よりよい未来の話をしよう

捨てることもエシカルに。マシンガンズ・滝沢秀一さんと考える消費とごみの話。

ごみの行き先を、私達はどれくらい知っているだろうか?

5月30日、ごみゼロ(530)の日を前にして、ふと考える。

ものを買うときに、その生産背景などが透明で倫理的かどうかを重視する「エシカル消費」の考え方は近年で浸透しただろう。しかし、買ったものをどう捨てるかも、エシカルな観点で選択することが必要なのではないか。とはいえ、実際ごみを捨てることはどこから意識したら良いのか、正直なところわからない。

そんな疑問に対し、発信を続けているのが滝沢秀一さんだ。彼は漫才コンビ「マシンガンズ」として活躍する傍ら、ごみ清掃員としても働いている。彼がシェアするごみ清掃員の日常は、インターネットを通じて瞬く間に広がり反響を呼んだ。現在滝沢さんは、一般社団法人ごみプロジェクトの代表となり、環境省からサステナビリティ広報大使にも任命され、より多くの人にごみのことを知ってもらえるよう活動している。

ごみの未来を真剣に考え、発信されている滝沢さんに、まずは日頃出しているごみのことから疑問をぶつけてみることにした。

約20年後、ごみの行き場がなくなる

滝沢さんは1週間で、どれくらい可燃ごみを出していますか?

いまは週2回の回収で1袋くらいですかね。前は1週間で6袋出していたので、現在はその6分の1。子どもが2人いるので、オムツなどもありますが、意識したらかなり減りました。

減った理由は「紙」と「プラスチック」の分別と「生ごみ」を減らすこと。この3つを減らしただけでかなりごみが減るんですよ。資源に分別することに加えて、最近は「生ごみ」のコンポストにも挑戦しています。可燃ごみのだいたい4割くらいは食べ物に関するごみなので、食品ロスをなくしたらぐんとごみが減るんです。

あといらなくなった服はご自由にお取りくださいと書いて玄関に出しておきます。意外とみんな持っていく。ひとまとめにするとゴチャっとするから、サイズ別に分けて出すなど工夫をしています。

分別と聞くと、ついめんどくさいと思ってしまうのですが、紙とプラスチックを分けるだけで、そんなにもごみの量が違うんですね。

たとえば可燃ごみで捨てられる封筒やティッシュの箱、お菓子の紙パッケージは古紙回収に出せます。かたや燃やされて灰になって埋立地に行くごみが、分別して再利用することで紙にもう一度生まれ変わる。出す日によってごみになるか資源になるか真逆の行為になるんです。それは、ごみを出す人の意識の差の問題だけなんですよね。

滝沢さんが以前「ごみの埋立地はあと23年でなくなる」(※1)と仰っているのを拝見して衝撃を受けました。

そうなんです。20数年なんて、すぐですよね。私は漫才師としての芸歴が2024年で27年目になるんですが、振り返ると本当にあっという間だったんです。だからこそ、すぐそこに迫っている問題だと思います。23年というのは絶望的な数字ですが、実はその寿命はちょっとずつ伸びているんです。年々21年、22年と伸びていて、これはみんなの努力のおかげ。最近はごみを再利用する施設も増えています。今後もそういった取り組みを増やしていくことが大事ですよね。

確かに先ほど仰っていたように、なるべく資源として回収されるように分別するなど、ちょっと意識をするだけでも変わりそうです。

たとえば老人ホームのごみをコンポスト化して、園芸セラピーにするなど、再利用できる施設が増えていくと嬉しいですね。今度、介護福祉士の資格を持つお笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつさんを始めとした芸人仲間と介護やごみ問題をテーマにしたトークライブをやるんです。少し前に、介護の仕事やごみ清掃員の仕事が、底辺職業ランキングに入っているのを見ました。でもどちらもインフラを支える大切な役割で、なくなってはいけない仕事。私たちは楽しくその仕事をやっているので、それを伝えていきたいですね。

※1 参照:環境省『一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度)について』
https://www.env.go.jp/press/press_02960.html

私たちはごみについて学んでこなかった

滝沢さんがSNSなどで発信するごみの捨て方や分別方法を拝見していると、普段自分がいかに無自覚にごみを捨てているか、恥ずかしくなります。

それは仕方がない部分があって、ごみのことをちゃんと教えられる人なんて誰もいないんです。大人になってごみ捨てのパンフレットを1枚渡されるだけ。急にルールに従いなさい!と言われて、間違えてもしょうがないと思います。だからこそ私たちの活動などを通じて、知ってもらえたら良いと思います。

特にいま力を入れたいのは、教育。イベントで紙芝居を使って、ごみ分別を教える活動もしています。

正直ごみの話は、あまり学んだ記憶がありません…。

そうですよね。でも海外では教育が進んでいる国も多く、たとえばスウェーデンは保育園からごみについて教えています。スウェーデンはなんと、出たごみの1%しか埋め立てておらず、99%はリサイクルしているほどごみの先進国。ヨーロッパは地続きで、ごみが溢れたら隣接国に迷惑がかかってしまうため、ごみへの意識の高い国が多いんです。スウェーデンにはみんなが知っている環境のキャラクターがいて、環境が良くないときは悲しい顔をしたり、良いときは笑っていたりするそうなんです。そこで顔が見える関係が生まれてくるんでしょうね。あの子が悲しむから環境を大事にしようとか、自分に身近なことから環境に対する意識が芽生えてくる。

