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Hump Back(後編)|「子育てに悩む人の希望になれたら」育児の裏側と活動再開後の新たな思い

2023年7月からメンバーの妊娠により、ライブ活動を休止していたスリーピースロックバンドのHump Backが、2024年5月にメンバー全員の出産を無事に終えたという発表を耳にした。

3人全員が同時期に出産したことに驚いた一方で、同時期での出産に至った経緯には、妊娠時は活動を休止せざるを得ないという、女性バンドならではの悩みがあったのではないだろうかとも感じた。そして、パートナーの協力があったとしても、育児とバンド活動の両立は、時間的にも体力的にも難しい部分があるのではないかと想像できる。ライブ活動を再開したHump Backは、いま育児とバンド活動にどのように向き合っているだろうか。

そこで、Hump Backのメンバーに、同時期出産に至った経緯や妊娠中の様子、育児と仕事を両立するために意識していること等についてお話を伺った。そこで見えてきたのは、出産や育児の不安を共有できる仲間の大切さと、パートナー等の周りの理解であった。

記事は前後編の2回に分け、後編では子育ての様子や活動再開後の心境、ニューアルバム『Hump Back』への思いについてお届けする。

▼前編はこちらから

バンド活動と育児を両立するにあたっての周囲の協力

バンド活動と育児の両立をパートナーの方とどのように相談して進めていますか。

林萌々子(以下、林):いまも模索中ですね。うちの旦那とぴかの旦那はバンドマンで、みさち(美咲)の旦那は会社員で、みんな働いている時間が違うので、バンド内でも調整しつつ進めています。

私の場合、旦那のライブ中は私が子どもを見るので、その時間に私たちはライブができなくなってしまいます。そのため、その都度、旦那とお互いに予定を相談して、交代しながら育児をしていますね。

ぴか:うちのところも同じく、「この時間にライブを入れようと思っているから、もしその時間に予定があるなら教えて」と聞いたりして、調整していますね。お互い予定が入ってしまったら、親を呼んで子どもを見てもらうようにお願いしようと思っています。ただ、いま私が住んでいる場所が実家から離れているので、なかなか頼りづらい環境ではありますが、最終手段として親に頼ることも考えています。

美咲:私は2人ほどは旦那と話していなくて、いまもどうやって育児を進めていけばいいか分からず、模索中です…。平日にライブが入ることもあるけど、旦那も平日は仕事なので、不安もあります。ただ、実家の近くに引っ越したので、母の力も借りながらなんとかやってますね。

ぴか:もう、なんとかするしかない!という感じですね。

お子さんが熱を出したり、体調を崩したりすると、急に予定をキャンセルしないといけなくなることもあると思いますが、そのことへの不安はありますか。

ぴか:子どもがかかっていた胃腸炎に家族全員でうつったときがあったのですが、その日にスタジオの予定が入っていたのをキャンセルしたことがありました。4月から保育園に預けるのですが、これから子どもが熱を出したりしたときに急にお迎えに行くこともあると思うので、どうなるのかあまり分かっていないです…。これからも都度都度相談しながらやっていくしかないかなと思っています。

林:私たちのなかで「ライブは大事にしたい」という認識が揃っていて、うちは旦那もバンドマンなのでその気持ちを理解してもらっています。ライブの日は絶対に予定を入れないでほしいと伝えているので、そういうときは旦那にお迎えをお願いすることになるのかな。

パートナーの方が皆さんの活動への思いを理解されているのもとても素晴らしいですね。美咲さんはパートナーが会社員ということで、時間の調整が難しいとも思うのですが、いかがですか。

美咲:そうですね。でも実家が近くて母親がいたり、妹がいたり、専業主婦の友だちもいたりして、「何かあったら見るよ」と言ってくれている人たちがそばにいるので、困ったときは周囲に頼ろうかなと思っています。

ぴか:あと、事務所の人には、ライブハウスに子どもを連れて行くことがあるかもとは言っています。でも、子どもが近くにいると、どうしても集中できなくなってしまうと思うので、本当にどこにも頼ることができなかった場合にはなりますが。

そうなんですね。皆さんのお話を聞いていると、パートナーや事務所の方など周囲の理解や協力がとても大事だと感じました。

ぴか:そうですね。うちは夫に1ヶ月育休を取ってもらいました。男性だと育休を取得することはなかなか難しいことだと思うので、育児の大変さを理解してくれたことが伝わりました。その決断をしてくれてとても心強かったです。

