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サードプレイスとは?その意味や具体例、社会的重要性を徹底解説!

サードプレイスとは、家庭や職場、学校等とは異なる心地の良い「第3の場所」を指す言葉だ。この記事では、その言葉の意味や現代社会における役割、活用方法等について紹介する。

※本記事はレイ・オルデンバーグ著、忠平美幸訳『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地良い場所」』(みすず書房、2013年)を参考に執筆しています。

サードプレイスとは

サードプレイスという言葉は、アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した考え方である。著書『The Great Good Place』(1989)のなかで、「家庭や職場での役割から解放され、一個人としてくつろげる場」としてサードプレイスを位置づけた。利害関係のないコミュニティを謳歌し、様々なストレスを抱える現代社会のなかでも、ゆったりと過ごす時間を得ることが重要だとしている。

サードプレイスの基本的な定義

サードプレイスは、自由で開かれた「とびきり心地の良い場所(原題の通り“The Great Good Place”)」を指す。オルデンバーグは著書の中で「インフォーマルな公共生活の中核的環境」という定義もしている。義務や必要性に縛られることなくリラックスして過ごせる場所であり、後述するファーストプレイス・セカンドプレイスがある程度「役割」や「追うべき責務」が決められた組織であるのに対し、サードプレイスは気ままに自分の気持ちに応じて選択できる場所のことを言う。カフェや図書館、また地域活動等のコミュニティ(場所的な実態がないもの)も該当するとされる。

ファーストプレイス・セカンドプレイスとの関係

同著では、サードプレイスと並び人生に関わる場所として「ファーストプレイス」「セカンドプレイス」の定義がなされている。サードプレイスとならぶ対象として、こちらも認識しておきたい。

第1の場所・ファーストプレイス=「家庭」

最もプライベートな場所、家庭を指し、3つの中で最も重要な場所だとされている。生活の基盤となり、家族と生活を共にする場所ではあるが、家族ゆえの責任が生じたり、家族内のトラブルによりストレスを感じたりと、必ずしも常に心穏やかな場所であるとは言い切れないだろう。

第2の場所・セカンドプレイス=「労働環境」(「職場」「学校」などの生活の糧を得る場所

経済活動や学業に励む場所など、家庭以外に長い時間を過ごす場所であり、“個人を単一の生産的な役割へと変える場”でもある。否応なしに他人との関わりを求められる場所であるため、人間関係のストレスなどを抱えるケースも多く、また仕事や学業における一定の成果が求められる場合も多い。

ファーストプレイス・セカンドプレイス・サードプレイスの序列は、それらに対する個人の依存度と一致し、より長く時間を使う場所から順に、“ファースト”プレイスと名付けられた。国によっては、サードプレイスの立ち位置が他の2つに近いケースもあり、オルデンバーグは著書で、アイルランドやフランス、ギリシア等をその例として挙げている。産業化以前、ファーストプレイスとセカンドプレイスは1つだったと分析しており、著書では以下のように記している。

産業化は、居住地から職場を切り離し、家庭から生産性の高い仕事を奪い去り、それを距離的にも倫理的にも精神的にも家庭生活から遠ざけた。わたしたちがいまサードプレイスと呼ぶものは、この職住分離よりずっと前からあったのだから、本書の用語は産業革命及びそれが生活を公と私の領域に分けたことのすさまじい影響力をしぶしぶ認めたものといえる。

(レイ・オルデンバーグ著、忠平美幸訳『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地良い場所」』(みすず書房、2013年)p.60)

社会が近代化し、効率的に生産性を上げることが求められるなかで、改めて一息つくことのできるサードプレイスの重要性が見直されたと言えるだろう。

サードプレイスが注目された背景

サードプレイスが注目された背景は、提唱された1980年代当時のアメリカと、現代の日本では少し異なる部分があるようだ。それぞれの背景を見てみたい。

アメリカにおけるサードプレイス

オルデンバーグがサードプレイスを提唱した1980年代のアメリカは、自動車依存型の社会で、地域コミュニティの希薄化が問題視されていた。都市環境のなかに公共のくつろぎ機会がなくなることで、「家庭(ファーストプレイス)」と「労働環境(セカンドプレイス)」の2拠点を行き来することが日常生活と化し、その2つが人々の居場所として大きな位置を占めたことで、必然的に国民が家庭・仕事それぞれに寄せる期待は大きくなった。その結果、家庭及び職場にかかる重圧が増大し、離婚件数や対人関係のストレスの増加といった課題が見られるようになっていた。