私も最近はごみを捨てるときに、滝沢さんの顔が思い浮かびます。

自分がものを買ったり捨てたりするときに、そのものがどこから来てどこへ行くのか、想像できる社会かどうかということは大事ですよね。そういった、顔の見える社会であることが必要だと思うんです。周りでも、滝沢がやっているんだったらと、ごみ分別をしてくれる人が増えました。事務所のメンバーや他の芸人でも、滝沢が回収するかもしれないから、ちゃんと捨てないといけないなと気をつけていると言われます。

芸人の仕事にエシカルな考え方を

顔が見えるという点では、環境や持続可能性に配慮した倫理的・道徳的な買い方や消費を指す“エシカル消費”というキーワードがあります。滝沢さんが、普段芸人のお仕事をしているなかでも気づくことはありますか?

最近は、楽屋などで用意されているお弁当の数が減っている気がします。昔はとりあえず沢山用意されていたお弁当が、最低限の人数分きちんと数えて用意されている。フードロスが防げるので良いことですよね。単純に予算が減っているだけかもしれないけど(笑)。社会がSDGsの流れにはなってきているし、私も見つけたら指摘しますね。できていない現場があれば抜き打ちで言います。

先日実施された単独ライブではグッズも人気でしたが、作るにあたって気にされた点はありますか?

もの自体にきちんと価値をつけることで、長く使ってもらえるグッズができれば良いなということは考えていました。以前番組で一緒だった、さらば青春の光の森田くんがグッズで儲かっているらしいので、どんなものを作っているのかと聞いたんです(笑)。森田くんたちは、自身がファッション好きということもあって、おしゃれなグッズを作っている。芸人って、1回きりしか着れないようなネタグッズを作りがちなんですよね。でも普段も着てもらえるようなものを作った方が良いですよと教えてもらいました。そこで相方の西堀と相談して、着やすいグッズにしています。マシンガンズがグッズ屋に変わった瞬間です(笑)。また、販売方法も受注生産にして、余りが出ないようなシステムにしました。

買うときに、捨てることも考える

色々考えて作られたものだと思うと、愛着が湧きますよね。ごみ清掃員の視点として、エシカルな消費をするために、ここに気をつけて欲しいということはありますか?

まずはものを買うときや、人にものを贈るときに、捨てるときのことまで考えて欲しいです。実際に回収をしていると、安いものや貰いものの方が躊躇いなく捨てられている気がしますね。春の引越しシーズンになると、タグがつけられたお洋服がそのまま捨てられてたり、お中元やお歳暮シーズンには、貰った箱のまんま捨てられていたり。なかにはメロン丸ごと3つ捨てられていたこともありましたよ!毎年の慣習で贈っているけど、実は不要なものも多いかもしれない。貰った側も、自分で買ったものではないから躊躇なく捨てられるんだと思います。あ、でも、金券が捨てられているのは見たことがないですね(笑)。

滝沢さんは捨て方に迷った時は、どうしていますか?

ごみの捨て方は地域によって違うので、地域の情報を参考にしていますね。でも実際、地域によっては細かく書かれていない場合もあります。たとえば「化粧品」と言ってもたくさんの種類があるけど、ひとまとめに書かれているとか。

迷ったら、自治体などの問い合わせ先に電話して聞くのが良いと思います。実際、現状は無理に回収に来て欲しいとかクレームの電話の方が多いようですから、逆に正しい捨て方の問い合わせがあったら、喜んで色々答えてくれると思いますよ!

それに、買うことはできるけど捨てることができないものもいっぱいあるんですよ。たとえばリチウム蓄電池は地域の指定する回収ボックスに持っていく必要があります。そのまま不燃ごみに出してしまうと、火災になり命の危険にも繋がるので、気をつけてほしいです。

▼滝沢さんが捨て方を教える環境省の動画

その先にある顔を想像するだけで、捨て方も変わるだろうなと感じます。

やっぱり、顔の見える経済活動をしていくことが大事ですよね。捨てるときだけでなく、誰から買うかということは、大事にしてほしい。例えば、豆腐は賞味期限が短くそのままパックごと捨てられているのをよく見ます。でも私の子どもの頃は、近所の商店街の豆腐屋さんに必要なときだけザルを持って買いに行ってました。今思えば、ごみも出ないし良いですよね。豆腐屋さんは少なくなってしまいましたが、今も私はものを買うときはできるだけ友達や知り合いのやっているお店から買おうとしています。実際に作り手の顔が見えなくても、生産者の見える地元のものを選んだり、方針に共感ができる企業のものを買ったりしています。ちょっと値段が高くても、1回の飲み会を我慢したら一緒だな、と選んでいます。

目の前から無くなったごみの行方

滝沢さんがごみに関する活動を幅広くされるなかで、日常だけでなく、広い視点で課題に感じることはありますか?

