近年、性教育の見直しや生理休暇を推進する企業の増加など、社会全体の生理への関心が高まっているように感じる。
生理用ナプキンを販売している大王製紙株式会社が2019年に実施した調査によると、男性に「女性の生理について今より理解したいと思いますか」と質問したところ、「非常にある」または「ややある」と回答した10代は67.3%、20代は55.8%であった。この結果を見ると、10代と20代の男性は、約半数以上が生理を理解したいと感じており、他の世代と比較すると、とくに若い世代は生理への関心が高いと考えられる。(※1)
そして、筆者も生理を理解したいと思っている男性の1人だ。筆者が生理に関心を持ったのは、パートナー(女性)と時間を過ごすなかで、生理によって体調が優れていないことがあり、2人の時間をより良くするために何ができるだろうかと考え始めたことがきっかけであった。そのため、書籍やインターネットで生理について勉強していたが、最近は知識として理解するだけでは限界があるように感じ、体験的に学ぶ方法を検討していた。調べていくと、生理痛を疑似体験できる装置があるというが、それらは企業や団体などが実施しているものが多く、個人で体験するにはハードルが高いように感じた。
そんなときに見つけたのが、男性向けに生理を伝えるサービス「オトコノコノヒ。」の生理体験キット。生理体験キットでは、生理に近い体験が自宅で手軽にできることを知り、試してみることにした。
※1 参考:大王製紙株式会社『令和の生理に対する意識の実態とは』
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/20200127_1.pdf
▼あしたメディアの男性編集部員が月経痛を体験した記事はこちら
「オトコノコノヒ。」の生理体験キットとは?
「オトコノコノヒ。」は、男性が生理について「知りたい」と思ったときに、簡単に知ることができる方法を提供するために立ち上げられた。「オトコノコノヒ。」では、生理体験キットの販売に加え、生理に関する情報発信も行っている。
▼「オトコノコノヒ。」の公式サイトはこちら生理体験キットでは、ナプキンを実際につける体験と、どのくらいの量の経血がナプキンに付着するかを確認することができる。
株式会社タカギが運営する下着店の「ボディヒンツ」が、ピルのオンライン診療・産婦人科医とのチャット相談サービスの「スマルナ」のユーザー向けに実施した調査によると、「生理時どんな悩みがありますか?」という質問に対して、「腹痛・腰痛」(84.9%)という回答が最も多く、次に多い回答は「経血のモレ」(74.8%)であった。また、6割以上の方が「服・シーツなどが汚れる不安」も感じていた。(※2)
この結果を見ると、生理の「経血のモレ」や「服・シーツなどが汚れる不安」に悩んでいる女性が多いことが分かる。生理に関する辛いことといえば、生理痛がまず頭に浮かぶが、経血に関して不安を抱いている人が多いことを知り、驚いた。そのため、生理中の経血で下着や洋服を汚さないために使用するナプキンの試着と経血時のナプキンの状態を見ることは、多くの女性が生理に関して悩む経験を実体験できる機会のようだ。
また、「オトコノコノヒ。」の体験キットには1人用と2人用のペアセットが販売されている。ペアセットは、男性と一緒に女性も同じ体験をすることを想定して販売されていた。男性が女性と一緒に体験することで、女性は自身の生理について具体的に伝えることができ、より深く生理について話すことができるようだ。そのため、筆者は、パートナー(女性)に相談し、一緒に生理体験キットを利用することにした。
※2 参考:ボディヒンツ公式ブログ『生理のお悩みアンケート Vol.1〜生理痛&お悩み編〜』
https://www.shitagiya-japan-made.jp/blog/column/seiri-q1
「オトコノコノヒ。」の生理体験キットを利用してみて
「オトコノコノヒ。」の販売ページでペアセットを注文してから、3日ほどで生理体験キットが届いた。
