自分が知っているトピックについて長々と解説をされ、鬱陶しい(うっとうしい)思いをしたことがある人はいないだろうか?特に、男性が女性に対して上から目線で何かを解説したり知識をひけらかしたりする行為は「マンスプレイニング」と呼ばれている。
今回はこのマンスプレイニングの概要と防止策をお伝えする。
(前提として、本記事は性差による対立を煽ることを目的としていない。むしろ、ジェンダー平等が叫ばれる現代社会において、マンスプレイニングという概念について知ることが健全なコミュニケーション促進の一助となるという考えのもとで執筆されている)
- マンスプレイニングとは?
- マンスプレイニングの具体的な例
- マンスプレイニングと他のジェンダー問題
- マンスプレイニングをする人の特徴とその心理
- マンスプレイニングが問題視される理由
- マンスプレイニングを受けたときの対処法
- マンスプレイニングを防止するには
- 組織でのマンスプレイニング対策
- まとめ
マンスプレイニングとは?
マンスプレイニングとは、その話題について十分な知識を持っていると合理的に推測される女性に、男性が特定のトピックを説明することだ。(※1)あるいは、男性が女性に対して女性は男性よりも無知であるという意識のもと、「こんなことも知らないのか」と知識をひけらかすような態度が特徴的だ。
語源は諸説あるものの、man(男)とexplain(説明する)をかけ合わせた造語として誕生した。この言葉を一躍有名にしたきっかけは、アメリカ人作家のレベッカ・ソルニットが2008年に発表した “Men Explain Things to Me”(日本語訳版『説教したがる男たち』ハーン小路恭子訳、左右社、2018年)というエッセイだとされている。(※2)
2010年には同じ概念を指す "mansplainer"(マンスプレイナー)が "The New York Times "の “The Words of the Year” (いわゆるその年の流行語大賞)の1つとしてノミネートされた。(※3)
このように、海外では10年近く前から知られる概念であるマンスプレイニング。近年では日本でもジェンダー平等への意識の高まりを受け、徐々に浸透しつつある言葉の1つだ。
※1 参考:In These Times "Mansplaining, Explained"
https://inthesetimes.com/article/rebecca-solnit-explains-mansplaining
※2 参考:Los Angeles Times "Men who explain things" http://articles.latimes.com/2008/apr/13/opinion/op-solnit13
※3 参考:The New York Times "The Words of the Year"
https://www.nytimes.com/2010/12/19/weekinreview/19sifton.html?_r=0
マンスプレイニングの起源と歴史
マンスプレイニングという概念が明確化されたのは比較的新しいとはいえ、その実態自体は長い歴史を持っている。歴史的に見ても、女性が知識を持つことや自己主張をすることが社会的に抑制される一方で、男性はその立場を保持し続けてきた。
その結果、男性が自分の見解を強く主張し、女性に対して無意識的にものを教えようとする態度が根付いてしまったと考えられる。
マンスプレイニングは仕事場や学校、家庭などさまざまな場面で見られる。特にSTEM(科学、技術、工学、数学)分野など、男性が多数を占める環境では、マンスプレイニングが頻繁に発生する傾向にあり、女性が自分の専門知識を公表することが困難である事例も見られる。
しかし昨今ではマンスプレイニングへの認識が高まったことで、この問題に対する意識改革が進められている。マンスプレイニングという考え方が広く知られるようになったことは、女性だけでなく、性的少数派の人々や、宗教・人種が異なる複数の集団が持つ知識と経験の価値を社会に認識させ、男性の高圧的な態度や不平等を是正するための一歩となっている。
マンスプレイニングの具体的な例
マンスプレイニングの具体例は多岐に及ぶ。まず、前章で挙げたアメリカ人作家のレベッカ・ソルニットが実際に体験したマンスプレイニングの例を紹介する。
ソルニットは、エドワード・マイブリッジというイギリス出身の写真家に関する本の著者だ。彼女がとあるパーティーに出席した際、ある男性にマンスプレイニングを受けたとエッセイの中で告白している。(※4)
その男性は、ソルニットがエドワード・マイブリッジの話題を出した途端、それに関する本を読むべきだと話し始めた。しかも、ソルニットが読むように勧められた本は、実は彼女自身が書いた本だったのだ。ソルニットがマイブリッジに関する本を出版したと言った後も、男性は彼女がマイブリッジに関する本を出版したと認めず「マンスプレイニング」を続けたという。
ここまで極端な例でなくても、現実で似たような話を耳にすることがある。たとえば、趣味の繋がりで出会った女性に男性が意気揚々と自分の知識や学識を語り続ける。あるいは、ネット上でとある分野に精通している女性の研究者に、男性が知識上のマウントを取るような返信をするなど...。残念なことに、マンスプレイニングは現実社会だけではなくネット社会でも散見される。
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※4 参考:TomDispatch "Men Explain Things to Me"
