- コンパクトシティとは?
- コンパクトシティ開発の背景
- コンパクトシティ実現に向けた政策
- コンパクトシティが目指すこと
- コンパクトシティにおける課題と批判
- 世界のコンパクトシティ成功例
- 日本におけるコンパクトシティ成功例
- まとめ
コンパクトシティとは?
自動車の普及によって長距離移動が可能となり、人々は都心から郊外へと居住地を移していった。しかしいま、そんな生活の持続不可能性が問題視されている。一時は良かった郊外の暮らしも、免許を返納した後、周りを見渡すと近隣には病院もスーパーも娯楽施設もなく、孤立してしまう高齢者が増えているという。
この問題は、現在日本が抱える人口減少や高齢化といった問題と伴に、大きな課題となっている。解決するための方法として、ここ数十年で市街地を「コンパクトシティ」にするという考え方が実践されつつある。
コンパクトシティの定義
日本でいち早くコンパクトシティの考え方について提唱した名城大学都市情報学部教授の海道清信氏は、著書『コンパクトシティの計画とデザイン』(2007年、学芸出版社)で以下のようにコンパクトシティを定義する。
- 人口密度が高い
- 段階的に中心地が配置されている
- 市街地の面積を無秩序に拡散させない
- 自動車をあまり使わずに日常生活ができる
- (都市圏であれば)コンパクトな都市を公共交通で結ぶ
これまで、都心に密接する市街地の多くは、次から次へと無計画にその土地を拡張してきた歴史があり、住居と商業施設や病院などの公共機関が点在していた。しかしそれをコンパクトにまとめ、できるだけ自動車を使わない方法で結び、その拠点を暮らしやすく充実させることが、コンパクトシティのあり方だといえる。
コンパクトシティの特徴
日本が進めるコンパクトシティ政策のひとつである「立地適正化計画」では、コンパクトシティの考え方が提案されている。(※1)
無計画に市街地を広げる「スプロール現象」によって拡大してきたエリアの特徴は、拠点が無秩序に点在することにある。そのため、一見都心に近いエリアでも、自動車などの交通手段が遮断されると急に孤立化する恐れがある。コンパクトシティは、点在する都市の拠点を強固な交通網で結び、その間に適切な住居環境と医療・福祉・商業施設を配置し、体制を強化するまちづくりである。また、そのまちのあり方が持続可能かどうかも重要な点だ。
コンパクトシティの推進には、医療や福祉、地域の公共交通機関、公共施設など、地域全般に関わる民間と行政が連携し、進めていくことが重要不可欠だ。
※1 参考:国土交通省 「立地適正化計画の意義と役割 ~コンパクトシティ・プラス・ネットワークの推進~」
https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network2.html
コンパクトシティの歴史
1973年にアメリカでジョージ・ダンツィヒとトーマス・サティが『コンパクトシティ』という共著を出版(※2)したことが、この言葉が社会に浸透したきっかけだと言われている。この本では、平面的に広がってしまった都市を縮小させ高層化し、居住者の活動する時間をずらすことによる効率化を図る理想都市を提唱した。(※3)
その後、1990年には欧州委員会(EC)が「都市環境緑書」で密度が高く複合機能を持つ伝統的な都市の必要性を提起。90年代は欧州を中心にコンパクトシティの考え方が広まっていった。これには、中世都市のコンパクトな歴史空間がモデルケースとしてわかりやすいことがあったのではないかとされる。
遅れて日本では2000年頃にコンパクトシティの考え方が普及し、2006年に内閣府が「中心市街地活性化法」を改正したことで政策として位置づけられた。ここでは従来の「市街地の整備改善」「商業等の活性化」に加え、「まちなか居住の推進」「都市福利施設の整備」等の支援措置を追加している。この改正の背景として内閣府は下記のように述べている。
地方都市を中心に中心市街地の衰退が深刻化し、公共公益施設や大規模商業施設などの都市機能の無秩序な拡散が進む等の、様々な問題が生じた。そのため、既存の社会資本ストックを有効に活用しつつ、都市機能を集約したコンパクトなまちづくりへと転換することが必要とされた。
(※4)
2012年には国土交通省が「都市の低炭素化の促進に関する法律(略称:エコまち法)」によって、脱炭素社会としての公共交通の整備とまちづくりを目指した法制化を実施。市街地区域の都市計画において自動車の使用を減らすために、歩道や自転車用道路の整備を支援したり、環境保全のために民有地の緑化推進や樹木保護したりすることの策定が盛り込まれた。