届いた生理体験キットを開けると、体験用に必要なものと生理体験キットの取扱説明書だけでなく、「オトコノコノヒ。生理入門Book」という生理に関する基礎知識や生理用品の使い方、生理中に意識することなど、生理に関して詳しく知らない方向けの冊子も同封されていた。
まず、生理時のナプキンの使用感を体験してみた。
ショーツにナプキンを貼り付けて使用するのだが、私はこれまでナプキンの付け方を知らなかったため、取扱説明書を読んだり、パートナーに教えてもらいながら、初めてナプキンをショーツに貼り付けた。その後、ナプキンに水を染み込ませ、ジェルをつけることで、どろっとした経血の状態を体感できる。
実際に体感してみると、長時間座ったりしゃがんだりした際に違和感や不快感がある。この不快感を抱きながらでは、生活のなかで気が散ってしまうことも多く、集中力を維持することが難しいのではないかと思った。パートナーにも感想を聞いてみると、この感触は実際のものにとても近いようで、体験キットの再現度の高さに驚いていた。
また、ナプキンに水を追加していくことで、経血量が多い場合を体感することができる仕組みになっているようだ。10mlほどでは、ドロっとまとわりつく感触があり、少し違和感を覚えた。15mlや20mlほどになると、濡れを強く感じ、「早く交換したい」という気持ちになった。
パートナーに話を聞くと、外出先や仕事中で席を外せないときなどでは、すぐに交換できないことも多いようで、我慢しながら過ごすこともあるとのことだった。
次に、経血が出た際のナプキンの状態を再現してみた。
赤色の着色剤を水に溶かしたものをナプキンに染み込ませることで再現する。生理中は1日で30mlほどの経血が出る場合があると聞いたことはあったが、どのくらいの量なのかをあまりイメージできていなかったため、白色のナプキンが赤く染まっている状態を実際に見てみると、想定よりも迫力があった。そして、少しずつ量を増やし、30mlほどになると、手で上から押した際に吸収した水が溢れてしまった。
ただ、今回は着色剤を水で溶かしたため、経血はナプキンに均等に広がったが、本来は先ほどのジェルのようにドロっとしているので、ナプキンに均等に広がるわけではなく、一部に集中してしまうことがある。そのため、30mlまでに交換しないことはほとんどなく、15mlぐらいの状態で変えることが多いようだ。ただ、多い方だと1日に30mlほどの経血が出る方もいるようなので、ナプキンを変えるタイミングが少なければ、この不快感を日中感じながら生活しないといけない。この状態で生活するのはどれほど大変なことだろうかと思った。
さらに、お腹に冷却シートを貼るとお腹の冷えやお腹周りの違和感を体験することができるため、「生理時のナプキンの使用感」を体験しながら、実際に試してみた。
お腹の冷えに関しても、違和感は続いていた。やはり何かに集中している際などは気になってしまうだろうなと感じた。こちらもパートナーいわく、本物の感覚に近いようであり、再現性の高さに驚いていた。
大切な相手との生活をより良くするために
パートナーと共に生理体験キットを利用し、経血が流れているときの不安感や違和感に近い感覚を体験したことで、多くの女性がこの不安感や違和感を抱きながら、日常生活を送ることが困難な場面も多いと想像できた。
そして、ただでさえ身体的な負担が大きく、経血による不安があるにも関わらず、生理用品を購入するという金銭的な問題も発生する。今回の体験で生理用品の重要さを感じた一方で、「生理の貧困」と言われているように、金銭的な問題で生理用品を十分に買うことができない女性たちがいることは深刻な社会問題であると実感した。
▼「生理の貧困」についても描かれたドラマ『SHUT UP』のプロデューサーへインタビューした記事はこちら
また、当事者である女性と一緒に体験することで、相手の生理に関する理解がより進むため、ぜひ誰かと一緒に体験することをおすすめしたい。ただ、生理は身体に関わることなので、話したくないという人もいるだろう。そのため、生理への理解をどのように深めるかは、それぞれの関係性のなかで検討してほしい。