http://articles.latimes.com/2008/apr/13/opinion/op-solnit13
マンスプレイニングと他のジェンダー問題
マンスプレイニングは、単なる無神経な行為と言い切れるようなものではなく、社会全体のジェンダー格差を反映した現象と考えられる。
これは、男性が自身の知識や見解が、女性の考えることよりも価値があると認識しながら発言することにより、女性の発言権を奪うような図になっていると考えられるためだ。また女性が自己主張をすることについて、社会的に否定的な評価をされる傾向があるからだといわれている。(※5)
さらに、マンスプレイニングは、「ガラスの天井」や「マイクロアグレッション」などの他のジェンダー問題とも密接に関連している。例えば、「ガラスの天井」は、女性がキャリアの頂点に達するのを阻む見えない障壁を指す言葉であるが、マンスプレイニングはその一部ともいえる。女性が自分の知識や能力を発表する機会が奪われることは、彼女たちの地位向上や昇進することを困難にしていると考えられるのだ。
また、「マイクロアグレッション」という概念もマンスプレイニングと関連している。マイクロアグレッションは、差別的な行為や発言が日常的な形で表現されることを指す。
マンスプレイニングは、男性が女性に対して自分の知識を過剰に解説することで、女性の能力や知識を軽視する形のマイクロアグレッションと言える。(※6)
したがって、マンスプレイニングは単なる一個人の言動を超えた、社会全体の性差別と不平等の表れであり、他のジェンダー問題と深く結びついていることが分かる。
※5 参考:Deborah Tannen「You Just Don't Understand: Women and Men in Conversation」 (1990・Cambridge University Press)
https://doi.org/10.1017/S0047404500015372
※6 参考:Sue, D.W., Capodilupo, C.M., Torino, G.C., Bucceri, J.M., Holder, A., Nadal, K.L., & Esquilin, M.、「Racial microaggressions in everyday life: Implications for clinical practice」(2007・American Psychologist)
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0003-066X.62.4.271
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マンスプレイニングをする人の特徴とその心理
マンスプレイニングをする人には、共通して、聞いてもいないのに教えようとする、自慢が多い、という特徴が見受けられる。この根底にあるのはミソジニーだ。性差に基づく女性への差別を示し、「性に基づく社会的役割の固定観念を助長する行動、条件、態度」を指す。ミソジニーは女性蔑視とも訳され、「女性は男性よりも知識がない」という無意識の心理から発生する。
たとえば、かつては「男らしい」という言葉を賞賛として、「女々しい」という言葉を相手への侮蔑として用いることがあった。この対比の裏には「男性の方が優れている」という男性優位の考え方が働いているといえる。
このように「男性は女性よりも優れている」という固定観念を持った男性は、自分よりも優れている女性がいた場合、劣等感から女性に対する憎しみを抱くことがある。そして、これがときにマンスプレイニングとして表出する場合がある。
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マンスプレイニングが問題視される理由
「教えてあげること」の何が悪いのかと思う方も中にはいるかもしれない。たしかに知らない知識を教えることで相手の成長につながるケースもあるため、その行為自体が一概に悪いとはいえない。
しかし、マンスプレイニングの問題点は「一方通行」かつ「ジェンダー格差を助長する危険性をはらんでいる」点だ。
まず、「一方通行である」という点について。
人に対して何かを説明したり解説したりするときに、知らないだろうと勝手に決めつけて知識を押し付けるのは、相手に失礼な言動であり不快感を与える。本来、「教える」「教えられる」関係としての理想像は、一方が持っていなかった知識を他方が補完することであり、そこには相互のコミュニケーションが不可欠だ。相手の知識量や習熟度を確認することなく、一方的に知識を披露するコミュニケーションスタイルは健全とは言い難い。
次に、「ジェンダー格差を助長する危険性をはらんでいる」という点について。
前章でも述べた通り、性別、年齢、その他表層的な属性に基づく偏見から知識がないと決めつけて発言することは相手に不快感を与える行為であり、ハラスメントの一種といえる。何よりマンスプレイニングが常態化すると、女性よりも男性の方が発言数が増えることになり、女性の発言権が軽視されたり、女性が男性に発言権を譲るという状態が生まれる。これは男性の方が評価される機会が増え、女性が評価される機会が奪われることを意味するため、ジェンダー格差が増大するという問題につながる。
マンスプレイニングを受けたときの対処法
マンスプレイニングに対処するための1つの方法は、その行為を具体的かつ明確に指摘することが重要だ。これは、男性が無自覚にマンスプレイニングを行っている場合が多いためである。
