
近年、社会貢献活動の一形態として注目を集めているプロボノとは、各分野の専門家が職業上のスキルや経験を活かして行うボランティア活動を指す。本記事では、プロボノの基本的な概念や活動の具体例、参加者や受け入れ団体のメリット、活動における留意点、参加方法などについて詳しく解説する。
プロボノの定義と特徴
プロボノという言葉は、ラテン語の「Pro bono publico=公共の利益のために」に由来し、各分野の専門家が自身の職業上のスキルや経験を活かして、社会的・公共的な目的のために行う社会貢献活動を指す。(※1)
ボランティアとの違い
プロボノは、ボランティア活動の一種ではあるが、一般的なボランティアとは異なる特徴を持っている。プロボノの最大の特徴は、参加者が自身の専門性を活かして活動する点にある。
一方、一般的なボランティアは、必ずしも専門性を必要とせず、幅広い層の人々が参加可能である。また、プロボノは、主にNPOや社会課題の解決に向けて、より戦略的・継続的な支援を行うことを目的としているのに対し、一般的なボランティアは、一時的な支援や実働を中心とすることが多い。
プロボノの活動領域
プロボノの活動領域は多岐にわたり、NPO等の抱えるさまざまな課題解決に貢献している。主な活動領域は以下の通りである。
- IT(ウェブサイト構築、システムサポート)
- デザイン(ウェブ、印刷物)
- マーケティング・営業
- 法務・会計
- プロジェクトマネジメント
- 一般的なビジネススキル(事務、資料作成等)
プロボノ活動は、支援を受ける団体の組織基盤強化やサービス向上に寄与するとともに、参加者自身のスキル向上やキャリア形成にもつながるため、互恵的な関係構築が可能となる。今後も、プロボノが社会課題解決の重要なアプローチとして、より一層の拡がりを見せていくことが期待される。
※1 参考:内閣府「令和2年度 特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書」
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/R2_houjin_report.pdf
プロボノが必要な理由
プロボノが必要とされる理由として、社会貢献に取り組む団体に専門性の高い人材が少ないことが挙げられる。
多くのNPOは少人数で運営されており、活動や組織運営に必要な技術や知見が十分でない場合もある。また、特に小規模なNPOでは専門的な人材を雇用する財源も限られているのが実情である。こうした背景から、プロボノが求められている。
プロボノの活動形態と参加方法
プロボノの活動形態は多様化しており、参加方法も複数存在する。ここでは、活動形態の種類についてそれぞれ詳しく見ていく。また、各活動形態でどのような動きが求められるのか、そして一般的にプロボノへ参加する方法とはどのような流れなのかについても解説していく。
個別NPOへの直接的支援
プロボノの最も基本的な形態は、個別のNPOに対して直接的に専門スキルを提供する形だ。NPOと個人が直接コンタクトを取り、NPOの抱える課題に対してプロボノワーカーが解決策を提案・実行するというスタイルである。
この形態の利点は、NPOのニーズに即したオーダーメイドの支援が可能なことであり、プロボノワーカーにとっても自身のスキルを存分に発揮できる機会となる。一方で、マッチングのプロセスや進捗管理などを当事者間で行う必要があるため、コーディネーションの手間がかかるというデメリットもある。
中間支援団体を通じたチーム型プロジェクト
近年増えているのが、プロボノに特化した中間支援団体が仲介役となり、複数のプロボノワーカーがチームを組んでプロジェクトに取り組む形態だ。各団体が有するネットワークを活かし、最適な人材を集めてプロジェクトチームを編成するため、より多様な専門性を活かせるのが特徴である。
プロボノワーカー同士の相互作用により、個人では得られない学びや気づきが得られる点も魅力だ。加えて、中間支援団体がプロジェクトマネジメントを担うため、参加者は自身の専門性の提供に集中できる。ただし、団体への報酬の支払いが必要となるケースが多い。
プロジェクト型活動の特徴
上記の2つの形態に共通しているのが、プロジェクト型という特徴だ。つまり、支援の目的や期間、ゴールを明確に設定し、その達成に向けて集中的に取り組む活動スタイルである。
これは、プロボノワーカーの多くが企業で働く社会人であり、長期的な関与が難しいという事情を反映している。また、明確なゴール設定によって成果が可視化されやすく、支援を受ける側も活動のインパクトを実感しやすいというメリットがある。
プロボノ参加の一般的な流れ
プロボノ活動への参加は、以下のような流れが一般的だ。
- 説明会やウェブサイトで情報を入手
- 団体またはプラットフォームに登録
- 希望を提出し、マッチング
- プロジェクトキックオフ、役割分担
- プロジェクト実施(数週間〜数ヶ月)