さらに2014年には行政と民間事業・住民が一体となってまちづくりをするために「都市再生特別措置法」が改正され、自治体が自ら先述した「立地適正化計画」を策定できるようになった。
2023年12月時点で703市町村が「立地適正化計画」の作成による具体的な取組みを行っており、そのうち、537市町村が立地適正化計画を作成・公表済みだという。(※5)このように、提唱されて約50年が経ったいま、日本各地でコンパクトシティの実践が進められている。
※2 補足:日本では1974年に日科技連出版社より『コンパクト・シティ - 豊かな生活空間四次元都市の青写真』というタイトルで出版されている。現在は絶版。
※3 参照:国立環境研究所 コンパクトシティ
https://www.nies.go.jp/kanko/news/32/32-3/32-3-03.html
※4 参照:内閣府地方創生推進事務局 中心市街地活性化制度について
https://www.chisou.go.jp/tiiki/chukatu/pdf/02_nintei_nagare.pdf
※5 参照:令和6年度版国土交通白書全文 PDF版 p171
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001751766.pdf
コンパクトシティ開発の背景
コンパクトシティは、都市の発展により、郊外へと無計画に生活圏が拡大されたことによる対応策として提案されている。もともと、江戸時代頃から戦前までは、城下町として城のすぐそばにまちが形成され、鉄道の発達によっても地域が点在することがなかった。
しかし、自動車の台頭によるモータリゼーションが起こると、スプロール現象によって拡散された市街地に、様々な社会課題が浮かび上がってきた。
- 人口減少
日本の総人口は、2004年をピークに減少し続け、2104年には明治時代の人口水準にまで戻るとされている。人口数が出生率の減少により急激な降下を辿る一方で、2025年には、現在最も人口比率を占める団塊世代が全員高齢者となる。2050年には、人口の約4割が高齢者になるのだ。
こうした人口減少により、市街地が低密度になると、地域産業が減り生活を支えるためのサービスも減少する。また高齢化が進むと、住民は自動車の使用を辞め、公共交通機関に頼ることとなる。低密度化が進んだ都市において、住民と公共施設との距離を近づけ、適切な交通機関を敷くことが必要だ。
- 環境問題
スプロール現象により郊外の土地が住居や商業施設として開拓されることで、自然環境や農地が減少しているという指摘がある。
また、気候変動対策として脱炭素化を目指す社会では、自動車移動による環境負荷は大きな課題となる。自動車による二酸化炭素の排出量調査によると、宇都宮市や金沢市、静岡市といった比較的人口密度の低い地方都市の排出量が高く、東京23区は低い結果となっている。(※6)
さらには自動車の普及に伴い、地方都市では公共交通機関の乗降者数が減少、ドライバー不足による運行数の制限や停車駅の廃止などが起こる悪循環が生まれている。1人ひとりが自動車の所有について考えるだけでなく、行政や民間事業が一緒になり、交通体制の見直しと改革をする必要がある。
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※6 参照:公益社団法人日本都市計画学会 『都市別自動車CO2排出量の長期的変遷ーCOVID-19流行を経た34年間にわたる追跡からー』p453 図-2
https://shako.sk.tsukuba.ac.jp/~tj330/Labo/taniguchi/member/pdf/RCPI_22_matsuba.pdf
- 文化保全
環境や社会福祉だけでなく、文化的な観点においてもコンパクトシティの必要性がささやかれている。市街地の低密度化が進むと、映画館や美術館、図書館など、人々の文化を形成するために必要不可欠な施設も経済状況の悪化により撤退を余儀なくされる。
沿道に大型商業施設や全国展開のチェーン店が並ぶ市街地では、小さな商店街や個人店は淘汰されていく。どこにいっても同じ店が並び、地域の個性が失われていくことを、評論家の三浦展氏はファストフードならぬ「ファスト風土化」と呼び批判した。(※7)
むしろ早くから人口減少の課題を抱えていた過疎地域である田舎の方が、今では地域の街おこしや観光客誘致に力を注ぎ成功事例を作っており、かえって都市部からほど近い市街地のほうが対応に遅れを取り、文化的資産を失いつつあるのだ。
このように、環境問題や人口問題はもちろんのことながら、人々の文化形成のためにもコンパクトシティの形成は重要視されている。
※7 参考:国際日本文化研究センター学術リポジトリ『ファスト風土=持続不可能な風土』(2007年)
