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ロンドンのグリーンベルト【連載・佐藤玲のロンドン滞在記】

中学生の頃から芝居の世界に入り、現在映画やドラマ、舞台まで幅広い場で演技を続ける佐藤玲。2023年からは俳優としてだけでなくプロデュース業として作品づくりに関わったり、ワークショップを企画したりと、さらに演劇の輪を繋ぐ活動を広げている。『あしたメディア』では、現在ロンドンに短期留学中の彼女からレポートを寄せてもらうことにした。

この連載では、彼女の真っ直ぐな目線を通して見えてきたロンドンの現状をもとに、その背景を紐解き、社会との繋がりや、日本との違いについても考えていく。この旅が人生のターニングポイントと語る彼女の等身大な姿も、同時にレポートする。

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ロンドン滞在記、最終回

いよいよ、最終回となりました。

すでにロンドンから日本に戻り、舞台の本番を終えた翌日に書き溜めていたものを整理しているところです。

ロンドンに行ったばかりの頃。ビッグ・ベンを見て、名探偵コナンの映画の聖地だ!と思っているところ

日々の生活や仕事ではアウトプットの作業ばかりになりがちですが、やはり新しい知識や情報、自身のスキルアップを望む場合にはインプットの時間をきちんと設けることがとても重要であると改めて感じます。

そんなわけで今回は、インプットしやすいリラックスした自分を保つために行っていた近隣の公園で体験した経験をもとに、「グリーンベルト」というものについて触れてみようと思います。

グリーンベルトって?

皆さんはグリーンベルトをご存知でしょうか。ある記事では、このように書かれています。

グリーンベルトとは、都市計画の手法の1つで、都市の無秩序な拡張(スプロール現象)を阻止する目的で指定された地域です。ロンドンでは1930年代に導入され、その後マンチェスター、バーミンガムなど15か所が指定されており、イングランド全土の13%を占めています。

(※1)

1930年代から約100年近くも経ってもなお、その政策が残っているのはすごいですよね。しかし今現在ロンドンでは移民などにより人口が増えており、この政策が移民の受け入れなどで遂行し続けることが難しくなってきたようです。やはり政策を守り続けるということは難しいものなのでしょう。

今でもグリーンベルトを設け、それをキープし続けることで、どのような効果が得られるのでしょうか。

・都市部の大気環境、水環境を改善する

・野生生物の生息地を守り、その土地特有の自然環境を未来に残す

・都市生活者が自然環境に容易にアクセスできるようにする

・ウォーキングやキャンプなど、アウトドアアクティビティのできる環境を整える

(※2)

どれも、現代社会にも非常に有効なテーマばかりですが、100年ほど前の議論でも似たような項目が挙がっていたということが分かり、それもまた面白いですよね。

※1参照 Global Research 海外都市計画・地方創生・SDGs 情報『イギリスのグリーン・ベルト Green Beltは都市計画の手法』
https://globalpea.com/72/
※2参照 IDEAS FOR GOOD『グリーンベルトとは・意味』
https://ideasforgood.jp/glossary/greenbelt/

日本でもグリーンベルトが?

さて、日本ではこのグリーンベルトのような政策は影響があるのでしょうか。実は、日本でも東京緑地化計画という名称の計画があったようです。というのも、1924年のアムステルダムでの国際都市計画会議において、このグリーンベルト設置などの決議が採択され、世界的に広まったようです。ロンドンのグリーンベルトも、この会議がきっかけでした。(※3)

その後1932年より東京緑地計画協議会が結成され、実際には39年より着工となりました。しかし第二次世界大戦後には一度この計画はストップし、1965年その概念が放棄され1969年の新・都市計画法施行では東京の緑地地域そのものが全廃されているとのこと。ロンドンよりも短命となった東京におけるグリーンベルト、やはり時代の流れによって淘汰されてしまったようです。

自然に触れると、一瞬でも現実から抜け出しリラックスができますよね。現在の東京の大きな緑地といえば、代々木公園・駒沢公園・日比谷公園・新宿御苑・上野恩賜公園・浜離宮恩賜庭園・等々力渓谷・小石川植物園…などと意外にも多く挙げられます。またグリーンベルトという定義でいうと、千葉・埼玉・神奈川・山梨など東京都をぐるっと囲んだ都道府県を少し郊外へ行くと少しずつ住宅街から緑豊かな場所が広がっていきます。

