よりよい未来の話をしよう

メイプル超合金・安藤なつさんに聞く。介護って、大変ですか?

2025年、日本に住む5人に1人は75歳以上になる。高齢者が高齢者を介護するという老老介護や、一人暮らしの高齢者の孤立問題など、介護の問題は山積みだ。ある調査では、介護の現場で「人手不足」と回答した施設は約9割にものぼったという。このような結果を見ると、介護が大変そうというイメージを持つ人も多いかもしれない。

でも、実際に介護に関わる人は、どのように思っているのだろうか?

そんな素朴な疑問を、漫才コンビ・メイプル超合金の安藤なつさんに聞いてみることにした。彼女は2023年に介護福祉士の国家資格を取得。現在芸人として活動する傍ら、介護の魅力を伝えて行くために様々な発信を行っている。そんな彼女が感じる、介護の課題と楽しさとは。

小学生から介護がそばに

介護福祉士の資格取得、おめでとうございます!安藤さんは、幼い頃から介護のお仕事が身近にあったとか。

ありがとうございます。そうですね、小学1〜2年くらいから、叔父が運営している小規模の介護施設に通ってお手伝いをしていました。そこは高齢者だけでなく、様々な年代の方がいる施設でした。私自身は介護の現場から離れて9年くらい経ちますが、いまでも親戚の家に遊びに行く感覚でたまに手伝いに行っています。

お手伝いすることに、戸惑いや不安はなかったんですか?

とくにそう感じたことはなかったですね。最初に覚えているのは、脳性麻痺の方に出会ったときのこと。その方は身体が湾曲してしまっていて、ビーズクッションに横になっていました。そのときは病名も分からず、怪我しているのかな?というくらいの印象でした。施設のスタッフさんに声をかけられて、一緒におやつを食べた記憶があります。

そこから施設のみんなと散歩に行ったり、喫茶店に行ったり、公園に行ったり、単純に楽しかったですね。少人数でマンツーマンのケアをしているアットホームな施設だったので、利用者さんと向き合う時間も沢山ありました。

利用者さんとのコミュニケーションに困ったことはありましたか?

叔父の施設には、精神疾患の方や自閉症の方など、さまざまな障がいがある方がいました。でも、困ったことはないですね。

たとえば、自分がこう思ったらこうなんだ!という強いこだわりを持つ自閉症の子どもがいて、公園で一緒に遊んでいたら、手を繋いでいるカップルの間をズバーンと割って通っていきました。側から見ていたらびっくりする出来事ではありますが、自分が進みたい道を進むという性格を知っていたので「面白いなぁ」と思って見ていました。嫉妬したのかな?とか、この道じゃないと嫌だったのかな?とか考えることも楽しいです。

コミュニケーションを面白がること

安藤さんの著書『介護現場歴20年。』(2024年、主婦と生活社)では、介護の利用者さんに「バケモノ!」と叫ばれた安藤さんが、すかさず「そうなんです〜」と乗っかったというエピソードがありましたよね。

夜間の訪問介護をしていたときの話ですね。いつもそういうときは、言う側が自分だったらと立場を置き換えて考えているんです。

そのときも、利用者さんにとって自分が寝ているときに急に電気がついて、ヌッと誰か知らない大きいやつが来たら、そりゃ「バケモノ!」と叫ぶよなって思いました。そこでこっちが「いやバケモノじゃないんです!」と焦って否定するより「そうなんですよ〜」って言った方が、相手も納得して怖がらないかなぁと。

実際、介護をしていて暴言を浴びる場面って結構あるんですよね。それを受け流せなくて、落ち込んでしまう人も正直いると思います。でも私はバケモノだと言われたときは、そりゃそうだなと納得する。落ち着いてもらうにはどうすればよいのか、瞬時に相手の気持ちを考えています。

相手なりの感じ方があるので、落ち込む方が損だし、直球で傷つくのはもったいないなぁと思って乗っかることにしています。実際、私はバケモノだと言われて笑っちゃいました。普段の自分と違う視点に気づけることは楽しいです。

