よりよい未来の話をしよう

料理が続けられる環境であるために、私が今できること

茶道文化と環境のつながり

寒い冬のある日、私は北鎌倉のお寺で茶道体験に参加した。凛とした着物姿の先生がお茶を点てる。お茶菓子を先に食べた後、ほろ苦い抹茶をゆっくり味わう。5感がすーっと澄まされるような時間が流れた。体験会が終わりに近づく頃に質疑応答の時間があり、私は「どうして先生はお茶を30年以上続けているのか」と質問した。先生は「自分がどうやって生きていくべきなのか、指針を教えてくれるのがお茶です。それと季節の花を飾り、お菓子を愛で、お茶を味わえる環境があることが尊いことだと思うのです」と話した。

最後の言葉には、これから地球環境が大きく変化して異常に暑くなったり寒くなったりして、お茶やお花が育たなくなったら茶道の文化は途絶えてしまう、という意味が込められていると私は受け取った。そんな未来はできるなら来てほしくない。この先も、自然があるから成り立つ豊かな文化が末永く続いてほしいと小さく願う。ならば、私には何ができるのだろう?

自炊で大事なのは「続けられること」

自己紹介が遅れたが、私は自炊する人を増やすために活動する「自炊料理家」と名乗り、人に料理を教え、レシピを作る仕事をしている。料理家というと手の込んだ料理を作っている印象を持たれることもあるが、私は凝った料理は紹介しない。焼いた野菜、シンプルな和え物、みそ汁、そういう料理が中心だ。

本来毎日の料理とは素朴で映えない料理であってしかるべきで、納豆ご飯と具沢山みそ汁くらいで十分だと思う。オムライスや肉じゃがなど立派な名前のある料理を中心にするのではなく、名もなき肉野菜炒めや冷蔵庫にあった食材で作るみそ汁がスタンダードになれば、自然と料理のハードルが下がり、無理なく自炊を続けられる。そんなふうに自分のペースで自炊し、ほっとする料理が作れるようになれば、生活の土台がしっかりと整い、ひいては仕事も張り合いのあるものになるはずだ。

自炊の技術を手に入れると、好きなものを好きなだけ作れるようになる。ステーキだって家で食べる方がずっと安いし、外ならちょっとしか入っていない麺類の薬味も家なら入れ放題だ。自分の食欲とまっすぐに向き合い、作りたいものを作れる爽快感は、自炊できる人だけが味わえる特権なのだ。自炊できれば、人生はちょっと、いやかなり豊かなものになる。

そんなふうに自炊を教えるなかで、大事にしているのは「続けられること」。続けられるとは、その人にとって無理がなく、自然に物事を実行できる状態のことだと思う。人によってどんなことに無理を感じてしまうかは異なるので、その都度「どんなやり方なら続けられそうですか?」と聞きながら教える。そうすると、久しぶりに会った生徒さんの多くが、頻度の差はあれど「自分のペースで続けている」と話してくれる。そしてそう話す人たちはどこか誇らしげで、にこやかな顔をしていることをうれしく思う。

地球環境が悪化すると、自炊が続けられなくなるかもしれない

自炊を続けられるようになるのは身体や心にとって健康的で良いことである。一方で、地球環境はサステナブルではない危機に瀕している。自炊に必要な材料がいつまで手に入るかわからないのが正直なところだ。続けた方がいいこととして自炊を教えながら、材料が手に入る状況は続かないかもしれない。これは本当に困った。私たちはあれもこれもと欲張りすぎて、豊かな地球で生まれる命を我が物のように好き勝手使ってしまったのだと思う。その結果、私たちだけでなく、他の生き物たちも生きていくのが難しい状況になりつつある。

食で地球を救うアクション

危機的状況を改善しようと、世界中で環境保護に向けたアクションが始まっている。私たち一人ひとりに大きな力はないかもしれないし、今やっていることが本当に環境改善につながっているかは誰にもわからない。けれど何もしないで今のまま生活し続けるよりかは少しでもマシになると祈りのように思っている。私が今できることをやろうと思って実践している食に関するアクションの一部をご紹介したい。

【フードロスの削減】
  • 買いすぎない。お腹が空いている時に買い物をするのを避ける
  • 小魚など下処理に手間がかかりそうな食材を率先して購入し、レスキューする
  • 野菜は皮を剥かず、食べられそうなところは全て食べる
【ゴミの削減】
  • お茶はティーバックではなくポットで淹れる
  • ドレッシングは買わない。自分で作った方が少量で作れるし、味に飽きない
  • ペットボトルから水筒に切り替える
  • 生ゴミは専用乾燥機を使って乾燥させる(生ゴミは水分が多いので、乾燥させると重さが1/5に減る)(※1)
【その他】
  • 野菜は国産品。できれば自分が住んでいるエリアから近いものを購入する(フードマイレージの削減)(※2)
  • 極力牛肉を食べない。ただし、外食のコースに組み込まれている場合などはおいしくいただく(牛のゲップによるメタンガス排出の削減、過去50年間におけるアマゾンの熱帯雨林の焼き払いをともなう農地拡大の約65%が動物の飼料の生産を目的としている)(※3)

※1 参考:島産業株式会社 パリパリキューブ
https://www.parisparis.jp/about/

※2 用語:フードマイレージとは、食料が生産地から消費者の食卓に届くまでの輸送にかかる距離と重さをかけ合わせた指標。

※3 参考:グリーンピース・ジャパン「アマゾン火災と「工業型畜産」」
https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2019/09/02/10155/

自分にできることから、楽しんでやってみる

以前は環境に配慮した暮らしをすると、食べたいものが食べられないなど我慢することが多くなると思い込んでいた。しかしいざやってみると小さな悩みが減り、生活の楽しみが増えることになった。

ペットボトルから水筒に変えたら、好きな味のお茶や白湯が外でいつでも飲めてホッとする。ペットボトルゴミが減ると、捨てる手間が減る。生ゴミを乾燥させたら臭いや置き場所に悩むこともなくなった。こんなに楽しいなら、もっと早くからやればよかった!と思う。

自分がやりたいこと(旅行に行きたい、買い物がしたいなど)を実行するときに、「どうやったら地球環境に負荷がない形でできるか?」を考えると工夫が生まれて面白い。自分にできることから、楽しんでやってみる。そうすることで人々の暮らしが心豊かなものになり、少しずつ自然との調和がとれていくのではないかと思う。50年後も100年後も、四季折々の景色や旬の食材を楽しみ、周りの人と共有できる環境であって欲しいと心から願っている。

 

山口祐加
自炊料理家®️、食のライター。1992年生まれ、東京都出身。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた料理レッスン「自炊レッスン」や執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。2022年5月に『楽しくはじめて、続けるための 自炊入門』(note株式会社)が発売。ほかに『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』(エクスナレッジ)、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』(実業之日本社)がある。

対面形式で開催される自炊レッスンは参加者募集中。レッスンの詳細はこちら。
https://note.com/yucca88/n/n205a5523bc8b
Twitter:@yucca88、Instagram:@yucca88


文:山口祐加
編集:望月愛海

 

(注)本コラムに記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。