筆者は、パートナーと一緒に体験しながら、ナプキンの使い分けについて詳しく教えてもらったり、相手の生理期間の状況について自然と話したりすることができた。パートナーから、1日のスケジュールや場所を踏まえて、持っていくナプキンや履くショーツなどを生理期間中は毎日考えていることを聞いた。
生理時の状態は人それぞれ違うため、体験キットで体感している程度を基準としながら、実際はどんな状態なのかをパートナーと話すことができ、相手の生理時の症状について理解を深めることができたと感じている。
さらに、体験中にはキットに同封されていた「生理入門Book」を一緒に読みながら、生理痛を感じている際や、PMS(月経前症候群)と呼ばれる生理前のつらい症状のときなどに、私にどういう対応を取ってほしいかなども聞くことができた。経血に関することに限らず、相手の生理に関する理解を深めることができた、とても有意義な時間であったと感じている。
体験キットの制作者が語る「男性が生理を理解することの重要さ」
体験後に、この体験キットを制作した三上さんに、制作の経緯や思いなどを伺った。
「オトコノコノヒ。~生理体験キット~」を制作しようと思った理由を教えてください。
昨今、生理について「理解したい」「知っておいた方が良いと思う」という男性は増えていると思います。多くの女性は「男性も生理について理解してほしい」と思っており、一方で男性も「生理について理解したい」と思っているにも関わらず、双方とも「男性には生理が分からない」という結論になってしまいがちだと感じています。
どうしてその結論になってしまうのかを考えると、“男性が生理の情報を手に入れることが難しすぎるから”なのではないかと考えるようになりました。
いざ大切な人ができて、その人に生理があると認識したときに理解して寄り添いたくても、現状では情報を手に入れるためのハードルが高く、中には誤った情報を信じてしまったり、途中で諦めてしまった人もいるかもしれません。
男性が生理のことを学びやすくなるためには、今までの“女性が男性へ生理を教える”ような構図ではなく、“男性が「知りたい」と思ったときに自ら情報を手に入れられる場”があっても良いのではないかと思いました。
そこで、男性向けに生理を伝える場として「オトコノコノヒ。」を立ち上げ、生理の状態を伝わりやすくする方法として「オトコノコノヒ。〜生理体験キット〜」を作りました。
「オトコノコノヒ。~生理体験キット~」では、ナプキンの装着体験や一般的な経血量を再現することができますが、生理で生じる頭痛や腹痛などの様々な症状の中で「生理時の経血」に関する体験キットを作ろうと思った理由を教えてください。
「生理=血が出る」というイメージは共通にあると思いますが、「実際にどのくらい血が出るのか」や「どんな感触で普段過ごしているのか」は言葉だけでは伝えづらい部分が多くあると感じています。
生理における様々な症状の中で、まずは個人差を抜きにした“生理がある人は誰もが知っている部分”を体験してもらい、「もし自分ならこんなときどう過ごしたいか」や「どんな気持ちを感じたか」などの些細なことでも、自分自身で感じていただき、生理中の女性と関わる際のヒントが見つかればと思い、この体験を選ばせていただきました。
また、男性にとっては実際のナプキンを目にする機会もあまりないかと思います。ナプキンの付け方や身につけているときの感触、外し方、捨て方などの体験を通して、ナプキンの存在も身近に感じてもらえたらと思っています。
この体験キットは、男性が生理について理解するために作られたとお話されていましたが、男性が生理について勉強することの重要さはどのように感じていますか。
生理について勉強することは、とても有意義なことだと感じています。生理のことをよく知らないまま過ごしていても男性はあまり困らないかもしれないですが、実は女性が困っている場面はたくさん存在します。
生理について、「男性は知らないのが当たり前」や「人には隠すもの」という意識が長く続いてきたこともあり、女性は生理で困ったことがあったとしても、SOSを出さずに我慢することが当たり前となり、その結果誰も気づくことができていない状況なのです。
