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俳優で起業家の小林涼子による特別講義。ストレングスを活かした働き方とは |マスタークラス by あしたメディア

あしたメディアにゆかりのある方々がBIGLOBEの社員向けに講義を行う特別企画「マスタークラス by あしたメディア」。

2024年2月、第2回として、俳優であり株式会社AGRIKOの代表でもある小林涼子さんを迎えた講義を実施した。今回の講義のテーマは「ストレングス視点で考える働き方」。この記事では、その講義の内容をレポートする。

「マスタークラス by あしたメディア」第1回、橋口幸生さんによる講義のレポートはこちら

俳優として活動してきた小林さんが起業した背景

小林さんは4歳から俳優業を始め、長年のキャリアのなかでドラマや映画に多数出演。その傍らで、2021年に起業し、障がい者が農業の分野で活躍することを目指す「農福連携(農業と福祉の連携)」を軸に自身のバックグラウンドを活かしながら会社を経営してきた。

小林涼子さんのインタビュー記事はこちら

小林涼子さんによるコラム連載はこちら

そんな小林さんは、講義の始めにまず「皆さん、仕事は好きですか?」と投げかける。

「私自身、俳優業は大好きなのですが、20代の途中でどこか疲れを感じてきた部分があり、両親の勧めで2014年から新潟県の棚田で稲作に関わるようになりました」

小林さんはそこで、新潟の空気の綺麗さや自分でつくって食べるお米のおいしさに触れた。そんななか、家族の体調不良をきっかけに農業に関わり続ける難しさと農業に関わる人が少なくなっていくことに気づいたという。その気づきが、持続可能な農業を目指してAGRIKOを起業することに繋がった。

「数年間稲作に関わるなかで、おいしいものを食べられる今の環境は当たり前ではなく、農業に関わる方々の努力や苦労のうえで成り立っているのだと実感しました。同時に、農業に関わるハードルの高さや1人でできる農作業の限界も感じていたので、それらの課題を解決するために自分にできることを探していくなかで起業をすることになりました」

AGRIKOという社名の由来は「アグリカルチャーの子ども」。これまでは親子代々で受け継いでいくことも多かったアグリカルチャー(農業)の担い手が減少している今、自分たちが子どもとなって未来をつくっていく、という意味が込められている。

小林涼子さん

AGRIKOで解決できること

「人にも環境にも負荷がなく、美味しいものが食べ続けられる未来をつくる」

「障がい者も高齢者も無理なく続けられるバリアフリーな農業の実現」

これはAGRIKOが掲げるビジョンとミッションだ。小林さんは、自分も無理なく続けられる農業の形を模索するなかで、自身の出身地である世田谷区で農地を探し始めた。

そして現在、桜新町にあるOGAWA COFFEE LABORATORYの屋上でコミュニティファーム「AGRIKO FARM」を営みながら、主に遊休地活用、障がい者雇用、SDGs・CSR・ESGに関する相談を企業や土地所有者から受けている。

こうしたAGRIKO FARMの取り組みについては、ファーム開園時にお話を伺ったこちらのインタビューに詳しく記載されているため、ここではAGRIKOが提案する働き方にフォーカスした内容を届ける。

AGRIKOでは、障がい者採用アドバイスと雇用継続に対する支援、そして子育て世代の女性が活躍できる場の創出を行っている。

厚生労働省の『障害者雇用率制度』によると、企業は従業員43.5人に1人の割合で障がい者を雇用をしなければいけない。一方で、どのように障がい者を雇用し、どのような仕事を任せられるのかといったノウハウがない企業もあるだろう。そんな企業に対しアドバイスを行い、AGRIKO FARMを障がい者の活躍の場の1つとして提案している。

また、AGRIKO FARMの運営スタッフはほとんどが女性だという。「子育て世代の女性にも社会的な居場所や働きがいを」という思いのもと、柔軟なシフト構成や在宅勤務を取り入れることで働きやすさを担保しているのだそうだ。

映像制作の現場を参照した「作業の細分化」

そんなAGRIKOで大切にしている働き方に関するポイントとして、小林さんは「作業の細分化」と「ストレングス視点」の2点を挙げた。

「作業の細分化」については、ドラマの制作過程を例に説明する。

「撮影から放送までの間にはたくさんの人が関わります。まず企画の段階では、営業担当やプロデューサー、原作者、脚本家、キャスティングのスタッフが、どんなドラマをつくろうか、このスタッフやキャストにお願いしよう、どこでロケしよう、などと計画を立てていきます。

スタッフィングができたら各部が撮影準備をし、撮影が始まります。撮影にはそれまで関わったほぼ全てのスタッフが参加します。

それから編集のセクションでは、全体をつないだり、撮影中に入ってしまった雑音を除いたり、放送枠に合わせて尺を調整したり様々な部署が協力し編集をします。作品が完成した後も、放送にあたって告知をするためにプロデューサーや広報部、俳優部が広報活動を行います」