https://nichibun.repo.nii.ac.jp/record/5231/files/niso_041__153__145_152__153_160.pdf
コンパクトシティ実現に向けた政策
ここで改めて、国土交通省が実施しているコンパクトシティの実現に向けたさまざまな政策を見ていく。
予算や税制等の支援措置
「立地適正化計画制度」とは、コンパクトシティの計画作成や実施における予算措置等で支援することである。2023年度時点では36個もの支援措置が存在する。ここでは、支援措置の一部を紹介する。(※8)
- コンパクト形成支援事業
地方公共団体等が行う「立地適正化計画」の計画策定や「防災指針」の作成、まちづくりに関する専門家の費用の一部を補助する。(※9)
- 官民連携まちなか再生推進事業
官民連携によるエリアプラットフォームの形成や未来ビジョンの策定、自立・自走型システムの構築に向けた取り組みに要する費用を一部補助する。
都市のスポンジ化対策
都市の内部で空き地や空き家等の低未利用空間が散発的に発生する「スポンジ化」が発生している。「スポンジ化」の進行により、生活利便性の低下や治安・景観の悪化などが引き起こされ、都市の衰退を招く恐れがあると考えられている。そのため、「スポンジ化」への対処として2018年に都市再生特別措置法等の一部を改正し、低未利用地の利用を促している。(※10)ここでは、スポンジ化対策に取り組む一部の都市を紹介する。
- 愛知県岡崎市
将来的に市中心部での人口減少が見込まれ、「スポンジ化」が発生するとみられる。そこで、市中心部への居住の誘導を図るために公共交通機関の整備や生活サービスを集積するなど、利便性を高める取り組みを行う。岡崎駅周辺では教育機能や商業機能の集積、市南部で現在不足している医療機能や子育て支援機能の誘導施策を実施。また、東岡崎駅周辺の乙川リバーフロント地区では、豊富な公共空間を活用して、公民連携プロジェクトを実施することにより、回遊を実現させ、まちの活性化を推進している。(※11)
- 兵庫県西脇市
西脇市では、将来的に人口減少と高齢化率の上昇、特に市街化区域内での人口密度が低下が見込まれ、中心市街地での「スポンジ化」が発生するとみられ、医療・福祉施設、商業施設等の生活サービスの低下なども懸念されている。そこで、都市機能を東西2拠点に集約化し、生活利便性を持続的に維持できるようなコンパクトなまちづくりを進めている。(※12)
開発許可制度の制定
開発許可制度とは、「スプロール現象」を防止するため、都市計画区域内で開発行為をする場合や市街化調整区域内で建築行為をする場合などは、都道府県知事や市町村の長などの開発許可権者の許可を得なければならないとした制度である。(※13)
※8 参照:国土交通省『立地適正化計画に係る予算・金融上の支援措置一覧(令和5年度)』
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/content/001620837.pdf
※9 参照:国土交通省『都市計画:立地適正化計画に係る予算・金融上の支援措置』
https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/content/001620164.pdf
※10 参照:国土交通省『コンパクトシティ政策について』p33
https://www.mlit.go.jp/common/001273984.pdf
※11 参照:岡崎市『岡崎市立地適正化計画(令和6年3月)』
https://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1184/1169/p021041_d/fil/R6ritteki.pdf
※12 参照:兵庫県西脇市『よくわかる「西脇市立地適正化計画』https://www.city.nishiwaki.lg.jp/kakukanogoannai/kensetsusuidoubu/toshijutaku/urban_design/nishiwaki_ritteki/yokuwakaru_nishiwaki_ritteki.html
※13 参照:国土交通省『開発許可制度』
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_city_plan_tk_000011.html
コンパクトシティが目指すこと
コンパクトシティが目指すことは、これまでに述べた課題の解決に他ならない。
コンパクトシティのメリット
コンパクトシティの利点については、下記のような点が挙げられる。
