インターネットやSNSを通じて情報が溢れた社会で、いま、若者は政治にどう関わり、政治をどう見ているのだろうかーー。
そんな疑問からはじまった連載「若者が見る“政治のいま”」。選挙権を持つ若者がどのように政治を捉え、関わっているのか、様々な角度から深掘りしていく。
3回目となる今回は、アイドルからキャリアチェンジをして、渋谷区議会の議員として活躍する橋本ゆきさんと、老舗和菓子屋の女将をしながら埼玉県桶川市議会の議員として活躍する榊萌美さんにお話を伺った。日本では政界において「女性」「若者」という属性がマイノリティ的立場になりやすく、政治参画へのハードルになっていると考えられる。そこで20代で議員になったお2人に、「若者でありながら為政者として政治に関わること」について聞いてみた。
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政治家になった理由は「諦めたくなかった」
2024年の日本の政治分野のジェンダーギャップ指数をご存知だろうか。2024年は113位と、前年の138位から改善されたとはいえ、まだまだ低い。(※1)さらに、G7の中では最下位というのが現状だ。また、女性の政治家が少ないことに加え、日本は20代の若者の投票率が低いこともよく知られている。そのような環境の中で、橋本さん・榊さんはどうして政治家になろうと思ったのだろうか?
橋本さん、榊さんに共通しているのは「諦めたくなかった」という点であった。生活が自分の思い通りになっていると感じている人は、おそらくいないだろう。「諦める」が常態化しつつある現代において、2人は何を「諦めたくなかった」のか。
■橋本さん
「議員に立候補した背景には、アイドルグループで一緒に活動していたメンバーの存在があります。彼女は事故にあって、それでも車いすに乗りながらアイドル活動を続けていくことを選びました。その姿を見て、困難を抱える人がそれを理由に諦める選択をするのではなく、1人ひとりに合った選択肢があり、自分で幸せを掴み取れる社会にしていきたいと思いました。
アイドル時代から、報道番組のコメンテーターや新聞の社会面でのインタビューなど、社会や政治について発信する仕事をしていたので、しっかり政治のことを勉強したいと思い、大学卒業後に政治塾に入っていました。だから、社会を変える選択肢として政治家は身近なところにありました。
政治家として、声を政治に届けて、小さな変化を積み重ねていくことで、困難を抱えた人たちの選択肢を増やしたい。分野にとらわれず、自分がなんとかしたいと思ったことに対して行動ができることが、政治家の魅力だと思っています」
■榊さん
「立候補前の桶川市は、駅前の整備が数十年進んでいない状態が続いていて、市民と行政の間で少しずつ溝が生まれている状況でした。地元で女将として和菓子店を営むなかで市民の方とお話する機会も多く、皆様の不満の声やまちの課題が見えてきたことから、市民と行政を繋ぐ架け橋のような存在になりたいと考えるようになり、挑戦してみようと思いました。
また、政党という後ろ盾がないなかで挑戦することはとても大変なことですが、それでも、政党関係なく地元の課題を解決したいと、立候補する議員がいてもいいと思うんです。それが、次の世代の方が挑戦しやすくなるきっかけにもなればいいなと、無所属で選挙に挑戦しました。
わたしたちの生活は、政治で決定されています。しかし現状は、難しくて分からない、どうせ投票に行っても変わらないと諦めている方もたくさんいます。だからこそ、まずは自分が政治を理解して、より多くの方が政治に興味を持ち、自分たちの生活を諦めてしまう方が1人でも減るように伝えていきたいと思います」
※1 参考:世界経済フォーラム(WEF) 「Global Gender Gap Report 2024」
https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2024.pdf
▼女性議員が少ない理由について解説した記事はこちら
政治家として苦労したこと
次に、苦労したことについて聞いてみた。
「女性」かつ「若者」の議員となると、苦労することも多いと想像してしまう。政界でもたびたび女性へのハラスメントが問題になっており、その根底には政界のジェンダーギャップに起因する理由があるのではないか、と筆者は考えていた。しかし、2人にとって苦労の原因は、有権者や周囲の人との関わりのなかで感じる、小さなギャップにあるようだった。
■橋本さん
「選挙中は、どれだけの人が自分を応援してくれているか分からないことに苦労しました。政党の後ろ盾があって人を派遣してくれるとか、選挙資金の支援があるわけでもありません。自分でなんとか選挙資金をつくりましたし、携帯の連絡帳の上から順番に、『一生のお願いだから手伝ってほしい』と友達に連絡をしても、当時26歳で政治家になると言い出す人なんて珍しいので、なかなか手伝ってもらえず、引かれていると感じたこともあります。心の距離ができたことを感じて、寂しかったです。
