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パリ協定とは?その経緯や脱炭素社会に向けた取り組みを徹底解説

パリ協定は2015年に採択された気候変動対策の国際的枠組みで、世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃未満に抑え、1.5℃以内を目指すことを目標に掲げている。 本稿ではパリ協定の概要や採択までの経緯、採択後の各国の温室効果ガス削減の取り組み、さらには今後の展望などを見ていく。

パリ協定の概要

まずは、パリ協定の目的や主要目標について見ていこう。

パリ協定の定義と目的

パリ協定は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)(※1)の目的を達成するために採択された法的拘束力のある国際条約であり、この条約が成立したことは、地球温暖化対策における歴史的な転換点となった。(※2)その目的は、先述の気温上昇以外にも、21世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成することや、世界の温室効果ガスの排出量のピークをできるだけ早く迎え、最新の科学に則り削減するということが掲げられている。 これらの目標達成のため、各国は5年ごとに自国の削減目標等(NDC:Nationally Determined Contribution)を提出・更新し、その実施状況を報告する義務を負っている。また、5年ごとに世界全体の進捗状況を確認する「グローバル・ストックテイク」が行われる。

※1 用語:1992年に採択、1994年に発効した気候変動問題に関する条約。気候変動問題を解決すべく、197か国・地域が締結・参加。本条約を達成するための具体的な枠組みとして、パリ協定や京都議定書が存在する。
※2 出典:外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

パリ協定の法的位置づけ

パリ協定は、1997年に採択された京都議定書に代わる、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組みとして位置づけられている。京都議定書が先進国のみに数値目標を伴う削減義務を課したのに対し、パリ協定では全ての国が削減目標を提出することが求められている。 また、京都議定書はトップダウンで決められた温室効果ガスの削減目標が示されていたが、この方法に実効性や公平性の観点から疑問を呈す意見もあったことで、パリ協定では自国の削減目標を自主的に定める方針が取られているのだ。

パリ協定の採択までの経緯

京都議定書に代わる形で採択されたパリ協定だが、どのようなプロセスを経て採択されたのだろうか。

国連気候変動枠組条約と京都議定書

いまでこそ当たり前のように意識する「地球温暖化」への危機感だが、きっかけは1985年にオーストラリアで開催されたフィラハ会議である。温暖化について研究をしていた研究者が、「21世紀前半には、かつてなかった規模で地球の平均気温の上昇が起こりうる」と提起した。その3年後、1988年には「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立。1990年にはIPCCから「第1次評価報告書」が最初の報告書として発表された。報告書内では温室効果ガスが排出され続ければ人類や生態系に多大な影響を及ぼす可能性があることが、世界の第一線の研究者たちによりまとめられた。 これらの動きを受け、1992年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択された。UNFCCCは、気候変動に関する国際協力の基盤となる条約であり、先進国と途上国の責任の差異(先進国は途上国に比べて重い責任を負うこと)などの原則が定められた。

その後、1997年に京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択され、先進国に法的拘束力のある数値目標が課されることとなった。しかし、京都議定書は、途上国の不参加や経済への悪影響を理由に米国が離脱するなどの課題を抱えていた。

京都議定書以降の国際交渉

第一約束期間と呼ばれる、京都議定書で定められた第1段階の目標期間(2008〜2012年)以降の枠組みを巡っては、先進国と途上国の対立が続いた。2009年、デンマーク・コペンハーゲンで開催されたCOP15では、ポスト京都議定書の合意を目指したものの、先進国と途上国の溝は埋まらず、政治的合意に留まった。

その後、2011年のCOP17で、2020年以降の新たな法的枠組みを2015年のCOP21で採択することが合意された。この合意を受けて、各国は2020年以降の枠組みに向けた交渉を本格化させていった。

これらの流れを経て、2015年11月から12月にかけて、フランス・パリで開催されたCOP21では、京都議定書に代わる2020年以降の新たな国際枠組みとして、パリ協定が採択された。

主要国の温室効果ガス削減に向けた取り組み

パリ協定の採択を契機として、世界各国は温室効果ガス削減に向けた取り組みを加速させている。この章では具体的な各国の取り組みをみていきたい。

日本の取り組み

2021年10月、日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定した。この戦略では、エネルギー分野における再生可能エネルギーの最優先原則や電源の脱炭素化、さらに水素、アンモニア、原子力などの多様な選択肢の追求が掲げられている。運輸分野では、2035年までに乗用車新車の完全電動化や、電動車と社会システムの連携・融合などが目標とされている。(※3)

