よりよい未来の話をしよう

グローバルサウスとは?その意味や歴史的背景、重要性とその役割を解説

「グローバルサウス」とは?

前提としてグローバルサウス(Global south)の明確な定義はなく、それを誰が唱えるかによって定義のゆらぎが見られるものの、グローバルサウスは、主に新興国や発展途上国、第三世界の国々を表現する際に使われる言葉である。地球の南半球に位置している国が多く、北半球に位置する先進国と対比される。

グローバルサウスの対義語として、経済的に発展し工業化が進んでいる地域を「グローバルノース」と呼ぶ。

グローバルサウスの概念の起源

グローバルサウスの概念は、南北問題(the North–South divide)に端を発している。南北問題の発生に関して千葉大学 阿部清司教授の論文では以下のように記述されている。

歴史上どんな時代にも豊かな国と貧しい国があったが、それが世界的な問題であると認識され始めたのは、そう昔のことではない。世界経済が何らかの共通の関係によって結ばれているということが起きて始めて、南北問題が意識されたのである。つまり、南北問題は実は、20世紀になって始めて、登場したのである。

(※1)

東西冷戦終結の世界は急激に経済成長を遂げたと同時に、グローバル化と経済格差をもたらした。そして、世界地図を広げてみたとき、経済的に発展している国は北側に、そうでない国は南側にある傾向があったため、グローバルサウスとグローバルノースという言葉で世界が定義されるようになった。

2020年代において、グローバルサウスはどの大国にも属さない中立的な意思をもった国あるいは成長や発展において可能性も持つ国と語られる文脈が多いものの、その言葉の始まりは経済的に貧しい状況にある国々を示すためのものであった。

※1 引用:千葉大学経済研究 阿部清司「南北問題とグローバリゼーション(上)」
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900020763/KJ00000171317.pdf

2020年代におけるグローバルサウス

ロシアによるウクライナ侵攻で国際社会の分断が深まり、グローバルサウスという言葉の注目度が高まった。グローバルサウスの国々は、特定の国と必ずしも行動を共にしないという場合も多く、国際政治の観点でグローバルサウスの動向は重要なものとなっている。三菱総合研究所の資料では、以下のような記述もなされている。

ウクライナ危機を受けて数回実施された対露非難決議では、主権や領土などの根本理念に関する投票でグローバルサウスの過半数が「賛成」する一方、「棄権」や「無投票」の国も多い。さらに資格停止や賠償といった面に一歩踏み込んだ決議では「賛成」の割合は半分を割っている。一国一票を原則とする国連投票において、グローバルサウスの意見は無視できない。

(※2)

また、経済面においてもグローバルサウスの影響力は特筆に値する。アメリカのゴールドマンサックスが発表したデータによると、2075年には、GDPの上位10か国のうち半分以上を「グローバル・サウス」の国が占めるとされている。なお2022年には3位の日本だが、2075年には12位になるのではないかと予想されている。(※3)

出典:ゴールドマン・サックス Economic Research「2075年への道筋-世界経済の成長は鈍化、しかし着実に収斂」  図表 4を参考に筆者作成
https://www.goldmansachs.com/japan/insights/pages/path-to-2075-f/report.pdf

2023年にはグローバルサウスの筆頭とも言えるインドが中国の人口を追い抜き、世界で最も多くの人口を持つ国となった。2050年には全世界の人口の3分の2がグローバルサウスの国々によって占められるとの予測もされており、グローバルサウスが世界でプレゼンスを示していることは明白である。(※2)

※2  引用:三菱総合研究所「ウクライナ危機で存在感増す『グローバルサウス』①」
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20230516.html
※3  参考:NHK「存在感増す“第3極”グローバル・サウス 問われる新しい世界への向き合い方」
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/pp2LMyVRQj/

グローバルサウスと関連用語

グローバルサウスが語られる文脈の中には、グローバルサウスと類似あるいは一部の意味を共有する単語がいくつか存在している。どの単語もグローバルサウスと同様の意味として使用されることも多いが、この章では、それらの単語とグローバルサウスとの違いを検討する。

発展途上国との違い

JICAの資料によると、発展途上国とは以下のような国をさす。

世界の国々は、1人あたり国民総所得(GNI)により開発途上国 (発展途上国 )かどうかが定められています。(GNIとは、ある一定期間内に得られた所得の合計で、経済の指標として使われます。)

(※4)

