2022年8月9日、株式会社ナイキジャパン(以下、ナイキ)は、世界中の女性たちの妊娠期間とその後をサポートするマタニティコレクション「ナイキ(M)」の国内展開を開始した。ナイキ(M)は2020年に北米、ヨーロッパ、アフリカで販売が開始されたコレクションで、今回、日本を含むアジア地域でも展開されることとなった。
マタニティスポーツとは文字通り、妊娠中に行うスポーツのことである。ウォーキング、水泳、ヨガなどの有酸素運動、かつ全身運動で楽しく長続きするものが推奨されている。
マタニティスポーツは自然流産の危険性が低くなる妊娠12週目以降が推奨時期とされていることは注意したいが、妊娠中の体力維持や体重コントロールの効果があるだけでなく、産後の疲労回復を早くする効果があるとされている。(※1)
一方で、マタニティ用のスポーツウェアはデザインや種類が少ない。また、伸縮性に乏しいウェアは、体が変化する妊婦には機能面で適しておらず、妊婦がスポーツに取り組む際の障壁になってしまっていることも事実だ。
販売に先立ち、7月22日にオンラインで開催された、メディアセッションでは、デザイナーのカーメン・ゾルマン(Carmen Zolman)が参加し、ナイキ(M)プロジェクト概要と商品について、またすべての女性にスポーツが開かれるためのナイキの取り組みが説明された。
ナイキは、長い歴史の中で、スポーツのジャンルや性別にとらわれることなく、数々のアスリートの声に耳を傾け壁を破ってきた。そんなナイキが今回耳を傾けたのは、妊娠中の女性の声だ。女性の人生においてもっとも体が大きく変化するであろう妊娠・出産期間。体の変わり目にある妊娠中・産後の女性でも快適にスポーツを楽しめるように、と開発されたナイキ(M)の開発プロセスや込めた思いとはどのようなものなのだろうか。
※1 参考:日本臨床スポーツ医学会「妊婦スポーツの安全管理基準(2019)」(2022年7月29日閲覧)
https://www.rinspo.jp/files/proposal_28-1-01.pdf
妊娠している女性にもスポーツの機会を
デザイナー、カーメンは、自身の様々な経験をナイキ(M)に落とし込んだ。生地に関わる仕事の経験や環境科学研究所やニューヨーク州ファッション工科大学で学んだ経験に加え、妊娠・出産もその1つだ。
彼女は妊娠中にマタニティウェアを購入した。しかし、「自分好みの色じゃないし、着心地も良くないから、このウェアは着たくない。このウェアを着るぐらいならスポーツはしたくない」と感じたという。今回のナイキ(M)シリーズには、上記のようなカーメン自身の経験に加え、妊娠・出産を経験した女性の声を商品開発に活かした。
ナイキは、イノベーションを通して、女性が一生スポーツを楽しめるよう、商品開発に取り組んでいる。スポーツウェアがスポーツ機会の障壁にならないよう、スポーツ科学やバイオメカニズムなどの研究を通し、女性のニーズに沿ったデザインを日々試行錯誤しているという。
ナイキ(M)の研究プロセスや、女性の声を取り入れた商品とは具体的にどのようなものなのだろうか。
ナイキ(M)ついて
ナイキ(M)プロジェクトは、2017年に開始。デザインの過程では母親、妊婦など15万人以上の女性のボディスキャンを実施し、そのデータをもとに誰にとっても心地よいデザインの研究を行った。また、一般女性に限らず、プロアスリートの妊婦、産後の女性30人の意見を聞き、ウェアデザインに取り入れた。
カーメン自身がウェアの着心地によってスポーツを諦めた経験から、着心地を最初の目標として掲げ、70の素材を選択した。そこから、機能性や女性の体の変化に対応できる伸縮性に優れた素材を選び、着心地をよくするため細部までこだわった。ナイキ(M)には「おしゃれで機能性に優れたウェアがあれば、より多くの女性がスポーツを続けることができるはず。母親になったとしても自分らしさを見失ってほしくない」というカーメンの想いが、込められている。
このような想いのもと開発されたプロダクトを、特徴とともに紹介する。
ブラには、丸くくり抜いた内側と外側のレイヤー構造を採用し、授乳や搾乳を行えるようにしている。また、胸の形が変わっても快適に着用できるような柔らかいリブ素材や、汗じみや母乳が染みづらい素材が採用されている。レギンスは「お腹を守りたい」というニーズに応え、伸縮性が弱い装飾は取り除き、柔らかさとお腹を守るサポート性を両立させた。このようにナイキ(M)のプロダクトでは、ヒアリングした女性の声をデザインに反映し、機能性の充実、着用時の快適さを実現している。