一方で、当選後はのびのびと活動させていただいて、政策もたくさん実現することができています。渋谷は若者の街と言われる割に若い議員がいない状況だったので、みなさん若者の自分への向き合い方が寛容だと感じています。
先輩方にも恵まれていて、分からないことは何でも聞ける環境でありがたいです。初めて議会に立って質問するときも、質問原稿を細かくチェックしてもらうなど、チューターレベルで先輩が指導してくれました。委員会では、最年少の議員がポンと入ると、居心地が悪いのかな?と思ってたんですけど、職員の方も他の議員の方も、わたしの意見をすごく尊重してくれます」
■榊さん
「現状の悩みは、出産についての向き合い方です。選挙に出たときも、議員になってからも『議員になるなら、子どもは諦めるんだよね』『議員になったんだから、出産しても産休取らないで頑張ってね』という言葉をかけられることがあります。応援してくださる方が、前向きな応援の意味で言ってくださるんです。
皆様に投票していただいていまがあるので、期待に応えたい気持ちもありつつ、自分の今後の人生を考えると悩みます。こういった言葉はあるものと認識しつつも、今後社会全体で意識をアップデートし、誰でも自分の人生を大切にしながら挑戦できる環境にしていかなければいけないと思っています。
桶川市の議会は、全国的に見ても女性議員の割合が高く、議員数19名の内8名が女性議員です。そのため、子育て、教育、女性の労働環境など、女性視点の質問や議論も多く、いち女性市民としても嬉しく感じます。また、議会の中で女性を軽視するような発言はなく、1人の議員として尊重していただいています。楽しくお仕事をさせていただけて、ありがたい環境だなと感じます」
若者の政治意識の低さを政治家はどう捉えている?
次に日本の若者の政治意識の低さについて、為政者で若者である2人はどのように考えているか、率直な意見を伺った。
■橋本さん
「若者の政治に対する関心は、徐々に高くなっていると思います。立候補する若い方も、政治に参加しようとする若者も増えたと、各選挙を見ていて実感しますね。ありがたいことに、『渋谷区の区議選に出ようと思ってるんですけど…』と20代の方から、直接相談を受けたこともあります。
ただ、関心を持たない人もまだたくさんいますよね。この状況を解消したいのですが、アプローチが難しいと感じます。最近だと、過激なことを言ったり、事実を誇張させたりすることで注目を集める手法が政治界でも増えていて、わたしはそれには乗りたくないです。
そういった情報に基づいた投票行動が、有権者にとって後悔のない選択ができているかわたしは疑問に感じます。関心を得るために、何でもしていいわけじゃないと感じているので、バランスが難しいと思います」
■榊さん
「さらに若者が政治に関心を持てるような社会にしていきたいです。いろんな政党が分かりやすく政策を紹介して、『自分の推し政党はここがいい』って有権者同士がフランクに話せるぐらいがいいと思うんです。政治の話がタブーな風土をまず壊していかなければいけないと感じます。
いまはSNSや色んなメディアで政治の記事も載っており、以前より政治が身近になってきているなと感じます。自分が悩んでいることや実現したいことが、『政治を通じてこう変わるんだよ』と、諦めないで伝えてくれる同世代が身近にいることでも、少しずつ政治への向き合い方が変わっていくのかなと思うので、相談しやすい若い世代の議員はさらに必要だと感じてます」
▼「若者が選挙に行かない背景」を政治学者に聞いた記事はこちら
若者視点での政策
若い世代が議会に入ることの価値として、「若者目線」で政策提言ができることもあるだろう。社会には多様な年代の人が生活しているが、為政者の同質性が高いと、焦点を当てられない課題もあると思う。橋本さんと榊さんは、若者だからこそ提案できたことを、それぞれ語ってくれた。
■橋本さん
「10代から20代の若い世代の方が参加して、渋谷区の環境政策について議論する会議体『シブヤ若者気候変動会議』の設置を行いました。気候変動政策は、当事者としての意識が持てる若い世代で考えていくべきだと感じています。
そのほかにも、『同世代だから』という理由で声をかけてもらい、地域の学生団体と一緒に政治参加について考えたり、学生からまちづくりに関する提案をしてもらうワークショップを実施したこともあります。コロナ禍には、ライブハウスの換気対策の助成事業も実施しましたが、これも渋谷が好きな若い世代としての提案だったと思います。
若者の政治参加へのアプローチとしては、些細なことですけど、選挙の投票済証にハチ公のキャラクターをデザインしてかわいくしました。割と好評で、多くの方がSNSで『投票に行ったよ』と投稿してくれました」
