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石井里幸|ご利益はどう決まる? あの神社が「○○に効く」理由とは【連載 若者が知っておきたい神社のコト】

※本コラムの内容は個人の意見であり、神職および神社関係者の総意ではない点にご留意願います。

これまでのコラムでは、3回にわたって神社存続の危機をお伝えしてきました。とくに地方にある神社は、少子高齢化、人口流出などが進み、今後も厳しい状況が続くと懸念されます。一方で、地方にあっても多くの参拝者が訪れる神社も存在します。この差はいったい何なのでしょうか?

過去のコラムでは「神社存続の危機」という重たいテーマが続いたので、今回は趣向を変え、皆さんの神社参拝が有意義なものとなるよう、知っておきたい知識や心構えをお伝えしようと思います。

若者が神社に行く理由

そもそも、皆さんが神社に行く理由は何でしょう。少し古いデータですが、私はその理由を探るべく、過去にアンケートを実施したことがあります。以下のグラフはその結果を集計したものです。

■実施機関:マクロミル(インターネットによる調査) ■実施期間:2017年01月
■形式:複数回答有 ■割付条件:20代、30代、40代、50代、60代以上 各62名 合計サンプル数:310

この結果から、人びとはさまざまな理由で神社を訪れることが分かりますが、圧倒的に多かった理由は「初詣」。いまなお、日本人の多くはお正月になると初詣に行く習慣を持っているということです。毎年の恒例行事となっている人も多いことでしょう。

先の結果を年代別に見るとどうでしょう。

この結果から、初詣には年代に関係なく訪れることが分かりましたが、とくに20代の若者には、次のような特徴がみられました。

  • 「パワースポットだから」という理由が、他の年代と比べて最も多い
  • 「御朱印を集めている」「旅先で立ち寄る」「ご利益(ごりやく)を求めている」といった理由も一定数見られる
  • 「近いから」という理由は最も少ない

この結果から、20代の若者の多くは、神社を「パワー(ご利益)や御朱印を求め、観光目的で行く場所」と捉えていると言えそうです。

「良い人に出会えるよう、縁結びのご利益がある神社に行きたい!」

「第一志望の学校に受かるよう、学業成就のご利益がある神社に行きたい!」

このように、観光目的だけでなく、何らかのご利益を求める方が多いことでしょう。

次に「ご利益」と神社にはどのような関係があるのかを見ていきましょう。

神社の「ご利益」はどのように決まるのか

「○○神社は縁結び、安産のご利益があります」

関連書籍や雑誌、ウェブ記事などで神社の紹介文を見ると、このように「ご利益」に関する説明をよく目にします。そもそも神社のご利益とは、いったいどのようにして決まっているのでしょう?

ご利益は、その神社の神職が決めるわけではありません。「決める」というより「~のご利益があると解釈できる」という意味合いが近いかもしれません。

たとえば次のような理由があります。

1.祀られている神様(ご祭神)のご神徳によってご利益が決まる

八百万(やおよろず)の神と言われるように、神道にはさまざまな神様がおられます。神様にはそれぞれ役割や性格があり、それに関連した力を持っていると考えられます。神様がもたらす力のことを「ご神徳(ごしんとく)」と言い、それによってご利益がもたらされる、という考え方です。

たとえば菅原道真公を祀る神社に学業成就のご利益があるとされるのは、道真が卓越した学識を持っていたためです。

このように、「神様のご神徳=ご利益」という考え方は理にかなっており、神社のご利益を決定づける解釈として最も多いパターンだと言えるでしょう。

なお、神社で祀られている神様のことをご祭神(ごさいじん)と言います。1つの神社でご祭神は1柱とは限りません(神様を数える単位を“柱(はしら)”と言います)。ご祭神が多い神社は、そのぶんご利益も多い傾向があるでしょう。

2.伝承によってご利益が決まる

神社が持つ「言い伝え」がご利益に結びついた例も多々あります。たとえば京都の今宮神社は、縁結びにご利益があることで知られています。それは、次のような言い伝えがあることに由来します。

京都の町娘だった桂昌院(けいしょういん)は、江戸城の大奥に入って家光の側室となり、5代将軍綱吉の生母になるまでの大出世をとげます。桂昌院は、氏神であった今宮神社が資金面で苦労していると聞き、寄進を行って復興させました。(※1)

そのことから、今宮神社は縁結びのご利益があると解釈されるようになりました。桂昌院は「お玉」と呼ばれていたことから、「玉の輿」の語源になったとも言われます。

※1 参考:今宮神社公式サイトに記載された内容より要約

3.神社の立地や環境によってご利益が決まる

神社が特定の地域と密接に結びついている場合、その地域の産業や生活に関連したご利益が強調されることもあります。たとえば秋葉原に近い神田神社(神田明神)は、「電気街に近い」という理由で、コンピューターの機能安全を祈願する「IT情報安全守護」なるお守りを頒布していることで知られます。