そのような問題を背景に提唱されたのが、ストレス解消や息抜きのための場、サードプレイスの重要性だ。その後のアメリカでは、カフェ等を中心にサードプレイス的な場所が生まれていき、提唱から30年程経った現在でも変わらず注目されている考え方である。

日本におけるサードプレイス

日本においてサードプレイスという言葉が使われ始めたのは、1990年代にアメリカのカフェチェーンが日本に上陸した頃とされている。アメリカと類似する、現代社会における社会生活の忙しさに加え、働き方の多様化やワークライフバランスを重視する傾向など、これまでの“生活の型”に変化が現れたことにも伴い、この概念が広まったようだ。

日本社会では、従来「家庭(ファーストプレイス)」と「労働環境(セカンドプレイス)」が中心の生活が当たり前だったが、人口減少時代に突入した現代では、個々人によって異なる幸福やライフスタイルが重視されるようになった。そのような風潮とも相まって、重要な概念になってきている。

現在ではコロナ禍で、都市一極集中ではない分散型の社会システムの必要性が明らかになった影響もあり、さらに注目度が高まったとも言える。

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サードプレイスの特徴と種類

それでは具体的に、サードプレイスにはどのような要素が求められるのだろうか。

サードプレイスの特徴

オルデンバーグは、著書『The Great Good Place』でサードプレイスの具体的な特徴として以下を挙げている(※1)。これは世界各地のサードプレイスに共通する本質的な特徴であり、ドイツの居酒屋やイタリアの食堂、スラム街のバーなどに類縁性が見られると述べている。

中立の領域(ニュートラル・グラウンド)であること

・個人が自由に出入りできる
・誰も接待役を引き受けずに済む
・全員がくつろいで居心地よいと感じる

人を平等にするもの (レヴェラー)であること

・誰でも受け入れる
・敷居が低く、正式な会員資格や入場拒否の基準がない
・地位や身分に関わらず、人柄の魅力や雰囲気を重視する

会話がおもな活動となること

・元気があって、束縛がなく、熱っぽい会話が行われる

利用しやすさと便宜

・1人で出かけていける
・長時間開いていて1日のどんな時間帯にも利用できる
・定期的に訪れられる
・近場にある

常連がいること

・その場所に特色を与える
・にぎやかな雰囲気を作る
・新参者を受け入れる

目立たない存在であること

・物理的構造は地味で飾り気がない
・ほかの用途で造られた、割合古くからある場所
・商業主義的でない

その雰囲気に遊び心があること

・遊び場としての役割
・思いのほか長居をしてしまう

もう1つのわが家 

・人々を根づかせる 
・慣れとともに進む私物化
・社交の再生の場 
・存在の自由 
・ぬくもりのある場

※1 参考:明星大学デザイン学部「デザインセッション多摩 2021 サードプレイス」https://meide.jp/dest2021/assets/images/dest2021.pdf

日本におけるサードプレイスの種類

日本においては、サードプレイスを以下のように分類する考えが発表されている。(※2、3)

マイプレイス型

自分のためにゆっくりと静かな時間をすごすというニーズによるサードプレイス。1人でくつろげるカフェやファストフード店、図書館などが該当する。いわゆる“ソロ活動”が主流となってきたなかで、そのバリエーションは拡大傾向にある。

交流型(社会的交流型/社交交流型)

交流を目的とするサードプレイスのうち、社交的な交流を求めるもの。カフェや居酒屋等で常連客同士、あるいは店主と客の間でコミュニケーションが活発になり、“なじみ”が形成されるような場所が該当する。職場のメンバーと集う居酒屋などは、セカンドプレイスの延長的な要素が強いため、純粋なサードプレイスとは言えないケースもある。

