よりよい未来の話をしよう

わたしと気候変動#2|ベイカー恵利沙がたどり着いた、「個人」でなく「みんな」で取り組む気候変動

気候変動が起きている。

いまや、「その事実を知らない」人はいない。それなのに、「日々の生活のなかでその問題を意識し、行動できているか?」と問われたら、胸を張って手を挙げる人は少ないのではないだろうか。

気候変動、どうして自分ごとにならないんだろう?

この連載では、すでにみんな知っているにも関わらず「日々意識して対策に取り組んでいる!」となかなか宣言しきれない…そんな気候変動というトピックについて、6/5の世界環境の日を機に立ち止まって考えてみたい。

第1回目の記事はこちら。

連載2回目の今回は、気候変動に取り組む「人」にフォーカスする。

気候変動との向き合い方を話してくれたのは、モデル・ライターとして活動するベイカー恵利沙さん。日本で育ち、2017年にアメリカ・ニューヨーク州に移住。現在はファッションやエシカルの分野を中心に情報発信を続けている。2023年からは、気候変動に関するメディアの連帯をサポートする「Media is Hope」にも参画し、日本と海外メディアとの橋渡し役も務める。

ファッションをはじめ、SNSではチャーミングな様子をたくさん投稿されているベイカーさん。今回のインタビューにおいても、フランクに笑顔でいろんなお話をしてくれる姿が印象的だった。気候変動にも、肩肘を張らないそのスタイルで「個人でできること」から「社会変革を促す活動」へ、活動範囲がいままさに広がっているようだ。そんなベイカーさんに、気候変動との向き合い方について聞いた。

ベイカー恵利沙さん

発信のきっかけは、無知だった自分への「ショック」

ベイカーさんは、以前からSNSでエシカルなライフスタイルなどを発信されている印象があります。発信を始めたきっかけは何だったのでしょう?

個人で発信を始めたのは、ニューヨークに来てからです。

元々、人権やフェアトレードなどに関心があったのですが、ニューヨークに来てから社会問題について話すことがより身近になりました。日本だと社会問題について話すことに、少し構えてしまう気がします。でもニューヨークだと、日常の会話と同じトーンで社会課題を話すことが普通で。周りと話すことで自分の知識も増えていくし、どんどん関心が高まります。そんな背景があり、私も発信がしやすくなりました。

ニューヨークで暮らし始めた頃のベイカーさん

気候変動に関心を持ち始めたのはいつからでしょう?

2019年にオーストラリアで起きた山火事がきっかけです。周りの友達がみんな山火事の記事をシェアしていて、それらの記事を読むなかですごい数の動物が亡くなったことを知り、とても落ち込んだんです。悲しくて…。

「なんでこんなことが起きてしまうの?」と調べるうちに、気候変動によって山火事の頻度や強度が増していること、その気候変動は人間の活動を原因に引き起こされていることだと分かりました。

さらに情報に触れていくと、気候変動は温室効果ガスの排出量が圧倒的に多いが主な原因を作る一方、被害を受ける人たちの多くはその原因にほとんど加担していない国の人たちであることや、社会的なマイノリティの人たちが、より被害に遭いやすいということも知りました。

連鎖的にいろんなことが見えてきて、それを知らなかった自分にすごくショックを受けたんです。

その出来事が、ベイカーさんが「発信」をする動機をより深めたのでしょうか。

そうですね、ショックだったからこそ「私自身が周りにもっとシェアしたい」と思いました。

当時、記事をもっと読みたいと思い日本語の報道を探したんです。でも驚くことに、日本語の記事がほとんどなくて。「日本には気候変動に関する情報が届いてなかったんだ…」と感じたんですよね。そこから、気候変動についても自分で発信するようになりました。

現在、エコバックを持参して買い物をしている様子

コロナ禍を経て、社会課題の解決により深く関わりたいと思うように

2023年には個人の発信だけでなく、気候変動の解決に向けメディアの連帯を支援する団体「Media is Hope」にも参画されていますよね。きっかけは何だったのでしょう?

共同代表のゆかちゃん(名取由佳さん)に声をかけてもらったんです。ちょうどその頃、自分の活動の幅をより社会課題に向き合う方向に広げたいと思っていて、機会を探していました。なかなか見つからなくて、でもずっと頭のなかにはあって。

そんなタイミングで、たまたまMedia is Hopeを知り、縁あってジョインすることになりました。私自身、日本とアメリカのメディアを見てギャップを感じ、メディアの情報から自分の意識が変わる経験をしていたので、Media is Hopeが掲げる「メディアの発信を通してみんなの知識量を上げ、行動変容ができる人を増やしたい」という目標に共感して、喜んで参加しました。

Media is Hopeで実施したイベントの様子

「活動の幅を広げたい」と思われたとのことですが、具体的な契機はあったのでしょうか?

