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わたしの歴史と、インターネット|モバゲー、ニコラップから子育てまで。Rachelとインターネットの関係

いまや誰もが当たり前に利用しているインターネット。だが、そんなインターネットの存在がもしかしたらその人の歴史や社会に、大きく関わっている可能性があるかもしれない…。この連載では、さまざまな方面で活躍する方のこれまでの歴史についてインタビューしながら「インターネット」との関わりについて紐解く。いま活躍するあの人は、いったいどんな軌跡を、インターネットとともに歩んできたのだろう?

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今回は、ラップデュオchelmicoのメンバーで、「あしたメディア Podcast」でもMCを務めるRachelさんにインタビュー。

mixiやモバゲーなど名だたるインターネットサイトが盛り上がりを見せた2000年代に10代を過ごしたRachelさん。当時は夢中でインターネットを見つめていたという。2025年の今は、どんなふうにインターネットを使っているのだろうか?Rachelさんとインターネットの歴史を振り返る。

ガラケー全盛期にハマったインターネットサイト

まずは、初めてインターネットに触れたときのことを教えてください。

小学校3年生くらいのとき、技術の授業で初めてパソコンに触れました。当時、自宅ではパソコンを使う機会はなく、学校の授業でパソコンの使い方を習ったり「一太郎スマイル」(※1)でいろいろ作ったりしていました。

インターネットに触れたのも、技術の授業が初めて。私が通ってた学校では、生徒が使えるのは「Y・Y NET」という子ども向けのセーフティな検索エンジンだけでした。ひたすら「寿司打」(※2)をやってました。

ご自身で携帯電話やパソコンを持つようになったのはいつ頃ですか?

2008年くらい、高校生の頃ですね。自分でアルバイトしたお金で、ガラケーでネットにアクセスしていました。mixi、モバゲー、GREEとか、一通りハマってずっとインターネットにいましたよ。今思い出しても、人生で一番インターネットに打ち込んでいた時期かもしれない。

リアル(※3)もハマっていました。ブログみたいに、自分のページを作って可愛くカスタマイズして、「なんか暇〜」とかリアルタイムに投稿して。パスワードを設定したりして公開範囲を友達だけにすることもできました。今で言うXみたいなイメージかなと思います。

当時、周りの同級生も同じようにインターネットサイトを見ている人が多かったですか?

結構みんな使ってましたね。『電車男』(※4)が流行ったりして、インターネット文化が一気に広がっていった時期なんだと思います。

私は特にモバゲーをよく使っていたのですが、サークル機能というのがあって、そのなかでは趣味とかテーマごとに人が集まっていて。数万人も入っているような大きなサークルもあって、ネット上でもわかりやすく人が集う場所がありました。2ちゃん語のサークルなんかもあって面白かったなあ(笑)。スレに張り付いて、ひたすらガラケーの5のボタン(更新ボタン)を連打してました。

今のSNSとはちょっと違う感覚で使っていたのでしょうか?

自分にとっては今のSNSの方が、現実とインターネットの距離が近くなっている感じがする。私が10代の頃は、インターネットはインターネット、現実は現実という感じで別物として存在していた感覚があるけれど、いまは現実の知り合いをフォローし合ったりしますよね。それが良いときもあるけれど、やっぱり少し「自分が何者か」を強く意識して使わなきゃという緊張感があります。

昔のインターネットでは、相手がどんな顔だろうが、どこに住んでいようが、どんな仕事をしていようが、趣味とか話題だけで気が合う人を探しやすかったように思うんですよね。もちろん、それによる危なさもあるのかもしれないけれど、ある意味フラットな空間だったのかなとも思います。

※1 用語「一太郎スマイル」:小学生向けのワープロソフト。タイピング練習ソフトやお絵描きソフトも搭載されている。
※2 用語「寿司打」:ローマ字入力のタイピング練習ゲーム。回転寿司のように流れてくる言葉を制限時間内に入力する。
https://sushida.net/
※3 用語「リアル」:リアルタイムの略で、ケータイのメール機能を使って、テキストや画像をリアルタイム投稿できるSNSサービスのこと。2000年代に流行し、代表的なサービスとしては「Mobile Space」「Alfoo」「Decoo」「CROOZ リアル」等があった。
※4 用語「電車男」:2004年から2ちゃんねるへの書き込みにより生まれたラブストーリー。書籍、漫画、映画、ドラマなどに展開され大ヒットした。

立ち止まる時間がほしいときはSNSから離れる

10代の頃は、音楽をディグるのにもインターネットを使っていましたか?

