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『ふたりぱぱ』みっつんさんと考える男の子も女の子も性教育を学ぶ大切さ

性教育を学ぶことはとても大切だ。

日々大小さまざまな性被害のニュースが絶えず、自分の身体や心を大切にすること、深く知り合いたいと思った相手にはきちんと同意をとる重要性が社会でも改めて重要視されている。

しかしいくらその重要性を理解したところで、明日から性の健康や悩みについて熱心に勉強したり、家族や友人、パートナーと話したりできる人はどれくらいいるのだろうか。そんなふうに考えているなか、筆者が出会った本が『RESPECT〜男の子が知っておきたいセックスのすべて〜』(2021年、現代書館)だった。

本書は10代の男の子に向けて書かれたものの、いまの日本には欠かせない性教育のヒントがふんだんに詰まっており、20代女性である筆者も学ぶことばかりだった。この本に込められた思いや考えについてさらに深く知るため、翻訳者であるみっつんさんに話を伺った。

みっつん
YouTubeチャンネル「ふたりぱぱ」を運営し、チャンネル登録者数は20万人以上。2011年スウェーデンの法律の下に結婚し、2016年サロガシー(代理母出産)によって息子を授かったことを機に、夫リカルドさんの出身地であるスウェーデンに移住。ブログ「ふたりぱぱ」でサロガシーの経験や子育て日記をつづったり、動画やSNSなどで家族の日常やジェンダー、性教育についてシェアしている。

「セーファー」から「ベター」な性教育を

本書を読んでまず感じたことは、性に不安な若者の心に寄り添ってくれている筆者の思いでした。一方で、ここまで包み隠さず心や身体のことを語られるのが新鮮な体験で、本書の温度感に慣れるまで、何度か本を閉じたり開いたりしながら読ませていただきました。

この本を読んだ方からもまさにそのような感想をいただいたことがあります。

その方は2人の息子さんたちとこの本を一緒に読んでくれたそうなんですが、最初は息子さんたちも恥ずかしがって、ニヤニヤしていたそうなんですが、読み終わる頃には「この本を読んで良かった」と言ってくれたそうです。

親子だと、互いに恥ずかしくて性について話しにくいというケースがあると思うのですが、この本を性や身体に向き合うための1つのツールとして役立ててもらえたことがすごくうれしかったです。

同じ性に関する本でも、日本の保健体育などで読む教科書とはまったく違う内容でした。たとえば、私が学生時代に授業で習った妊娠や性病の話が、本書では一番最後に出てくることにも驚きました。

この本が書かれたスウェーデンをはじめヨーロッパでは、性教育の目的の中でセックスにも重きが置かれていて、「セーファー(より安全にする)」だけではなくて「ベター(よりよくする)」という考えが大切にされています。もちろん自分と相手の心と身体を傷つけてはいけないという前提ですが、せっかくお互いセックスをしたいと思っているのに、「相手を傷つけない」ということだけに縛られていては楽しめないですよね。

この本の根底には、2人で楽しむセックスの時間を「よりよくしていく」ことが結果的に心と身体の健康につながるという考えがあります。だからこそ読んでも、いやらしくなく、きちんと筆者の思いが届くように心がけて翻訳をしていました。

正直に、恥ずかしがらずに

みっつんさんは翻訳のお話がある前から、性教育に問題意識があったのでしょうか。

20代の頃に日本で舞台役者として活動していたのですが、その頃はまだ性教育の重要性もあまり理解できていませんでした。そんな時に、1970年代の西ドイツで作られた性教育がテーマの舞台に出演したんです。性教育について学ぶ機会がなかったこともあり勉強になりましたし、作中では同性愛についてもポジティブに語られていたこともあり、演じるなかで救われた経験もありました。

舞台役者の頃の経験が今に繋がっているのですね。本書はどのようなきっかけで翻訳することになったのでしょうか。

以前、息子のサロガシー(代理母出産)について書いた著書「ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る」(2020年、現代書館)を出版したのですが、その時の担当編集者さんから「スウェーデンで書かれた面白い性教育の本があるので日本語に翻訳してみないか」という話をいただきました。話をいただいた時点で過去の芝居の経験や今YouTubeで発信している性教育、そして現在自分が住むスウェーデンと、人生におけるすべての大切な点と点がつながる感覚でした。

その後すぐに本を読んでみたら「ぜひとも自分が翻訳したい」と思う内容だったので、ふたつ返事で翻訳をすることにしました。

本書は10代の男の子に向けて書かれていますが、翻訳するなかでどんなことを意識されましたか?

