よりよい未来の話をしよう

矢田部吉彦|企画マーケットって何だ?:国際共同製作を巡る動き&釜山映画祭ミニレポート 【世界と私をつなぐ映画】

映画製作のプロセスは実に様々で、映画会社が企画を立て、出資者を集め、ある程度の資金を投入して進めるものから、個人が自己資産を投じて作るものまで、まさにピンキリだと言える。完成したものはどれも「映画」と呼ばれるから面白いし、公開されれば製作費に関わらずおおよそ同じ値段で売られる(1200円から2000円くらい)のも不思議だ。

ともかく、どんなにいいアイディアがあり、どんなに監督に才能があっても、お金が無いと何も始まらないのが映画製作というものだ。そこで、映画の企画を持っている人が集まって、出資者や製作パートナーを探すための「企画マーケット(Project Market)」と呼ばれる場が、国際的な映画祭に併設される映画マーケットにおいて設けられていることが多い。

アジア映画界における「企画マーケット」を牽引してきた釜山映画祭を2024年10月に訪れたこともあり、その一端を紹介してみたい。

国際共同製作を志向する場としての企画マーケット

国際映画祭に併設される形で開催されることの多い「企画マーケット」(釜山映画祭の場合は「APM=Asian Project Market」と呼ばれる)では、国境を越えて、国際的に資金を募る「国際共同製作」が志向されている。つまり、国内だけではお金が集まらないから、海外に目を向けようというわけだ。

欧州各国が共同で出資し合って製作する体制は早い時期から通常化していた一方で、アジアにおいて共同製作を牽引したのが、1996年に創設された釜山映画祭とその企画マーケットである。以来、フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイといった東南アジア諸国の映画の充実は共同製作を抜いては語れないだろう。国内では足りない資金を、複数国と粘り強く交渉して共同製作を実現させ、国際映画祭の舞台に通用する作品を送り出してきた。

近年の好例では、2023年のカンヌ映画祭で若手監督を対象とする「批評家週間」部門にて作品賞を受賞したマレーシアの『Tiger Stripes』が挙げられる。本作の製作クレジットには「マレーシア・台湾・シンガポール、フランス、ドイツ、オランダ、インドネシア、カタール」と、実に8の国と地域が並んでいる。アマンダ・ネル・ユー監督は、東京フィルメックスに併設される「タレンツ・トーキョー」という製作ラボ/ワークショップにも本作の企画を持って2018年の時点で参加しており(優れた企画に与えられる賞も受賞した)、さらに韓国のプチョン・ファンタスティック映画祭の企画マーケットでも受賞をしているので、実際に製作過程で関わった国の数はさらに多い。

ともかく、いかに長い年月をかけて(パンデミックによる中断期間があったにせよ)、企画を練り上げて必要な資金を集め、満を持した結果が初のマレーシア女性監督によるカンヌ出品に繋がったのかが良く分かる。

日本もまったく無縁であったわけではない。ただ、日本ではある程度国内で完結できる映画マーケットが存在するため、それほど国際共同製作が志向されてきたとは言い難い。それでも、近年素晴らしい成功例があり、それが22年のカンヌ映画祭「ある視点」部門でスペシャル・メンションされた早川千絵監督『Plan75』だ。「日本・フランス・フィリピン・カタール」とクレジットされた本作は、ジェイソン・グレイ氏と水野詠子氏がプロデューサーを務め、複数国の企画マーケットを巡って目覚ましい結果を残した。

国際共同製作のメリット

国際共同製作のメリットとは何だろうか。第一に挙げられるのが、前述したように、国内で集められない資金を国外に求めるという点である。特に、日本においては「人気コミックやベストセラーの原作か、有名キャストが配役できていないと企画が通らない」ということが指摘され、なかなかオリジナルの企画が映画化に結び付かないという現実があると言われる。その点、海外のプロデューサーは日本マーケットが重視する点よりも国際マーケットに通用するエッセンスを重視するので、興味を持ってもらえれば共同プロデューサーの母国の製作助成金や出資金が期待できることになり、晴れて日本国内の呪縛から解放され、企画に道が開けることになる。