使っていましたね。それこそ、2ちゃんとかモバゲーにおすすめの音楽を紹介し合うスレがあって、そういうところで新しい音楽を見つけていました。まだYouTubeがそこまで使われていなくて、どちらかというとニコニコ動画のURLがよく貼られていた気がします。そういったサイトでアーティストの情報を仕入れてから、お店に行ってCDを買ったり借りたりしていました。

当時、インターネット上でよく聴いたり観たりしていたどんなアーティストや曲といえば?

ハマっていたアーティストはいろいろいましたが、インターネット上でいうとボーカロイドは世代でした。初音ミクが出てきたのが2007年で、その頃の曲はよく聴いていましたね。ピノキオPとかハチとか、ボカロP出身で今でも活躍している人がたくさんいます。

他には、ニコラップ(※5)も好きでした。音源を聴くのはもちろん、イベントに遊びに行ったこともあります。私自身、ゴリゴリのストリートからラップ好きになったというよりはポップなものが好きで。アニメの曲をリミックスしたりして、すごく早口でスキルフルなニコラップ発のアーティストさんを聴いて、「すげえ!カッケー!」ってよく思っていました。たとえば、らっぷびとさんとタイツォンさんの『オーディエンスを躍らせる程度の能力』などは、今でも聴いてます。

今もインターネットがきっかけで新しい音楽に出合うことは多いですか?

プラットフォームが増えて、前よりもさらにインターネット上でアーティストや曲を知る機会は増えた気がします。一方で、アルゴリズムが発達しすぎて偶然の出合いが減っているのは寂しいです。だからこそ、今までは興味がなかったけれどたまたまchelmicoの曲に遭遇して、ハマったという人は積極的に教えてほしいです。

あと、インターネットが普及したことで音楽のリアルタイム性がむしろ落ちているのは面白いなと思います。私は新譜を聴くのが好きですが、全然違うタイミングで不意に流行る曲もありますよね。新譜には各アーティストのその時の気分が詰まっていると思うので、リアルタイムで聴くだけでなく、昔の曲がリバイバルしたりする動きもそれはそれで楽しいなと思っています。

今はRachelさんも楽曲を作られていますが、作詞やパフォーマンスにおいてインターネット文化から影響を受けることはありますか?

インターネットの言葉遣いを歌詞に入れることはあります。でも、本当は作詞するときはできるだけインターネットから離れた方が良い詞が書けるんじゃないかと思っています。

ショート動画とかXでは、「どういうことだろう?」「私はどう思うんだろう?」と立ち止まって考える必要のないコンテンツが多いと思うんですよね。何かを見て、どう思うか考える時間が創作において大事だと思うのですが、そういう時間無しに進んでいってしまうので。

そう言いつつ、勝手に手がスマホ開いていることはよくあるんですけどね(笑)。ちょっと連絡を返そうと思っただけなのに、気が付いたら砂を混ぜる動画とか綺麗な目玉焼き作る動画を見て1時間経ってるとか。「その1時間あったら歌詞書けよ!」って自分にツッコんでいます。

※5 用語「ニコラップ」:ニコニコ動画に投稿されたオリジナルのラップやトラック等の総称。

子育て中にインターネットはどう使う?

作詞においてはインターネットから離れようと心掛けているとのことでしたが、生活のなかでインターネットがあってよかったと思う場面はありますか?