そもそも2019年の山火事を契機に気候変動に関心を持ち発信を始めたのですが、翌年の2020年にコロナ禍を経験して、自分のなかで社会問題との向き合い方がガラッと変わったのが理由です。

アメリカでは、コロナ禍のようなできごとが「誰に影響するか」がすごく分かりやすかったんです。たとえば、人種によって感染率や死亡率に違いがあったりして、その原因は情報が届かず、医療へもアクセスしづらいこと…といったように、世界中で一斉に起きていることなのに、社会構造の不平等によって「誰に降りかかるのか」が顕著に現れていると感じました。同時期にブラック・ライブズ・マターも起きて、「自分の行動が社会問題に繋がっている」とすごく自覚したんです。

私は海外で暮らすなかで自分自身がマイノリティであると感じるシーンも多いし、差別や格差を助長する行動はしていないと思っていました。でも実際にそれが起きている社会に生きていながら、その状況が変わるように声を上げてきていなかったなと。アクションをしていなければ、問題を無視しているのと同じことではないかと感じ始め、そんな自分にもすごくショックを受けました。

コロナ禍でも、新たな「ショック」があったんですね。

これまでフリーランスとして仕事をしてきたので、自分の興味や関心がそのまま仕事にも表れてきたと思うんです。でも、それだけだと社会問題を無視したキャリアになっているんじゃないかなと、違和感を抱くようになりました。

そこから、仕事として社会問題に関われる形がないか、模索するようになりました。元々私はファッションが好きで、ファッション関係の仕事をしてきたので、そこも継続しつつゆっくりと、社会変革につながるような大きな流れにも関われたら、と考えていました。そんななかでMedia is Hope に参加できたので、嬉しく思っています。

解決策を提示する「ソリューションジャーナリズム」という新たな動き

「個人の発信」から「社会変革につながる流れを生み出す」という方向に、関心の先が動き出したタイミングだったのですね。Media is Hopeでは、どんな取り組みを担当されているのですか?

海外メディア・組織とのコミュニケーションや広報を担当しています。大きく言うと、アメリカやヨーロッパを中心に、日本国外のメディアと日本のメディアを繋ぐ仕事です。

気候変動報道の前例は、アメリカやヨーロッパの方が日本より多いです。その意味では、日本はまだまだ報道が少ないと言えます。でも裏を返せば、アメリカやヨーロッパで起きた気候変動報道の「成功例」も「失敗例」も、日本は参考にできるということでもあります。

アメリカには、Covering Climate Nowという、ジャーナリストが意見交換をしたり、気候変動報道を活発にしていくための情報提供をしたりしているジャーナリストネットワークがあります。2023年、Media is HopeもこのCovering Climate Nowの公式パートナーになったので、アメリカの他のメディアと連携を取りながら、過去の報道の成功も失敗も学び、得た知見を日本に共有し、彼らが書いてる記事を翻訳してシェアしています。

アメリカのジャーナリズムから、どんなことが学べると感じていますか?

アメリカでは、気候変動にまつわるニュースがどんどん読まれなくなってしまった、というフェーズがありました。理由として、数年前までの気候変動報道は「気候変動ってこんなに大変なことが起きるんだよ」という、落ち込むニュースばかりだったんですよね。それで読者が離れてしまった。

その失敗を踏まえてこの数年で言われているのが、「ソリューションジャーナリズム」という考え方です。報道の際、事実を伝えるだけでなく「解決策も提示するジャーナリズムに変えていこう」という動きです。「こんな風に対処できることがある!」と言われた方が、前向きに受け取れますよね。

日本は気候変動報道がまだ少ないと言われるからこそ、報道に早くからソリューションジャーナリズムを取り入れられると思い、日本のメディアのみなさまと対話を進めています。これはMedia is Hopeに参加してはじめて知れたことですが、日本にはもうずっと前から、気候変動報道を増やそう!と尽力してくださっているメディアの方々がいらっしゃいます。その方々と連携し、私自身日々学びながら、気候変動の解決に向けて一緒に取り組めていること、そしてそんなメディアの皆さまが、まさに私にとっての”ホープ”、希望です。

情報にアクセスして気候変動報道に「投票」しよう

Media is Hopeに参画したことで、ベイカーさん自身の情報発信に対する視点にも変化がありましたか?

そうですね。自分が報道の「視聴者」でしかなかったときといまとでは、見え方は変わりました。

日本の気候変動報には課題も多いですが、伝えていくための素地も整いつつあると感じています。たとえば、異常気象などの現象と気候変動の関連性を科学的に証明できないとニュースで扱うことが難しいという問題も、イベントアトリビューションという技術でその関連性を科学的に示すことができるようになっています。そしてその技術は日本でもかなり進んでいます。

そのうえで、誰でも参加できる、気候変動の報道を増やす方法として、視聴者が「積極的に選ぶ」ことがあります。たとえばテレビで報道されていたら「積極的に見る」、記事を見つけたら「積極的に読む」とか。「買い物は投票」という言葉がありますが、それと同じで「情報の選択」を通して投票することで、私達は意思表示ができるんです。

市民も積極的に、報道を増やす活動に参加できるということですね。

伝える側としても、ちょうど環境の日に合わせ、2024年6月5日にテレビなどで活躍される気象キャスターの方たちが気候危機に関する共同声明 を発表されたのですが、そのプロジェクトをMedia is Hopeは協働・サポートしていました。気象キャスターの方の中にも、天気予報のなかで気候変動の原因について報道したい、と強く思っている人たちが多くいらっしゃいます。