例えば、
「私は既にその情報を理解していますが、あなたはなぜ再度説明したのですか?」
「私がその話題について知識を持っていないと思う理由は何ですか?」
などと問いかけることで、男性に自分の行動や言動に問題があることを自覚させることができる。
2つ目の方法は、女性が自分の知識や経験を確信を持って主張することである。特に専門的な知識や技術が必要なビジネスシーンなどで効果的だ。自分の知識や経験に自信を持って自己主張することで、マンスプレイニングを回避することができる。(※7)
3つ目の方法は、周囲の人々にサポートを求めることだ。先述したように、マンスプレイニングはジェンダー格差など社会的な問題を内包しており、個々人だけの問題ではない。そのため、周囲の人々に男性が行った説明の不適切さを理解してもらい、支援を求めることも有効である。
しかしながら、マンスプレイニングに対して「必ず反論しなければならない」というわけではない。状況や相手によって、時には無視することが最善の対応となることもある。反論を行うことによって、さらにマンスプレイニングを助長する場合もあり、不要な傷付きを得る可能性もある。自身の状態や状況を鑑みて、都度対応を選ぶことをおすすめしたい。(※8)
※7 参考:Elissa Shevinsky『Lean Out: The Struggle for Gender Equality in Tech and Start-up Culture』(2015、OR Books)
※8 参考:Forbes 「5 Ways To Shut Down Mansplaining」
https://www.forbes.com/sites/work-in-progress/2018/02/26/5-ways-to-shut-down-mansplaining/
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マンスプレイニングを防止するには
マンスプレイニングをしないために、男性側は相手への配慮を持つ必要がある。
ときに自分は親切心で話しているつもりでも、相手側が不快感を抱いていることに気が付かず一方的に自慢話を続けてしまう場合もある。しかし、「相手のためを思って」という言葉にコーティングされた“自分語り”はマンスプレイニングであり、立派なハラスメント行為になりうることを理解する必要がある。
教えて「あげる」は押し付けがましいが、相手が本当に知らない、かつ知りたいと思っている内容を知識として共有することは悪いことではない。女性側が話せるように質問を投げかける、相手がどれほど知識を持っているか確認した上で話す、といった配慮が必要だ。
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組織でのマンスプレイニング対策
組織内でマンスプレイニングに対する効果的な対策を行うためには、組織全体での意識改革と具体的な行動が必要である。以下ではその内容を以下の3つに分けて説明する。
①教育と訓練
まず、マンスプレイニングが何であるか、それがなぜ問題なのかを理解するための教育と訓練が必要だと考えられている。また先述したとおり、マンスプレイニングは多くの場合、無意識的にに行われることが多い。そのため、組織は従業員全員に対してマンスプレイニングと、他のジェンダーバイアスについての教育を提供することが重要だ。(※9)
②開かれたコミュニケーションの促進
2つ目の対策は、オープンなコミュニケーションを構築・促進することである。
マンスプレイニングを経験した当事者が、問題があることを安全に共有できる環境を作ることが重要だ。そうすることで、個人間でのいさかいを生じさせることなく、問題提起することができる。
③ポリシーと手続きの見直し
最後に、組織は既存のポリシーや手続きに、ジェンダーバイアスが組み込まれていないか、適宜見直すことも重要である。これには、個人間のやり取りだけでなく、会議の場で発言の機会が公平にあるかどうかや、パフォーマンスの評価基準の見直し等も含まれる。(※10)
マンスプレイニングは、社会や組織に深く根ざした問題であり、1人ひとりの発言や行動だけでなく、上記のような組織全体が意識改革を行うことが解決の糸口となると考えられる。
※9 参考:Krivkovich, A., Robinson, K., Starikova, I., Valentino, R., Yee, L. 「Women in the Workplace 2017」 (2017・McKinsey & Company)
※10 参考:Catalyst「Actions Men Can Take to Create an Inclusive Workplace」(2019・Catalyst)https://www.catalyst.org/wp-content/uploads/2019/01/actions_men_can_take_2018.pdf
まとめ
マンスプレイニングを防止するには、自分の行為を相手がどう思うか、自省することが必要だ。そして、「受け手への配慮を欠いたコミュニケーション」は男性だけの問題ではない。相手への配慮を怠らないコミュニケーションのあり方については性別関係なく全ての人が考える必要があるだろう。
文:Mizuki Takeuchi
編集:篠ゆりえ
本記事に記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。