ごみって、貧困な国に全部流れていくんですよね。売る側からしたらごみ同然のものも、貧困な国からしたら、分解して使える道具が入っていることもあります。だから、安く買ってくれるところにごみを輸出しているんです。実は、ごみを輸出したことも、リサイクル率に含められてしまう場合があります。

ガーナには電子機器の墓場と言われているところがあります。受け入れた電子機器から電線などを燃やして希少金属を取り出すんですが、有害物質が出るため地域住民は若いうちから発ガン率がとても高いそうです。

ごみはいろんな国に押し付けられていて、買った先でも処理しきれないから川に流してしまうこともあります。それがまわりまわって、海を流れて日本に辿り着いている可能性も、ないとは言えません。

滝沢さんの著書で、星新一の短編作品『おーいででこーい』(※2)のような世界になるかもしれない、と言う部分を読んでゾッとしました。

日本に住んでいる人って、とっても綺麗好きなんですよ。この前も羊羹を貰って開けたら、何重にも梱包されていました。清潔なのは良いことですが、過剰すぎると感じることもあります。いくら綺麗好きでも、結局目の前からなくなったらごみなんてどうでもいい、という考えが根本にあるうちは、ごみは減りません。

過剰包装にも現れているように、日本は世界で2番目にプラスチックを使っている国。でも出たプラスチックの処理が追いついていないのも事実です。プラスチックは作るときも燃やすときも二酸化炭素を排出するため、焼却炉で一番燃やしたくないごみだと言われています。

とはいえいまは日本でもSDGsの勉強を始めて数年くらい経っていて、だんだんと消費することへの意識が高い子どもたちも増えています。一番気をつけないといけないのは、若い人ではなくて、私たち上の世代の人なんだろうなと思いますね。

※2 補足:星新一『おーいでてこーい ショートショート傑作選』 (講談社青い鳥文庫、2001年)より。ある日現れた穴に人間がありとあらゆるごみを捨てていった結果、ある日捨てたはずのごみが空から降ってくるという話。

「滝沢ごみクラブ」の活動

SNSやラジオアプリ等、インターネットを通じて日々滝沢さんが全国に呼びかけられていることで、ごみへの意識が高まった方は多いと思います。

ありがたいです。でも私だけがやっても、日本全国にごみのことを知ってもらうにはあまりにも手が足りないので、私が主催のオンラインコミュニティ「滝沢ごみクラブ」のメンバーにも協力して貰っています。たとえばラジオアプリVoicyで毎週配信している「滝沢ごみラジオ」に出て貰ったり、私が呼ばれた講演会の時間を少し使って「滝沢ごみクラブ」のメンバーが紙芝居したりと、様々な活動を一緒にしています。

メンバーのなかにはお仕事の方が大変で続けられないという人もいます。この活動でも協力してくださる人へきちんとお金でも還元できるように、今後はそのようなシステムをしっかり作っていきたいなと思っています。

そんな「滝沢ごみクラブ」が主体となったイベントを5月にされるそうですね。

そうなんです。5月3日(ごみの日)から1ヶ月、「滝沢ごみクラブ」主催でごみフェスをやる予定です。2023年も開催していて今回で2回目。イベントの皮切りにはごみ清掃員をやっている芸人達と一緒にごみについてトークライブをやります。実は私以外にもごみ清掃員をしている芸人は結構いるんです。

その他にも、相方の西堀や、お笑いコンビ・ランジャタイの伊藤ちゃんから古着を貰って、リメイクしたハンドメイドグッズを芸人の田上よしえさんに作っていただきます。また、洋服のハギレを使ってお花を作るワークショップもあります。そのハギレにはなんと私の未発表の小説をプリントします。読みたい人も参加してもらえたら良いなと。

小説も執筆されているという滝沢さんならではのアイデアですね!この1ヶ月、とても楽しみですし、よりごみをゼロにできるよう意識しようと思います。

おわりに

ごみ清掃員の日常を発信することを起点に、より良い未来を作るために幅広い活動をする滝沢さん。現在「滝沢ごみクラブ」の活動を始め、フードロスを活用できる食堂を作ったり、コンポストの受け入れ先を全国に探したりと、書ききれないほど様々な取り組みも始めているそうだ。ごみの行き先を、私達はどれくらい知っているだろうか?ぜひごみゼロの日をきっかけに、買うこと・捨てることについて想いを巡らせて欲しい。

 

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)
1976年生。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2023年「THE SECOND〜漫才トーナメント」準優勝。芸人の傍ら、ごみ収集会社で清掃員として勤務。ごみ清掃の視点から発信するごみ問題などのSNS投稿が注目を呼び、現在は「ごみ研究家」としてイベントの実施や講演会への登壇も行う。著書に『このゴミは収集できません』(白夜書房)、マンガ『ゴミ清掃員の日常』(講談社)、『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(太田出版)等。

 

取材・文:conomi matsuura
編集:さとうもね
写真:服部芽生