- 成果のまとめ、振り返り
- NPOへの引き継ぎ、今後に向けた提言
プロセス全体を通して、NPOとの丁寧なコミュニケーションを心がける必要がある。NPOの文化や資金事情など、企業との違いを理解しておくことも重要だ。プロボノの成功のカギは、お互いの特性を尊重し、対等なパートナーシップを築くことにある。
プロボノで活用できる専門スキル
プロボノでは、参加者の専門性を活かした活動が行われる。それに参加し成果を上げるためには、どのようなスキルに優れていると良いのだろうか。ここでは、プロボノで活用できる代表的な専門スキルについて、具体的な活用例を交えながら解説する。
IT分野のスキル活用例
IT分野の専門スキルは、ウェブサイト構築やシステムサポートなどに活用できる。例えば、ウェブデザインの知識を持つプロボノ参加者が、情報発信力強化のためにウェブサイトのリニューアルを支援するケースがある。
また、プログラミングスキルを持つ参加者が、NPOの業務効率化のためのシステム開発を行うこともある。IT分野のスキルを持つプロボノ参加者は、NPOのデジタル化を促進し、組織基盤の強化に貢献できる。
デザイン分野のスキル活用例
デザイン分野のスキルは、ウェブデザインや印刷物のデザインに活用できる。例えば、グラフィックデザイナーがロゴマークやチラシのデザインを支援し、団体の認知度向上やブランディングに貢献するケースがある。
また、UXデザインの専門家が、ウェブサイトやサービスのユーザビリティ改善を支援することもある。デザイン分野のスキルを持つプロボノ参加者は、支援団体の情報発信力や利用者満足度の向上に寄与できる。
マーケティング・営業分野のスキル活用例
マーケティングや営業の専門スキルは、広報戦略立案やファンドレイジングに活用できる。例えば、マーケティングの専門家が、支援団体のの潜在的支援者の分析を行い、ターゲットに合わせた効果的な広報施策を提案するケースがある。
また、営業経験のある参加者が、団体のの企業との連携促進やスポンサー獲得を支援することもある。マーケティング・営業分野のスキルを持つプロボノ参加者は、支援団体のの認知度向上や財源確保に貢献できる。
法務・会計分野のスキル活用例
法務や会計の専門スキルは、組織運営における重要な基盤整備に活用できる。例えば、弁護士資格を持つプロボノ参加者が、支援団体の契約書レビューや法的トラブルへの対応を支援するケースがある。
また、公認会計士や税理士が、支援団体の経理体制の整備や税務申告の支援を行うこともある。法務・会計分野のスキルを持つプロボノ参加者は、団体のガバナンス強化やコンプライアンス向上に寄与できる。

プロジェクトマネジメントスキルの活用
プロジェクトマネジメントのスキルは、プロボノプロジェクトの円滑な運営に不可欠である。プロジェクトマネージャーは、プロジェクトの目的や期間、ゴールを明確に設定し、チームメンバーの役割分担や進捗管理を行う。
また、支援を受ける団体との丁寧なコミュニケーションを通じて、支援範囲を明確化し、双方の期待値を調整することも重要である。プロジェクトマネジメントスキルを持つプロボノ参加者は、チームの生産性向上やプロジェクトの成功に貢献できる。
一般的なビジネススキルの活用
事務作業や資料作成など、一般的なビジネススキルもプロボノで活用できる。例えば、事務経験のある参加者が、事務処理の効率化や書類整理を支援するケースがある。
また、PowerPointやExcelなどのオフィスソフトに精通した参加者が、報告書や提案書の作成を支援することもある。一般的なビジネススキルを持つプロボノ参加者は、バックオフィス業務の改善や生産性向上に寄与できる。
プロボノのメリット
プロボノには、参加者、受入れ団体、そして社会全体にとって多くのメリットがある。それらの内容を知ることで、プロボノの価値やなぜこの活動形態が受け入れられているのか分かるだろう。ここでは、それぞれの立場から見たプロボノの意義について詳しく解説する。
参加者にとってのメリット
プロボノ活動に参加することで、個人は社会課題の現場理解を深められ、自らのキャリアを見つめ直す機会を得られる。新しい環境での経験を通じて、視野を広げ、普段業務で活用しているスキルを異なる文脈で発揮する機会を得られるのである。
プロボノは、日常業務とは異なる領域での実践の場であり、自己成長の契機となりうる。社会貢献活動でありながら、自身の専門性を磨くことにもつながるのだ。個人のスキルアップと社会課題解決が同時に実現できる点が、プロボノの大きな魅力といえるだろう。
受入れ団体(NPO)にとってのメリット
プロボノを受け入れることで、支援をうける団体は不足している専門知識や技術を外部から補完でき、組織運営の改善につなげられる。プロボノワーカーによる第三者視点からの気づきは、団体の活動基盤を強化する上で貴重なインプットとなる。