交流型(目的交流型)

交流を目的とするサードプレイスのうち、社交以外の何らかの目的を求めるもの。目的に応じて人が集まるので、多様な人で構成される。地域活動やボランティア活動、趣味の活動、社会人大学院などが該当する。

義務的共同体型

学校のPTAや地域の消防団等、義務や職務的に始めた活動が次第に心地の良い関係となり、役割を超えてリラックスできる関係性になるようなケース。発端は義務に近くとも、徐々にサードプレイス的に空間に実態が変化するしていくものが該当する。

オルデンバーグが提唱したサードプレイスは「社会交流型」に最も近く、それ以外は意図せず形成されたサードプレイスと捉えることもできる。またマイプレイス型は、オルデンバーグが定義した特徴のうち「会話」や「常連」などの要素が該当せず、一方で目的交流型は特徴はすべて満たしたうえで、社交以外の目的が付加されているなど、アレンジが加えられていると解釈することができる。

※2 参考:片岡 亜紀子・石山 恒貴(法政大学大学院政策創造研究科)「サードプレイス志向と地域自己効力感が地域コミットメントに与える影響:離職期間有無の差異を含めた検討」
https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=23407file_id=22&file_no=1
※3 参考:大正大学 地域構想研究所/「地域戦略人材塾」石山 恒貴講義「地域戦略人材塾 関係人口とサードプレイス」
https://chikouken.org/wp-content/uploads/2021/11/9b0b1f38ce516bee00b122712ef6da87.pdf

サードプレイスの社会的重要性

ここまで、サードプレイスの概要を見てきた。それでは、実際にどのような意義があるのだろうか。

新たなコミュニティの獲得

まずサードプレイスは、新しいコミュニティを得る機会になる。他人と関わる・関わらないに限らず、自身にとって居心地の良い第3の場所を獲得することは、生活の中の選択肢が増えることを意味するだろう。

「交流型」「義務的共同体型」など他者との交わりを含むサードプレイスに身を置く場合には、普段出会わない人たちとの出会いがあり、それによって視野が広がったり新たな関心事に出会ったりと、自分の世界を広げることにもつながる。

日本では、現在「社会的孤立」が大きな課題になってきている。たとえば2022年に実施された調査では、どの年代でも半数程度の人が孤独を感じている(以下グラフ参照)。そのような現代社会では、複数の“自分の居場所”を持ち、「どこか1つの場所の自分」に縛られずに、心地よく過ごせる場所を持っておくことが重要ではないだろうか。その意味でも、「家庭(ファーストプレイス)」や「労働環境(セカンドプレイス)」だけではなく、自分が自由に選択できるサードプレイスを持っておくことは自分自身の力にもなるだろう。

出典:内閣官房孤独・孤立対策担当室「人々のつながりに関する基礎調査(令和4年) 調査結果の概要」【図1-4】より筆者作成。100%に満たない数値は無回答。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r4_zenkoku_tyosa/tyosakekka_gaiyo.pdf

ウェルビーイングへの貢献

何よりサードプレイスは、貴重なリラックス空間になる。「家庭(ファーストプレイス)」や「労働環境(セカンドプレイス)」では、人との関わり合いのなかで自身に何らかの役割(親・子、上司・部下など)が与えられ、その役割や責務を全うする必要が出てくる。そういった役割、利害と関係なく“ありのままの自分自身”でいられる機会は、なかなか日常生活ではないのではないだろうか。その意味からは、ウェルビーイングに欠かせない要素であるとも言えよう。

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サードプレイスの活用

サードプレイスは、必ずしもリアルな場所だけではない。その形態にもさまざまなものがある。ここからは、具体的な活用例を見てみたい。

サードプレイスの具体例

国や文化等によって異なると断りを入れつつも、オルデンバーグが提唱したサードプレイスで提起されたのは、フランスのカフェ、イギリスのパブ、ドイツの居酒屋、メインストリート等であった。著書のなかでも、それらを具体的なサードプレイスの例として活用の例が語られている。