都内でも、ちょっとした緑道など、緑をまったく見ないというわけではないですよね。それでもロンドンと東京の地図を比べてみると大きな違いがあることがわかります。

※3 参照 ロンドンと東京におけるグリーンベルト政策の時代背景と都市構造に与えた影響に関する考察
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1997/52-4/52-4-0292.pdf

日本とロンドンとの違い

Google map 参照。ロンドンと東京23区を上から見ると、ロンドンの方が緑が多い印象。

私が感じたロンドンとの違いを挙げるとすれば、ロンドンの自然公園の方がワイルドだということでしょうか。野生生物(ヘラジカ・キツネ・たぬき・鳥・リスなど)がたくさん集まっている理由も分かります。できるだけ自然の生態系を守ろうという心がけを感じることができます。

これは余談ですが、ある時毎晩のように猫のような声色で激しく泣いている動物がおり、窓から外を見てもなかなか特定できなかったのですが、それがキツネだということが判明しました。本当に街中で、キツネ2匹がじゃれながらギャーギャーと鳴いていました。さすが猫とはサイズが違うので自ずと声のボリュームも大きく、しばらく観察してしまいました。大きな公園が近いわけでもなかったのですが、こんなふうにキツネが見られることにびっくりでした。

話は元に戻りますが、現在のイギリスは外国からの移民を多く受け入れていることにより、ロンドン中心部に住宅地を増やすことが難しくなり、グリーンベルトを保ってきた地域も住宅地へと少しずつ変化しているため、このグリーンベルト計画は崩れてきています。移民を受け入れる際は、宗教や政治的な問題、治安だけでなく、居住スペースについても課題として挙げられています。そのため長年築き上げてきたグリーンベルトが少しずつ切り崩されていることが事実です。日本もゆくゆくは今のイギリスやヨーロッパのように移民大国になっていくと言われることもありますよね。確かにイギリスでは様々な人種の人々が生活している印象です。その証拠に現在のイギリス首相はリシ・スナクという人物で、英国史上初のインド系出身。両親は東アフリカから移り住んできたといういわゆる移民です。

近年はそれらの問題からグリーンベルトを意識し直そうとしているものの、じわじわと緑が減りつつある事態は簡単には止められそうにありません。

ロンドンアイのライトアップを、隣にあるジュビリー庭園から撮影。

東京でも改めて緑地化計画について見直し、都内の屋上などに少しでもグリーンを置くことが必要なのではないかと思います。例えばビル屋上での養蜂は、ときどき東京でも耳にしますが、ロンドンでも行われることがあるようです。はちみつ採取という利点だけではなく、蜂は周囲の自然環境を整える作用もあるとのことで、自然との共存を考えることは人間の生活にも、地球環境においても非常に大切であることを改めて感じます。

ロンドンだけでなく、日本でも山々を切り崩して住宅地やホテルの建設など、開発が進められています。海外からの土地の買い占めなども社会問題として挙げられていますが、自然との共存は人々の暮らしにおいて必要不可欠です。政策として掲げるからには、それを守り続けられるようなアイディアを時代を経ても考え続ける必要があることを改めて感じました。

コラムの終わりに

全8回にわたってお送りしてきたこのコラム。様々なトピックを取り上げながらも、あくまでも私自身の私見たっぷりのコラムとなってしまいました。皆様ご自身で調べていただいたほうが、よりダイレクトにそれぞれのトピックに関して精度高く考察できるかと思います。ぜひ興味を持つことができそうな話題を1つ、ご自身でも調べることにトライしてみてもらえたら嬉しいです。

私自身はロンドンと東京の差異を感じながら過ごしてまいりましたが、日本に帰国した今、また改めて様々な違いを感じています。食文化、物価や交通などの身近なことを取り上げてきましたが、ロンドンの地下鉄では意外にもバリアフリーが進んでいないことや、お手洗いの清潔さについてなど、日本の方が質が高いサービスを得られる点も多く感じています。どっちが上か下かではなく、より多くの人々が快適に過ごすことができるようになるために、良いところはどんどん取り入れていく姿勢が必要だろうと感じます。

