よりよい未来の話をしよう

発達障害とニューロダイバーシティの関係とは?社会的適応のポイントを解説

ニューロダイバーシティとは、脳の機能や発達の個人差を示す概念であり、発達障害などを含む神経学的な多様性を指す。

近年、発達障害の診断を受ける人や手帳を取得する発達障害者が大幅に増加しており、特に若い世代で顕著だ。これに伴い、ニューロダイバーシティに関する社会的関心も高まっている。ニューロダイバーシティの視点は、ニューロマイノリティの強みを活かすと共に、差別やスティグマの問題にも取り組む必要性を示唆している。

例えば、教育現場や民間コミュニティにおいても、ニューロダイバーシティのための様々な取り組みが進められている。今、ニューロダイバーシティの理解を深め、一人ひとりの多様性を尊重し、包括的な社会を築いていくことが求められているのだ。本記事では、ニューロダイバーシティと発達障害の関係性や、社会的適応のポイントについて詳しく解説する。

ニューロダイバーシティとは

ニューロダイバーシティは、医療や教育、さらには企業の世界でも注目を集めている。それは、一人ひとりの強みや才能に焦点を当てる新しいアプローチだからだ。ここでは、ニューロダイバーシティとは何かを詳しく解説する。

ニューロダイバーシティの定義と概要

ニューロダイバーシティとは、脳の機能や発達の多様性を指す概念である。この用語は、神経学的な違いを障害ではなく、人間の多様性の一部として捉えることを目的としている。

具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(LD/SLD)など、脳の発達や神経伝達に由来する特性の違いを、機能的な多様性として尊重し、社会の中で活かしていくことを意味する。これは、従来の医学的な「障害」の概念とは異なり、ニューロマイノリティと呼ばれる人々の強みや才能に焦点を当てるアプローチだといえる。

ニューロダイバーシティの歴史と発展

ニューロダイバーシティという概念は、1990年代初頭に、国際自閉症ネットワーク(Autism Network International)のインターネット上のニュースレターで初めて使用された。当初は主に自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連して用いられていたが、その後、ADHD、双極性障害、統合失調症など、他の神経発達障害や精神疾患にも適用されるようになった。

近年では、ニューロダイバーシティの概念は、医療や福祉の分野だけでなく、教育、雇用、社会政策など様々な領域で注目されるようになっている。特に、職場における多様性とインクルージョンの観点から、ニューロダイバーシティを重視する企業や組織が増えてきている。

▼関連記事を読む

発達障害とニューロダイバーシティの関係

ニューロダイバーシティという概念と、発達障害との関係性について見ていこう。発達障害とは一般的にどのように定義され、どのような特徴があるのだろうか。

発達障害の定義と特徴

発達障害とは、脳機能の発達が非定型的であることにより、言語、コミュニケーション、対人関係、行動、学習などの面で、生活するうえでの困難が継続的に生じる障害を指す。前述の通り、代表的なものとしては自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)などが挙げられ、それぞれに特有の特性がある。

ASDは、言語・非言語コミュニケーションの困難、特定の興味へのこだわり行動などを特徴とする。(※1)ADHDは注意維持の困難、多動性、衝動的行動を特徴とする。(※2)そして、LDは、読み書きや計算の困難などの特徴がある。(※3)

発達障害の罹患者数の推移

厚生労働省の「生活のしづらさなどに関する調査」(2022年)(※4)によると、医師から発達障害と診断された者の推計値は87万2000人であった。2016年の調査では48万1000人であったため、2016年と2022年を比較すると診断を受けた人は約81%増ということになる。発達障害に関する社会的認知度の高まりとともに、ニューロダイバーシティへの関心も高まっているのではないだろうか。

発達障害とニューロダイバーシティの関わり

ニューロダイバーシティとは、脳の発達の偏りや神経伝達に由来する特性の違いを多様性として捉え、相互に尊重し、社会の中で活かすことを目的とした概念である(※5)。発達障害も含めた様々な神経発達の特性を肯定的に捉える点で、深い関わりがある概念だ。一方で、発達障害が医学的な診断名であるのに対し、ニューロダイバーシティはより広い概念であり、必ずしも医学的な障害の有無にかかわらず、多様な脳の在り方を包含するものである点は異なる

  発達障害 ニューロダイバーシティ
定義 脳機能の発達の非定型性に起因する生活上の困難 脳の多様性を機能的な個性として尊重する考え方
医学的診断 あり 必ずしも必要ではない
対象 ASD, ADHD, LDなど 発達障害も含めたより広範な特性

このように、発達障害とニューロダイバーシティは密接に関連しつつも、異なる側面を持つ概念である。ニューロダイバーシティの考え方は、発達障害を含む様々な神経発達の特性を持つ人々が、その特性を社会の中で活かしながら活躍できる環境を作ることを目指している。発達障害の理解とともに、ニューロダイバーシティの視点を持つことで、多様な人材が共生する社会の実現に近づくことができるだろう。