加えて、プロボノは、人的リソースを確保する手段でもある。有償スタッフの雇用が難しい団体にとって、プロボノワーカーの存在はコスト面での大きな支援となるのだ。プロボノの活用により、限られた資源のなかで、より効果的に団体のミッションを遂行することが可能となる。
社会的意義とインパクト
プロボノは、さまざまな専門スキルを社会課題解決に活かす仕組みであり、セクター間の垣根を越えた協働を促進する。企業で培われた知見がさまざまな現場で活かされることで、社会の多様なニーズに対してきめ細やかな対応が可能となるのだ。
また、プロボノの広がりは、市民の社会参画意識の向上にもつながる。多様な背景を持つ人材が交流し、共に課題解決に取り組む経験は、一人ひとりの当事者意識を高め、社会の成熟度を押し上げていく。プロボノは、個人のエンパワーメントと、社会のレジリエンスを高める取り組みだといえるだろう。
プロボノの注意点
先に挙げたように、プロボノには多くのメリットがある一方で、注意すべき点もある。良い点ばかりではなく注意点も理解しておくことにより、より理想に近いプロボノの活動を見極められるだろう。ここでも参加者、受入れ団体それぞれの立場から見た注意点とプロジェクトの運営者の目線から見た注意点についても説明する。
参加者側の留意点
プロボノ活動に参加する際には、いくつかの留意点がある。まず、プロボノ活動は本業の傍らで行うため、十分な時間を確保することが難しい場合がある。そのため、稼働可能な時間を事前に受入団体と合意しておくことが重要である。
また、プロボノ活動ではスキルとプロジェクトの内容が合致していないと、十分な成果を出すことが難しくなるため、自身のスキルが適切に発揮できるプロジェクトを選ぶ必要がある。加えて、プロボノ活動は業務外の活動であるため、本業への影響を最小限に抑える配慮も求められる。
受入れ団体側の留意点
プロボノを受け入れる団体側にも、いくつかの留意点がある。まず、プロボノ参加者は限られた時間の中で活動するため、明確な目的とゴールを設定し、支援の範囲を明確にしておく必要がある。これにより、参加者が効果的に活動できる環境を整えることができる。
また、プロボノ参加者とのコミュニケーションを丁寧に行うことも重要だ。定期的な進捗報告や課題の共有を行い、参加者の意見を積極的に取り入れることで、プロジェクトをスムーズに進めることができる。さらに、プロボノ参加者の専門性を最大限に活用するためには、団体側も関連する知識を持っておくことが望ましい。
プロジェクト運営上の注意点
プロボノプロジェクトを運営する上では、いくつかの注意点がある。まず、プロジェクトの目的、期間、ゴールを明確に設定し、参加者と共有することが重要だ。これにより、参加者のモチベーションを高め、効果的な活動を促すことができる。
また、参加者間のコミュニケーションを円滑に行うための仕組みづくりも必要である。定期的なミーティングの開催や、オンラインツールの活用などにより、情報共有や課題解決を図ることができる。加えて、プロジェクトの進捗管理を適切に行い、必要に応じて計画の修正を行うことも重要だ。
さらに、プロボノ参加者の専門性を最大限に引き出すためには、適切なタスク割り当てが欠かせない。参加者のスキルや経験を考慮し、得意分野を活かせる役割を与えることで、より高い成果を得ることができる。ただし、参加者の過度な負担にならないよう、業務量の調整にも気を配る必要がある。

プロボノの始め方とアクセス方法
プロボノに参加するためには、いくつかの方法がある。プロにコーディネートを任せたり、自主的にプロジェクトへ応募する、プログラムへの参加やボランティアセンターの活用などである。以下では、プロボノ活動を開始するための主要な5つのアクセス方法について解説する。
企業によるプロボノ推進の実例
個人としての取り組みにとどまらず、数多くの企業がプロボノプログラムを実施している。ここでは、具体的な企業の実例を紹介する。
NECでの取り組み
NECでは、2010年度から国内の企業として初めて本格的なプロボノプロジェクト「NECプロボノイニシアティブ」を開始した。(※2)2024年度末までに社員2013人が参加しており、自治体やNPO、教育機関などに対して、プロモーションの強化、業務マニュアル・営業ツールの制作、マーケティング調査などを中心に支援を行っている。
特にコロナ禍では、NPOのIT等を活用した情報発信を支援したほか、2022年度からの新学習指導要領の導入にあわせて高校生の探求学習に協力し、社会課題解決に向けた企画やアイデアのブラッシュアップを共に行うなど、取り組みの幅を広げている。
パナソニックでの取り組み
パナソニックグループでも2011年からプロボノを開始している。(※3)
災害支援NPOをはじめ幅広い分野で活動を行っている。10周年の際にプロボノ参加従業員に行ったアンケートでは、社会課題への感度向上、多様性への理解促進、キャリア形成など、本業にもプラスとなる副次的効果が確認されている。(※4)
住友商事での取り組み