私自身のレベルアップということに関してで言いますと、1人での海外生活が意外にもすぐに馴染んだことに驚きながらも、さまざまな文化の違いを楽しむことができ、それらは大きな発見となりました。日本を離れて羽を伸ばしたような気持ちもありつつ、一から新しいこと(特に語学)を吸収できる幸せを噛み締めながら過ごすことができました。自分自身のメンタルの強さも再確認し、大きなトラブルもなく帰国でき、ありがたいことです。さらには海外にいながら日本の仕事にもいくつか取り組んでみました。周囲の協力を得ながら新しい経験をすることができ、失敗も成功もその過程もすべて自分の糧になっているなと感じます。

レバノン料理を食べているところ。
ギリシャ料理と近い雰囲気。

第1回で書いた「みなさんは、何を選びますか?」という問いを覚えていらっしゃいますか。私は永遠に問われ続けるテーマだなと思っています。選択し続けることが人生だとさえ思います。

自分の生き方は自分でしかデザインできません。どんな世界を描くのか、どう他者との関わりを持つのか、何を発信して、何を守り、どんな世の中を作りたいと願って行動するのか。

どんなにこれらを心掛けても、他人から見たときには可視化することが難しい事ばかりです。おぼろげにでも他者からその片鱗が見えるようにするためには、相当の労力と情熱がなければ容易ではないことです。それでも、社会の尺度に惑わされず、自分に必要だと思うことを自分で選ぶことがとても大切なことだと思います。

私自身もまだまだ道半ばで、今発信している言葉でさえ数年後振り返った時に、なんだかズレたことを言っていたなと思う日も来るかもしれません。だからこそ、皆さんも他者の言葉を鵜呑みにせず自分の頭で何度も噛み砕いて、自分なりの答えを作ることを心掛けてくださいね。軸はあくまでも自分です。家族でも、友人でも、高名な社会学者でも世論でもなく、それらの意見を聞いた自分自身が軸です。私もそういった力を磨こうとしている途中です。とにかく考え続けること、暗中模索を怖がらずに続け、まだ具現化できない言葉や感覚に手を伸ばし続けることに一緒に挑戦していきましょう。

これで私のロンドン滞在記は終わります。

どこで生活していても自分は自分、と思ったり。周りの環境が違えば、そりゃ自分も変わるわよね、と思ったり。どちらも真理のようで、別解があるのではないかと疑ったり。迷いながらですが、これからも少しずつ皆様に、そして世の中に提案できるものをさまざまな媒体を通して発信していきたいと思います。何かやりたいけどまだまだ迷いながら色々試しているところ、ということが伝わったのではないでしょうか(笑)。すでに功績を残しているすごい同世代や若い人もいるかもしれませんが、私は私で時間をかけながら進めようと思います。

8回わたり続けてきた「佐藤玲のロンドン滞在記」。最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。何か1つでも皆様の日頃のヒントになったり興味の湧くトピックスを見つけるきっかけになっていたら嬉しいです。そして、機会があればロンドン含め海外への旅や生活にも挑戦してみてくださいね。今後もどうぞよろしくお願いします。

またどこかで会えますように。

ホワイト・キューブ美術館にて
人がいろんな体勢で寝転がっているかのように見える、積まれたレンガ

今後の活動はオフィシャルサイトInstagramで随時発信予定。よければチェックしてくださいね。

 

佐藤 玲
俳優・プロデューサー
1992年7月10日東京都生まれ。15歳より劇団で演劇を始める。日本大学芸術学部演劇学科在学時に故・蜷川幸雄氏の「さいたまネクスト・シアター」に入団し、演劇『日の浦姫物語』でデビュー。演劇『彼らもまた、わが息子』(桐山知也)などに出演。また出演ドラマとして『エール』(NHK)『架空OL日記』(読売テレビ)、出演映画に『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也)『死刑にいたる病』(白石和彌)『チェリまほTHE MOVIE』(風間太樹)などがある。2023年3月 株式会社R Plays Companyを設立。初プロデュース作品『スターライドオーダー』(北野貴章)を上演。現在、出演ドラマ『30までにとうるさくて』(ABEMA)がNetflixで配信中。

 

文:佐藤玲
編集:conomi matsuura