※1 参考:NCNP病院「自閉スペクトラム症(ASD)」
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease06.html
※2 参考:NCNP病院「ADHD(注意欠如・多動症)
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html
※3 参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「学習障害(限局性学習症)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html
※4 引用:厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果の概要」(2022年)p.5
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_b_r04_01.pdf
※5 参考:経済産業省「ニューロダイバーシティの推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversity.html

ニューロダイバーシティの社会的影響

ニューロダイバーシティの概念が社会に与える影響は多岐にわたるが、ニューロマイノリティの強みを活かす一方で、差別やスティグマの問題にも取り組む必要がある。

ニューロマイノリティの強みとスキル

ニューロダイバーシティの観点から見ると、発達障害のある方は独自の強みやスキルを持っている。例えば、ASDの人は、細部への注意力、情報処理・視覚能力、論理的思考力に長けていることが知られている。

また、ADHDの人は、リスクテイク、創造的思考力、問題解決力に優れ、LDの人は、視覚処理能力、多角的思考、データパターン分析力を発揮できる。これらの特性を理解し、適切な環境を整えることで、ニューロマイノリティの潜在能力を引き出せる可能性がある。

ニューロダイバーシティにおけるスティグマと差別

一方で、ニューロダイバーシティの概念が普及するなか、ニューロマイノリティに対するスティグマや差別の問題も存在する。スティグマとは、個人の特徴に対する否定的な意味づけや不当な扱いを指す。

ニューロダイバーシティの難しいところは、身体的特徴のように外見で判断がつかないところにある。そのため、公共サービスや教育現場での不適切な対応など、差別的な事例が報告されている。ニューロダイバーシティの理解を深め、多様性を尊重する社会を構築するためには、これらのスティグマや差別の解消に向けた取り組みが不可欠である。

ニューロダイバーシティの職場への影響

ニューロダイバーシティは、職場環境にも大きな影響を与える。経済産業省のレポート(※6)では、ニューロダイバースなチームは約30%効率性が高く、障害のある同僚の「仲間」またはメンターとして行動する「バディシステム」を導入した組織では収益性が16%、生産性が18%、顧客ロイヤリティが12%上昇したという事例も紹介されている。

また、ニューロダイバーシティに配慮した職場では、社員エンゲージメントの向上や退職率の低減が期待できる。ただし、これらの効果を得るためには、個別のニーズに対応した支援や、コミュニケーションと相互理解の促進が重要である。

企業での取り組み例として、カルテ作成、ノウハウ集作成、コンディション管理表の活用などが挙げられる。ニューロダイバーシティの観点から職場環境を整備することで、多様な人材が活躍できる組織づくりが可能になるだろう。

※6 参考:経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査 調査結果レポート」p.7
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversityR4report_v1.1.pdf

ニューロダイバーシティの社会的適応のポイント

ここまで、ニューロダイバーシティを理解して活かすことが、今の社会にとって重要であることを述べてきた。しかし、どうすれば上手くニューロダイバーシティを社会に適応させられるのか。ポイントは3つある。まず、お互いの特性を理解し、尊重すること。次に、ニューロマイノリティの強みを活かせる環境を作ること。そして、コミュニケーションを工夫して、相互理解を深めること。これらを実践すれば、多様性が輝く社会に近づくことができるだろう。

ニューロダイバーシティの理解と受容

ニューロダイバーシティの理解と受容は、社会的適応を促進する上で重要な基盤となる。これを促進するためには、社会全体での意識改革が必要不可欠である。特性の違いを尊重し、多様性を認め合う社会の実現に向けて、一人ひとりが理解を深めていくことが求められる。

相互理解を深めるためには、お互いの特性や困難さを理解し、尊重し合うことが大切である。そのためには、ニューロダイバーシティに関する知識を深め、偏見やスティグマを払拭していく必要がある。職場や教育現場での研修や啓発活動、当事者との対話などを通じて、理解を促進していくことが求められる。

ニューロマイノリティの強みを活かす環境づくり

ニューロマイノリティの社会的適応を促進するためには、彼らの強みを生かせる環境づくりが重要となる。前述の通り、ニューロマイノリティには、細部への注意力、情報処理・視覚能力、論理的思考力、創造的思考力、問題解決力など、様々な強みやスキルがある。

こうした強みを活かせる環境を整備することで、ニューロダイバーシティは職場にポジティブな影響をもたらす可能性がある。強みを活かす環境づくりには、個別のニーズに対応した支援が重要である。また、心理的安全性の確保も欠かせない。多様性を尊重し、互いに理解し合える職場環境の醸成が求められる。