また、発展途上国の中でも、GNIなどの指標に基づいてさらに、以下の4つに分類される。

・高中所得国

・低中所得国

・低所得国

・後発開発途上国 (LDC)

2023年においては、発展途上国の中でも特に成長が遅れている国である後発開発途上国(LDC)に指定されている国は46カ国であり、これまで6カ国がこの分類から抜け出したとされている。(※5)

ここからも読み取れるように、発展途上国とは発展を前提とした世界において、先進国が設定した発展に未達の国であり、他国からの経済的支援を受ける国でもある。グローバルサウスという単語は政治的・経済的意思を含有した単語であると解釈すれば、経済的な未達の文脈で語られる発展途上国とは少し異なる。

※4 引用:JICA地球ひろば「『生きる力』を育む国際理解教育実践資料集 第1章世界の現状 第2節発展途上国と貧困の問題❶」
https://www.jica.go.jp/Resource/hiroba/teacher/material/jhqv8b000005wd9w-att/1_2.pdf
※5 参考:日本経済新聞「後発開発途上国(LDC)とは 国連46カ国認定、貿易優遇」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB203X10Q3A420C2000000/

▼他の記事もチェック

新興国との違い

内閣府は、新興国について「途上国の中でも、特にG20に参加する中国やインド等を中心に、高い経済成長を遂げている国々を『新興国』と呼ぶ」としている。(※6)

新興国の文脈で取り上げられるのは、以下のような枠組みに属する国々である。

BRICs(BRICS):ブラジル・ロシア・インド・中国

VISTA:ベトナム・インドネシア・南アフリカ・トルコ・アルゼンチン

NEXT11:ベトナム・フィリピン・インドネシア・韓国・パキスタン・バングラデシュ・イラン・ナイジェリア・エジプト・トルコ・メキシコ

ここからもわかるように新興国と評される国は幅広く、西側諸国や日本を始めとした国と、それ以外の経済成長をしてきた国を区別する総称としても解釈できるだろう。一部、すでに急速な発達を遂げている国も含まれており、発展途上である国を内包するグローバルサウスという単語と比較すると、属する国の発展度という点で異なると言える。ただ、どちらの定義も非常に範囲が広く曖昧な定義であることに違いはない。

※6 参考:内閣府「世界経済の潮流 2014年I  凡例」
https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh14-01/s1_14_0_2.html

第三世界との違い

第三世界とは冷戦時代に使用された言葉である。アメリカ、西ヨーロッパ、日本やその同盟国を第一世界(西側諸国)、ロシア(ソビエト連邦)、中国やその同盟国を第二世界(東側諸国)、それらに属しない国々を総称する言葉として第三世界が使用された。旧植民地から独立した国々を指す際にも使用された。ただ、冷戦の終結により、第二世界が事実上崩壊したことによって、第三世界という言葉も次第に使われなくなった。

第三世界という言葉は、現在はグローバルサウスといった言葉に置き換えられている。

グローバルサウスの歴史的背景

グローバルサウスの背景には、国連が定めたグループであるG77の存在が挙げられる。G77は1964年に経済状況が近い77カ国の参加によってできたグループの名称である。

国連の「G77」とは

1964年の時点では77カ国で構成されていたG77であったが、現在はグローバルサウスの国々を含む130以上の国が参加している。G77では参加国の首脳や官僚が集まり、課題の議論や先進国への提案の取りまとめを行ってきた。

「G77プラス中国」とグローバルサウスの関連性

中国はG77の参加国に加盟はしていないものの「G77の参加国ではないが、正当な主張と要求を支持し、良好な協力関係を維持してきた」(※7)という立場をとり、G77プラス中国という形で会議等に参加してきた背景がある。

また、G77プラス中国とグローバルサウスの関係性については、日本経済新聞で以下のように述べられている。

1964年に発足した国連内の新興国グループ「G77プラス中国」を指す場合もあるが、近年は中国を除く意味で使われる事例が目立つ。岸田文雄首相は2023年1月に「グローバルサウスに固まった定義はない」と述べたうえで、経済大国である点を理由に「中国を含めて考えていない」との見解を示した。

(※8)

つまり、「G77プラス中国」に所属する国々はグローバルサウスと呼ばれる場合もあるものの、中国はグローバルサウスの枠組みには所属していない場合が多い。ただ、中国は自身がG77やグローバルサウスに所属していない立場を表明しつつも、会議の参加などを通してそれらの国々との関係を深めている。2023年にキューバで開かれたG77プラス中国の首脳会議においても、中国は同会議について「国際正義を堅持し、途上国の共通利益を守ってきた」と発言するなど影響力を高めている。(※8)