第二点目としては、国際的な目を通して企画(と脚本)がブラッシュアップされていくことが挙げられるだろう。外国のプロデューサーの意見を介することで、近視眼的な企画から脱し、国際映画祭にリーチするクオリティに近付くことができるはずだ。また、場合によってはそのプロデューサーが直接国際映画祭に接触ルートを持っているかもしれない。

第三点目としては、共同製作相手の国内での公開が期待できることであり、さらに、共同製作を進める過程で「ワールド・セールス」と呼ばれるエージェント会社の参加が見込めれば、広範囲で効率的なセールスが可能になり、作品のポテンシャルをさらに深めることに繋がる。

そして四点目として、企画マーケットへの参加による出会いの刺激を加えてもいいかもしれない。志を同じくする他国の映画人と知り合い、現在の企画は無理でも、将来的なコラボレーションに結び付くかもしれない。もしかしたら、良き出会い以上に重要なことなど無いかもしれない。

何だか、いいことづくめみたいだ。実際、そうなのだ。そして、我々外野の立場からすれば、この国際共同製作から得られる最大のメリットとは、国際的な切磋琢磨を経た上で製作された作品によって日本映画の多様性が担保されるという、その一点に尽きる。であるからこそ、日本映画の未来は国際共同製作にあると、そう言いたくなるのである。

企画マーケットといえども、誰でも参加できるわけではない

ならば、どんどん企画マーケットに出まくればいいじゃないか、となるのだけど、なかなかそうもいかない。メジャーな国際映画祭に選ばれることが簡単でないように、主要な企画マーケットに選ばれることも簡単ではないのだ。

一般的な企画マーケットのあり方をざっくり見てみると、まずは企画の募集から始まる。応募者は、企画概要と簡単なシノプシス(筋書き)、そして監督とプロデューサーが企画意図をそれぞれ提出する。主要なマーケットであれば、応募数が500を超えるのはざらであり、そこから絞りに絞られた結果、30~50程度の企画が選ばれる。選ばれた企画は、マーケット会場で個々にブース(やテーブル)が与えられ、ほぼ3日間に渡り、ミーティングの機会が与えられる。一方で、マーケットに参加するプロデューサーや出資者や映画祭プログラマーたちは、選ばれた企画を事前にネットで調べ、関心を持った企画とミーティングをブッキングする。企画者たちは朝から晩までミーティングを続け、そして夜はネットワーキングを目的としたパーティーに参加して交流を広げる。

マーケット主催者に目を転じると、実はシビアな事情があったりもする。単純に言って、企画マーケットの主催はリスクが大きいのだ。映画製作をサポートする極めて重要な場でありながら、というか、であるからこそ、企画マーケットはリスクを抱える。というのも、企画はあくまで企画であり、最終的に映画として実現するとは限らないからだ。

企画マーケットを運営するためにも、国だろうが企業だろうがスポンサーが必要であり、そのためにマーケットも実績をアピールしなくてはならない。選んだ企画がことごとく実現に至らなかった場合、企画マーケットの存在意義が問われてしまうことになる。実際に、そうして失われていった企画マーケットは少なくない。

であるから、企画マーケット側も、選ぶ企画に対してシビアにならざるを得ない。企画内容のクオリティはもちろん、実績のある監督であるかどうか、あるいは、若手監督であれば実績のあるプロデューサーが付いているのかどうか、さらには、企画内容に見合った予算組みをしているかどうか、さらに自国内で一部の資金は確保できているのかなど、つまりは、実現に至る企画であるかどうかが、厳しくチェックされる。

メリットの多い国際共同製作だけれども、そのきっかけの場となる企画マーケットへの参入はなかなかに狭き門なのだ。

「VIPO賞」について

日本には「映像産業振興機構(Visual Industry Promotion Organization=通称VIPO)」というNPO法人が存在する。日本のコンテンツ振興において様々な事業を展開しているVIPOが、国際共同製作の重要性を踏まえ、海外製作者と協同できるプロデューサーの育成に乗り出している。なんといっても、プロデューサーが育たないことには、共同製作は進まない。VIPOは2021年から国際プロデューサー育成プログラムを立ち上げ、日本の意欲的なプロデューサーの背中を押すことに余念がない。気の遠くなるような長期的視野が必要だが、僕はとても正しい方向性だと思っている。そして、少しだけお手伝いしている。