美咲:うちも旦那の理解があると思います。旦那さんが昔バンドマンだったこともあり、遠征にいくときも「いってらっしゃい」と快く送り出してくれますね。

林:育児は協力しないとできないことだし、いままでは夫婦でそれぞれ24時間を持っていたのが、いまは1つの24時間を分け合って子育てをしているようなイメージです。自分が遠征いくときには、相手の時間をもらってまでやっていることなので、「絶対にしょうもないライブはできない!」と背筋が伸びます(笑)

育児をするにあたり、パートナーの方ともコミュニケーションを積極的に取っていく必要があると思いますが、日常で意識していることはありますか。

林:我が家はお互いに時間が合わないことも多いので、寝る時間を少し遅くして30分でも話す時間を作っていますね。とくに中身のある話をしているわけではないんですが、「お疲れ様」とか言い合ったりしてます。

子どもを産む前から仲の良い方ではあったので、よく話したりはしていたのですが、子どもを産んでからは2人の時間が無くなったんです。そのせいもあってか、一時期はピリピリしていたこともあったのですが、2人で話す時間を作るようになってからは、関係性が良くなりましたね。自然とそういう時間を作るようになっていったのですが、ゆっくり話す時間は大切だなと思いました。

ぴか:私もピリピリした期間はあったけど、出産して1年ほど経って、2人で話す時間を自然と取るようになってからは、ピリピリした空気感は無くなりましたね。寝かしつけが終わって、ご飯を食べながら、その日にあったことや育児の反省みたいなことを話したりして、仲良くやっています。

美咲:うちもピリピリしますよ(笑)。なかなか休みが合わず、時間を作ることは難しいですけど、休みの日に一緒にアニメを観たりなど、2人で過ごす時間は作っていますね。

子育ての前例があることは希望

過去のインタビューで子育てについて「前例がひとつあるだけで、全然ちゃうから。」()とお話されていましたが、今回のHump Backさんの同時期出産も大きな前例になったのではないかと思いました。

林:そうですね。前例が1つあるだけで、眩しすぎるぐらいの希望なので、私たちがその希望になれていたらいいなと思います。悩んでいる人はみんな相談してほしいです。

バンドによっても、やり方や活動方針は全然違うと思うので、相談してもらっても答えを出すことはできないけど、一緒に考えることはできるし、うちらがどうやっていたかは伝えられます。最近もあるバンドに相談されて、話したりしました。

美咲:かつてはバンドをやっていたら、子どもを諦めるしかないのかなと私自身思っていたので、私たちが出産して子育てしながらバンド活動もできるということを示せたらいいなと思っています。

ぴか:うちらみたいなバンドがあるから大丈夫だと思ってほしいですね。もちろん子どもを持つことだけが幸せじゃないですが、子どもがほしいという気持ちがあるんだったら、諦めないでほしいなと思います。

※引用:『ロッキング・オン・ジャパン 2023年8月号』(ロッキングオン、2023年)p195

出産後の活動の変化

2024年12月18日に開催された「産休サンキュー」というライブが活動再開後初のライブでしたが、いかがでしたか。

林:もっと緊張するのかなと思ったのですが、めっちゃ楽しかったです。一瞬でしたね。

ぴか:すごいあったかい気持ちになりました。心斎橋BRONZEという私たちのホームで、待っててくれるお客さんのもとに、3人で帰ってきて演奏できていることに感動しましたね。

美咲:私もめっちゃ楽しかったです。「ライブしてる!」「生きてる!」って感じました。

出産後に活動再開して、バンド活動の意識として変わったことはありますか。

林:これまでは「深く」活動してきたのですが、活動再開後はより「広く」、多くの人に聴いてほしいなと思いました。子どもが大きくなったときに、「母ちゃんすごい」と言ってもらえるような活動をしていきたいですね。そのために自分たちの楽曲をもっと広げていきたいと、みんなで話しました。

ぴか:やっぱりかっこいい母ちゃんと思われたいですね(笑)

2025年3月26日発売のアルバム『Hump Back』に収録されている曲には、お子さんへの思いを感じるものもありましたが、楽曲制作の意識も変わってきたのでしょうか。

林:意識が変わったというよりは、歌う対象が増えたという感覚です。これまで恋愛や若者、青春を対象として作っていたのに対して、子どももそれに含まれるようになったという感じですね。自然と、子どもに向けた曲ができあがっていった感じでした。

