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BIGLOBEの強みを磨き、サステナブル経営を目指す。山田靖久社長インタビュー

「あしたメディア」を運営するビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)は、1986年に日本電気株式会社(NEC)のいち部門として事業をスタートし、その後、NECから分社。2017年にKDDI株式会社(以下、KDDI)グループ傘下となった。

2023年4月に新社長に就任したKDDI出身の山田靖久社長は、「就任は驚きだった」と話す。就任から半年ほど経ったいまは、BIGLOBEが育んできたブランドや魅力を活かしつつ、事業のさらなるアップデートに向けて、日々邁進しているのだそう。

企業活動において、利益を出すことだけでなく、社会貢献やサステナビリティへの取り組みが求められるいま、山田社長率いる新生BIGLOBEはどのような未来を描いているのだろうか。就任から半年経った現在の構想を伺った。

山田 靖久 社長
1988年にBIGLOBEの親会社であるKDDIに入社。約35年間、システム開発等の技術分野をはじめ、法人・個人向けサービスの企画等に幅広く関わってきた。2023年4月より現職。

最初に抱いたのは、「驚き」と「新たな環境への期待」

2023年の4月に社長就任が決まった際は、どんなお気持ちでしたか?

正直に言うと、不安と期待、両方の感情がありました。

私はこれまで、ずっとKDDIで仕事をしてきました。BIGLOBEがKDDIグループに入ったのは2017年ですが、KDDIにいる間、担当する仕事でBIGLOBEに関わることはほぼなかったんです。そのため、社長就任を聞いたときは驚きました。「本当に自分でやり切れるのか?」と、少なからず不安はありましたね。

一方で、新たな環境を与えられたことにも喜びを感じました。新しいメンバーと一緒に新たなことにチャレンジできるということは、とてもワクワクすることでもありました。この機会に、組織全体の成長と発展に貢献することを心から楽しみにしています。

就任前のBIGLOBEは、どのようなイメージだったのでしょうか?

若い世代の方は、あまりご存じでないかもしれませんが、我々の世代では「BIGLOBE」というと30年以上前に、「PC-VAN」(※1)を立ち上げた“インターネット業界の老舗ブランド”というイメージがあると思います。そんなブランド価値がある会社という、親近感はありましたね。

就任されて半年経ちますが、着任後はどんな印象を持たれていますか?

まず素直な印象としては、真面目な方が多いという印象です。真面目と言うと、良い面だけでなく悪い面もあるように聞こえるかもしれませんが、私は良い面で捉えています。むしろ真面目が1番だと思っている。

皆さんは自身の仕事に対して誇りや自負を持っていて、技術やブランドの向上に向けて積極的に取り組んでいる姿勢を感じますし、自らの責任範囲をしっかりと守っています。

あとはボトムアップで物事を進めている気がしますね。
私にお伺いが来ることもあまりありません(笑)。各部門が、自分たちでしっかり物事を決めていくことが多いと感じています。会社の雰囲気もいいと思いますよ。

※1 補足:「PC-VAN(ピーシーバン)」とは、BIGLOBEの通信サービスの前進であるパソコン通信サービス。1986年にNECがサービスを開始し、会員数100万人を擁する日本最大のパソコン通信サービスの1つであった。
参考:BIGLOBEstyle「パソコン通信「PC-VAN」を育て上げたレジェンドが語る新サービス創出の秘訣!」https://style.biglobe.co.jp/entry/2022/09/14/090000

まずはコア事業である「通信事業の進化」を目指す

事業面ではどのような分野に注力されていく予定でしょうか。

BIGLOBEは通信の会社なので、まずは通信の領域をもっとしっかりしなきゃいけないですし、できることもたくさんあると思っています。

当社のように国内の通信市場を扱う企業は、人口も減るなかで「もう利用者が広がらない」などと世の中では言われています。でもまだまだ進化もあるし、伸び代もあると思うんです。通信を中心に添えて、それに加えて新たな領域を、既存の領域とシナジーが生まれる形で広げていく。そういうスタンスで進めていきたいと思っています。

具体的には、どのような取り組みになるのでしょう?

まずはBIGLOBEの主力事業である、光回線インターネットサービス「ビッグローブ光」があります。このシェアをどれだけ広げていけるか、という点が1つです。

また、基礎的な部分ですが、通信インフラのレベルに劣後があってはいけないと思います。スピードの速さや、利用エリアの範囲といったところも、より磨き上げることができるんじゃないかなと思っています。これはインターネットも、モバイル分野も同じです。まずはそこをしっかり進化させて、その上でよりお客様の満足を高めるべく、インターフェース作ったり新しいサービスを作ったりといったことが、まだまだできると考えます。

また、あまり知られていないのですが、BIGLOBEは広告代理店事業(※2)も展開しており、事業として好調です。通信事業以外の2つ目の主力事業になる可能性もあるので、これも順調に大きくしていきたいと思っています。

事業上の進化を実現していくためには、社内の組織文化の醸成や人材育成も必要になってくると思います。その点ではいかがでしょうか?