国際的な支援においても、日本は積極的な姿勢を見せている。2021年から2025年の5年間で、官民合わせて6.5兆円規模の支援を実施し、気候変動の影響に脆弱な国々への適応支援を強化することを表明した。さらに、COP26では5年間で最大100億ドル(1兆円超)の追加支援と、適応分野での支援倍増(1.6兆円相当)を約束している。(※4)実際に、2022年4月にはUNDP(国連開発計画)に4200万ドル(約50億円)の気候変動対策資金を提供した。

また国内では、2023年10月に東京証券取引所が、カーボン・クレジット市場を開設した。参加する団体が省エネ製品の導入や再エネの利活用、森林管理などの取り組みにより減らしたCO₂排出量をクレジット(権利)として売買する仕組み。全国の電力会社や金融機関など民間企業に加え、地方公共団体なども参加している。

※3 参考:環境省「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和3年10月22日閣議決定) 概要資料」 
https://www.env.go.jp/content/900440768.pdf
※4 参考:外務省「気候資金に関する我が国の新たなコミットメント(2021~25年)」 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_001405.html

EUの気候変動対策

欧州連合(EU)は、パリ協定の目標達成に向けて積極的な取り組みを展開している。2019年に策定された「欧州グリーンディール」では、2050年までの気候中立(クライメイト・ニュートラル)(※5)化を目指している。2021年6月には「欧州気候法」が採択され、2030年までに排出量を55%以上削減する法的拘束力のある目標が設定された。また、2050年の気候中立化に向けたガバナンス体制整備も義務付けられた。

さらに2021年7月には「Fit for 55」法案が発表された。この法案には、排出量取引制度の強化、持続可能なモビリティー支援、CO2排出基準の厳格化、エネルギー関連の課税調整などが含まれている。これらの政策は、EUの気候変動対策への積極的姿勢と、経済成長と環境保護の両立を目指す包括的アプローチを示している。

※5 用語:人や企業、団体などが、日常生活や製造工程などにより排出する温室効果ガスを、吸収量やその他の削減量を差し引くことで総排出量を算出し、実質ゼロにするという取り組み

▼併せて知っておきたい「ゼロエミッション」について詳しく知る 

米国の2030年目標と2050年ネットゼロ目標

トランプ政権時の2020年にパリ協定から脱退したアメリカでしたが、2021年1月に就任したバイデン大統領は就任初日にパリ協定への復帰を決定し、同年2月19日に正式に認められた。バイデン政権は2050年カーボンニュートラルを目指し、前トランプ政権から大きく方針転換して脱炭素への取り組みを加速させている。

バイデン政権の新たな気候変動対策には、具体的な施策が盛り込まれており、頻発する山火事や洪水などの災害に対応するため、23億ドルのインフラ強化費用を拠出する計画だ。また、低所得者層を支援するため、エアコンなどの空調機器購入補助や電気代補助も実施される。さらに、再生可能エネルギーの推進にも力を入れており、洋上風力発電の普及に向けてメキシコ湾での新候補地選定を進める予定だ。(※6)

※6 参考:JETRO「バイデン米大統領、新たな気候変動対策発表、今後も追加対策を発表の見込み」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/07/d36bae3da9d1d392.html

中国の2030年ピークアウト目標と2060年カーボンニュートラル目標

中国は、パリ協定の目標達成に向けて具体的な計画を2021年10月に発表した。この計画では、「2030年カーボンピークアウト」と「2060年カーボンニュートラル」という2つの主要目標の実現に向けた段階的な取り組みが示されている。2025年までの短期目標として、単位GDP当たりのエネルギー消費量を2020年比で13.5%削減、CO2排出量を2020年比で18%削減、非化石エネルギー消費の割合を20%程度に引き上げることが設定されている。

2030年までの中期目標としては、単位GDP当たりのCO2排出量を2005年比で65%以上削減すること、非化石エネルギー消費の割合を25%程度に引き上げることなどが掲げられている。(※7)

※7 参考:JETRO「2030年カーボンピークアウトに向けた具体的な取り組み・目標を設定」 
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/11/f7ff820b9204c177.html

パリ協定の課題

パリ協定の達成には多くの課題が存在する。ここでは、パリ協定の目標実現に向けた主要な課題と、それらへの対応策について解説する。

1.5℃目標達成に向けた課題

現在の各国の削減目標を積み上げても、1.5℃目標の達成は極めて困難な状況にある。

IPCCの第6次評価報告書によると、現在のペースでは2040年頃に1.5℃の上昇に達する可能性が高いとされており、1.5℃目標の達成には2030年までに世界のCO2排出量を2010年比で45%削減する必要がある。各国の野心的な目標設定と実効的な対策の実施が不可欠であり、特に主要排出国である中国やインド等の取り組み強化が鍵を握っている。