4.都市伝説やメディアの影響によってご利益が決まる

都市伝説やメディアの取り上げ方も、ご利益の決定に強く影響します。たとえば、テレビや雑誌で「ここに参拝すると○○の願いが叶う」と紹介されると、一気にそのご利益がある場所として注目されます。

この場合、歴史的な背景や実際の祭神とは関係なく、ご利益が「新しく生まれる形で広まる」ことになります。たとえば「この神社の裏手にある石を触ると病気が治る」などの話が都市伝説的に広まり、その神社が健康に関するご利益を持つと認識されることがあるのです。

現代では、インターネットやSNSによる口コミも、都市伝説の拡散を加速させる要因となっています。

このように、ご利益を決定づける解釈はさまざまであり、上記以外にも多く存在することでしょう。なにしろ神社の数は8万社もあるのですから。

とはいえ、ほとんどの神社においては「祀られているご祭神によるご利益」が最も多い解釈と言えるでしょう。

そのため、皆さんも「祀られているご祭神」を知れば、その神社のご利益がある程度分かるのです。ご祭神を知る方法は、その神社の公式サイトがある場合、そこで確認するのが確実です。公式サイトがない神社は、各県の神社庁サイトでもある程度知ることができます。

神社に行く前に、ぜひ一度公式サイトをチェックしましょう。

一方で、「都市伝説やメディアの影響」から、安易な気持ちで神社に行くべきではない、ということもお伝えしたいです。だれが書いたかわからないブログ記事などを鵜呑みにせず、祀られているご祭神を事前にチェックしたうえで神社を参拝してほしいと思います。

ご祭神を意識したうえでの神社参拝は、とても楽しくなるのでお勧めです。

ご祭神には偏りがある

ここまで「ご利益の決まり方」を見てきましたが、そこに祀られているご祭神はけっこうな偏りがみられます。以下は、全国の神社でもっとも多く祀られている神様と数をランキングしたものです。

1位:「八幡系」 約8,000社
大分県の宇佐神宮を総本社とし、応神天皇をご祭神として祀る。武勇伝の多い神であることから必勝、立身出世、厄除けなどのご利益があるとされる。

2位:「伊勢系」 約4,500社
伊勢の神宮(通称:伊勢神宮)の神様、すなわち天照大御神(あまてらすおおみかみ)をご祭神として祀る。ご利益は国家安泰とされることが多いが、最高神としての性質からご利益の幅も広いとされる。

3位:「天満(天神)系」 約4,000社
京都の北野天満宮を総本社とし、菅原道真をご祭神として祀る。ご利益は学業成就、合格祈願など。

4位:「稲荷系」 3,000社
京都の伏見稲荷大社を総本社とし、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)をご祭神として祀る。“稲荷”といわれるように稲作の神様、さらには農業の神様として広まり五穀豊穣のご利益があるとされる。現代では商売繁盛のご利益もあるとされる。

なんと、この4系統の神社だけで総数約2万社近くになります。なぜこのように祀られている神様に偏りがあるのか。それは「その神様が持つご利益を求めて、神社が建立されてきたから」と考えるのが自然でしょう。

すなわち、武神を祀った八幡系の神社が多い理由は、「合戦などの勝利を祈願する人が多かった」から。お稲荷さんを祀った稲荷系の神社が多い理由は、「五穀豊穣を祈願する人が多かった」から、というように。私たちのご先祖様の営みが感じられ、親しみがわいてきませんか?

神様にも定義がある?

とはいえこの国は八百万の神の国。なかには私たち神職でも知りえない、「謎の神様」が祀られている神社もあります。祀られる対象が“神”でさえあれば、それは神社と言えるのです。

実は「神」には定義があります。江戸時代の国学者である本居宣長は、著書『古事記伝』の中で神を次のように定義しています。

尋常(よのつね)ならずすぐれたる

徳(こと)のありて可畏(かしこ)き物を

迦微(かみ)とは云(いふ)なり

(※2)

つまり「普通ではない優れた力を持った、畏れ多い存在であればそれは神である」というのです。菅原道真や平将門といった、実在した人物が神として祀られることがありますが、この定義にあてはめて考えると納得ですね。

しかし、いわれのよくわからない神様が祀られているのはレアケース。神社で祀られる神様の多くは、『古事記』と『日本書紀』に登場する神様であることがほとんどです。『古事記』と『日本書紀』は奈良時代に編纂され、神の時代からの成り立ちを記した歴史書です。この2つを総称して「記紀(きき)」と呼びます。

キリスト教には「聖書」、イスラム教には「コーラン」があるように、ほとんどの宗教には教典があります。しかし神道には教典がありません。教典がないということは、教義(教え)がないということです。

神道には様々な慣習や儀式がありますが、それらが生まれるもととなったのは、記紀が由来となっていることが多々あります。そのため、神道にとって記紀は教典に近い性質を持った、最重要の資料といえるでしょう。

※2 引用:東京都神社庁「声明の言葉 平成三十年六月 本居宣長」
http://www.tokyo-jinjacho.or.jp/inochinokotoba/h3006/