冒頭で「真面目なメンバーが多い」という話をしましたが、自分たちの守備範囲をしっかりと守る反面、やや部門間で縦割りになる傾向があると感じています。そのため、より部門間の“横の連携”を高めていきたいと考えています。

その一環で、まず部長を対象としたプロジェクトを始めました。全体で40人ほどいる各部門の部長が「お客様満足度の向上」「社内プロセスの改善」「働く環境の改善」といった、横断的なテーマのプロジェクトに最低1つは入るようにしています。BIGLOBEはそこまで大きな組織ではないので、部門の全メンバーをしっかり見て、1人ひとりと会話できるのは部長の立場だと思うんですよね。部長自身の変革が、その下のグループリーダーや担当にも必ず波及すると考え、まずは部長を対象に始めました。

開始して分かったのですが、プロジェクトに参加する部長たちからは「他部門でそんなことがあるなんて知らなかった」といった声が結構聞かれるんですよね。互いに会話することで、「我々ってこんなこともできてなかったの?」「その部門でそんなことをやってたんだ」といった発見が出てくるようです。これはやって良かったなと思っています。長期的に進めていきたいですね。


※2 参考:BIGLOBEstyle「目配り、気配り、心配り」を大切に、広告代理事業を共に立ち上げ・推進していく仲間へ」
https://style.biglobe.co.jp/entry/2023/08/02/100000

積み上げてきた事業価値を活かし、よりサステナブルな経営へ

いま、企業にはSDGsへの取り組みや、サステナブル経営が求められています。その点でもお考えはありますか?

サステナブル経営は非常に重要な課題であると認識しています。ただ、BIGLOBEが現在どの程度取り組んでいるかという点については、まだまだこれからの段階だと思っています。サステナブル経営を考えるにしても、まず考えたいのは「通信の領域でいかに持続的な社会を作っていくか」。通信事業自体がすでに社会インフラですし、社会貢献につながるものだと思います。

通信事業以外では、これまでもONSEN WORKビルのCO2排出量削減ソリューション事業などに取り組んできましたが、個別の取り組みが分散しており、全体的なビジョンが明確ではな印象があります。いまは、年度内を目標に全社的なサステナブル経営に関する基本方針を打ち出そうと動いています。KPIを定め、社員間でもしっかりと共有しみんなにきちんと理解してもらって、全社的に進めていきたいなと。また、なかなか我々だけで進めると難しいことも多いと思うので、様々なパートナーさんとも連携していきたいですね。

基本方針が可視化されることで、社内メンバーも一層、事業におけるサステナブルな取り組みを意識できるようになりそうですね。

そうですね。実際、いま既に事業で取り組んでいることも、サステナブルな社会に繋がっていると思うんです。通信事業というのは社会基盤を支えるうえで欠かせません。その消費電力を抑えられる技術開発なども自社で行なっています。ただそれを、思考の中であんまり繋げて考えていないと思うんです。「自分がやっていることが世の中にこう伝わって、持続可能な社会にも繋がっているんだ」ということを、言語化し方向性を作ることによって意識してもらえればと思っています。

こちらも通信事業を軸にして、新たにサステナブルな取り組みが広がっていくイメージなのですね。

新しい取り組みを進めるにしても、人や予算などのリソースの配分があると思います。その点「既存の部分をいかに効率化するか、利益を出すか」が重要になってきます。
通信事業を進化させ利益をあげていくことで、新しい事業でも安心して挑戦ができるようになります。その点でも、通信事業が軸となると考えています。

コロナ禍で変わった働き方の価値観

BIGLOBEではZ世代、ミレニアル世代の価値観に関するアンケートも実施しており、あしたメディアでもその結果をレポートしてきました。山田社長も「働き方」などで世代間ギャップを感じることもあるのではないかと推察しますが、いかがでしょうか?