また、自分らしい着こなしを可能にする工夫も多く見られる。レギンスやショーツは、ウエストバンドの位置を高めに設定し、各々が好みのスタイルで着用できるようにしている。そのまま着用すればハイウエスト、折り返して着用すればローウエストで着ることができる。プルオーバーは、デザインの異なるフロントとバックのどちらからでも着用可能なデザインだ。着用者の好みや妊娠中の体の変化に応じて、着用スタイルを使い分けることが可能だ。
着心地や環境に配慮した素材が活用されているのもナイキ(M)の特徴だ。「妊娠中は肌がかゆくなる」という声に応え、敏感な肌を刺激しないソフトな素材が採用されている。また、環境配慮の側面では素材のサステナビリティを考慮している。リサイクル可能なポリエステルやオーガニックコットンを採用することで、二酸化炭素排出量削減に取り組む。社会のあらゆる問題に正面から取り組んでいるナイキならではの視点がプロダクトに反映されている。
母親になることは新しいステージの始まりだ
最後に、セッションに参加した記者とカーメンとの質疑応答が行われた。カーメンに直接話が聞けるということもあり、質疑応答は30分以上に及んだ。商品についてやカーメン自身の妊娠・出産の経験を通じた仕事との向き合い方の変化、また、今後のプロダクトの展開について話があった。
カーメンさんご自身が母親になったことで、デザイナーとしての視点はどのように変化しましたか。
母親になった経験は、自身に新しい視点をもたらし、研究所や大学で学んだことと同様に大きな経験の一部になっています。ナイキでは、「プロのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮するためには何が必要か」を日々研究しており、ナイキ(M)でも同じように日々研究が行われています。アスリートでも妊婦でも、彼女らの気持ちは当事者が1番理解しているので、自分の妊娠・出産がその研究で活用されていることは、嬉しく思っています。
プロダクト開発にあたり、意識した点、また女性へのヒアリングで意外だった意見などはありますか。
人によって体つきは異なりますし、妊娠の段階によっても体は変化します。そのことを前提に、体の変化や動きにフィットするデザインや素材を使うよう意識しました。一方、意外だったのはレギンスのウエストバンドへの意見です。開発チームは、妊婦のお腹を守るためにも強くてしっかりした素材を使うべきだと考えていました。しかし、ヒアリングでは妊娠・出産を経験した女性から「お腹を締め付け過ぎない素材で快適に着用したい」というニーズが多く、意外でした。
1着のウェアを妊娠中から産後まで着用することは可能ですか。
はい、体が変化しても着用できます。私たちは、女性のボディパターンのリサーチに歳月を費やし、パターンの構成から素材の細部にまでこだわりました。タンクやTシャツには4方向に伸縮する素材を用いていることから、体の変化にも対応することができます。
今後のプロダクト展開の計画について教えていただけますか。
ナイキらしいカラフルなカラーはもちろん、デザイン、プリントなども日本人の好みを考慮したプロダクトを展開する予定です。アイテム数も現在は6点ですが、ニーズに合わせて増やしていければと考えています。
母親になる人が何も諦めなくて良い仕組みづくりや、障壁を取り除くプロダクトがあれば、妊娠や出産をきっかけに、これまでの自分を失うことにはならない。意識していないだけで、世の中には目に見えない障壁が多く存在する。ナイキ(M)はその障壁の1つを、当事者の経験に基づくイノベーションで取り除き、すべての女性にスポーツへの扉を開いた。妊娠中でも、目標や趣味を諦めなくて良いと示した。
カーメンは言う。「母親になることは決してスポーツライフの終わりなどではなく、新しいステージの始まりなのだ」と。
※本記事に掲載している商品の在庫状況についてはNike.comやNIKEアプリからご確認ください。
ナイキ公式サイト:https://www.nike.com/jp/maternity
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取材・文:吉岡葵
編集:Natsuki Arii
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