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フードシェアリングとは?その意味やメリット、デメリット、成功事例を徹底解説!

食品ロスが世界的に問題となって久しい。そんななか、食べられる食品を無駄にしないために、飲食店で廃棄寸前の料理や、賞味期限前に捨てられてしまう食品を安く購入できるインターネットサイトやスマートフォンアプリが展開されている。これらの取り組みは、総称して「フードシェアリング」と呼ばれている。

この記事では、「食品ロス」という現代社会の課題を解決する可能性を秘めたフードシェアリングの仕組みやメリット、事例について解説する。

フードシェアリングとは

フードシェアリングの概念

フードシェアリングとは、余った食材や調理済みの食事を、他の人々と共有することを指す概念だ。

たとえば、売れ残りや廃棄が発生しそうな店舗は、廃棄予定の商品をECサイトやアプリ等を使って出品する。そこで消費者とマッチングすることで、食品ロスを削減することができる。

フードシェアリングのプラットフォームには飲食店以外にも、メーカー、卸売、小売店等の流通経路の様々な段階で廃棄予定となった商品が掲載されている。掲載する際は、商品内容に加え、安く販売する理由等を記載することが求められる場合もある。

フードシェアリングの歴史と起源

フードシェアリングが広まるきっかけとなったのは、国や自治体が食品ロスを課題として認識し、解決に向けて取り組みを始めたことが影響していると考えられる。

SDGsでは、循環経済にかかわる目標12「つくる責任 つかう責任」において、以下のターゲットが設定されている。

2030年までに、お店や消費者のところで捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす。また、生産者からお店への流れのなかで、食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす

(※1)

また、国内では「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)が、2020年に公布・施行された。この法律では、「国民がそれぞれ食品ロスを課題ととらえ、食べ物を無駄にしないという意識を根付かせること」「まだ食べられる食品は、できるだけ食べる方向で活用すること」が明記されており、国民1人ひとりが食品ロスの削減を意識し、行動に移すことを推進している。(※2)

※1 引用:公益財団法人日本ユニセフ協会「12.つくる責任、つかう責任」
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/12-responsible/
※2 参考:消費者庁「食品ロスの削減の推進に関する法律」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/

▼小林涼子さんと一緒に考える「フードロス」

フードシェアリングの仕組みと種類

シェアリングエコノミーとの関連性

シェアリングエコノミーとは、インターネットを介して個人と個人・企業等との間で活用可能な資産(場所・モノ・スキルなど)をシェア(売買・貸し借り等)することで生まれる新しい経済の形を言う。(※3)

代表的な例に、配車サービスのUberや民泊マッチングサービスのAirbnbなどが挙げられる。シェアリングエコノミーの特徴は、貸し手と借り手との間に、プラットフォーマー(事業者)が介在しているという点だ。

従来のビジネスは、企業や事業者が消費者にサービスを提供する「BtoC(Business to Customer)」の形態が主流だったが、近年では情報化社会の実現により個人同士で取引をする「CtoC(Customer to Customer)」の ビジネスモデルが急速に発展しており、フードシェアリングプラットフォームもその流れで誕生した。

つまり、プラットフォームを介して食材を交換・売買するフードシェアリングは、シェアリングエコノミーの一例であると言える。

※3 参考:消費者庁「シェアリングエコノミー利用ガイドブック」
https://www.caa.go.jp/notice/assets/future_caa_cms201_211001_02.pdf

フードシェアリングの種類

フードシェアリングは、食品の提供側が食品サプライチェーンの上流か下流かを軸に、4つに分類することができる。

1つ目は、食品サプライチェーンの下流(飲食・小売)と消費者との直接マッチング。次に、食品サプライチェーンの下流(飲食・小売)と組織・団体とのマッチング。3つ目は、食品サプライチェーンの上流(農家・生産加工業者)と組織・団体のマッチング。そして、これらに加えて近年増加しているのが、食品サプライチェーンの上流と消費者を直接つなぐプラットフォームだ。(※4)