作業の細分化と合わせて、分業の考え方も重要だろう。ドラマ撮影のチームには撮影時に必要になる車の運転を担当する車輌部と呼ばれる部署もあるという。1つ1つの工程にそれぞれのプロフェッショナルが関わっているということが窺える。

小林さんは、そんな映像業界に対して、従来の農業は1人で多くの工程を担っている場合が多いのだと話す。お米づくり1つ取っても、88の手間がかかると言われている一方で、その全てを1人の農業者が行っているというのだ。

そこで、AGRIKO FARMでは、作業の細分化と分業を行っている。ここで重要になるのが「ストレングス視点」だ。

バックグラウンドや働き方を捉え直して見つける「ストレングス」

ストレングスとは、それぞれの個人が持つ長所や強み、できることを指す。

小林さんはまず、自身のバックグラウンドとAGRIKOでの働き方について、これまでの経緯と課題をこう説明した。

・4歳から俳優業を開始。学生生活は撮影に明け暮れ、一般就労経験がない
・起業したものの書類作成ができず窓口へ相談へ行った
・書類を作成したいが経験がなく、わからない。作成した書類を窓口の方に見ていただいたらミスが発覚。訂正した
・会社運営を2年する中で、俳優業が忙しくなり両立のバランスが難しく、スタッフが現場チェックを行う際に抜け落ちを指摘されることが増えた

ストレングスを見つけるためには別の視点から捉え直す「リフレーミング」が必要だと話す。先ほど挙げた自身のエピソードをリフレーミングするとどうだろう。

一般就労経験がない代わりに俳優業での多様な経験やコネクションがあり、1つのことを継続できる忍耐力がある。書類作成できなかった経験も、問題を認識し相談できる判断力があり、窓口で教えてもらって学べる力があると捉えられる。

また、俳優業との両立が難しくなったことでスタッフにミスを指摘されることが増えたことに関しても、俳優業が忙しくなることはいいことであり、ミスを指摘してくれるほどにスタッフが成長している、と話す。

「たとえば得意科目からストレングスに合った働き方を探すこともできると思います。数学が好きな人もいれば美術が得意な人もいるなかで、美術が得意な人に数字の計算をお願いしてもなかなか上手くいかないですよね。

趣味からストレングスを探すとしたら、ゲームが好きで休日は何時間でも集中してゲームできる、という人は集中力を活かせる仕事が合っているかもしれません。ネットサーフィンが好き、という人にはリサーチの仕事を任せたらよさそうです。

障がい者雇用においても、障がいに焦点を当てるとできないことに注目してしまうと思うのですが、ストレングス視点を取り入れることでできることに注目し、本人にとっても働きやすく、企業にとっても新たな価値の創出につなげられる機会になるのではないかと思います」

ストレングス視点による新たな取り組み

ストレングス視点を取り入れたことで始まったAGRIKOの取り組みがあるという。それが障がい者雇用によってファームで働く方々とアート制作を行い、商品化していく取り組み「パラアートノベルティ」だ。

「パラアートノベルティ」は現在、サンマルクホールディングスが運営するBAKERY RESTAURANT Cで配布されるコースターや、自社で栽培したレモンバーベナを使用したレモネード用のシロップ「やさしいシロップ」、薬剤師さんとコラボレーションして作ったエナジードリンク「e:FORCE」のラベルなどに展開されている。

スタッフ1人1人がストレングスを活かして働ける環境づくりにつながるのみならず、企業としても新たな価値を創出するきっかけになった例だと言えるだろう。

「パラアートノベルティ」の展開例の1つである「e:FORCE」

今回も講義の最後には質疑応答の時間が設けられた。「助けを求めるのが苦手な社員や自分の仕事は全部自分1人でやりきらなくてはいけないと思っている社員が多い傾向があります。それぞれのストレングスを活かして仕事を進めるためにもそれぞれ困っていることなどを共有するにはどうしたらよいでしょうか」という質問に対して、小林さんはこう応えた。

「AGRIKOではアンケートフォームを使ってそれぞれが困っていることを集められるようにしています。あとは私が先陣を切って『困ってます』と言うことも多いですね。立場が上の人から言うようにすると皆さん言いやすくなると思いますし、私が苦手なことを知って助けてくれた社員がその分野においてすごく優秀だと発見できることも多くあります」

自分や仕事仲間のストレングス(強み)はもちろん、弱みや悩みもきちんと共有することも大切だろう。今回の「マスタークラス by あしたメディア」も、それぞれが自身の働き方やキャリアを省みるきっかけになるような内容あり、チームビルディングや新規事業企画のヒントになるような内容ありの充実の講義となった。

また、今回講演いただいた小林涼子さんの出演する前期連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合ほか)が2024年4月1日より放送開始する。俳優としての小林涼子さんからも目が離せない。

取材・文:日比楽那
編集:conomi matsuura