美咲:私は出産後に、ももちゃん(林)がどんな曲を書くんだろうと楽しみでした。

ぴか:私もどんな曲を書くんだろうと思っていましたが、初めて曲を聴いたときに、愛に満ちた曲だなと思いました。

美咲:うん、私も。とくに「オーマイラブ」っていう曲があるんですけど、その曲を聴いた時に「沁みるわ」って聴きながら泣きそうになりましたね(笑)

ぴか:本当そうですね。いままで通り最高なアルバムができたので、ぜひみんなに聴いてほしいなと思っています。

みんなで前例を増やしていきたい

出産や育児に悩まれている方もいると思うのですが、その方々にメッセージをいただきたいです。

林:バンドメンバー全員が同時期に子どもを産んで、子育てをしながらライブ活動をしているというのは、これまでに前例がないなかで、私たちが前例を1つ作ったと思っています。

私たちも悩みながら進んでいるところですが、自分がやりたいと思う道を進んでいけば、それが社会の前例となっていきます。社会を作っていくのは私たち全員だと思うので、自分も当事者だと思って、挑戦していけば、社会も少しずつ変わっていくのかなと。

ただ、私たちは周りの人が妊活のタイミングを了承してくれたり、妊娠や育児を支えてくれる人がいて、本当にラッキーだったなと思います。出産や育児にあたって、周りの支えは本当に必要なので、そのための地盤づくりは大切だと感じました。社会人を経験していない私たちとは状況が違うのかもしれないけど、やることをちゃんとやっていたら、きっと支えてくれる人は出てくるはず。

そう思っていたんだけど、どうなんだろう…。

ぴか:むずいよな。簡単なことは言えないけど、やりたいことはやってほしいし、諦めないでほしいです。

林:諦めないでほしいし、誰かが諦めないようにうちらは1個だけ前例を作れたと思うので、それをみんなで増やしていけたらいいなと思います。みんな環境も違うし状況も違うけど、絶対どこかに幸せになる道があると思う!

今後新たに挑戦したいことはありますか。

林:武道館にもう1回立ちたいですね。

ぴか:海外でライブをしたいです。

美咲:大阪城ホールでもライブしたい。

林:あと、私たち主催じゃなくてもいいんですけど、“子を持つ母フェス”をやりたいです。

ぴか:「おかんフェス」みたいな(笑)

美咲:童話とか、子ども向けの歌も歌ってね(笑)

林:そう。子どもを持つ母親のバンドマンが集まったフェスをやりたいですね。お客さんも子ども連れ大歓迎で。

とても楽しみです。応援されている方でもHump Backの皆さんと同じようにお子さんがいる方もいらっしゃいますよね。

ぴか:そうですね。お子さんがいるお客さんも多いので、お互いに出産や育児について共感し合えることが嬉しいし、一緒に人生を戦っている仲間のような気持ちになります。私たちもお客さんから力をもらってますね。

 

前後編を通して、出産や育児の楽しさと難しさ、パートナーや周囲の人との関係性などを伺った。現代では、経済的な負担や子育てによってやりたいことがやりづらくなってしまうことに悩み、子どもを授かるという選択を諦める人も多い。そんななか、Hump Backのメンバーが新たな前例をつくったことや、悩みながらも明るく前に進む彼女たちのエネルギーは多くの人の力になるだろう。

Hump Backに続き、社会全体でさまざまな前例を増やしていくことができれば、子どもを望む人が子育てを選択しやすい社会に変わっていくはずだ。そのためにも、子育ての大変さや悩みを社会全体で認識したり、支援を充実させたりして、前例を作りやすい環境を作っていくことが、まずは重要である。

 

Hump Back
大阪府出身の林萌々子(Vo./Gt.)、ぴか(Ba./Cho.)、美咲(Dr./Cho.)のスリーピースロックバンド。2009年に高校の軽音楽部にて結成し、2020年には大阪城ホール、2021年には日本武道館での単独公演を開催した。

 

 

『Hump Back』
Hump Back 活動再開!
セルフタイトルのフルアルバムリリース!

発売日:2025年3月26日
定価:2,750円(税込)

【収録曲】
1.オーマイラブ
2.3036
3.ロケンロ
4.coda
5.もしも僕が
6.十七歳と坂道と
7.woman
8.ヤドカリ feat. GIMA☆KENTA(愛はズボーン)
9.たね
10.イスタンブール
11.明るい葬式

▼Hump Backの音楽配信サービスはこちらから
https://hayashi.lnk.to/HumpBackTW

 

取材・文:前田昌輝
編集:篠ゆりえ
写真:Ayaka Onishi

 

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