住友商事では、教育課題に取り組むNPOの運営基盤強化を支援する「教育支援プロボノ」を行っている。(※5)
様々な部署から集まった4〜5人の社員がチームを組み、ワークショップを通した課題整理や営業資料の制作など、多様な支援を行っている。
※2 参考:NEC「NECプロボノイニシアティブ」
https://jpn.nec.com/community/ja/resources/business_supporter.html
※3 参考:Panasonic Group「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ」
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/citizenship/pnsf/probono.html
※4 参考:Panasonic NPO/NGOサポート プロボノプログラム デジタルブック『プロボノのススメ』
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/citizenship/pnsf/probono.html
※5 参考:住友商事「教育課題に取り組むNPOをサポートする- 「教育支援プロボノ」」
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/100seed/activities/detail09/index.html
プロボノ専門のコーディネート団体の活用
プロボノ専門のコーディネート団体は、プロボノ希望者とNPO等の活動先をマッチングする役割を担っている。これらの団体に登録することで、自分の専門スキルを活かせるプロジェクトに参加できる機会が得られる。
コーディネート団体は、プロボノ参加者の専門性や経験、関心領域等を詳細に把握し、それぞれに適したプロジェクトを提案してくれるため、効率的にプロボノ活動を開始できる。また、団体が仲介することで、支援を受ける側との調整もスムーズに進められるというメリットがある。
オンラインマッチングサイトの利用
プロボノ専門のオンラインマッチングサイトを利用する方法もある。これらのサイトでは、支援を受ける側が必要としている支援内容を掲載し、プロボノ希望者がそれに応募する形で、マッチングが行われる。
オンラインマッチングサイトのメリットは、場所や時間に制約されずに、多様なプロジェクトにアクセスできる点だ。サイト上で、プロジェクトの詳細な情報を確認した上で、自分に合ったものを選択できるため、自分のペースでプロボノ活動を始められる。
企業内プロボノプログラムへの参加
勤務先の企業が社内でプロボノプログラムを実施している場合は、それに参加するのも一つの方法である。企業内プロボノは、社員の専門スキルを活かした社会貢献活動を、企業が組織的に支援する取り組みで、近年広がりを見せている。
企業内プロボノは、社内の同僚とチームを組んで取り組むことが多いため、社内ネットワークの広がりというメリットもある。また、会社の業務の一環として位置づけられるため、活動に必要な時間の確保もしやすい。社内制度の有無を人事部等に確認してみるとよいだろう。
地域ボランティアセンターの活用
地域のボランティアセンターが、プロボノ活動の機会を提供している場合もある。ボランティアセンターは、地域のさまざまなボランティア活動を束ねる役割を担う組織で、プロボノもその一つとして扱われることがある。(※1)
ボランティアセンター経由でプロボノ活動を始めるメリットは、地域の身近なNPO等を支援できる点だ。普段の生活圏内で活動できるため、継続的な関わりを持ちやすいというメリットがある。最寄りのボランティアセンターに問い合わせてみると、情報が得られるかもしれない。
行政機関主催のプロボノプログラムへの参加
自治体等の行政機関が、管轄地域の市民活動活性化を目的としてプロボノプログラムを実施している場合もある。これらのプログラムは、地域課題の解決に向けて、市民の専門スキルを募るもので、行政と市民協働の一形態といえる。
行政主催プロボノの特徴は、地域の公益に直結するプロジェクトが多い点だ。普段の仕事では携わることの少ない領域の課題解決に取り組める面白さがある。専用サイトや広報誌等で、自治体のプロボノ事業の有無を調べてみるのもよいだろう。
まとめ
プロボノとは、社会課題の解決に向けて、各分野の専門家が自身の職業上のスキルや経験を無償で提供するボランティア活動である。参加者は、IT、デザイン、マーケティングなど多様な領域の専門性を活かし、NPO等の組織基盤強化や活動の質的向上に貢献する。
専門性を社会課題解決に活かすプロボノは、参加者自身の成長とともに、社会の多様なニーズへの対応力を高める有意義な活動だといえるだろう。
文・編集:あしたメディア編集部
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