日本における例であれば、スターバックスコーヒーは日本上陸以来、一貫してサードプレイスであることを提唱している。実際に多くの人が1人で、あるいは友人と集う場として、すでにサードプレイスのイメージが確立された存在だと言えよう。

現代社会におけるサードプレイス

法政大学の石山恒貴教授は、現代の日本におけるサードプレイスを以下の4つに分類している。(※4)現代社会におけるサードプレイスを理解するにあたって、この分類に則った例も見てみたい。

伝統的サードプレイス

オルデンバーグが提唱した、サードプレイスの特徴を満たす場が伝統的サードプレイスである。地域密着のコミュニティ、カフェ、バー等、上に例として挙げてきたような内容が該当する。

バーチャルサードプレイス

現代社会では、SNSもサードプレイス的な役割を果たしている。ある研究では、X(エックス)で育児関連の情報をやり取りする事がサードプレイスの特徴のうち、8つを満たしていたそうだ。そのほか、オンラインにおけるコミュニティ等はこの「バーチャルサードプレイス」に該当し、現代社会ならではの概念だと言える。

直接どこかの場所に赴かず、適度な距離感を持って交流をもてるバーチャルサードプレイスは、リアルよりもアクセスしやすいサードプレイスとしても機能するだろう。

演出された商業的サードプレイス

前述したスターバックスコーヒーはサードプレイスの代表格というイメージがあるが、その商業性から見てサードプレイスとは言い難いという見解もある。たとえば廉価ゆえにコーヒーを求めに来る客が多い場合、居場所としての性質より商業性が高くなり、サードプレイス的な要素があるとは言い難い。一方で顧客同士、あるいは従業員とのコミュニケーションを通じてその店に愛着が高まるのであれば、サードプレイス的な場所であるということもできる。

そこで石山氏は、後者を伝統的サードプレイスとみなし、前者(飲食が目的となる消費行動)のうち、アットホームな演出がなされ、“サードプレイスっぽさ”を演出している場合を「演出された商業的サードプレイス」と定義づけた。チェーンのカフェやファストフード店、居心地の良さをコンセプトに謳ったサービスなどはこれに該当すると言える。

テーマ型サードプレイス

現代社会では、「コミュニティ」は必ずしも地理的な条件にとらわれない。同じ関心領域を持つ人々が集まるコミュニティもあれば、オンラインでなされるコミュニティもある。また特定のメンバーで結束するコミュニティだけでなく、繋がりを広げていくことに価値を置くコミュニティもある。そのような背景を踏まえ、必ずしも地縁にとらわれず、結束を求めないスタイルのサードプレイスコミュニティを「テーマ型サードプレイス」と名付けている。

コワーキングスペースは、伝統的サードプレイスの特徴を持ちつつも、テーマ型サードプレイスと言えるとされている。

このように、現代社会ではサードプレイスのあり方も多様化している。自分にとって“心地の良い”サードプレイスを選びやすい環境に、さらにアップデートされていっているのかもしれない。

※4 参考:法政大学教授 石山恒貴「サードプレイス概念の拡張の検討―サービス供給主体としてのサードプレイスの可能性と課題」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2021/07/pdf/004-017.pdf

まとめ

「自立することは、居場所をたくさん持つことだ」という話を聞いたことがある。人間は誰しも1人だけで生きることは難しく、「助けてもらえる居場所や人との関わりをたくさん持っておくことが重要だ」という考えだ。この考えに基づくと、まさにサードプレイスは自分自身が「新たな居場所や助けを求められる場」を得ることに繋がり、人生を豊かにする要素になるだろう。

1度自分の身の回りを見てみると、あなたの周りにも大切なサードプレイスが生まれ始めているかもしれない。また新しいサードプレイスが欲しいと思う人は、近所の心地よい場所を見つけることや、オンラインなどの気軽な選択肢から始めてみるのはいかがだろうか。

 

文:大沼芙実子
編集: 吉岡葵