あくまで翻訳なので、まずは著者の言葉や思いを伝えることを最優先に考えました。その上で気をつけたのが性教育の芝居で学んだ「正直に、恥ずかしがらずに」ということです。

役者同士がセックスや身体について話すことに慣れていなくて、舞台の稽古中に恥ずかしくて笑ってしまうことがよくありました。そのとき舞台監督に役者自身が恥ずかしがると受け手が「『これは恥ずかしいものだ』『茶化していいものなんだ』と思ってしまう」ということを言われました。それでは本当に伝わらないことが受け手に伝わりません。

なので翻訳作業のときも自分自身が恥ずかしがらずに、きちんと身体のパーツや行為を言葉として伝えることを大切にしました。

相手を「リスペクト」するために日常からできること

本書のタイトルにもある「リスペクト」についても伺いたいです。セックスにおける相手へのリスペクトは日常の延長線上にあると解釈したのですが、改めてここに込めた思いを聞かせてください。

とても大切なことなので、ぜひお話ししたいです。

セックスは日常にあるはずなのに、ずっとタブー視されて語られてきました。それは決して日本だけではなくスウェーデンでも世界的に見ても同じです。近年また性教育が公の場でも話題に上がるようになりましたが、そのなかで性やセックスにおける相手へのリスペクトが「日常からはじまるもの」ということを再認識する必要があると思っています。

たとえば本書の「相手の許容範囲を知ること」について書かれたチャプターでは「痴漢」の話をしています。自分の欲望のために、相手の許容範囲に関係なく踏み込んでいく痴漢は明らかな性犯罪ですが、実は日常のなかにも大なり小なり相手へのリスペクトが足りないことは溢れかえっていて、そこに気づくことが重要です。

気づきを得るために何かできることはあるのでしょうか。

日常において、「いかに男女の格差が当たり前になっているのか1度考えてみること」が大切だと思います。そこから“本当の意味でのリスペクト”がはじまるのではないでしょうか。たとえすぐに気付けなくても、気づこうと努力すること自体がリスペクトです。日頃から相手をリスペクトできていないのに、セックスという特別な時間になったときにいきなり相手をリスペクトすることは難しいですよね。

あと、メディアやSNSを通して社会をみても気づくことができると思っていて、たとえば芸能人の不倫報道のケースで考えてみるとわかりやすいです。

例外もありますが、不倫をした側が女性だと世間からたくさん叩かれてなかなか復帰できないのに、男性だと「奥さんが大目に見てくれてよかった!」みたいなネタになることが多いですよね。そもそも不倫は良いことではないですが、男性がネタになるなら、どうして女性はそうならないのかなと思います。

まとめると、「目の前の相手がどんな気持ちか?」というミクロの視点と、「いまの社会ってジェンダー平等どうなってるんだっけ?」というマクロの視点、その両方で考えなきゃいけないと思っています。これらはなかなか難しいと思うのですが、まずは「日常から平等にしていこうよ」と意識することで、お互いをリスペクトできる社会になっていくのかなと思います。

間違えてもいいから学び続けて、自分自身の考えをアップデートしていくこと

そう考えると日本はまだまだ性教育もジェンダー問題に対する対応も遅れていて、どこから取り組めばいいか困ってしまいますね。

そうですね。ただ性教育の観点で話すと「日本が遅れてる」っていろんな方から聞く言葉ではあるんだけど、世界的に見ても遅れてる国や地域もまだまだあって...たとえば宗教の関係で公に話せない人もいますよね。だから「国や地域によって進んでる/遅れてる」ということはあまり考えなくていいかなと。

それよりも、ちゃんとした性教育を受けてこなかった大人だからこそ、間違えてもいいから学び続けて、自分自身の考えをアップデートしていくことの方がずっと大事なんじゃないかなと思っています。

具体的にできることでいうと、先ほど例にあげたように子どもと一緒に本書を読むこと。他にも映像作品を見るのも1つの手段です。最近の海外ドラマでは、性教育について扱う作品もたくさんあって、僕が大好きなのは『SEX EDUCATION/セックス・エデュケーション』(ネットフリックスシリーズ作品)です。

あとジェンダーについて学ぶなら、『HEARTSTOPPER/ハートストッパー』(ネットフリックスシリーズ作品)も素晴らしい作品です。こちらは漫画も出ているので漫画が好きな人はそちらを読んでも良いかもしれません。そういったコンテンツを利用していくのも大切かなと思います。