- 生活利便性の向上
- 健康・福祉の改善
- 地域経済の活性化
- エネルギーの削減・脱炭素化
- 環境保全
- 上記によって得られる心理的な安全・安心
こうしたそれぞれの利点は、単体で存在するのではなく、様々な利点が相互に影響する。それは、部門(セクター)を超えて他の利点になるというクロスセクター・ベネフィットにも繋がる。例えば、自動車から公共交通機関を活用した移動にシフトすることによって、環境保全だけでなく、住民の歩行量を増やし健康寿命を延ばすことにも繋がる。
コンパクトシティの効果検証をする際は、それぞれ単体の結果だけでなく、こうした相互関係によって起こるメリットも含めて考えるべきである。
コンパクトシティとスマートシティ
コンパクトシティとスマートシティは、しばしばセットで議論されることが多い。
スマートシティとは、情報通信技術を活用したデジタル領域において社会や暮らしを持続可能でより良く変えていくための構想である。コンパクトシティが、現実空間全ての改革であるのに対し、スマートシティはデジタル領域に特化した仮想空間の改革だといえるだろう。
交通計画・都市計画を研究する早稲田大学教授の森本章倫氏は、そのあり方について「両者の相互関係を十分に把握し、時間軸で整理した継続的なマネジメントが必要である」と述べている。(※14)
※14 参照:公益社団法人 日本不動産学会『脱炭素化に向けたコンパクトシティとスマートシティの融合』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/35/1/35_101/_pdf
コンパクトシティにおける課題と批判
そもそも、日本の人口減少や少子高齢化については1980年代ごろから始まっていたのに、なぜ早いうちから対策を取らなかったのかという批判がある。また、コンパクトシティへの改革は時間を要するものであり、目前に迫る2025年問題(戦後最も出生率が高い団塊の世代が全員75歳以上となる年)を全てカバーするほどの対策が間に合っていないことが現状だ。
急務とはいえど、その改革が突貫工事になってしまえば、また同じ問題を引き起こしかねない。筑波大学で都市計画の研究をしている谷口守氏は、コンパクトなまちづくりにカンフル剤はないとして、本質的課題を下記のように整理し、ひとつずつ丁寧に改革していくべきだと述べている。
- 公共交通のサポートする
- 紙の上だけで公共交通網形成計画を立てて満足せず、実働できる財源と人員確保が必要である
- 「コンパクト化≠高層化」を理解する
- 人を集めるためにまずタワーマンションや高層ビルを立てても、実際にその周辺が生活圏でなければ意味がない
- 業務負担を減らす
- 推進する立場にある自治体の担当に業務が偏り、人手不足や業務過多といった課題が出ないためにサポート体制も同時に強化するべきである
- 広域的視点に立つ
- 各自治体で計画書を作成した結果、隣接する自治体の計画と整合性が取れないといったケースがあるため、連携が必要である
- 階層的視点から捉える
- 都市中心部や市街地だけの視点にとどまらず、その先にある町村や小さな拠点にも目を向けなければならない
- 市街地の質を高める
- すでにコンパクトシティが実現している都市においても、防災面での課題があったり、住みやすさに問題がある場合もある
また、コンパクトシティ化において生じる誤解に対して、国土交通省は下記のように回答している。言葉やイメージによる偏見を無くし、協力事業者や住民に情報を伝えていくことが必要だ。
世界のコンパクトシティ成功例
ここからは実際に、コンパクトシティの考え方を導入し、成功した世界の都市について見ていく。
アメリカ オレゴン州ポートランド市
ポートランドはその都市改革の取り組みがいち早く評価されている街である。ポートランド都市圏は人口約160万人で、岡山都市圏の人口に匹敵する。
- 交通対策
1970年代に、山間部の高速道路建設計画に対する市民の反対に応え、当時の市長はその予算をLRT(※15)に補填。駐車場を、市民からの寄付を募り公園へ転換し、環境保全や地域の憩いの場づくりとしても充実させた。LRTやバス、路面電車などは全て一社が一元管理しており、シームレスに都市間の移動を繋いでいる。また自転車走行空間の拡張にも力を入れており、都心部では車道よりも自転車道路や歩行道路の面積を確保し、自動車移動以外の都市移動がしやすい街づくりを行なっている。
ちなみに、自動車の代替となる公共交通機関としてLRTを用いる事例は、のちに紹介する富山県富山市を始め、栃木県宇都宮市など、日本各地でも多くある。
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- 土地活用