ノリツッコミみたいですね(笑)。介護と笑いは、少し近い部分があるのかもしれません。

話に乗っかってしまった方が楽ですし、本人もきっと安心するでしょうしね。それに利用者さんのお話を聞くのは、めちゃくちゃ楽しいですよ。前に、「実はスパイだった」と話すおじいさんがいました。「えっ?いま言っていいのそれ?激アツじゃね?」と思ってテンションあがりましたね。「ちょっと向こうの部屋で話そう」と誰も聞かれない場所に移動して(笑)。話を聞くうちに銃の話なども出てきて、信憑性があるように思えてかなり面白かったです。

自分のなかの常識が本当に常識なのか?と疑うことも必要かもしれません。それに、介護も相手の気持ちを思いやることが大切なのだと感じました。

「こういうケアをしたからこうなりました」という決まったケースがあるわけではありません。本当に十人十色なんです。医療であれば、データによって治療法が確立しているケースも多いと思いますが、介護は感情を切り離したデータだけでは解決できません。その人のパーソナリティに前例はありませんし、介護研修でも、その方の生きてきた背景を理解したうえで介護しましょうということを学びます。

たとえば、茶道の先生をしていた方であればお茶の時間が大事かもしれないというふうに、行動を紐づけていくんです。ひとりひとり違うので、きちんと話をして、それぞれの背景を理解しようと試みます。他人とコミュニケーションを取ることが好きな人は向いている仕事かもしれないですね。

第三者を頼ってほしい

安藤さんは芸人としての活動をするなかで、周りの方と介護の話をすることはありますか?

芸人仲間から「母親が介護が必要な状態なんだけど、どこにまず相談したらいいか分からない」とか「親がもう高齢だけど、どこに連絡すればいい?」とか聞かれることはありますね。人によって対応が違うので、そういうときは「親御さんが住んでいる市区町村の役所に相談してみたらいいよ」とアドバイスします。

通称、地域包括支援センターというんですが、地域によって名前が違います。行政の福祉課に行くか、行けなくても一度電話するのが良いと思います。ちょっと変だな、と思ったときにはためらうよりまず電話したら良いんじゃないかな。

思い切って行政に相談したり、サービスに頼ったりすることが必要なんですね。

家族内で介護をするときに、明るく「おじいちゃん何やってんの!」と言えたらいいですけど、状況によっては自分の感情をコントロールできない部分もあると思います。自分の家族を、自分達だけで絶対見なきゃいけないというわけじゃない。身内がどんどんできないことが増えていくことは、辛いしショックな部分もあります。

核家族化や少子化で個人の負担も増えるなかで、楽しく介護ができる家族ばかりではないですよね。そうなったときに、お互いが負担にならないような関わり方を続けることが難しい場合もあるし、診る側の生活がきちんと保てないと共倒れになってしまう。世間に預けていいのかと思う気持ちもあるはずですが、どうしようもならなくなる前に第三者に頼ってほしいです。

やっぱり、介護について早いうちから考えておくに越したことはないのでしょうか?

これまではそう考えていたんですけど、最近はやっぱり皆その問題にぶち当たらないと分からないよなとも思います。何から準備していいか分からないじゃないですか。家族が要介護になる状況を想像もしたくないですし。いっぱいいっぱいになってから頼るケースが多いと思います。

自分の問題にならないとなかなか認識ができない部分もありそうですよね。

昔は近所の人同士で「最近、あのおばあちゃんの喋り方がおかしいよね」とか「いつもこの時間に散歩しているおじいちゃん、いないね」という話をすることで、地域ぐるみで互いの状況を把握していたと思うんです。でも都心にいると、隣に誰が住んでいるか分からないことが多いので難しいですよね。人口が多すぎて、便利だけど閉鎖的で入れ替わりも激しいですし。

介護に関わることでは、傾聴ボランティアなど、資格がなくてもできることは多いと聞きました。

私もまずはボランティアをして楽しそうだと思って仕事にしたので、介護に関わるきっかけとしては良いですよね。本当はボランティアというより、ちゃんとお給料をもらえる仕事に繋がるとなお良いですけど。

資格を取っていない場合でも、お話を聴くことや食器を下げることなど、利用者さんに触れないケアであればできる仕事があります。またトイレ介助など、利用者さんに触れる仕事でも、初任者研修を受けることで比較的すぐ資格が取れる場合もあります。現場にいたときは、そのような資格を取って従事していました。

いま、介護福祉士の資格を取る理由

安藤さんが介護福祉士の資格を取ったきっかけはなんですか?