『HEARTSTOPPER』(2021年、トゥーヴァージンズ)
https://www.twovirgins.jp/book/heartstopper1/

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「自分の意志が大切にされている」と自然に学べるために

みっつんさんは現在息子さんを育てていらっしゃいますが、生活のなかでどのように性教育を実践しているのでしょうか。

スウェーデンでは性教育は0歳からはじまると言われていて、僕は年齢だけではなく、その子の特性や理解度に合わせて伝えていくことも大切だと考えています。特にうちの場合はパパ2人で息子を育てているので、息子が4歳ぐらいのときに「僕はどうやって生まれてきたの?」という質問を受けました。

息子が今何を疑問に感じて、どういうことを聞きたいのか耳を傾けることはすごく大事。その上で、どれぐらいの話なら息子が理解できるのかを探りながら、疑問に答えていくことを日々大切にしています。

また、子どもが小さい時は性教育について言葉だけで説明しても理解できないことが多いので、僕たちはまずは1番身近な「プライベートゾーン」から生活の中で学べるようにしています。どこが自分のプライベートゾーンなのかを理解して、そこは他人には触らせてはいけないし、他人のものにも触らない。もし触れられてしまったら「No」と言わなきゃいけないと伝えています。

とても大切ですね。実際に生活のどのようなシーンで伝えているのでしょうか。

たとえば子どものときってお尻がうまくふけなくてかゆくなっちゃったりとか、男の子だとおちんちんの先っぽがちょっと腫れて痛いとかあると思います。そこは息子のプライベートゾーンなので「薬を塗った方がいいと思うけど、パパが塗っても大丈夫?」みたいに、しっかり確認してから触るようにしてます。逆にお風呂に入るときに子どもが乳首を触ってきたときは、「これはパパのプライベートゾーンだから触らないでね」と伝えるんです。

性教育として難しい言葉を使って教えるよりも、日々の暮らしのなかでそういうやりとりを通じて子どもは自然と学ぶことができると思うんです。

まさに家族だからこそできる性教育ですね。

おっしゃる通りです。普段の生活のなかで、というのが大事だと思います。たとえば僕が息子に対してハグしたいなと思っても、そういう気分じゃないときって子どもでもあります。親子だからハグくらいすればいいじゃん!ではなく、そういう素振りを息子がしていたらハグはしない。

これには「拒否する」メッセージを出すことで「相手はやめてくれること」を知ってほしいという思いがあります。拒否してもやめなかったら、Noと言うことが無意味なことだと思いかねないですよね。

そういう日常の些細なふれあいから「自分の意志は大切にされている」と自然に学べることが性教育にもつながると思っています。

ありがとうございます。最後に、みっつんさんが来月出演される『地球星人』の舞台についても教えていただけますか?

原作を読んだ方もいらっしゃると思いますが、本舞台において性教育はメインテーマではないものの、性教育がもうちょっとちゃんとされていたら不幸になる人が減ったんじゃないかな...というようなストーリーだと感じました。

社会では男性も女性も「自分の身体は自分のものだ」「それは大切にされるべきだ」と話されていますが、実際そこが大切にされてない社会が舞台のストーリーでは繰り広げられています。作中には性被害の描写があるのですが、それに対して大人がどうリアクションしたのかというシーンも描かれていて、そこはかなり心が痛くなりますね。

このストーリーが置かれている社会を「反面教師にする」という意味で性教育のヒントになるかもしれません。これ以上はややネタバレかもなので(笑)。皆さんにもぜひ見にきていただきたいです。

パートナーと「本質的な性的同意」をとるために

日本で性教育について語るとき、どうしたら相手を傷つけないかという問いがとても多い。それももちろん大切なことだけれど、自分にとって大切な人との日常の中でリスペクトができているか立ち止まって考えること、ジェンダー格差など社会に蔓延る“当たり前”に疑問を持つこと、その延長線上に特別な時間で相手を大切にする、言い換えれば「本質的な性的同意」ができるのだと感じた。

この記事を読んでくれた方はぜひ、本や映画の力を借りながら勉強をしたり、少しずつでもいいから大切な人たちと話したりする機会を設けてほしい。そのなかで『RESPECT〜男の子が知っておきたいセックスのすべて〜』が必ず役に立つはずだ。

 

取材・文:さとうもね
編集:吉岡葵
写真:ふたりぱぱ みっつんさん 提供