よりよい未来の話をしよう

食事から気候変動にアクション。「クライマタリアン」というライフスタイル

気候変動が深刻化している。十数年前には「遠い国のできごと」として描かれることが多かった印象だが、毎年のように国内では気温40度を超える夏の猛暑が記録され、世界各地で発生する住居を押し流すほどの洪水のニュースを見るたびに、まさに私たちの生活に降りかかってきている喫緊の課題であると感じるようになった人も多いのではないだろうか。

しかし実際に体感している環境問題に対して「どんな行動をするのか」、落とし込み考えるきっかけは、まだまだ日常生活の中では乏しいように感じる。今回は、誰でも自分のペースで食から環境問題に対してアクションできる、「クライマタリアン」という選択肢をご紹介したい。

着実に地球環境は蝕まれている

まず、地球の気候変動はいまどのような状況にあるのだろうか。世界平均気温(※1)の基準値(1991年〜2020年の30年間平均値)からの偏差を示した以下のグラフを見てみると、毎年変動はありつつも、全体的に気温は上昇傾向にあることが見て取れる。長期的に見ると100年あたり0.74度の割合で上昇しており、上昇傾向は1990年代半ばからより顕著となっている。

出展:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年:速報値)」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html

実際に気温が上昇することで、地球に、そしてわたしたちの生活にどのような影響が生じるのだろうか。海面水位の上昇により低地が水没することや日本における夏の猛暑などの異常気象などは脳裏に浮かぶと思うが、正直なところ、それ以上に具体的なイメージが浮かばない人も多いのではないだろうか。

ここで、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)が提供しているサービス、「未来47景」を紹介したい。自分の地元など大切な場所が気候変動によって将来どのように変化する可能性があるか、そのシミュレーションをわかりやすく紹介してくれるサービスで、全国47都道府県が対象となっているだ。東京を例に挙げると、気候変動により集中豪雨や台風が激化すること、その影響でいまより4倍洪水が起きやすくなり、東京湾につながる河川が氾濫した場合、東京23区のうち3分の1が浸水する可能性があることがイメージ画像と共に紹介されている。

出典:公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)「未来47景」

47都道府県それぞれ身近な例を挙げて説明されており、気候変動による影響の具体的なイメージが湧くだろう。いずれにしても、少し目を見張ってしてしまうような気候変動の影響が紹介されている。

2021年に実施された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、2015年のパリ協定で定められた「1.5度努力目標」が、国連気候変動枠組条約締結国の事実上の目標となった(※2)。もしこの目標を実現できなかった場合、未来はどのようになるのだろうか。その予想図は、環境省が作成した動画「2100年 未来の天気予報 『1.5℃目標』未達成・夏」で知ることができる。

夏には日本全国で40度以上の猛暑を記録する日が続き、大規模な台風が発生したり、国産の米が食べられなくなる可能性が指摘されたりと、なかなか衝撃的な日常が描かれている。

現実社会でも、2022年は欧州各地で猛烈な熱波による死者が報じられた。ポルトガル・スペインでは、最高気温が45度を超え、高齢者を含む1000人超が亡くなった。

「2100年 未来の天気予報」が伝える日常が、たった80年弱の未来の話と考えるだけでも、ことの重大さが分かるが、既に現実のものとなっている問題なのだ。

※1 参考:このデータで言う世界平均気温とは、陸域における地表付近の気温と海面水温の平均を指す。
※2 解説:2021年10月〜11月にかけて、英国で「COP26」が実施された。そこでは、2015年のCOPで参加国により合意された「パリ協定」の内容である、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標について、各国が2030年までに具体的に取り組む野心的な対策を策定することが定められた。
  参考:経済産業省資源エネルギー庁「あらためて振り返る、『COP26』(前編)~『COP』ってそもそもどんな会議?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop26_01.html(2022年12月26日閲覧)

いま食べているりんごは、数年後もう食べられないかもしれない

身近なところでは、いま当たり前のように食べられている食材が気候変動によって食べられなくなることもあり得る。たとえば、温帯・熱帯地域で作られる小麦や大豆、トウモロコシなど人間の食生活の根幹を支えているこれらの食物の収穫量は、気候変動によってマイナスの影響を受けていることが指摘されている(※3)。食料自給率が低く他国からの輸入に依存している日本では、大きな影響を受けることになるだろう。

また、日本の各地で生産しているりんごも気候変動の影響を受け始めている。味に注目すると、温暖化によって酸味が減る一方、糖含量が増加傾向にあり、やや甘く感じるように変化しているという研究結果が報告されている(※4)。見た目についても変化があり、りんごが色づく秋の季節の気温が高くなったことで色づきが悪くなったり、収穫時期が遅くなり出荷の時期が変わってしまったりといった影響が出ているそうだ。日本国内で様々なブランド品種を栽培しており、味・色づきともに秋から冬にかけて楽しむことができる果物がりんごであるが、温暖化でその味や見た目、シーズンなどが少しずつ変わってくるのかもしれない。

出典:1999/農研機構 果樹研究所 杉浦俊彦 全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより (http://www.jccca.org/)

※3 参考:環境省「STOP THE 温暖化 2017」p.8
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge/Stop2017.pdf 20221226日閲覧)
※4 参考:農研機構「地球温暖化でリンゴの味が変化している(2013820日)」https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/fruit/048269.html

