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エシカル消費とは?その意味と事例を徹底解説

現代を生きる私たちにとって、生きることはすなわち消費することと言っても過言ではない。いま注目を集める「エシカル(倫理的)消費」は日々の暮らしのなかで、より良い社会の実現に向けて人や社会、環境に配慮して生きることと同義だといえるだろう。この記事ではエシカル消費の概要と普及における課題を紹介する。

エシカル消費とは?

国連の研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が発表した「持続可能な開発レポート2022」(※1)によると、日本のSDGs達成度ランキングは163カ国・地域のうち19位。そして、17の目標のうち6つの目標について主要課題が残る(未達成)と評価された。そのなかのひとつが、SDGs12「つくる責任、つかう責任」であり、エシカル消費はこの目標達成に強く結びつくアクションだ。
消費者庁によると、エシカル消費は「消費者それぞれが各自にとって社会的課題解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」と定義づけられている。(※2)これまでの一般的な消費者の意思決定では、目先の利益を最大化することに重点が置かれていたに違いない。たとえば、ほぼ同じ中身の商品が2つ並んでいる商品棚を想像してほしい。中身に大きな差がないのであれば、基本的には安い方を選択するのではないだろうか。あるいは、品質や安全性をその選択基準に含めることもあるだろう。
一方でエシカル消費を実施する場合には、これらの指標以外にも「他の人々や自然界への⻑期的な利益への考慮」という要素が含まれる。身近な例だと、マイバッグやマイボトルの利用、エコ商品や地元で作られた商品を選択することもエシカル消費の一環だ。あるいはフェアトレード認証商品の選択、障がいを有する人々の支援に繋がる商品の選択もエシカル消費を実践しているといえるだろう。(※3)

※1 参考:The United Nations Sustainable Development Solutions Network (SDSN) "Sustainable Development Report 2022"(2022)
https://s3.amazonaws.com/sustainabledevelopment.report/2022/2022-sustainable-development-report.pdf
※2 参考:消費者庁ウェブサイト 「エシカル消費とは」
https://www.ethical.caa.go.jp/ethical-consumption.html
※3 参考:消費者庁「みんなの未来にエシカル消費」(2020)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/material/assets/ethical_20201119_0001.pdf

エシカル消費が近年注目される理由とその重要性

エシカル消費は、消費者1人ひとりが課題解決者として参加できるアクションだからこそ、近年において注目を集めている。
かつて「技術革新や効率的な市場メカニズムを推し進めることが何にも増して重要だ」という見解が支配的な時代があった。しかし、空気や水、森などの資源を犠牲としてこの言説は成り立っており、恩恵を享受した一部の人々は⻑い間その負の影響に目を瞑ってきた。そのつけが回り、現在気候変動・森林破壊・海洋汚染など対処すべき問題は山積みになっている。
このように市場偏重経済がもたらした負の側面が明らかになるなか、ひとつの潮目が2015年に訪れた。SDGsの採択である。そしていま現在、私たちの周囲ではさまざまな変化が起こっている。たとえば買い物の際に無料でビニール袋が提供されなくなったり、カフェではアイスコーヒーを注文すると紙製のストローが付いてくるようになった。(※4)もし、これが一部の企業だけによる局地的な施策だとしたら、消費者に広く受け入れられていただろうか。
これらの事例から分かるのは、長期的には地球環境やサプライチェーンの質を悪化させる可能性が高いが、短期的な利益を鑑みると止められない企業活動に、社会としておかしいと言えるだけの共通認識が形成されつつあるということだ。エシカル消費自体は1980年代のイギリスが発祥であり倫理的な正しさを消費行動に反映させようとするムーブメントだったとされる。(※5)その後、SDGsの採択によって消費者の価値観や企業行動に変化が見られ、それが社会全体に広く浸透しつつあるのがエシカル消費の現在地だといえる。

※4 これらの施策が根本的なプラスチック削減に貢献できているかというと賛否両論あるが、ここでは石油製品依存型のライフスタイル転換を促す契機になったとする見方もあるため取り上げた。
参考:NHK「レジ袋の有料化 効果あった?」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20210630/416/
※5 参考:消費者庁「海外における倫理的消費の動向等に関する調査報告書」(2016)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/consumer_education/ethical_study_group/pdf/160331_1.pdf

エシカル消費の事例

人や社会、環境に配慮した消費行動は消費者個人でできる取り組みと法人企業が取り組めることがある。

消費者による例

・買い物時にマイバッグを持参し使用する

・使い捨てプラスチック製品を使用しない

・地元や国産の産品を購入する

・エシカル消費に関連する認証ラベル・マークのついた商品を購入する

企業による例

・キリンホールディングス

提供製品に使用される容器において、材料の非再生資源への依存の低減を目指す取り組みを行っている。紙容器ではきちんと管理された森林で伐採した木材から作られた素材である「FSC認証紙」の使用比率100%を達成、再生PET樹脂を100%使用したペットボトルやラベルレス商品の販売に取り組んでいる。(※6)

・インディテックス(ZARA)