国際共同製作を推進するためには、VIPO本体としても世界の映画製作者と繋がる努力をしなくてはならない。その主旨から、企画マーケットの優れた企画に対して、2022年から「VIPO賞」が設置されることになった。具体的には、1月のロッテルダム映画祭(オランダ)、7月のプチョン映画祭(韓国)、そして10月の釜山映画祭(韓国)の3つの企画マーケットで、VIPO賞が設けられた。僕はVIPOから審査員を委託され、他2名の審査員とともにこれらのマーケットでたくさんの企画者とミーティングを行い、VIPO賞を授与してきた。

そう、企画マーケットにも「賞」があるのだ。映画祭のように。これはマーケットに詳しくない人には意外だろうと思う。僕も、東京国際映画祭勤務時代にプログラマーとして企画マーケットに参加したことは何度もあるけれども、企画に対してどうやって賞を決めるのだろうと、ずっと疑問だった。実際に審査する側になった今でも、他の賞(釜山のAPMだとVIPO賞を含めて賞の数が10くらいある)がどうやって決めているのかよく分からなかったりする。

でもVIPO賞に関しては明確で、企画内容が優れていることと、監督とプロデューサーの相性が良く(少なくとも良いと感じられ)、実現可能性が高そうであるかどうか。そして、長い長い目で見たら、将来、日本の企画者と結び付けたい製作者であるかどうか。そんなことを考えて賞を授与している。

そして、授与した企画が映画として完成しないかもしれないという、企画マーケットと同じリスクをVIPO賞も負うわけだけれども、幸いなことに「結果」が出てきた。VIPO賞を授与した作品から、完成の報告が届き始めたのである。

「VIPO賞」授賞作

2022年のAPMでVIPO賞を授与したのは、イランのラハ・アミルファズリ&アリレザ・ガゼミ共同監督による『In The Land Of Brothers』という企画だった。イランに暮らすアフガニスタン難民の苦境が、3つの時代の3つのエピソードで綴られ、(欧米諸国に出向くのではなく)中東内における移民/難民問題という新しい視点を持った作品に感じられた。内容の確かさに加え、製作陣にフランス人プロデューサーが参加していることがフランスの助成金へのアクセスの可能性を高め、完成への期待を高める役割を果たしていた。

『In The Land Of Brothers』

2024年のサンダンス映画祭に出品された『In The Land Of Brothers』は、見事に「ワールドシネマ」部門の監督賞を受賞し、企画の確かさを証明したのだった。完成した映画を追って見る機会があったが、3つのエピソードが優れた短編として独立していながら、3話を通して移民たちの運命の皮肉や残酷さが一貫性を持って鮮やかに伝わる、見事な作品であった。これは本当に誇らしい。

そして、2023年の釜山映画祭における企画マーケット:APMのVIPO賞は、マレーシアの『To Kill A Mongolian Horse』という企画に授与された。内モンゴルにおける伝統的な草原での生活を諦め、都会で観光客向けの馬上ショーに出演する男の姿を通じて、失われゆく文化の哀しみを描く美しい作品だ。見事に完成し、2024年のベネチア映画祭に選出され、同地でのワールドプレミアが実現した。アジア・オセアニア地域の映画賞である「APSA(Asia Pacific Screen Award)」にも複数部門にノミネートされており、2024年の重要作の1本として認知されているようだ。

『To Kill A Mongolian Horse』

2024年「VIPO賞」はシンガポールの企画へ

順調に結果が出ており、安堵しつつ興奮している次第だが、さて、2024年の10月に実施されたAPMにおける、VIPO賞はどうだっただろうか。10月5日~8日の期間で開催されたAPMだが、今年は例年に増して優れた企画が多いように見受けられた。

VIPO賞を受賞したのは、シンガポールのカーステン・タン監督による『Crocodile Rock』という企画。カーステン・タン監督は、長編デビュー作『ポップ・アイ』(17)がサンダンス映画祭で脚本賞を受賞したのを皮切りに世界中で話題になり、日本でも劇場公開を果たしている。タイを舞台に、象を連れて旅する中年男のロードムービーという極めてキャッチーな内容を持ち、一度見たら忘れられないインパクトだった。