また、商品を受け取る側の視点で考えると、「飲食店、小売店等の店舗で受け取る」「プラットフォーム事業者からの配送を受ける」などの違いもある。

支払については、「フードシェアリングプラットフォーム事業者で事前に行う形態」や「小売店等に商品を引き取りに行った際に行う形態」等がある。

※4 参考:渡辺達朗農産物流通におけるフードシェアリングの役割拡大-循環経済と食品ロス削減との関連で-」
https://log-innovation.rku.ac.jp/laboratory/pdf/distribution72_4.pdf

フードシェアリングのソーシャル・ビジネスモデル

ソーシャルビジネスとは、「社会問題の解決を目的とした事業」を指す。

近年、環境保護や高齢者・障がい者の介護・福祉、子育て支援、まちづくり、観光など、様々な社会課題が浮き彫りとなっている。これらの課題解決に向けて、住民、NPO、企業など、様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むのが、ソーシャルビジネスだ。(※5)

その点フードシェアリングは、食品ロスの削減に寄与するため、ソーシャルビジネスの要素を満たしている。フードシェアリングは利用者が気軽に社会貢献できるきっかけになる上に、経済的な利点とコストの削減を両立できる。

フードシェアリングサービスに出品されている食品は、定価より割安な値段設定が多く、消費者は、正規品と変わらないものを安く食べられるため、節約効果が期待できる。事業者側にもメリットがあり、商品を捨ててしまえばその分の利益はゼロになってしまうが、買い手がつけば、店舗の売り上げとして計上することができる。廃棄する食品が減れば、廃棄にかかるコストを抑えることも可能だ。

ただし収益性の観点で課題も存在している。消費者は安い価格で食材を購入したいが、事業者側は仕入れ時点のコストを加味すると手数料などで売上を確保しなければならない。一方で、収益を一番に考えてしまうと、消費者側の購買意欲が下がってしまう可能性がある。

事業者側もサービスを持続することができ、消費者も継続してサービスを利用したいと思う適正な価格設定が必要になるだろう。

※5 参考:経済産業省「ソーシャルビジネス」
https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/sbcb/index.html

フードシェアリングのメリット

食品の廃棄物削減と環境への貢献

2011年に国連食糧農業機関が発表したデータによると、世界のフードサプライチェーン全体で、年間約13億トンの食料が廃棄されている。(※6)また、生産された後に廃棄される食品が原因で発生する二酸化炭素の量は、全世界で約33億トンにもなる。(※7)

フードシェアリングの大きなメリットは、上記のような大量の食品ロスを防止できる点に加えて、商品の運搬や焼却のために排出される二酸化炭素の削減に貢献することが可能だ。

つまり、フードシェアリングサービスを利用することで、食品ロスを削減し地球温暖化の防止にも貢献できるのだ。

※6 参考:国連食糧農業機関「世界の食料ロスと食料廃棄」
https://www.fao.org/documents/card/fr?details=438de57e-cbc4-53bf-a92a-9fd8babbcd75
※7 参考:国連食糧農業機関「世界の農林水産 2014年夏号(通巻835号)」
https://www.fao.org/3/i4659o/i4659o.pdf

地域コミュニティの結束と共感性

フードシェアリングは、地域の人と交流するきっかけになり、コミュニティ活性化への貢献も期待できる。そのため、地域のお店と自治体が連携し、地域活性化事業として取り組まれている事例も数多い。

パナソニック株式会社が提供する、事業者から出る食品ロスの削減を目的としたマッチングサービス「ごはんのわ」は、地域のお店と住民をつなぐフードシェアリングサービスだ。

このサービスでは、住民が店舗で購入することを促進し、直接購入することで生活者と地域のお店との間に新しい購入機会を創出することを目指している。現在は兵庫県洲本市、栃木県日光市でサービスを利用できる。(※8)