「クライマタリアン(climatarian)」という選択

このような現状に対して、私たちはどのように行動していけるだろうか。日常生活と地球規模の環境問題の間には、大きな差があるように感じることもあるかもしれない。

そこでご紹介したいのが、「クライマタリアン(climatarian)」というライフスタイルである。気候を表す「climate」と「〜主義」という意味を表す「tarian」を組み合わせた造語で、2015年にニューヨークタイムズ紙で新たなフードワードとして紹介された、比較的新しい概念である。CO2など温室効果ガスの排出量を減らすといった気候変動に配慮した食生活を行うことで、気候変動に「食」を通じてアクションができる。

食がどのように気候変動に配慮することにつながるのか、すぐにはイメージできないかもしれない。イギリスに拠点を置く非営利団体Climates Network CICは、世界におけるCO2排出量の24%は、食産業によるものだという統計を発表している。一般家庭の電力消費は25%を示しており、排出量の差が1%に留まることを考えると、食産業が環境に与える負担のインパクトの大きさが分かる。

出典:Climates Network CIC https://climatarian.com/climate/

以下の図は、食材ごとの生産や輸送などにかかるCO2排出量を総合的に比較したものである。とくに牛と羊が、他の食材と比べてCO2の排出量が高いことが示されている。動物性脂肪(Animal fats)や肉類がそれに続き、魚や卵、豚や鶏(Poultry)は比較的小さいことが見て取れる。こうやって見てみると、「何を食べるか」ということが気候変動に大きく影響を及ぼすことが理解できる。

出典:Climates Network CIC https://climatarian.com/climate/

クライマタリアンは、ベジタリアン(菜食主義)やペスカタリアン(菜食に加えて魚介類を食べる主義)など特定の食べ物を排除する考えではなく、より温室効果ガスの排出抑制が少ない食べ物を選ぶという考え方である。たとえば肉を選ぶとき、牛肉は生産過程で排出する温室効果ガスが他の家畜に比べて高いため、豚肉や鶏肉といった他の肉を意識的に選ぶことが該当する。あるいは、畜産業自体が生産や輸送の過程で大量のCO2やメタンガスを放出するという観点から、肉自体の消費を減らすという選択もあり得る。

また、食材の輸送にかかる環境負荷に配慮する観点もある。遠方からはるばる船や飛行機、自動車によって運ばれた食材よりも、地元で採れた食材を食べる「地産地消」の考え方を取り入れた方が、温室効果ガスの排出を抑えられ、環境負荷は小さくなると言える。その点、食料の輸送距離を示すフードマイレージ(※5)と似た考え方だとも捉えられるだろう。
アメリカの外食産業ではすでにこのトレンドが取り入れられており、クライマタリアン向けのメニューを提供する店舗や、注文した食事の環境負荷を確認できるアプリなどが生まれている。日本で体感できる身近な例でいうと、家具販売大手のイケアが店舗内のレストランで提供するミートボールは、植物由来の原料で作られているという。それにより、通常のミートボールに比べ温室効果ガスの96%を削減できているというから驚きだ。

※5 用語:食料の生産地から消費者の食卓に並ぶまでの輸送にかかった「食料の輸送量(t×輸送距離(km)」を掛け合わせた指標。食料の輸入が環境に与える負荷を数値化し、可視化することにつながる。食料自給率の低い日本は、フードマイレージが極めて高い現状がある。

始めてみよう、クライマタリアン

クライマタリアンに関心を持ったとき、具体的にどんなことから始められるだろうか。気軽に選択できる行動をいくつかご紹介したい。

・ミートフリーマンデー

ミートフリーマンデーとは、ポール・マッカートニー氏が地球環境保護のために提唱している考えで、週に1日、肉を控え菜食を摂るという行動だ。前述したように、畜産業はその生産過程で多くの温室効果ガスを排出する。私たちの食生活では日々大量の肉を消費しているが、週に1度だけ、意識的に肉を避ける日を作ることでも、気候変動に配慮した行動になると言える。

・地産地消

こちらも前述の通り、近隣地域で獲れた作物を食べることで、輸送における環境に負荷の小さい食事を選択することにつながる。スーパーマーケットに行った際、最近ではどの店舗にも「地元の野菜」を販売するコーナーはがあるのではないだろうか。あえて地元の作物を買うこともクライマタリアンの姿勢に通じるし、自分の住む地域の特産品や季節の美味しい食材を知り直すきっかけにもなるだろう。

・フードロスをしない

食材を使い切ることも環境負荷の低減につながる。現在、余った食品の廃棄や焼却により多くのCO2が排出されており、2021年に国連環境計画(UNEP)が発表した報告によると、世界の温室効果ガスの810%は消費されなかった食料によるものだとされる(※6)。食べ残しをしないということだけでなく、適量を購入し、無駄になる食材を減らしていくことも、環境負荷低減に貢献することになる。

※6 参考:国連環境計画(UNEP)「Wasting food just feeds climate change, new UN environment report warns」(4 March 2021
https://news.un.org/en/story/2021/03/1086402

クライマタリアンは、気候変動に配慮した食生活を選ぶという姿勢であり、大きな制約があるわけではない。その点、ヴィーガンやベジタリアンよりもカジュアルに、自分のペースで取り組めるアクションだと言えるだろう。普段買い物をするとき、少しだけ立ち止まってその生産過程や輸送過程を想像してみる。そしてより環境負荷の小さい商品を選択する。そんなことを、まずは無理のない形から始めてみるのはいかがだろうか。

 

文:大沼芙実子
編集:おのれい