一躍アジアの新星となったカーステン・タン監督であるだけに、新作が期待されていたわけだが、その企画はのどかな雰囲気をまとっていた『ポップ・アイ』とは打って変わって、シンガポールに実在した伝説のレズビアン・バー「クロコダイル・ロック」を舞台にしたドラマだった。同性愛が違法だった90年代のシンガポールにおいて、貴重な存在であり続けたバーに関わった人々に話を聞き、事実をベースにしつつ、架空の2人の若い女性の波乱に富む愛の物語が計画されている。

シンガポールの映画検閲は厳しいことで知られ、しかも同国で同性愛が合法となったのが2022年であることから、本作はシンガポール初の「同性愛映画」となるという。なんということだ。これは注目せずにいられない。

さらに重要なのが、プロデューサーのタン・シエン氏の存在だ。タン・シエン氏は若くして製作会社を立ち上げ、精力的に多くの企画を展開させている。企画マーケットに行くと、必ず彼女に出会うと言ってもいいくらいだ。こういうプロデューサーと、将来的に日本の若手プロデューサーが組んでいけたら、いかにも素敵な未来になりそうだ。さらにタン・シエン氏は、『ポップ・アイ』ではアシスタント・プロデューサーとして現場にいたそうだ。その縁がカーステン・タン監督の次作で組むことに繋がったという、こういう物語も堪らない。カーステン・タン監督と、タン・シエンプロデューサーは、VIPO賞を託すのにふさわしいコンビだった。あとは、順調な進捗を祈るのみ!

左から、森下美香氏(VIPO)、カーステン・タン監督、タン・シエン氏(プロデューサー)

釜山映画祭「New Currents」部門受賞作

ここまでマーケットについて見てきたが、せっかく釜山映画祭に行ったのだから、本番の映画祭における受賞作品をいくつか紹介してみたい。

釜山は伝統的に「New Currents」という若手部門が有名で、映画祭の柱とも言える。2024年の審査員長に、イランから欧州に亡命してカンヌに参加したことで話題を集めた反骨の作家、モハマド・ラスロフ監督を招いていることからも、釜山映画祭がこの部門を重視していることが良く分かる。

「New Currents賞」は2作品に与えられ、1本が韓国の『The Land of Morning Calm』。そしてもう1本が、『MA – Cry of Silence』というミャンマーの作品で、ミャンマーに加え、韓国・シンガポール・フランス・ノルウェー・カタールが製作国としてクレジットされている。

MA – Cry of Silenceは、現在のミャンマーの苦境を伝える極めて重要な作品だ。軍事クーデターによって地方が制圧された結果、若者たちが都会に逃れ、その多くが劣悪な条件の工場で働いている。本作は、縫製工場に勤める女性たちが給料の遅配に抵抗してストライキを実施し、非情な搾取に立ち向かっていく姿が描かれる。

『MA – Cry of Silence』

あまりの酷い状況に、これが現在の話なのかと思うと気が遠くなるが、ミャンマーの映画人は自らの身を危険に晒してまでも、現状を訴える物語に挑んでいる。APMでミーティングした別のミャンマー人監督は、ドイツに亡命し、自国の未来をファンタジー的に語る企画を進めていた。『MA – Cry of Silence』についても、作品の重要性に多くのプロデューサーが賛同し、複数国の共同製作として実現していったのだろうと想像できる。納得の受賞である。

釜山映画祭「KIM Jiseok」部門受賞作

釜山映画祭の創設者の1人で、2017年にカンヌ映画祭出張中に急死してしまったキム・ジソク氏を偲んで設立された部門「Jiseok」は、若手以外にも門戸を開き、アジアの重要監督の作品を並べている。この部門にも賞があり、「KIM Jiseok賞」は、台湾の『Yen and Ai-LEE』と、インドの『Village Rockstars 2』の2本に与えられた。

『Village Rockstars2』は、リマ・ダス監督の新作。僕はリマ・ダス監督の作風が身悶えするくらい好きで、作品を見る度に恍惚としてしまう。リニアな脚本があるわけではなく、スケッチの積み重ねでいつの間にか物語が語られていく。そもそも文字の代わりに映像で物語を書くのが映画なわけだけれども、リマ・ダスの場合は、ドキュメンタリー的なスケッチ描写が文字となって物語を綴る感覚が顕著なのだ。独自のエクリチュールを備えた、世界でも有数の映画作家だと思っている。

