よりよい未来の話をしよう

わたしの歴史と、インターネット|マツヤマイカと、SNS時代の幸福論

いまや誰もが当たり前に利用しているインターネット。だが、そんなインターネットの存在がもしかしたらその人の歴史や社会に、大きく関わっている可能性があるかもしれない…。この連載では、様々な方面で活躍する方のこれまでの歴史についてインタビューしながら「インターネット」との関わりについて紐解く。いま活躍するあの人は、いったいどんな軌跡を、インターネットとともに歩んできたのだろう?

▼第4回の記事はこちら

SNSの普及により、才能を持つ個人に光が当たりやすい時代になった。クリエイターにとってはある種の黄金期が到来した一方、発信者・受け手共に誹謗中傷やメンタルヘルスの悪化も深刻な問題になっている。

今回インタビューしたのは、デジタルクリエイター/アーティストとしてマルチに活動するマツヤマイカさん。小学生の頃からインターネットに触れ、インターネット空間を通じて活動の幅を広げてきたというマツヤさんは、SNSとどのように向き合っているのだろうか?

中学生で始めたTwitter。世界の広さに打ちのめされた

マツヤさんは1998年生まれですよね。物心着いた頃には既にインターネットが当たり前にあり、初めて持った携帯端末はスマートフォン...という方も多い世代かと思います。

私には兄がいるので、その影響で小学生の頃からパソコンでゲームをしたり、YouTubeやアニメを見たりしていました。

でも、初めて持ったデバイスはスマホではなくて、中学生になる前まではいわゆる「ガラケー」ユーザーだったんです。習い事の関係上、月1で遠方に出かける用事があったので、親が心配して持たせてくれて。

そうだったんですね!ガラケーというと小さな画面で、インターネットに繋ぐにもパケット制限(※1)があったり...。

ありました!使いすぎたら怒られることもありましたね(笑)。今思うと、小さい頃に知る必要のない情報も多いので、インターネットが自由に使えるスマホから入るのではなく、ガラケーも経験していたのは良かったなと思います。

その後、​​中学生になってからご自分のスマホを持ち始めたんですね。よく使用していたアプリケーションや、閲覧していたサイトはありますか?

私にとって、1番大きな存在だったのはTwitter(現・X)だと思います。小さい頃から漫画家になる夢があったので、小学生の頃はずっと絵を描いていました。それが、初めて中学生でTwitterにふれたときに「絵が上手い人ってこんなにいるんだ」と知って。本当に衝撃的でした。

それまでは周りの友達に絵を見せて楽しく続けていたのですが、Twitterを見てからは漫画家になることを諦めたんです。そこで初めて世界の厳しさを知ったんだと思います。

中学生の頃からTwitterの世界を見ていたんですね。SNSの話だと、現在TikTokが人気を博していますが、マツヤさんは前身のMusical.lyの時代から短尺動画を撮って発信していたんですよね。

高校時代、Vine(※2)で友達と笑えるような短尺動画を撮るのがとにかく好きだったんです。Vineのサービスが終了した後にMusical.lyを使い始めたという感じだったので、発信の始まりは全部Twitterでしたね。

※1 用語「パケット制限」:ガラケーが主流だった3G回線の時代には、データの容量をパケットで表すことが多く、使用可能なデータ容量を超えて制限がかかってしまうことを、パケット制限と呼んだ。現在の4G、5G回線では、パケットよりも大きいデータ量を示すバイトという単位で表すことが多い
※2 用語「Vine」:2012年にアメリカで開始した、6秒間のショートフィルムを共有できるアプリ。Vine上のソーシャルネットワークや、Twitter(現X)やFacebookを通してシェアできた。2017年サービス終了

自分を守るために、ブロックしたっていい。SNSとの付き合い方

マツヤさんはセルフプロデュースという形で活動の幅を広げていますね。

楽曲・ビジュアル共に自身で作成したという「猫の子」。
2024年6月にビクターエンタテインメントからメジャーデビューを果たした


実は、元々はプロデュースされたいと思っていたんです。韓国でアーティストになりたいと思っていましたが、ちょうどコロナでオーディションもなくなってしまって。

そこで、自分でコンセプトメイキングからやれば良くない?と思い、本格的にSNSを始めました。表現活動をしている子が近くにいたというのも大きかったです。

SNSでさまざまな作品を発信していくうえで、YouTube・Instagram・TikTokなど、どのように媒体を使い分けているのでしょうか?