※7参考:日本経済新聞「『G77プラス中国』首脳会議 キューバ主導で開催」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN150MK0V10C23A9000000/
※8 引用:日本経済新聞「『G77と中国』、キューバで閣僚会議 環境対応を協議」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0503T0V00C23A7000000/

▼他の記事もチェック

現代におけるグローバルサウスの重要性

現代においてグローバルサウスが世界への発言力や影響力を高めてきたことは上述の通りである。

グローバルサウスが発言力を高めている背景には、筆頭国のインドの行動が代表として挙げられるが、2023年1月にはインド政府が主催の「グローバルサウスの声サミット」(Voice of Global South Summit)が開催されている。

また、2023年10月には総理大臣官邸で第1回グローバルサウス諸国との連携強化推進会議が開かれ岸田総理が以下のように発言している。

国際社会は、今、歴史の転換点にあり、世界の一体化を目指してきた流れとは異なる動きも生じています。そうした中、協調に向けた世界を目指すため、本年3月に私がインドを訪問した際には、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のための新たなプランを発表いたしました。また、5月のG7広島サミットにおいては、いわゆるグローバルサウスとの関係強化を図りました。

今後、我が国として同志国との連携に加え、グローバルサウスと呼ばれる新興国、途上国との連携を強化し、それらの国々をパートナーとしていくことが、我が国の経済安全保障面を含めた国益にかなうとともに、国際社会における分断と対立の動きを協調へと導くものと考えています。

(※9)

この発言からも分かるように、日本はグローバルサウスとの関係を重要視しており、それはアメリカやロシア、中国といった国にも共通する動きであろう。

※9 引用:首相官邸「グローバルサウス諸国との連携強化推進会議」
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202310/17globalsouth.html

グローバルサウスと国際秩序

ここまでグローバルサウスの定義や成り立ちを見てきたが、それではグローバルサウスは日々変化する国際秩序にどのような影響を与えるのだろうか。

「ルールに基づく国際秩序」の揺らぎ

グローバルサウスと国際秩序の関係を考える際に検討しなければいけないのは、現代社会において「ルールに基づく国際秩序」が揺らいでいるという事実であろう。「ルールに基づく国際秩序」におけるルールとは「法による支配」を指す。国際政治学者の細谷雄一氏の以下の記述から、国際秩序が「法の支配」に転換したこと、そしてその「法の支配」が危うくなっている現状を読み取ることができる。

「ジャングルの掟(the rule of the jungle)」、すなわちそれまでの弱肉強食のパワーポリティクスの論理が、「法の支配(the rule of law)」によって代替されていくことが想定されていた。そのような、「ルールに基づく国際秩序」が支配する世界では、もはや核兵器は不要となり、軍拡は無意味となる。国際法に基づいて、平和的な手段で紛争が解決されるはずであった。

(※10)

共通のルールの元で正常に機能するだろうと思われていた国際社会だが、その脆さが近年特に浮き彫りになっている。戦争における非人道的攻撃の停止を、完全に取り決めることができない現状もその例の1つであろう。

※10 引用:細谷雄一「リベラルな国際秩序と日本外交」https://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2020/2020-04_002.pdf?noprint

民主主義vs権威主義とグローバルサウスの役割

国際社会において「ルール」よりも民主主義国家vs権威主義国家という構図に基づいて何らかの決断がされる事例が増えてきている。特定の国家に追従して国の方針を決定することが固定化された世界では、深刻な人権問題が発生した場合、あるいは客観的な議論が必要な場合でも、支持陣営の決定を優先した判断がなされる可能性がある。

グローバルサウスはどちらの陣営にも属さない中立の姿勢を示すという流動的な性格を有している点を踏まえると、グローバルサウスの行動が世界を正常な方向に向かわせる可能性があるとも考えられる。あるいは、グローバルサウスがどちらかの陣営につくことで世界の2項対立をさらに強化させる可能性もあるだろう。いずれにせよグローバルサウスは、これからの国際秩序を方向づける最も重要なアクターと言える。

まとめ

世界は思想的対立だけではなく、武力的な対立をも強めている。グローバルサウスとは非常に広範な意味を持つ概念であるが、最も重要なことはその定義を明確にすることではなく、グローバルサウスの国々と協調をはかりながら国際社会の秩序を今よりも安定した平和なものへと整備していくことだろう。

 

文:小野里 涼
編集:吉岡 葵