2022年に電力の100%を再生可能エネルギーから獲得し、2023年には顧客へのプラスチック製品の提供を100%制限することとし、2040年にはネットゼロ(温室効果ガスの排出を正味ゼロにする)を目標として掲げている(※7)

※6 参考:キリンホールディングス「キリングループ環境ビジョン2050」https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/mission/
※7 参考:INDITEX「Sustainability」
https://www.inditex.com/itxcomweb/en/sustainability

エシカル消費の課題・問題点

従来は限られた層の人々しかエシカル消費を実施してこなかったが、現代の日本においては 幅広い消費者が関心を寄せるようになった。以下は消費者庁が2020年に公表した「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する消費者意識調査報告書」に掲載されている「エシカル消費の興味度」だ。(※8)

出典:消費者庁 「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する 消費者意識調査報告書」(2020)

この報告によると「(エシカル消費に)非常に興味がある」「ある程度興味がある」と答えた人の割合が2016年度から2019年度にかけて23.2%増加しており、エシカル消費に興味を持つ人が増えていることが分かる。

出典:消費者庁 「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する 消費者意識調査報告書」(2020)

一方で、エシカル消費という言葉の認知が広まったものの実際の行動に移せてはいない消費者が多いのが現状だ。エシカル消費に関連する言葉を知っている人にエシカル行動をどのくらい実践しているかについて尋ねたところ「よく実践している」「時々実践している」と答えた人の割合は36.1%となっている。(※8)

※8 参考:消費者庁 「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する 消費者意識調査報告書」(2020) 
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/investigation/assets/consumer_education_cms202_210323_01.pdf

エシカル消費の課題の事例

先述したように、関心を寄せる人は増えているにもかかわらず実際の行動につながっていない点がエシカル消費における課題だ。エシカル消費を行わない理由について、先の「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する消費者意識調査報告書」を基に明確な理由が述べられているものを2点挙げる。

1.価格が高い

まず、エシカルな商品は往々にして一般消費者に対する販売価格が高い傾向がある。その理由として、環境や人権に配慮した商品は製造過程において原材料費・人件費といった費用が高くなりやすいことが挙げられる。

2.そもそも実施意義が見いだせない

次に、消費者は「自分の力が問題解決に影響を及ぼさない」と感じるのであれば、持続可能な消費行動をしないとされている。(※9)実際にたった数回エシカル消費を実行するだけで魔法のように環境問題が解決するケースは考えにくく、それはハチドリの一滴のような行為なのかもしれない。自分の行動が環境保護に結びついていると感じられないのであれば、無気力感を覚え、継続してエシカル消費を続けるインセンティブが薄いことは想像がつく。

※9 参考:White, Katherine, Rishad Habib, and David J. Hardisty. "How to SHIFT consumer behaviors to be more sustainable: A literature review and guiding framework." Journal of Marketing 83.3 (2019): p.14-15.
https://www.researchgate.net/profile/Katherine-White-9/publication/331104932_How_to_SHIFT_Consumer_Behaviors_to_be_More_Sustainable_A_Literature_Review_and_Guiding_Framework/links/5dc0f70e4585151435e8d1f7/How-to-SHIFT-Consumer-Behaviors-to-be-More-Sustainable-A-Literature-Review-and-Guiding-Framework.pdf

企業はエシカル消費の潮流とどのように向き合うべきか

ここまでは主に消費者におけるエシカル消費について触れてきた。では、商品・サービスを提供する側である企業はどのようにしてエシカル消費を自社のサイクルに組み込むべきなのか。
前提として最も重要なのは、ただエシカルを標榜するだけではなくその実態が伴っていることだ。近年では、実際には倫理的な取り組みをしていない企業が、その商品やサービスがエシカルであるかのようにごまかす「エシカルウォッシュ」と呼ばれる偽装を働き、消費者からの批判を浴びた例も存在する。
そして、環境やサプライチェーンへの配慮を意識した商品は往々にして価格競争上は不利なように思われるが、自社が提供している価値を理解する消費者が増えることで自社の長期的なブランド形成にも貢献可能だ。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)が求められるなか、持続可能性の高いサービス・財の提供への要請がより高まることが予想される。

まとめ

環境問題解決への気運が高まるなか、今回主に取り上げた消費者・企業それぞれのステークホルダーには次のような行動が要請されている。
まず、消費者は環境に配慮した消費行動を実施する必要性が高まっている。冒頭にも述べたように、私たちの生活と消費活動は切っても切り離せない関係にある。消費行動は、いわば購入対象のモノやサービスに日々投票しているようなものだ。重要なのは自分の投票先が何につながっているのかに思いを巡らせ、よりよい社会の実現に貢献することである。
そして、企業においては持続可能なビジネスを実施する方法を構築する必要がある。環境悪化、汚染、気候変動、社会的不平等と貧困の増大などの問題に配慮しつつ、いかに本業として長期的視点に立った経営戦略を取ることができるかが重要だ。
「エシカル消費」を単なるムーブメントに終わらせず根付かせていくためには、消費者側のボトムアップの働きかけと企業におけるトップダウンの働きかけ、この双方が重要ではないだろうか。


文:Mizuki Takeuchi
編集:篠ゆりえ


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