媒体によって反応の良いネタも全然違うので、そこは意識しています。​たと​えば、Instagramはおしゃれなイメージがあるので、あえてネタに振り切るとか。

また、InstagramではウケたけれどTikTokやYouTubeでは全然だった、というのはよくあることなので、何がバズりやすいのかは受け手の反応を観察しつつ考えていますね。

受け手との距離が近くなりがちだからこそ、SNSで受け取る情報を内面化しないために気をつけていることはありますか?

仕事でもプライベートでもインターネットは欠かせませんし、かといっても長時間使うとどうしても疲れますよね。

特に、SNSで投稿した動画に心無いコメントが付いたりすると、どれだけ良いコメントがあってもゼロになってしまうんですよね。当時はもちろん腹が立ったし、気にならないと言ったら嘘になるんですけど、最近はブロックしています。1番は自分を守るのが大事なので。

あと、2023年のM-1グランプリを見てからお笑いにハマりました。それからは、気分を切り替えるためにお笑いを見ています。特に好きなのは令和ロマンさんですね。ちょっとメンタルが不調だった時期があったんですけど、劇場に行ったら本当に元気をもらえて。マイク1本で人を笑わせるプロってすごいですよね。

セルフプロデュースはご自身のやりたいことを100%表現できる一方で、進んでいきたい方向性も基本的には自分で考えねばならないという難しさもあるかと思います。自分と向き合う時間をどう作っていますか?

基本的にはお風呂で考えるようにしていて、その際は携帯を持ち込まないようにしています。多分1番リラックスしている時間です。

こういう時代というのもありますが、自分も含めてスマホを見てる時間は多くなりがちです。お風呂では、自分はこう思ったな、こう言えばよかったなという反省や、嬉しかった内容...そういうことを全部思い出して、自分と向き合う時間にしています。

先人の創作物にリスペクトを持って、自己表現をしたい

マツヤさんといえばレトロな世界観を愛好することでも知られています。少し離れた世代のカルチャーについては、どのようなきっかけで好きになったのでしょうか?

両親の影響はあると思います。小さい頃から車でずっと竹内まりやさんが流れているとか、父が家で歌謡曲を歌うのが好きだとか、いわゆるシティポップとの距離は近かった気がします。

あと、私は父から昭和世代の昔話を浴びせられるように聞いていたので、それも相まってレトロな昭和が自分の中に染みてしまった、というのはあります(笑)。それこそ、自分の親世代の方も見てくださって応援のDMをいただくこともあります。

Instagramでは、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズや『ライチ☆光クラブ』など、昭和の漫画に関するコスプレやイラストレーションも投稿されていますね。

『ライチ☆光クラブ』のジャイボとゼラのコスプレ

 

不気味さのなかに何か色気も感じるような作品がドンピシャで好きで、そこは昔から変わっていないですね。

『ジョジョの奇妙な冒険』については元々気になってはいましたが、コロナの時期に友人が勧めてくれて、そこからどっぷりのめり込んでしまって。最近は漫画を読む時間がだんだんなくなってきてアニメを見ることも多いです。

投稿を拝見していると、流行りに乗ってみよう!というよりも本当にそれらの作品が好きなんだということが伝わってきます。

私もさまざまな作品を作りますが、自分が本当に好きな創作物が土台となっていることも多いので、それに対するリスペクトは持ち続けたいなと思っています。

「やりたいことは全部やる」マツヤマイカ流・幸福論

2024年6月に念願のメジャーデビュー、おめでとうございます!今後やっていきたいことはありますか?