各国の実施状況の確認と実効性確保

パリ協定の実効性を確保するためには、各国の実施状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて目標の引き上げを促していくことが重要である。パリ協定では、各国の目標達成状況を第三者が評価するプレッジ&レビュー方式などの仕組みが設けられているが、途上国を中心に削減目標の明確化や報告の質の向上などの課題が残されている。

また、パリ協定の目標達成には、先進国から途上国への資金・技術支援の拡大も不可欠である。パリ協定では、2020年以降の途上国支援として年間1,000億ドルを下限とすることが明記されたが、2020年時点では、年間833億ドルにとどまっている。コロナ禍による各国の財政悪化等を背景に、目標達成は難しい状況にあるかもしれないが、国際社会で一致して気候変動に取り組むために、必要とする国に手を差し伸べることが求められるだろう。

革新的イノベーションの必要性

パリ協定の野心的な目標を達成するには、現在の技術の延長線上では不十分であり、抜本的なイノベーションが不可欠である。特に、電力、産業、運輸など、排出量の大きいセクターにおける脱炭素化技術の開発・普及が鍵を握っている。

例えば、再生可能エネルギーの主力電源化に向けては、低コストかつ大容量の蓄電技術や、高効率な送電技術の開発が求められている。また、水素還元製鉄や人工光合成など、ハードルの高い分野の技術開発も必要不可欠である。各国が政策的・財政的支援を強化し、官民が一体となって革新的技術の研究開発を加速していくことが重要なのだ。

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脱炭素社会に向けた今後の展望

ここでは、各国の政策整備や、企業の脱炭素化への取り組み加速、さらには市民社会の積極的な参画など、パリ協定が促すさまざまな動きについてみていこう。

企業の脱炭素化への取り組み加速

パリ協定を契機として、企業の脱炭素化への取り組みも加速している。再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギー技術の開発・実装、サプライチェーン全体での排出量管理など、様々な取り組みが進められている。特に、国際的なイニシアチブであるRE100には、世界の主要企業が多数参加しており、事業活動で使用する電力を100%再エネで賄うことを目標に掲げている。(※8)

また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に沿った気候変動関連情報の開示を行う企業も増加しており、投資家等のステークホルダーからの要請にも応える形で、脱炭素化に向けた経営戦略の構築・実行が進んでいる。ただし、革新的なイノベーションなくしては、企業の脱炭素化は容易ではない。技術開発とその社会実装に向けた官民一体となった取り組みが不可欠である。

※8 参考:環境省「環境省RE100の取組」 
https://www.env.go.jp/earth/re100.html

市民社会の役割と参画

パリ協定の実現には、政府や企業の取り組みだけでなく、市民社会の理解と協力が欠かせない。日常生活におけるエネルギー消費の削減、再エネ由来の電力選択、環境配慮型製品の購入など、一人ひとりができることは多岐にわたる。また、環境NPOやNGOによる普及啓発活動、政策提言なども、脱炭素化に向けた世論形成に重要な役割を果たしている。

気候変動問題は、単に環境問題というだけでなく、社会・経済の在り方そのものを問い直す契機となっている。ジェンダー平等、社会的包摂、公正な移行など、脱炭素化の過程で生じる社会課題にも目を向け、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現に向けて、市民一人ひとりが主体的に参画していくことが求められている。パリ協定の採択は、そうした市民社会の力を結集する大きなきっかけになったと言えるだろう。

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まとめ

パリ協定は、2015年に採択され、2016年に発効した、気候変動問題に対する国際的な枠組みである。全ての国が温室効果ガス削減の対象となっており、各国が自主的に削減目標を設定し、5年ごとに更新することが求められている点で画期的だ。

パリ協定の目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力を追求することである。この目標達成に向けて、各国は野心的な目標を掲げており、日本は2050年カーボンニュートラル、EUは2050年気候中立化、米国は2050年ネットゼロ、中国は2060年カーボンニュートラルを目指している。

しかし、現状では1.5℃目標の達成は極めて困難な状況にある。目標実現には、各国のさらなる取り組み強化に加え、イノベーションの加速や途上国支援の拡充など、国際社会が一丸となって取り組む必要がある。パリ協定の実効性を高め、脱炭素社会への移行を加速するため、今後の動向が注目される。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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