介護に関わる仕事で訪れた、とある事業所の方に誘われたことがきっかけです。介護福祉士になるためには実務者研修という研修があります。様々な課題やテスト、実技があって結構ハードなんですが、その事業所で「安藤さん、介護福祉士の資格は取らないんですか?うちはサポートを色々やってますよ」と言われて「えっ、じゃあやります!」と答えました。

ふたつ返事で!現在は介護の現場を離れているとのことでしたが、このタイミングで介護福祉士の資格を取得されたのは、何か理由があったのでしょうか。

介護に関わるお仕事が増えるなかで、もっと分かりやすく介護について伝えられるようになりたいと思っていました。介護って、難しい言葉をたくさん使うんです。そんなに漢字や長い横文字を使わなくてもいいのにと私でも思うことがあり、私が話すときは、専門的な言葉は使わないようにしています。そのときに説得力を持たせたり、噛み砕いて教えたりするために、資格の勉強が役に立ちました。介護について知ることのハードルを下げて、もっと興味を持ってくれる人たちが増えていけばいいなと思います。

芸人のお仕事との両立は難しくはなかったですか?

介護職に就きながら取られている方も多いので、忙しさは他の方とあまり変わらないと思います。私は勉強しながら、現場に立っていなかった9年間のブランクを取り戻していく感覚でした。これまできちんと介護福祉士としての勉強をして現場にいたわけではなかったので、こういうことなんだと答え合わせができました。

資格を取得するまでは、現場で仕事をするなかで学ぶことが多かったのでしょうか?

私が最初に働いていた当時は、法の整備がいまほど進められておらず、介護保険制度もまだまだ整っていなかったので、手探りでやっている部分がありました。認知症という言葉すらまだ世に知られていませんでしたから、「このおばあちゃん、忘れっぽいよね」という程度。改めて資格を取るために学んで、勉強になることが多かったです。

資格を取得し、現在発信を続けられているとのことですが、介護のどんなところが課題だと思われますか?

介護施設は慢性的な人手不足です。でも、介護という仕事はあまり知られていません。医者や看護師をテーマにしたドラマはよくありますが、介護士のドラマは多くないですよね。関わらないと仕事のイメージも、やりがいも見つけづらい職種だと思います。

過去に「あしたメディア」で、ごみ清掃員としても活動する芸人のマシンガンズ・滝沢秀一さんにもお話を伺ったのですが、介護職やごみ清掃員はなくてはならない大切なインフラを支える仕事なので、そのイメージをもっと良くしたいと話されていました。

彼も頑張っていますよね。先日一緒にトークイベントを実施しました。私たちの活動を通して、その業界のことがより広がっていけば良いのですが。

▼マシンガンズ・滝沢秀一さんのインタビュー記事はこちら

近づいたときに、心が動く

安藤さんにとって、介護のやりがいはどんなところにあるのでしょうか。

うーん、なんでしょう。めちゃくちゃあるんですけどね。他人に対して、心身ともにいちばん近い距離で関わることが多いので、心が動くときはたくさんあります。介護をしていると、グイッと相手のパーソナルスペースに行ける瞬間がある。

それぐらいの距離まで近づくと、他人でもやっぱり愛情はあるというか、心が通じ合ったという瞬間がありますね。良くも悪くも、ダイレクトにすべてが伝わる特殊な仕事なんです。家族の介護となると、それはそれで家族なりの距離感があるのかもしれませんが、他人だからこそ近づける部分もあります。介護の仕事は、悪い部分があっても、それを消し去ってしまうくらい良い部分が大きいと私は感じています。

良い部分とは、具体的にどういったときに感じますか?