好きなことをやりながらですが、もう少し音楽に向き合いたいというのはありますね。アルバムを出せたら次はライブをするとか、目の前の目標を1つ1つクリアしていこうかなと。ただ、最近少し自分だけでやることに限界を感じてきているので、周りの人を頼った作品づくりもしていきたいです。

冒頭で、Twitterで絵の上手い人に圧倒されて漫画家になることを諦めたというエピソードをお聞きしました。改めて、その経験がどのように現在のマツヤさんに繋がっているのでしょうか?

Twitterのエピソードもそうですし、その後もオーディションを受けないとやばい、とある意味就活みたいにずっと呪いにかけられた感じで生きていたので、私なんて全然もう無理だと思った時期はありました。

あと、2足のわらじという言葉はあるにせよ、絵か歌かどちらかを選んだ方がいい、という​状況​でもあったんです。でも、自分は絵も歌もやりたくて、選べなかった。やりたいことを諦めてまで幸せになれるかと考えたときに、ならないなと思って。

コロナ前と違ってプロとアマチュアの境目も曖昧になりつつありますし、SNSが普及して、型に縛られることなく誰でも表現できるという時代です。どうせいつか死ぬなら、もうやりたいことだけやればいいなと。

最後に、この記事を見てくださる方の中には、自分の好きなものに自信を持てない、あるいは進む道に迷っている人も少なからずいると思います。そのような方々に向けてコメントをお願いします。

インターネット上にはいろんな人がいますし、正解に見えるものが可視化されやすい時代です。やっぱりみんないい面を見せがちなので、それが全部だとは思わず、さまざまなものを吸収したうえで、自分の素材の良さを活かせる領域を追求するのが良いと思います。

ただ、私もですが、良くないものは吸収し過ぎない方が良いですね。あえて良くない情報を見ないようにするのは意外と難しいので、きちんと情報の取捨選択をすることでしょうか。どうしても心無い人はいるので、本当に困ったらブロックすることも検討してください。

そして、アナログでしか感じられないものもあると思うので、自分と向き合う時間を大切にしてください。それこそお風呂の中とかで(笑)。

 

<今回のインターネット・ポイント>

マツヤさんが生まれた1998年は光回線の普及前夜、オフィスや家庭でのインターネット利用が加速していた時期でした。また2008年にiPhoneが日本でも販売開始され、携帯端末はガラケーからスマートフォンに変わっていきました。

また、それによりソーシャルアプリも普及。マツヤさんも利用していたというVineを皮切りに、2014年に登場したMusical.lyが若者の間で急速に普及しました。Musical.lyは、ユーザーが音楽に合わせてリップシンクやダンスをする動画を作成・共有するプラットフォームとして人気に。このプラットフォームは2018年にTikTokと合併し、現在の形となりました。

現在、SNSは自己実現や創造性の発揮の場として欠かせない存在となっています。一方で、匿名性が高い空間だからこそ、発信者も受け手もメンタルヘルスの保ち方については注意が必要とも言えます。

他の連載記事はこちら

 

マツヤマイカ
1998年生まれ。デジタルクリエイター/アーティスト。自身のSNSで特技のダンスや歌、イラストやコスプレなどの動画を投稿し、人気を集める。また、スタイリングやメイク、撮影ディレクション、動画編集、作詞作曲などは全て彼女がセルフプロデュース。それによって独自の世界観を作り上げている。また、モデルとしてファッション誌やブランドイメージ、ファッションショーなどにも出演。2024年6月、ビクターエンタテインメントよりメジャーデビューを果たす。

 

取材・文:Mizuki Takeuchi
編集:conomi matsuura
写真:服部芽生