いろんな方たちが連帯して一生懸命動いているので、気候変動に関する報道は2024年、絶対増えると思っています。皆さんにもぜひ、この動きに参加してほしいですね。

自分にできることは「ライフスタイルを変えること」だけじゃない

一方で、気候変動について何かしたいと思っていても、自分ごととしてアクションをするにはどうすれば良いのか、悩む人も多いかもしれません。

もし「何かしたい」「何かできないかな」と葛藤しているのなら、それはもう自分ごとになってるんじゃないかな。みんな自分の暮らしがあって、いろんなことが起きるなかで常に100%で向き合うことは難しいと思います。

気候変動を自分ごとにできない理由には、やっぱり圧倒的に情報が足りてないのもあると思うんですよね。「毎日暑い」と感じるにしても、「どうしてそうなっているのか」「それは人為的なことなんだ」ということまで知識として知っていれば、自覚できる人は増えると思っています。

「自分には何ができるだろう?」と考えたとき、身近なライフスタイルに目が向く人も多いと思います。できることはたくさんあると思いつつ、どうしても選択肢が狭まったり、ちょっと我慢をしなきゃいけなかったり…ハードルが高い印象もあると思います。

「気候変動対策」を「ライフスタイルの選択」に紐付けてしまうと、我慢が多いと感じますよね。気候変動の問題に向き合っているときって、誰しも同じようなフェーズがあるんじゃないかな。

私も2年ほど前まで、ずっとライフスタイルの変化に向き合ってきました。そのときはすごく自分に厳しくて、「(環境に良くないから)これを使っちゃいけない、これも買っちゃいけない…」と思いすぎて、うまくいかないとイライラすることもあって…。もちろんライフスタイルの選択は絶対に大事だし、私はそれをしてきたことでより良い選択ができている実感はありますが、最近はもう少し大きいことに身を委ねてもいいと考えるようになりました。

大きいこと、とは具体的にどのようなことでしょうか?

たとえば、家庭から出るCO2の多くは「電気」なので、家の電力をCO2がゼロになるよう再生エネルギーに変えたら、日々ただ生活をしているだけでもCO2の排出を減らせます。このパワーシフトなんて、ネットで10分位でできますよね。あるいは気候変動対策をしてくれる政治家に投票しその人が当選したら、その人が社会の制度を変えてくれる場合もあります。

私自身「個人のライフスタイルの選択」からもう少し大きな社会の変化に身を委ねると、自分だけの肩に乗っているものがどんどんシェアされて、人にも預けていける感覚がありました。そのマインドチェンジは大切かなって。目線を変えてちょっと大きなものに参加するだけで、すごく楽になると思いますよ。

なるほど。少し視点を変えることで、見え方が大きく変わりそうですね。最後に、ベイカーさんが今後取り組みたいことを教えてください。

初心に帰って、自分のSNSなどのプラットフォームを活用して、また発信をしていきたいと思います。あくまでもこれからは、「ライフスタイルの変化」を超えて、「みんなで大きく社会変革していけること」に重きを置いて、発信していけたら。

いま、自分のなかでMedia is Hopeの活動も大きくなっているので、個人で発信することが少し減ってきているのですが、ニューヨークに来て発信を始めたときから目標は変わっていません。「社会問題についてみんなが当たり前に話す」という状況に私自身とても救われたので、率先して話すハードルを下げていきたいんです。

今日食べたものや好きなファッションを発信するのと同じトーンで、気候変動も始め、社会課題についても話せるといいな。「こんな風にフランクに発信してもいいんだ。私も人に話してみようかな!」と、話しやすいムードを作っていけたらいいなと思っています。

連載2回目では、ベイカー恵利沙さんに気候変動との向き合い方を聞いた。

個人でさまざまな発信や実践をされてきたベイカーさんだからこそ、大きな社会の流れを作る側にシフトし、周りと連帯して気候変動対策に取り組むことで、新しく見えてきたものがあるようだ。個人で背負うのではなく、みんなでシェアしながら取り組むという視点には、前向きに、そして着実に良い方向へと気候変動に向き合う大きなヒントがあるのではないだろうか。

また、日常のなかで少しずつでも気候変動の情報に触れることも、気候変動を自分ごととして捉える第一歩かもしれない。いまはSNSで発信している人もたくさんいる。誰か1人をフォローすることから目に入る情報が増え、ベイカーさんのように「もっと知りたい」と次の行動に繋がる可能性を秘めているのだ。

 

 

ベイカー恵利沙(べいかー・えりさ)
1989年生まれ、アメリカ・オレゴン州と東京都育ち。2017年にNYへ拠点を移し、モデルやライター、ブランドとのコラボレーションなど幅広く活動する。ニューヨークの人たちの社会問題への関心の高さに圧倒され、自身の関心もより高まる。いまでは自身のキャリアと、気候変動や人権を中心とした社会問題の分野を繋ぐための発信者となる。
https://www.instagram.com/bakerelisa/

 

取材・文:大沼芙実子
編集:conomi matsuura
写真:ベイカー恵利沙さん提供