荒廃した倉庫跡地を公民連携により再生し、カフェやギャラリーショップを有する商業施設に改装したり、個人や団体が所有し活用されていなかった土地を市が買い取ってコミュニティガーデンにしたり、空白となっていた土地を積極的に再開発している。これにより、経済の活性化や観光誘致、農地の活用化に繋がっている。ただ新しい土地活用をするだけでなく、民間と行政が一丸となって、ソーシャルグッドな空間へとアップデートしている好例である。
ポートランドは、20世紀後半には二次産業が盛んな地域として、環境破壊などの問題を抱えていたが、このような取り組みを早い段階から積極的に行うことで、今や「住みたい街」として世界中から関心を集める都市となった。
※15 用語:Light Rail Transitの略。低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良によって、乗降の容易性や定時性、速達性、快適性などにおいて優れた特徴をもつ交通システムのこと。環境にもやさしい公共交通として評価される。
日本におけるコンパクトシティ成功例
富山県富山市
日本のなかでも比較的早期にコンパクトシティの形成へ取り組んでいる。富山は高い道路整備率や強い戸建て志向等の背景から、市街地が点在し、自動車の所有率も加速していた。2000年代富山市は県庁所在都市のなかでも特に人口密度が低く、その密度は横ばいとなっていた。そこで、2007年頃からコンパクトシティという目標を掲げて対策を進めた。(※16)
- 交通対策
富山市は街をお団子と串に見立てて、一定水準以上のサービスレベルの公共交通を「串」、その串で結ばれた「お団子」を徒歩圏として公共交通の整備と沿線への居住促進、サービスの充実化を試みる。そこで、LRTネットワークを形成し、歩ける街づくりを推進した。
- 健康促進
交通網の整備に伴い、富山市は公共交通機関を利用する65歳以上の高齢者を対象に、中心市街地の一回の利用料金を一律100円にする「おでかけ定期券」を発行。定期券が高齢者の外出と公共交通機関利用の後押しとなり、市の調査では、定期券を利用する高齢者の平均歩数は県内の高齢者及び全国の高齢者の平均歩数よりも多いことが分かった。(※17)
- 移住推進
都市部において空き家や利用されていない土地が増える「都市のスポンジ化」を防ぎ、都市部の人口密度をあげるために、中心市街地と、利便性の高い公共交通沿線への居住に対して住宅助成等を行い、街の中心へのまちなか居住を進めている。これによりマイナスだった転入転出者の差がプラスへと回復した。
※16 参考:国土交通省 コンパクト+ネットワークの事例https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/html/n1222000.html
※17 参考:総務省『コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築 〜公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり〜』
https://www.soumu.go.jp/main_content/000582312.pdf
まとめ
人口減少や高齢化、環境問題といった社会が抱える喫緊の課題を解決するために、コンパクトシティは有効な都市計画である。それは行政と民間が密に連携して、丁寧に改革していく必要があり、一朝一夕で叶うものではない。いち住民としての私たちも同様に、居住地の選択や自動車の所有を考える際は、それが持続可能性があるか熟考したうえで選択するなど、1度立ち止まって考えたうえで選択することが必要だろう。コンパクトシティは、そこに暮らすすべての人の意識で成り立つものであることを忘れてはならない。
※本記事は、本文中の注釈ほか下記文献を参考に執筆しています。
・海道清信『持続可能な社会の都市像を求めて コンパクトシティ』(2001年、学芸出版社)
・海道清信『コンパクトシティの計画とデザイン』(2007年、学芸出版社)
・谷口守・編著『世界のコンパクトシティ 都市を賢く縮退するしくみと効果』(2019年、学芸出版社)
・村上敦『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』(2017年、学芸出版社)
・公益財団法人日本都市センター『第4回関西方面の学識者と実務家との研究交流会《コンパクトシティ・まちづくり》《生活保護・生活困窮者対策》』(2013年、公益財団法人日本都市センター)
取材・文:conomi matsuura, 前田昌輝
編集:吉岡葵