▼関連記事をチェック正直、私が若いときは自分も周りもみんな、朝から夜遅くまでずっと働いていました。それがみんなにとって「普通」だったので、当時はとくに違和感もありませんでした。でも社会が変わってきて、十数年前からワークライフバランスが叫ばれるようになりましたよね。最初は、その社会の姿勢に若干の物足りなさも感じていました。でもいまは大切なことだと思います。

自分にとって、この価値観の変化に一番大きく影響したのは、コロナ禍の在宅勤務です。世の中の状況も変わったと思うし、私自身の価値観も大きく変わりました。

また、私は子育てを妻に任せてしまっていましたが、「男性もしっかりと子育てしないといけないな」と改めて考えるようになりました。KDDI時代、最初にいた技術職場にはあまり女性がいませんでした。それが、商品企画の領域など幅広い分野に関わっていくことで、女性の方と関わる機会が増え、働きながら子育てをしている人を見て、本当に尊敬するようになりました。

まさに社長ご自身も価値観の変容があったのですね。若い世代は、企業を選ぶ際「働きやすさ」といったポイントも重視する傾向にあると思います。

BIGLOBEは、とても働きやすい会社だと思います。だからこそ、もっと当社の魅力を社外にも出していきたいですね。

そのために、頑張っている社員の声もどんどん外に出していきたいし、ちゃんと彼らに語れる成果を持ってもらいたい。「自分たちはこんなにすごいことをやり遂げてるんだ!」と語れるように、私を含めた経営陣がしっかりサポートする必要があると思っています。


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目指すのは「社員が幸せだと思える会社」

BIGLOBEのメンバーに今後期待することがあれば、教えてください。

BIGLOBEは国内向けに事業を展開しています。そのため、メンバーはグローバルの繋がりがほぼありません。でも、技術面でもサービスの面でも外から吸収できることはたくさんあるし、外のものを取り入れていかないと今後の事業の進化には対応できないと思います。だから、もっとみんなが社会状況やグローバルに目を向けていけるような環境を作っていきたいです。

もちろん仕事の面でもそうですが、新しいことに触れると人生観も変わります。プライベートも含めて、もっと外に出てほしいなと感じますね。

社長ご自身もグローバルに目を向けて、刺激を得ることが多いのですか?

仕事が多いですが、海外のメーカーやソフトウェアの会社を訪問するなど、KDDI時代から海外にはよく行きました。欧米やアジアのIT企業や通信企業との会話を通じて、多くの気付きや学びを得ることができました。BIGLOBEに着任してからは、先日インドに行ってきました。日本は品質管理が得意だと言われていますが、インドはもっと高いレベルで管理をしていると驚きましたよ。

BIGLOBEにいるメンバーは、ともすると社内や国内だけに目をむけていても、十分仕事ができてしまうかもしれない。でももっと、視野を広げる機会を作りたいです。事業上繋がりを作る可能性のある国に社員を派遣して、数ヶ月滞在してもらうなども良いと考えています。KDDI時代にも、海外に数名社員を派遣しましたが、いまそういう人たちが海外で経験を積み、部長クラスになって事業を引っ張っています。BIGLOBEでもそれをやっていけたらなと。まず初めは、先ほど話していたインドに派遣するのが良いかなと思っています。

視野や知見を広げて、繋がりを作っていくことが重要だということですね。

いま、社内では出社率を少し上げていく動きがあります。しかし、これは社員にもちょっと誤解されていますが、「出社して欲しい」ということではありません。どういう形であっても「もっと社内でコミュニケーションを取ろうよ」ということが、私の真意です。

どんな仕事も、やっぱり自分1人ではできません。いろんな人と協力しないと、大きなことはできない。新しいサービスをどれだけ拡大できるかは「どれだけ人に協力してもらえるか」だと思っています。何か物を作ったって、結局売る人が賛成して、運用する人も開発する人も協力していかないと発展はしていきません。
縦割りではなく“横のつながり”を作りたいとも話しましたが、コミュニケーションや繋がりを作っていくということも、非常に重要だと思っています。

そして、まずは「社員が仕事を通じて幸せを感じてもらうこと」を目指しています。自分の会社に誇りを持って仕事をしている度合いが、いま以上に高まって欲しいなと思います。個々が語れる成功体験を作り、BIGLOBEのブランド力を一層高めていく。それが、私の仕事だと思っています。

山田社長が率いる新生BIGLOBEでは、軸足となる通信事業をさらに進化させていく強い決意が感じられた。通信事業という基盤をしっかり持つことで、サステナブル経営をはじめとする新しいチャレンジを大胆に進めていくことができる。サステナビリティに関する取り組みについても、どんな基本方針が打ち出されるのか、いまから楽しみだ。また何より、社員がよりやりがいや幸せを見つけられる会社に導いていくことも、サステナブル経営のひとつかもしれない。

社会の変化や世代間の価値観のギャップにも柔軟に対応していく経営者の元で、進化を続けるBIGLOBEの今後の姿にも期待していきたい。

 

取材・文:大沼芙実子
編集:conomi matsuura