノリティの人権問題について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/o070020/jinken/sogi/index.html

東京都渋谷区

渋谷区は、性的マイノリティを含む、多様な区民や職員が区政に安心して参画できる環境を整えることを目指し、渋谷区職員1人ひとりがSOGIE(性のありよう)の多様性を尊重し、業務内で適切な対応ができるように「SOGIE」を掲げた行動計画をたてている。(※6)

また、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」にもとづき、2015年に公正証書の取得を要件とするパートナーシップ証明制度を創設。これは全国初の取り組みである。なお、同条例は、現在「渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例」に改正されている。

パートナー シップ証明制度は、条例に基づいた制度であることから、同条例に定められる「区民及び事業者による区長に対する相談や苦情の申し立て」や「勧告に従わない場合の関係者名その他の事項の公表」が適用されるようになった。(※7)

また、渋谷区はこれまで「渋谷区パートナーシップ証明実態調査」を計2回実施している。調査を通じて、パートナーシップ証明制度が与えた社会への影響や効果、パートナーシップ証明制度の改善点の把握を行った。証明書を取得した区民からは、法的に有効な公正証書であることや、行政が認めているという信頼性から、安心感があるとの評価を得ている。(※8)

※6 参考:渋谷区「男女平等・多様性社会推進行動計画」https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/shibuyaku-kodomo-plan/danjo_byodo.html
※7 参考:渋谷区「渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例」
https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/70aea1ee4a0b4f2ebdf0af89d839de49/fix-jyourei.pdf
※8 参考:渋谷区「渋谷区パートナーシップ証明 実態調査2022 報告書」(2023年7月)https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/ce1bf838aa244c85806cc61ddb706bfe/zittaityousa2022.pdf

SOGIハラスメントに関する法律とガイドライン

2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、「SOGI」というワードはでてこないものの「性自認」や「性的指向」へ言及される条項がいくつか登場する。ここでは、政府が方針をまとめたパワハラ対策に関するガイドラインに記された、実際にパワハラに該当する例を確認していく。

  • パワハラの6類型(※9)のうち、精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)に該当すると考えられる例
    「人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」
  • パワハラの6類型のうち、個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)に該当すると考えられる例
    「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」
  • 個の侵害に該当しないと考えられる例
    「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと」
  • 併せて講ずべき措置の内容
    「職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること」(※10)

要するに、ガイドラインでは、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動や、アウティング(本人が同意していないにもかかわらず、第三者がその性的指向や性自認を明らかにすること)が、パワーハラスメントと見なされる可能性があると示されている。

また、企業に求められるプライバシー保護措置には、性的指向や性自認に関する情報も含まれることが明確にされているのだ。2022年4月1日からは中小企業でも、同法における防止措置が義務化されたため、ますます対策と周知が必要になるだろう。

※9 用語:厚生労働省が示すパワーハラスメントの分類で、「身体的無攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つに分けられる。
※10 参考:厚生労働省「労働施策総合推進法の改正 (パワハラ防止対策義務化)について」
https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/000756811.pdf

▼「アウティング」についてより深く知る

SOGIハラスメントが発生した場合の対応

もし職場でSOGIハラスメントを受けた場合、あるいは自身の周辺で発生してしまったら、どのように対処すれば良いのだろうか。この章ではそれぞれの立場で、具体的な取り組みや対策法を解説する。

当事者として

SOGIハラスメントが発生した場合、まず当事者は速やかに信頼できる上司や人事部門に相談することが重要だ。具体的には、会社のパワハラ・セクハラ相談窓口を利用する等があげられる。改正パワハラ防止法の施行により、多くの職場でパワハラやセクハラに関する相談窓口が設置されている。もし職場内外にそのような窓口がある場合、自分が受けているSOGIハラスメントについて相談することを検討するのも1つの手段だろう。

また、必要な場合は労災申請の検討も視野にいれよう。SOGIハラスメントが原因でうつ病や適応障害などの精神的な問題を抱えている場合、それが労働災害として認められる可能性がある。精神障害は一般的に労災認定が難しいとされているが、SOGIハラなどが原因であり、その証拠が揃っている場合、労災認定が比較的容易になることがある。

企業や組織として

企業や組織は、迅速に事実確認を行い、被害者のプライバシーを保護しつつ適切な対応を講じるべきだ。加害者には適切な懲戒処分や再教育を行い、再発防止策を徹底することが求められる。また、組織全体でSOGIに関する理解を深めるための研修や啓発活動を実施し、差別やハラスメントを許さない職場環境を整えることが必要となる。

まとめ

SOGIハラスメントの被害者は、LGBTQ+の人々に限らない。決してあってはならないことだが、LGBTQ+の近親者がいることでハラスメントを受ける場合があるかもしれない。

つまり、SOGIにおいて多数派である人びとからも、SOGIハラスメントに関する相談が寄せられる可能性があるのではないだろうか。SOGIハラスメントの問題は、どの職場や組織でも、誰のまわりでも発生しうるものなのだ。

今の時代はありのままの多様な生き方が尊重される。SOGIハラスメントに対する具体的な対策をとり、すべての人々が快適に働くことができるようにすることは、どのような組織にとっても不可欠と言えるだろう。

 

文:たむらみゆ
編集:吉岡葵