よりよい未来の話をしよう

「この世にごみは存在しない」?──デンマークのエコビレッジに学ぶ”ゼロウェイストの哲学”

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使っては捨て、ごみを出す。そんな時代にお別れを告げる時が来た。

2021年6月、プラスチックごみを削減することを目的とした新法が可決•成立した。来春にも施行されるという。日本政府は、使い捨てプラごみの排出量を2030年までに25%削減する目標を掲げている。パリ協定をはじめとする国際的な取り決めに後押しされ、環境汚染に対する問題意識が日本でも日に日に高まっているのを感じる。

なかでも、生活ごみの削減は最も身近に取り組むことができる。海外では、日本に先行した取り組みが行われているようだ。

本稿では、私たちが直面するごみ問題について言及したのち、デンマークで建設中の「ごみを一切ださない」エコビレッジを紹介する。ゼロウェイストを追求する町から学び、今日からできる取り組みを模索するきっかけになれば幸いだ。

積もりゆく未来への責任

2020年11月、レオナルド・ディカプリオが製作総指揮に名を連ねたドキュメンタリー映画『プラスチックの海』が日本で公開された。本作は、世界中の海に漂流するプラスチックごみが海洋生物の生命を脅かし、人体被害をも引き起こしていることを鮮烈な映像とともに伝えた。

川や道路へ投げ捨てられたおびただしい数のごみが動物たちを死へと追いやる様は、否が応でも観るものの倫理観や責任感を問う。

衝撃的なのは、1羽の小さな海鳥から取り出された大小さまざまな234個ものプラスチックの破片だ。体重の15%にも及ぶその量は、人間の体重に換算すると6~8キロのごみが体内に蓄積していることになるという。私たちが何気なく捨てるひとつひとつのごみは、疑いようもなく、自然を、そして生命をむしばみ続けている。

米国だけで毎年8000万トンの食品包装プラスチックごみが廃棄され、フィリピンのマニラでは1日に1500トンものごみが川に投棄されるなど映画本編では海外のデータを主に提示する。しかし、国連環境計画が2018年に発表した資料によると、日本は人口1人当たりのプラスチック廃棄量が米国に次いで世界で2番目に多い。(※)

※参考:「SINGLE-USE PLASTICS: A roadmap for Sustainability」国連環境計画 https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/new-report-offers-global-outlook-efforts-beat-plastic-pollution

また、環境省が2021年3月に発表したデータによると、本国のごみ処理最終処分場は残すところ21年で消滅する。残余容量は減少傾向にあり、最終処分場の確保は厳しい状態だという。

参考:「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度)について」環境省
https://www.env.go.jp/press/109290.html

日々何気なく捨てるごみのひとつひとつが、自然に猛威を奮っている。たったひとつ、と思うかもしれないが、それが何千、何万人と広がることで生じる被害は甚大だ。負の影響を被るのは、私たちの見えないところで苦しむ生物、そして未来に生きる人々である。

あなたは、地球で暮らす他の生命に対して責任感をもって行動することができているだろうか?

これらの悲劇的な事実を目の当たりにすると、もはや手遅れなのではないか? と落胆してしまうのも無理はない。だが、「ごみ」そのものをこの世からなくす取り組みが町レベルではじまっている。

すべての資源が循環する町

”In nature, waste does not exist”
(和訳:元来、この世にごみというものは存在しない)

参照:Lendager SUISTAINABLE ECO-VILLAGE (https://lendager.com/arkitektur/un17-village/

と語るのは、2018年からデンマークのコペンハーゲン・オアスタッドで「都市生活において排出される大量のごみを無駄なく循環させる」というコンセプトの下、広さ35,000平方メートル、住宅数400軒、人口800人程度の規模を想定した実験都市計画に携わるLendagerGroupだ。

廃棄物を「ごみ」ではなく資源として再活用し、ごみの排出量をゼロに近づける「ゼロウェイスト」を体現する取り組みといえる。

「The UN17 Village」と名づけられたその町は、2015年に国連が定めた17の「持続可能な開発目標(SDGs)」すべての達成に貢献することを目標にしている。世界で生じるごみの40%以上が建造物から出た廃棄物や汚染物質であるという事実を踏まえ、コンクリートや木、ガラス窓などのアップサイクル資材の活用や屋上庭園の設営、雨水の再利用など、地球資源の循環を推進するさまざまな工夫が凝らされる。

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(写真:NREP https://nrep.com/project/un17-village/

町全体を構成する建物の設計は、最新鋭のデジタルツールを用いて行われる。建築資材やインフラエネルギー、人々の社会活動がもたらす環境への負荷を最小限に抑えつつ、持続可能なまちづくりのあり方を検証する。

建築廃材の再活用には特に力を入れるようだ。通常は捨てられる廃材を資源としてとらえ、新しい建物の建設のため再加工し利用するという。

もう捨てるしかないと考えられていたモノが、持続可能な未来をつくる町の一部となり次世代へと継承される。

The UN17 Villageは現在、2023年の完成に向けて建設中だ。

今日からはじめるゼロウェイスト生活

私たちも、今日からはじめられることを模索する必要がある。

毎日キッチンにたまるごみをみて、「もったいない」と感じたことはないだろうか。家庭ごみの代表格である生ごみを堆肥にかえることができるコンポストは、身近に取り入れやすい例のひとつだろう。

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(写真:ローカルフードサイクリング(株) https://lfc-compost.jp/product

卵の殻や野菜の皮、残飯などを土と混ぜ発酵させることで栄養価の高い肥料となり、家庭菜園に利用できる。一見手間がかかりそうだが、バッグ型になっておりキッチンに置いておけるものから専用の箱を庭先に設置して利用するものまでさまざまなバリエーションがあり、はじめやすそうだ。生ごみを廃棄するためのプラスチック袋削減も期待できる。

現在世界中で浸透しつつある「パーマカルチャー(Permaculture)」をご存知だろうか。

永続性(パーマネント)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに人や自然が共に豊かになるような関係を築くためのデザイン手法だ。
参照:「パーマカルチャーとは」パーマカルチャーセンタージャパンより(http://pccj.jp/permaculture/whats/
つまり、農業的な暮らしから生活の術を学び、持続可能性のあるライフスタイルを追求するにはどうすればよいか考える文化と言える。

パーマカルチャーは、1970年代半ばに生物学者のビル・モリソンとデビッド・ホルムグレンが提唱した。農業の技術を参考にしつつ、限りある資源を有効に活用するための方法論を説くパーマカルチャーが実践するのが、まさに家庭菜園だ。

広い土地がなくとも、室内あるいはベランダにちょっとしたスペースがあれば植物を育てることができる。植物を植えるプランターは、用が済んだ牛乳パックやペットボトル、缶詰の缶など、誰の家にでもある「ごみ」で十分だ。パーマカルチャー的な視点で考えると、都会に溢れるごみも立派な資源になる。
(参考文献:ソーヤー海監修、東京アーバンパーマカルチャー編集部編『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』エムエムブックス、2015年)

さよなら、「消費者」

ごみだと思っていたモノでも、ちょっとだけ想像力を働かせれば、新しいモノに生まれ変わる。

大量生産・大量消費の時代を生きてきた私たちは、常にモノを消費する立場だった。

しかし、これからの時代に求められるのは、パーマカルチャーの思想やThe UN17 Villageの理念に見出せる「消費者から創造者へ」の思考転換だ。ちょっとしたアイデアで、私たちは世界をつくりかえることができる。

あなたにできることは何だろうか。ごみ箱にのばしたその手を止めて、立ち止まって考えてほしい。

 

取材・文:柴崎真直
編集:森ゆり