また、株式会社G-Placeが運営する自治体向けフードシェアリングアプリ「タベスケ」は、全国各地の自治体で導入されており、東京都板橋区、宮城県仙台市や山梨県甲府市などで利用可能だ。(※9)

※8 参考:PR TIMES「パナソニックの食品ロス削減マッチングサービス「ごはんのわ」、複数自治体対応にリニューアル~フードシェアリングの利用拡大を目指す~」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000019694.html
※9 参考:@Press「自治体向けフードシェアリングサービス「タベスケ」  採用自治体数23件、利用者数5万人を突破!! 食品ロスを“お得”で解決」
https://www.atpress.ne.jp/news/373694

▼佐藤玲さんがロンドンで体験したフードロスのアプリとは?

 

フードシェアリングの課題

食品ロスに対する解決策として広がりつつあるフードシェアリングだが、一般的に普及しているとは言い難い。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2020年に実施したアンケート調査においては、食品別のフードシェアリングの利用状況に関するアンケートで、フードシェアリングを「利用したことがある」人の割合は10%以下にとどまっている。(※10

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
「リユース・フードシェアリングの利用状況に関するアンケート結果」より筆者作成

フードシェリングの普及を阻んでいる理由としては、以下のような課題が考えられる。

※10 参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「リユース・フードシェアリングの利用状況に関するアンケート結果」2020年3月
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/assets/internet_committee_200331_0003.pdf

衛生と安全性への懸念

フードシェアリングで提供される食品は、期限的にはまだ食べられるものであるものの、安全性が保証されているわけではない。賞味期限が過ぎたものや、見た目が悪いものなど、品質が劣化している可能性があるため、提供者の衛生管理や、食品の保存状態などには注意が必要だ。

先述のアンケートにおいて、フードシェアリングを利用するにあたっての要望や課題等に関する問いでは、「消費期限がどのくらい迫っているか」を懸念する人の割合が最も高い。(※11)

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「リユース・フードシェアリングの利用状況に関するアンケート結果」より筆者作成

これらの懸念に対して、消費者が安心して購入できるよう、「消費期限が近い」「外箱が壊れている」「天候等の影響で余った」など、フードシェアリングで提供されている理由を明らかにすることで、消費者が納得して購入できるようにする工夫もみられる。

他にも、フードシェアリングで提供される理由すべてををアプリ上だけで説明することは難しいため、消費者には店舗で商品を必ず見てもらい、消費期限や賞味期限を確認してもらってから販売を行う事業者も存在する。(※9)

※11 参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「リユース(クラシファイド、フードシェアリング)の動向整理」(2020年3月)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/internet/pdf/caution_internet_200331_0001.pdf

法的規制とライセンスの問い

フードシェアリングにまつわる法的規制として、政府は2000年に「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(通称食品リサイクル法)を定めた。

食品ロスを減らすため、製造・加工・調理の段階で余った食品や残り物について、「発生の抑制と量の削減による最終処分量の減少」を目指す方針を立て、また、余剰な食品を飼料や肥料として再利用し熱回収などの再生利用にも取り組むことを方針としている。(※12)

中でも、「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習をどう緩和していくかが、フードシェアリングの普及、そして食品ロスの削減に直結していると考えられている。「3分の1ルール」とは、小売店などが設定するメーカーからの納品期限及び店頭での販売期限が、製造日から賞味期限までの期間を3等分して設定されている場合が多いことを指す。製造から最初の3分の1を超えると賞味期限が残っていても廃棄される可能性があるため、食品廃棄発生のひとつの要因とされる。

また、フードシェアリングのプラットフォーム上では、料理等の出品を行う飲食店について、食品営業許可証等の確認をしている事業者も存在している。

※12 参考:農林水産省「食品ロスの削減に関する法制度・目標」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_4-66.pdf

▼「廃棄を持ち帰るとどうなるか」については以下の記事をチェック

 