コミュニケーションと相互理解の促進

ニューロダイバーシティの社会的適応を促進する上で、コミュニケーションと相互理解の促進は重要なポイントとなる。特性の違いから生じる誤解やコミュニケーションの齟齬を防ぎ、円滑な人間関係を築くためには、双方向の理解と努力が必要である。

例えば、ASDの人は言語・非言語コミュニケーションに困難を抱えることがあるため、明確で具体的な指示や説明が有効である。ADHDの人は注意維持が難しいことがあるため、短くシンプルな指示や、視覚的な情報の活用が役立つ。LDの人は特定の学習に困難を抱えることがあるため、その人に合った学習方法の提供が重要である。

ニューロダイバーシティの社会的適応は、社会全体で取り組むべき課題である。一人ひとりの理解と努力、そして継続的な支援と合理的配慮の提供によって、多様性が尊重され、誰もが活躍できる社会の実現につながるだろう。

ニューロダイバーシティのための支援と取り組み

ニューロダイバーシティの概念が広まるにつれ、多様な特性を持つ人々のためのサポートや包括的な環境づくりの必要性が高まっている。ここでは、ニューロダイバーシティのための具体的な支援や取り組みについて、いくつか事例を取り上げて解説する。

個別ニーズに対応したサポートの重要性

ニューロダイバーシティの特徴は、個人によって大きく異なるため、画一的なサポートではなく、一人ひとりのニーズに合わせた支援が不可欠である。企業におけるニューロダイバーシティ支援の事例として、LINEヤフー株式会社では、2016年から(ヤフー時代から)発達障害の社員採用を開始している。また、社員一人ひとりのカルテを作成し、個別の特性やニーズを把握することで、適切なサポートを提供している。

また、コミュニケーションと相互理解を促進するために、ノウハウ集の作成やコンディション管理表の活用なども効果的である。これらの取り組みは、ニューロダイバーシティを持つ社員が、自身の特性を理解し、周囲とのコミュニケーションを円滑にすることに役立つとともに、職場全体の意識向上にもつながる。

教育現場でのニューロダイバーシティへのアプローチ

2016年4月に施行された障害者差別解消法により、教育現場においても「合理的配慮」の提供が義務化された。これは、個々の特性に合わせた対応を行うことで、ニューロマイノリティを含む児童・生徒の学習環境を整備することを目的としている。具体的には、以下のような取り組みが行われている。

  • 視覚的な情報提示や時間の区切りを明確にするなど、認知特性に合わせた指導方法の工夫
  • 感覚過敏に配慮した教室環境の整備(照明の調整、騒音対策など)
  • 教師と保護者の連携による情報共有と支援方針の統一

これらの取り組みは、ニューロダイバーシティを持つ児童・生徒が、自身の特性を理解し、適切な支援を受けながら学習に取り組むことを可能にする。さらに、周囲の児童・生徒の理解を深め、多様性を尊重する態度を育むことにもつながる。

▼関連記事を読む

民間のコミュニティにおけるニューロダイバーシティ支援プログラム

近年、ニューロダイバーシティに特化した民間のコミュニティも増加している。例えば、web3についてのディスカッションを行うコミュニティHenkaku Discord Communityの「ニューロダイバーシティ・サロン」では、ニューロマイノリティの人びとが集い、情報交換や交流を行っている。

また、臨床心理士の村中直人氏主催の「ニューロダイバーシティゼミ」では、ニューロダイバーシティに関する知識の共有や、当事者の経験談を通じた理解促進が図られている。

これらの民間コミュニティは、ニューロマイノリティの人びとが、自身の特性を肯定的に捉え、社会との接点を持つための重要な場となっている。さらに、こうしたコミュニティの活動は、社会全体のニューロダイバーシティへの理解を深め、多様性を尊重する文化の醸成にも貢献している。

ニューロダイバーシティのための支援や取り組みは、個人、教育現場、民間コミュニティなど、様々なレベルで進められている。これらの取り組みを通じて、ニューロダイバーシティを持つ人びとが、自身の特性を活かしながら、社会の中で活躍できる環境が整備されつつある。今後も、ニューロダイバーシティへの理解を深め、一人ひとりの多様性を尊重し、包括的な社会を築いていくことが求められる

▼関連記事を読む

まとめ

ニューロダイバーシティの視点から見ると、発達障害者は独自の強みやスキルを持っている。一方で、ニューロマイノリティに対するスティグマや差別の問題も存在する。職場においては、ニューロダイバーシティに配慮することで、効率性や生産性の向上、社員エンゲージメントの改善などのメリットが期待できる。

教育現場や民間コミュニティにおいても、ニューロダイバーシティのための様々な取り組みが進められている。ニューロダイバーシティの社会的適応を促進するためには、ニューロダイバーシティの理解と受容、ニューロマイノリティの強みを活かす環境づくり、コミュニケーションと相互理解の促進、継続的な支援と合理的配慮の提供が重要である。

 

文・編集:あしたメディア編集部