心からの「ありがとう」を聞いた瞬間ですかね。普段もありがとうと言われるときはありますが、介護の仕事をしたときに真正面から言われる「ありがとう」は、本当に自分を頼ってくれたんだな、嬉しい気持ちを伝えてくれたんだなと、私も嬉しくなります。

以前「あしたメディア」で取材した介護福祉士の上条百里奈さんも、「ありがとう」と言われる瞬間がやりがいだと仰っていました。

介護される側って、申し訳ない気持ちも少なからずあるみたいなんです。でも、そんな気持ちも越えて「ありがとう」と言われることに喜びを感じます。時間はかかるかもしれないけど、利用者さんと少しずつ関係を構築していって、ひとつ殻を破ってその先に行けたと感じたときが、一番のやりがいですね。ただ、この感覚はすぐに得られるものではないので、介護にまだ馴染みがない方にやりがいとして伝えるのが難しい部分でもあります。

▼モデル・介護福祉士の上条百合奈さんのインタビュー記事はこちら

たしかに、自分でやってみないと分からないのかもしれません。

どんな方法で皆にこのやりがいを伝えていくのが良いか、いま模索中ですね。「遊びに来てもいいよ」と言ってくれる施設にお邪魔して、傾聴ボランティアをしたり、一緒にレクリエーションに参加したりすることから始めるのが良いのかもしれません。たとえば、お笑い芸人のレギュラーさんはレクリエーション介護士資格一級という資格を取って、介護施設でレクリエーションをされています。あのネタ等、めちゃくちゃウケまくりだと思います!

そうだったんですね!色んな方法で、介護に関わることのできるきっかけがありそうです。

一方で、介護は誰でもできると思われても、介護する側の質が低くなってしまう懸念があります。本当は質と人手、どちらも保てる状況が理想ですね。介護は、利用者さんがどうしたいかをきちんと知り、自立支援のサポートをすること。何でもやってあげるということでは成立しないんです。

しかも、介護側のペースでできるものではない。利用者側の気持ちを配慮せずにやってしまうと、事故も増えるし、良くなっていきません。本当はそのことを時間をかけて伝えていくべきですが、それ以上に人が足りてないからとりあえず来てほしい、となってしまっているのが現状です。

人手不足は本当に深刻だと思います。これからは超高齢社会ですし、課題を挙げるとキリがないけれど、そういった現状をまずは知ってほしいです。

介護の質と人手とのバランスは課題ではありますが、みんながもっと興味を持てる機会があると、より良くなりそうです。安藤さんのお話を聞いていて、介護は大変なことだけじゃないのかも、と思いました。

もちろん介護の仕事にも向き不向きはあると思うんですけど、それはどの仕事でも同じですよね。より皆さんにその内容を知っていただければ嬉しいです。まずは、ちょっと面白そうだなって思ってくれたら、一緒に何処か、介護の現場を見に行きませんか?と言いたい。まだ何をするかは決まっていませんが、介護をより身近に感じられるような取り組みを、私もしていきたいと思います。

おわりに

介護の仕事は、楽ではないだろう。だが安藤なつさんは、大変ではないと話す。技術や学問の発達により解決されている部分もあるかもしれないが、それ以上に彼女は、介護における人と人とのコミュニケーションを純粋に楽しんでいるようだ。介護の仕事に関わる課題はたくさんあるが、きっと大変だと感じることは人によって違う。その彼女の軽やかさが、介護への扉をより明るく開いてくれるだろう。

 

安藤なつ(あんどう・なつ)
1981年1月31日生まれ、 東京都出身。 2012年、カズレーザーと共に漫才コンビ・メイプル超合金を結成。「M-1グランプリ 2015」決勝戦進出。介護職には、ボランティアを含めると20数年携わっていた経歴を持つ。2023年に介護福祉士の国家資格を取得。著書に『介護現場歴20年。』(2024年、主婦と生活社)など。

 

取材・文:conomi matsuura
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生