たとえば私たち神職が神事を行う際、始めに必ず修祓(しゅばつ)というお祓いを行います。この儀式は、記紀の中にある「伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が黄泉の国から戻ってきたときの話」がもととなって生まれたものです。

伊邪那岐命が黄泉の国の穢れを除こうと、禊(みそぎ)を行った際、祓戸大神(はらえどのおおかみ)という神々が生まれました。その神たちが私たちの罪や穢れを祓ってくれると解釈され、神道の儀式として定着したのです。

他にも記紀にはたくさんの神様が登場し、それらの神様の性格や特徴が記されています。それによって神様とご神徳が結びつき、ご利益の解釈がなされ、人々に認識されるようになっていったのです。したがって記紀を読めば、そこに登場する神様とその力(ご神徳、ご利益)がある程度導かれるのです。

皆さんも旅先などで神社に行かれる際、神社の公式サイト等でご祭神をチェックしたあと、その神様が登場する物語を記紀で確認してはいかがでしょう。とくに、以下の神様が登場するくだりはとても面白いのでお勧めします。

・スサノオノミコト・・・ヤマタノオロチと闘った神。京都の八坂神社などで祀られる

・オオクニヌシノミコト・・・国造りと国譲りを行った神。島根の出雲大社などで祀られる

・ヤマトタケルノミコト・・・朝廷の全国平定に貢献した英雄、愛知の熱田神宮などで祀られる

神様だって怒ったり悩んだり、恋愛もするんだ、と分かり、きっと親しみが持てるはずです。これらの神々をお祀りする神社は全国にたくさんあるので、ご祭神目的で神社を訪れると楽しいと思いますよ!

「正式参拝」のすすめ

みなさんは、神社での滞在時間はどれくらいでしょうか。

参道や境内を歩き、参拝してお守りなどを選ぶ程度であれば、おそらく数十分程度ではないでしょうか。しかし、せっかく神社を訪れたのです。もう少し皆さんの滞在時間を増やす提案をしたいと思います。

神社には「正式参拝」と呼ばれる参拝方法があります。神社によっては昇殿参拝や特別参拝とも呼ばれ、神職同席のもと、神様に近い場所で参拝することができます。

神様に具体的なお願い事をするわけではないので、「ご祈祷」の分類には入りません。そのため、このような参拝方法があることを知らない方も多いでしょう。これは神職がいる神社であれば、どこでも執り行ってくれるはずです。(※3)

正式参拝は文字通り、格式高い儀式とされています。旅先の神社に参拝するのであれば、ぜひ正式参拝を体験してみてほしいと思います。神様に近い場所で祈ることができ特別感が得られ、きっと旅の充実度も高まることでしょう。

※3 補足:事前の予約が必要な場合があります。また、初穂料を納める必要があります(数千円~1万円までが多い)。軽装で行くと神様に失礼になりますので、正装で行くよう心がけましょう。

「ご利益」を受けるための心構え

最後にひとつ、神社を参拝するうえで大切な心構えをお伝えします。

メディアやインターネットの影響で、「神社=パワースポット」と認識される方が増えました。この言葉が普及したことで、神社を訪れるきっかけとなり、参拝者が増えた面もあるでしょう。それは神社にとって喜ばしいことで、「この言葉を使ってはいけない」とまでは思いません。

しかし神職のなかには、パワースポットという言葉をあまり好まない人がいます。その理由は「信仰なく、パワー(ご利益)だけを享受したい」という、利己的な意味を含んでいるからだと思います。

信仰なくご利益だけを得ようとする心が「パワースポット」という言葉の普及につながっているのだとしたら、神社側にとっては良いこととは言えません。もっとひどい場合では、神社に来て参拝せずにポケモンだけ拾って帰る人もいるそうです。「鳥居をくぐった先は神域」という意識を忘れないでほしいと思います。

私たち神職は日々神様に祈りをささげていますが、神道では「祈りによって神の威が増す」という考え方があります。神様の力は「祈り」によって高められるのです。そして神社には、悠久の時間をかけて蓄積された祈りの力が宿っています。それによってご利益を受けることができるのだと考えます。

神社は本来、信仰の場所です。神社をただの「パワースポット」として認識してしまうと、信仰がおろそかになり、神社の衰退にもつながってしまう。私はそのことを危惧しています。そうならないためにも、旅行ついでに立ち寄ったときだけ祈るのではなく、毎日の祈りを大切にしてほしいというのが、神職としての願いです。

冒頭のアンケート結果が示した、「パワー(ご利益)や御朱印を求め、観光目的で行く場所」という、若者が神社に対して持つ価値観は、言い換えれば「日常的には参拝しない」という意味にも受け取れます。

祈りの場所である神社を存続させるためにも、できるだけ日常的に近くの神社にも参拝し、神様に祈る習慣を持ってほしいと思います。ご利益は、その祈りの先にあるのですから。

 

石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。

 

寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子

 

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