女性が生理での辛さを我慢しなくてもいい社会を作るためにも、まずは男性側も生理に関する理解を深める必要がありますよね。
そうですね。生理に限らず全ての生理現象に関係する不調はプライベートな部分であり、誤った認識や偏見はその人の心や尊厳を傷つけてしまいます。正しく理解することは、その生理現象を持つ人と日常関わる上で本当に大切なことです。自分自身には起こらないとはいえ、人類の約半分が経験している“生理”について知っておいて損はないと思います。
いつか大切な人に寄り添えるように、身近な人がSOSを出せる環境になるように、「知っておいた方が良いのかも」と感じた方から一歩踏み出してくれたら、確実に良い方向に進んでいけると思います。
私は女性のパートナーと「オトコノコノヒ。〜生理体験キット〜」のペアセットを利用しました。ペアセットを制作しようと思ったきっかけを教えてください。
当初は、男性が1人で学ぶキットを想定して制作しておりました。しかし、試作を繰り返していくうちに、女性のパートナーなどの方にも一緒に体験していただくことで、自然と生理について話しやすい環境を作り、個人差のある“その人の生理”についてより深く理解できるのではないかと思い、「オトコノコノヒ。〜生理体験キット〜【ペアセット】」も作りました。
こちらも通常の体験キットと同様に、男性からのご注文を多くいただいております。パートナーなどの大切な方と良い時間を過ごせていたらとても嬉しいです。
そうだったのですね。今回、パートナーとペアセットで体験してみて、自然と生理について話すことができ、大切な女性と生理について話すことの重要さを感じました。男性が女性と生理について話すことの重要さはどのように感じていますか。
大切な女性であればとくに生理についてよく話しておくことが重要だと思います。男性から「女性は生理に関して踏み込まれたくないと思っているかも」という声をよくいただきますが、女性も「どこまで話したらいいかわからない」という不安を抱えていることが多いです。
多くの女性は生理によって何らかの不調を抱えていて、そのほとんどを「仕方のないこと」としてやり過ごします。ですが、不調は不調であり、何年経験したとしてもそれが小さくなるわけではありません。そんなときに、パートナーなどの周りの男性が理解し、寄り添ってくれたら、どれほど心強いことでしょうか。
生理には個人差があり、その方が「どんな不調が起こりやすいのか」や「そのときどう過ごしたらよいか」ということは本人にしか分かりません。
男性から生理のことを話すのはハードルが高く感じるかもしれませんが、まずは「知りたい」「理解したいと思っている」という気持ちを伝えてみてほしいと思います。「この人は生理について前向きに向き合ってくれようとしているんだ」ということが伝われば、大切な方も安心して話すことができると思います。
おわりに
生理体験キットをパートナーと実施して数週間ほどが経った頃、パートナーが体調を崩した。その際に、家にあるナプキンが足りない状況に気づいたパートナーは、体調を崩していることもあり、筆者に「ナプキンを買いに行ってくれないか」と初めて頼んでくれた。
なぜ頼む気になってくれたのか、理由を直接聞いていないため、本当のところは分からない。ただ、生理体験キットを介したコミュニケーションを通じて、私を信頼してくれたことも1つの理由だったのではないかと考えている。
男性である私たちは、女性の生理の辛さや不安を全て受け止めることができないのかもしれない。ただ、男性が誠実に生理を理解しようと寄り添う姿を見せることで、女性が男性を信頼できるようになれば、生理に関する悩みを共有しやすい社会になるかもしれない。
そんな社会を目指すためにも、多くの男性が生理を理解するための一歩として、この生理体験キットをおすすめしたい。
取材・文:前田昌輝
編集:篠ゆりえ
本記事は、事前に筆者のパートナーに承諾を得た上で掲載しております。また、本記事に記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。
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