フードシェアリングの成功事例とブランド

国内では、2018年にリリースされた国内初のフードシェアリングサービス「TABETE」を筆頭に、以降数多くの企業がフードシェアリングプラットフォームを展開している。以下の章では、代表的なプラットフォームを紹介する。

「TABETE」(株式会社コークッキング)

TABETE(以下、タベテ)」は、個人ユーザーと飲食店、スーパー、ホテル等を繋ぐサービスだ。お店で余ってしまいそうなメニューや、まだ安全に美味しく食べられるが捨てざるを得ない商品などが出品されている。アプリで気になるメニューを見つけたら、そのまま購入ができる。商品を購入した後は、店舗に向かい、お店の人にアプリの画面を見せて商品を受け取るだけだ。

タベテは、全国各地の自治体との連携事例があり、環境省が設ける「環境省 グッドライフアワード」や、内閣府が主導する「内閣府 日本オープンイノベーション大賞」にて受賞の実績がある。(※13)

※13 参考:TABETE(タベテ)公式ホームページ
https://tabete.me/

「KURADASHI」(株式会社クラダシ)

KURADASHI(以下、クラダシ)」は、加工食品のメーカーと消費者をつなぐ社会貢献型のフードシェアリングプラットフォームで、協賛メーカーから提供された消費期限が近い商品などを、手頃な価格で販売している。飲食店としては、使う食材をお得に仕入れることができるメリットがある。

クラダシが公式サイトで公表しているレポートによると、2023年12月時点で、20,653トンのフードロス削減、に貢献している(※14)

※14 参照:KURADASHI(クラダシ)「支援レポート」
https://kuradashi.jp/pages/report

「Tabeloop」(バリュードライバーズ株式会社)

バリュードライバーズ株式会社が運営する「Tabeloop(以下、タベループ)」は、良質だが余剰になっている加工品、規格外の生鮮食品などの訳あり品を、お得に提供することをめざすサービスだ。姉妹サイト「産直Tabeloop」では、包装が汚れている食品、賞味期限の問題で食品スーパーなどの店頭に並ばない食品、味は問題ないが形が不揃い、傷がついているなどの理由で市場に流通されない食品などを扱っており、売上の一部をFAO(国際連合食糧農業機関)などに寄付している。

これらの国内プラットフォーム以外にも、海外発のフードシェアリングプラットフォームとして、スウェーデン発祥の「Karma」(※15)や、デンマーク発祥の「Too Good To Go」(※16)などが成功事例として挙げられる。

※15 参考:ForbesJAPAN「世界の「フードロスをなくす」スウェーデン発のアプリKarmaの挑戦」
https://forbesjapan.com/articles/detail/22879
※16 参考:日経クロストレンド「食品ロスを減らすアプリ「Too Good To Go」とは」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00189/00008/

▼食料廃棄を防ぐ食糧支援「コミュニティフリッジ」とは?

 

まとめ

日本では、2021年度に約523万トンの食品ロス(家庭から約244万トン、事業者から約279万トン)が発生したと推計されている。(※17)これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量(2021年で年間約440万トン)の1.2倍に相当する。(※18)

SDGsでも、食料の損失を減少させることが、国際的な共通の目標として明確に示された。それを踏まえ、日本においても、食品関連事業者及び家庭から排出される食品ロスについて、2000年度比で2030年度までに半減させることとしている。(※19)

私たちが食品ロスに取り組むために日常生活でできることとして、もちろん初めから食品が余らないように工夫することも大切だが、フードシェアリングという選択肢を加えてみるのもいいかもしれない。

※17 参考:環境省「食品ロスポータルサイト」
https://www.env.go.jp/recycle/foodloss/general.html
※18 参考:消費者庁「食品ロスについて知る・学ぶ」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/education
※19 参考:消費者庁「令和2年度版消費者白書」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_131.html

 

取材・文:柴崎真直
編集:吉岡葵