子育てではインターネットがすごく役立ちました。ネットのない時代の子育てってどうやってたんだろうと思うくらい。

子育てYouTubeや子育てブログをたくさん見て、参考にしていました。子ども用のレシピに、病院選びのコツ、使える制度とか。子育てって本当に正解がないので、身近な人の意見だけを聞いていると、うまくいかなかった時になんでダメなんだろうって追い詰められがちです。けれど、ネット上にある集合知を使えば、自分や自分の子どもに合った方法を見つけやすくなります。

もちろん、ネット上には誤った情報があったり、必要以上に不安を煽る情報もあったりします。「〇〇だと発達が遅れている」とか、そういった投稿を見て焦ってしまう人もいるかもしれません。だからバランスは大事だと思いますが、うまく使えばネットはすごく子育ての助けになる存在です。

「スマホ育児」という言葉もありますが、お子さん相手にインターネットを活かす方もいらっしゃいますよね。

そうですね。賛否ありますが、私も少し静かにしていてほしい時に動画サイトを見せることはあります。とはいえ、「スマホ育児」で育った子どもがどうなるのかはまだ答えが出ていないのでちょっと不安な気持ちもあります。海外では子どものSNS利用が規制され始めた国もあるので、いずれはそういった法案ができるかもなんて考えています。

インターネットとうまく付き合うことが大事かもしれませんね…!

早くからインターネットに触れることで身につく能力もあるかもしれませんが、アルゴリズムの影響で早い段階で興味が偏っちゃうのはもったいないなと思うんですよね。自分でデバイスを触り始めたら、自分が見たい動画とか音楽ばっかり選べちゃうじゃないですか。でも、子どものうちはもうちょっといろいろなものに興味を持ってほしいなと思っていて。

親として、インターネットに投稿する内容について気をつけていることはありますか?

プライバシーの観点から、子どもの写真や名前は載せないようにしています。どういう人が見ているかわからないので、やっぱり危ないなって思うんですよね。

それから、子どもの発言や行動についてもできるだけ載せない方が良いかなと思っています。可愛くて載せたくなっちゃう時も多々あるのですが…。子どもが自分で判断できるくらいになったら良いのかもしれないですが、それまでは子どもの人権を守るためにも勝手に子どもの写真や言動を公開するのはできるだけ避けた方が良いなと考えています。

今後、ますますインターネットは進化していくと思うのですが、Rachelさんはどんなふうにインターネットが発展してほしいですか?

すでにたくさんのことができるようになっていて、日々インターネットに助けられているなと感じます。音楽やるのにも、海外の人とも一瞬で音源送りあったりできますし。だから自分にとってはもう、十分なのかなと感じています。

でも、まだ今のインターネットだと使いにくいと感じている人がいるのも事実だと思います。目が不自由な人や耳が不自由な人、腕が不自由な人とか、そういう人にとってもアクセスしやすいインターネットになってくれたらもっといいんじゃないかな。あと、国の手続きとかもっとネットで簡単にできるようになってほしい!

 

<今回のインターネット・ポイント>

2000年代後半は、ニコニコ動画やYouTubeなどの動画投稿サイトの盛り上がりと共に、インターネットサイトから人気に火のつくミュージシャンが登場し始めた時期でもあります。

ニコニコ動画を中心に発展した、「ネットラップ」や「ニコラップ」からは、リアルイベントも誕生しました。また、らっぷびと、タイツォン、DAOKOなど数々のニコラップ出身アーティストがメジャーデビューを果たしています。

また、2004年に発売されたボーカロイドも革新的な存在でした。「ボカロP」と呼ばれるクリエイターたちにより、再生回数1億回を超える楽曲が多数作り出されています。「ボカロP」が後に、シンガーソングライターやバンド等でデビューすることも多く、米津玄師やAyase(YOASOBI)などもその一例です。

 

 

Rachel
友達2人組で結成したラップユニットchelmicoのメンバー。2014年に結成、インディーズを経て、2018年にメジャーデビュー。CMソングやアニメ・ドラマの主題歌、アーティストへの楽曲提供など、幅広く活躍している。
Instagram @ohayoumadayarou
X @ohayoumadayarou

 

取材、文:白鳥菜都
編集:conomi matsuura
写真:服部芽生

 

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