■榊さん
「現在は、若者や移住者がまちに居場所ができるような取り組みを進めています。出店したい方の窓口になって、貸出可能な空き店舗を探したり、補助金の制度を紹介したりしています。また、地元の方との交流や、地元のお店に足を踏み入れやすくなるよう、若い方達と一緒にイベント企画も行っています。
今後、若者が政治に関心を持つためには、教育の変化が必要だと思います。実現できるかは分かりませんが、ワークショップ形式で政策について議論するような場が作れたら良いな、と考えています。政治って『これが正解』と決まっていることはないと思うんですよね。間違っているんじゃないかという不安から、自分の意見を言えず、周りに同調してしまうという環境は学校生活の中でも多いと思うので、まずは正解のないものについて、自分の考えを発言する機会を教育面から生み出したいですね」
女性がさらに活躍できる議会にしていくために
冒頭でも示した通り、日本の政治分野のジェンダーギャップは大きい。一方で、これまでお話を伺ってきたなかでは、お2人の属する議会は女性も多く、ジェンダーギャップを感じる機会は少ないような印象も受けた。日々議会のなかで働く2人は、実際のジェンダーに関する状況をどう思っているのだろうか。
■橋本さん
「わたしは当選後に出産をしていて、子育てをしながら議員活動をしています。女性が政治家になるハードルの1つに出産や子育てがあると思いますが、渋谷区議会は女性が4割と多いのに加え子育て中の男性も多いので、みなさん気を配ってサポートしてくれます。
男性・女性問わず、その人の困りごとを分かり合える人がいれば、みんなが働きやすい環境に変えられると思います。妊娠、出産、子育てだけでなく、障がいの有無など全てにおいてそうだと思うんですけど、当事者が『困っています』と誰かに言える関係性があることが大事です。
女性議員を増やしていくためにクオータ制といった選択肢もありますが、必ずしも女性が半数じゃないといけないかというとそうじゃなくて、互いにお困りごとを言える関係性が議会の中にあるかどうかが大事だと思います」
■榊さん
「分断が起きないようにお互いの意見に歩み寄ることも重要だと思います。片方の主張が強すぎると、逆に拒絶反応が起きて変わらなくなることもあると思います。女性と男性、それぞれの立場になって考えて、両方の視点を持つことが大切ではないでしょうか。
女性議員の方が少ないからこそ、男性は女性の意見をきちんと聞き理解し、女性も女性の意見を一方的に主張するのではなく、お互いの意見を聞き合って、まずは知ることが大事だと思います。分断が生まれないように、お互いに歩み寄ったコミュニケーションがしたいと感じています」
政治は面白い!
政治を面白いと感じるポイントは、有権者と政治家では異なるだろう。筆者は2024年7月の東京都知事選であらゆる候補者の街宣に参加し、選挙期間中に世論が変化していく過程を面白いと感じた。最後に、実際に政治家として活躍するお2人は、政治のどういったところを面白いと感じているかを聞いた。
■橋本さん
「全員にとって100点の政策はなくて、いろんな事情を抱える人がいるなかで、みんなが60点くらいに感じる政策がすごくいい政策だと思うんです。予算や、物理的なハードルを受け入れながら、どう落としどころを作っていくかを考える作業が、政治家の仕事の面白いところです。その作業がやりがいがあるなと思いますし、それをやることによって暮らしが変わっていくことには、希望しかないと思って取り組んでいます」
■榊さん
「市民の方からのご要望やまちの課題などを改善するために、現状できない理由を聞き取り調査し、他自治体の事例や国・県などの方針や計画などを参考に『こうしたらできるんじゃないか?』『100%は出来なくてもここまでなら進められるんじゃないか?』と打開策を見つけ提案していくのですが、その提案が通ったときは本当に嬉しいし、やりがいを感じます。
事業もそうですが、トライアンドエラーを繰り返しながらより良い成果を出すことが好きなので、それが誰かのために繋がるなんて本当に幸せな仕事だと感じます」
連載3回目では、20代で議会に入った若者として、渋谷区議会議員・橋本ゆきさん、桶川市議会議員・榊萌美さんにお話を伺った。
政治はわたしたち一人ひとりの生活に直結する重要なものである。多様な属性、年代の人が生活する社会だからこそ、政治の世界も多様な人がいる環境であってほしい。若者として政治を実行するお2人は、若者の目線で政治に向き合い、街の可能性を広げていると感じた。今後も若い世代の代表として、そして女性政治家として、2人がどのように日本社会を変えていくのか、注目したい。
取材・文:安井一輝
編集:大沼芙実子
▼連載「『わたしと選挙』を考える」はこちら
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