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減りゆくドナー登録者。骨髄バンクをドナー以外にも知って欲しい理由とは

「10年以内に、骨髄バンクのドナー登録者が22万人減ります」

街を歩いていると、そんなキャッチコピーのポスターが目に飛び込んできた。恥ずかしながら筆者は、このポスターを見るまで骨髄(こつずい)バンクをよく知らなかった。いや、知ろうともしなかった。しかしそのポスターに書かれている言葉が、とても他人事ではないように思えた。

骨髄バンクとは、血液疾患の患者さんの命をつなぐバトンのようなもの。現在、そんなバトンの提供者であるドナーが減っているのだ。

今回、公益財団法人日本骨髄バンクの方にお話を伺うことにした。

骨髄バンクは、ドナーだけでなく、ドナーを応援し理解してくれる人も求めているという。今これを読んでいるあなたは、骨髄バンクについて説明ができるだろうか?もしそうでなければ、この記事を通じて一緒に骨髄バンクについて知ることから始めてほしい。

そもそも、骨髄バンクって?

骨髄バンクとは、血液疾患の治療のために「骨髄移植」などの造血幹細胞移植を必要とする患者と、血縁者以外のドナーをつなげる公的事業のこと。骨髄バンクからの提供を必要とする疾患には、白血病のほかに再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、免疫不全症、先天性代謝異常症などがある。そのような、ドナーを必要としている患者のためにドナー登録者を募り、提供できるようドナーのサポートをするのが骨髄バンクだ。

「日本骨髄バンク」は、公益財団法人として1992年からドナー登録を開始した。また米国、台湾、韓国、中国の骨髄バンクと業務提携を結んでおり、海外ドナーとのコーディネート・移植も可能だそうだ。

骨髄移植のためには、患者とドナーのHLA(白血球の型)が適合している必要がある。その型は患者によって異なり、適合する確率は、同じ親から生まれている兄弟姉妹で4分の1、血のつながりのない人では数百から数万分の1だという。とてつもない確率から、命をつなぐことのできる型を探さなければならない。そのために、その母数となる登録者数を増やすことが必要だ。

ドナーは18歳以上、54歳以下が登録でき、提供は20歳以上、55歳以下が対象となる。55歳を迎えると、健康面などの観点よりドナーの登録からは卒業となる。10年以内に22万以上の人が卒業することになるのが現状だ。ドナー登録者はコロナ禍を除き近年増加傾向にはあるが、卒業していく登録者が一定数いるため、継続して登録者を集めなければならない。特に、登録期間が長く移植成績が良いとされる若いドナーを増やすことが急務だという。

日本骨髄バンク提供資料より筆者作成

登録から提供までの流れは?

ドナー登録は、2mlの採血で完了する。

その後、登録した血液の白血球の型が患者と適合した場合に登録者へ通知が来る。一生の間に一度も連絡が来ない人もいれば、何回も通知が来る人もいるそうだ。提供を希望するかどうかは、通知が来たタイミングで再度登録者が決められる。

通常は1人の患者に対して数名のドナー提供候補者がおり、提供を希望した後に検査を受け、最終的にひとりの候補者が選ばれる。

通知から提供(移植)までの流れ(日本骨髄バンク提供資料より筆者作成)

骨髄バンクでは現在「骨髄移植」と「末梢血幹細胞移植」を行なっている。ドナーになった際は骨髄移植の場合は3泊4日程度、末梢血幹細胞移植の場合は5泊6日程度の入院が必要となり、事前の検査や面談を合わせると、10日ほどの日数を要する。提供した場合のリスクはもちろんゼロとは言い切れないが、基本的には移植手術後は数日内で社会復帰ができるそうだ。もし何か体調不良があった場合も骨髄バンクがサポートを行っている。

周囲の理解が不可欠な理由

いざ提供することになった場合、ドナーは学校や会社をしばらく休むこととなる。なかには学校や職場の協力や理解を得ることができず、自分自身が希望していても、諦めざるを得ない状況にある人もいるそうだ。型がマッチしているにも関わらず、周囲の環境によりそれが叶わないのは、なんとももどかしい。

一方で、そんな課題を解決するための制度もある。

1.ドナー休暇制度

ドナーの提供のための検査や面談、入院に対する欠勤を休暇として企業や事業社が認める制度。2023年11月現在、797社の企業・団体が導入している。

2.ドナー公欠制度

学生ドナーの提供のための欠席について、大学が公欠として認める制度。これにより、出席日数や単位を気にせずに提供ができる。こちらは2023年9月時点で12校とまだ数少ない。