『Village Rockstar2』は、2017年に作られた『Village Rockstar』の地を7年振りに訪れ、音楽好きの少女ドゥヌの日々を描いていく。病弱な母は懸命に家と土地を守り、しかしろくでなしの兄はとっとと土地を売ってバイクがほしいなどと言って母を嘆かせる。自然の中で豊かな日々を送るハイティーンのドゥヌも、現実には抗えず、少女時代に別れを告げなければならなくなる。

厳しい現実と愛おしい日々が並び、詩情に溢れ、自然と破壊と音楽と愛と希望と絶望と、つまり人生の全てが詰められている。ああ、これは傑作。

釜山映画祭「インディペンデント映画賞」受賞作

韓国の若手監督を中心にした作品を集めた「Korean Cinema Today」も、注目したい部門だ。23本もあるので全てを見ることはできなかったけれども、どことなく良い予感がしたので出かけた『The Final Semester』が見事「Independent Film賞」はじめ3つの賞を受賞したので、幸運だった。

『The Final Semester』

工業高校の3年生の平凡な男子が、卒業を控えて工場でインターンをすることになり、そのままそこに就職するか、別の道を考えるのか、人生の選択に直面する物語が語られる。主人公のキャラクター設計が絶妙で、特に優秀でもないけれど愚かであるわけではなく、目立つこともなく、でも家族に対してとても優しかったりする。とても平凡だけど心優しい少年を、いつの間にか懸命に応援している自分に気付く。

工場での出来事を通じ、人間関係を学んだり、社会の偽善を目の当たりにしたり、少年は成長していく。その過程が、あざとい事件に彩られることなく、実に「普通な」トーンで綴られていく語り口が実に心地よく、とてもリアルで爽やかな読後感を残す。こちらも逸品だった。

イ・ラニ監督の長編2作目とのこと。役者出身で、なんとインディコメディの傑作『昼間から呑む』(09)で強烈なインパクトを残した女性が、彼女だったらしい。この事実はコアな韓国映画ファンに深く響きそうだ!

おわりに

様々な形でアジアの映画も躍動しており、その背景にはダイナミックな製作体制がある。国境を越えることで、新たな可能性があるかもしれないことが、日本のプロデューサーたちにも浸透しつつある。ただ、語学の壁は無視できず、AI翻訳などを駆使することで英語資料は整えられるとしても、(監督はともかく)プロデューサーはやはりプレゼンやピッチを英語で行えることが、まずは共同製作への第一歩になるのは間違いないだろう。でも、大丈夫。英語は、目的があればなんとかなる。海外生活を経験している若手プロデューサーも台頭している一方で、「国内組」もぜひ臆せず、一歩を踏み出してほしい。

もちろん、肝心なのは企画の内容であることは、言うまでもない。企画マーケット以外にも、脚本ドクターからアドバイスをもらえる「脚本ラボ」やワークショップのような場も世界には多く存在する。そこでボコボコにされて消えてしまう企画も、もちろん存在する。しかし多数の目を経て、国際的ダメ出しをくぐり抜けて生き残った企画こそは、最強だ。

ユニークなクリエーターと、タフなプロデューサーがタッグを組み、意欲的な企画がますます国境を越え、アジアや欧米諸国と日本企画が手を携えて国際市場に挑んでいく未来に、希望を託したい。

 

矢田部吉彦(やたべ・よしひこ)
仏・パリ生まれ。2001年より映画の配給と宣伝を手がける一方で、ドキュメンタリー映画のプロデュースや、フランス映画祭の業務に関わる。2002年から東京国際映画祭へスタッフ入りし、2004年から上映作品選定の統括を担当。2007年から19年までコンペティション部門、及び日本映画部門の選定責任者を務める。21年4月よりフリーランス。

 

寄稿:矢田部吉彦
編集:おのれい

 

最新記事のお知らせは公式SNS(LINE/Instagram)でも配信しています。
各種SNSもぜひチェックしてください!