3.自治体によるドナー助成制度

骨髄バンクを介して提供したドナーに対し助成金を支給する制度。これにより通院や入院のために仕事を休むことが減収につながる自営業者や非正規雇用者なども経済的な負担を軽減できる。2023年11月現在、導入している市区町村は全国で1018自治体ある。

会社や学校で制度がない場合も、打診することでサポート体制を作ってくれたという事例もあるという。しかし相談するにも勇気が必要だ。1回目の通知が来たときは反応が怖くて相談できず諦めたドナーが、思い切って2回目の通知で会社に相談したところサポートをしてくれたという事例もあるそうだ。社会全体が骨髄バンクについて理解し、当たり前になっていくような空気づくりが必要である。

日本骨髄バンクは2021年に設立30周年を迎えた際、あるステートメントを発表した。そのステートメントは『想像力が、いのちを救う。』だ。今登録が必要とされる若い世代や、それをサポートする周囲の人たちに向けて、認知を広めるための企画を行った。

想像力から、広がっていく輪

企画の一環として、2022年には広島で『社会を変えるアイデアフェス〜想像力が、いのちを救う。』を実施。地元の高校生や大学生といった若い世代に、骨髄バンクを広めるための施策を公募した。

アイデアフェスのポスター。「こつずい」の文字を記載しないことでドナーの不足を伝える。
出典:日本骨髄バンクHP(https://www.jmdp.or.jp/about/marrow/ideafes2022.html

実際のアイデアは、骨髄バンクのサイトで見ることができる。企画のなかには、すでに実現したアイデアもある。

例えば、スポーツ観戦をしながら、患者さんも選手も応援できる特等席「ピースドナーシート」という取り組みだ。このアイデアは若い世代の方をスポーツの試合に招待し、観戦前に骨髄バンクの説明会に赴いてもらうという仕組み。スポーツのファンの方に興味関心を持ってもらい、ドナー登録について考えてもらう企画である。

 

2023年3月にはバレーボールのVリーグ男子ファイナルステージで、また同年9月にプロ野球のスポンサードゲーム「広島東洋カープvs 阪神タイガース戦」で、ピースドナーシートが実施された。

骨髄バンクの担当者は、すべてのアイデアを実装するには様々な人の協力が必須と語る。ピースドナーシートは、骨髄バンクの活動を以前から応援していた団体の協力もあり実現することができたそうだ。今後も、機会があれば他のアイデアも含めて積極的に実現させていきたいという。

オレンジカラーで、輪をつなぐ

さらに今年2023年からは、「#つなげプロジェクトオレンジ」という企画がスタートした。若い世代のドナー不足をはじめとする骨髄バンクが抱える様々な課題解決のため、「ドナー登録」や 「提供のために仕事や学校を休むこと」がもっと当たり前に、もっと応援され、もっと感謝し合える社会となることを目指す、新しい取り組みだ。

ロゴには、「誰かの役に立ちたい」というドナーの “思いの熱"を赤色、患者さんの移植治療への“希望の光"を黄色に見立て、その2つが交わったときにオレンジになるという意味を示している。

現在の課題であるドナー不足や認知低下を改善するために、患者/ドナーといった当事者だけではなく、一般の個人や団体、企業などにも「思い」をつないで骨髄バンクの理解促進を行っていきたいというこのプロジェクト。特設サイトでは、骨髄バンクに対する疑問に対する説明や体験談などが、わかりやすく掲載されている。

11月1日からは、公式X(旧Twitter)で「#つなげプロジェクトオレンジ」の仲間を1万人集める「#オレンジ10000チャレンジ」というフォロー&リポストキャンペーンを実施。様々な著名人もこのプロジェクトに賛同している。

知ることから、始めていく

今回筆者が話を伺って感じたことは、ドナー登録をする当事者でもそうでなくとも、理解することは大切だということだ。骨髄バンクのドナー登録をすると必ず提供をしなければいけないのではというイメージがあったが、通知が来たタイミングで、自分のライフステージに合わせて希望を出すことができ、提供する場合も10日程度の入通院期間を終えると社会復帰が可能となる。

また、自分でなくとも、もし同僚や友人など周りにドナー登録者がいれば、全力で応援し、サポートしたいと感じるようになった。患者とドナーの適合率は、とても低い。せっかく型が一致しているのに、制度や周りの理解が無く諦めるのは、とても残念なことである。

もちろん、ドナー登録は強制ではない。やりたくてもできないという人もいる。しかしそのことについて知り、理解したうえで選択をすることはとても大切なのではないだろうか。それを知っているということが、誰かを助けることにも繋がるのだ。

ぜひ、ここまで読んだ方は、日本骨髄バンク公式Xをフォローし、一緒に知ることから始めて欲しい。

 

文:conomi matsuura
編集:森ゆり
写真:公益財団法人日本骨髄バンク提供