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ビリー・アイリッシュらが取り組む気候変動への具体策。ライブやツアーで私たちもできるアクションとは?

2023年の夏。外に出られないような暑さが続いたことは、記憶に新しいだろう。

国連の事務総長グテレス氏は2023年「地球温暖化から地球沸騰へ移行した」と言及。世界各地でこれまでの最高気温を更新したというニュースが相次いだ。

夏を賑わす音楽フェスティバルにおいても猛暑の影響があった。毎年約10万人の来場者となる音楽フェス「サマーソニック東京」では開催スタジアムへのスポーツドリンク持ち込みを禁止していたが、熱中症で倒れる観客が後を絶たず、スタジアムを所有する千葉市の神谷市長が今後対応を検討すると記者会見を開いた。

もしかしたら、この暑さのために、音楽フェスやイベントに行くことを諦めた人もいるかもしれない。筆者自身、昨年までは積極的に通っていた音楽フェスに足が遠のいてしまった。気候変動はもはや、他人事ではない。SDGsでは「気候変動に具体的な対策を」という項目が設けられている。では、具体的な対策とは一体どのようなものなのだろうか。

2023年8月。ロンドンで「OVER HEATED」という気候変動の問題に取り組むイベントが開催された。その様子は、あるアーティストのYouTubeチャンネルから同時に全世界へとライブ配信された。そのアーティストとは、ビリー・アイリッシュ。2020年にはグラミー賞5部門を受賞した経歴を持つ女性シンガーだ。

若くして輝かしい経歴を持ち、Instagramでは1.1億人というフォロワーを持つほど影響力のある彼女は「気候変動への具体的な対策」について心血を注いでいるという。

本記事では特に音楽フェスやライブシーンにおける気候変動への取り組みについて紹介しながら、その対策について考えてみたい。特にビリー・アイリッシュの実施する事例から、他の国内外のアーティスト・ライブイベントの事例も紹介する。

気候変動とは?その原因は?

そもそも気候変動とは、地球温暖化が引き起こす様々な自然変化によって生じる自然災害のことである。猛暑のための干ばつや山火事、集中豪雨や台風、洪水などがその災害にあたる。日本でも昨今、猛暑や集中豪雨が後を絶たない。それにより農作物や水産物に影響が出るほか、交通インフラなどの社会基盤が壊れ、教育や経済活動にまで影響を及ぼす可能性がある。

その原因は、二酸化炭素の排出によりできる温室効果ガスが地球の温度を上昇させることにある。対策として、二酸化炭素のもととなる化石燃料の使用を減らし、自然エネルギーに変えたりプラスチック使用を減らしたりすることで、二酸化炭素の排出を抑えることができる。

音楽フェスやライブシーンにおける二酸化炭素排出の要因を考えると、CD・レコードの包装やグッズ、イベント備品におけるプラスチック利用や、舞台演出や音響装置のための電力使用、ひいては参加するための飛行機や自動車移動による燃料の使用などが考えられるだろう。

アーティストにおける具体的な対策

・ビリー・アイリッシュの例

先ほども述べたようにビリー・アイリッシュは、今の音楽シーンにおいて影響力の高いシンガーであり、同時に気候変動に対するアクションにおいても高い影響力を発揮しているアーティストだ。彼女は幼い頃から家族の影響でヴィーガンとして生活しており、環境に対する関心も強かったという。

2019年、彼女は全世界へ向けて地球温暖化へと警鐘を鳴らす楽曲を発表した。タイトルは「all the good girls go to hell」。MVは、公開から7時間で再生回数500万回を突破した。

MVでは、燃え盛る土地に堕ちてきた天使(ビリー)がよろよろとただ歩く様子が映される。歌詞にある「hills burn in california(カリフォルニアの丘が燃える)」という表現は、近年多発しているカリフォルニアの山火事を指しているとみられる。同地域では2015年ごろから干ばつに悩まされており、2019年の大規模な山火事のあとも、火災が後を絶たないという。彼女はMV発表とともに気候変動に対するデモ参加を呼びかけ、自身のSNSでもフォロワーに対し気候変動への関心を持つことについて問いかけた。

また同年、貧困や環境問題に対して活動する非営利団体「Grobal Citizen」と協力し、活動を支援するリスナーに対して無料のライブチケットをプレゼントするキャンペーンを実施。その後も定期的に同団体の主催するチャリティーイベントに参加している(※1)。

彼女は、積極的に気候変動へ関心を持つことの必要性を呼びかけるが、強制はしたくないと話す。その代わり自分自身のライブツアーやフェスでは、できる限りの対策を取る。音楽に特化した環境NPO「REVERB」とパートナーシップを結び、専門家の監修のもと、様々な工夫を行っている。例えば、彼女のライブツアーでは、下記のような環境への配慮を実施する。

  • 会場でプラスチックストローを廃止
  • 会場に給水所を設け、マイボトルの持参を推奨
  • 環境のための活動を行う団体へ向けた募金活動を実施
  • 環境保護活動への署名呼びかけ
  • ツアーケータリングをプラントベースに変更
  • ライブ会場のフードにもプラントベースを採用
  • ライブツアー中に余ったホテルアメニティをリサイクルボックスで回収

ひとつひとつは小さなことかもしれないが、積み重ねると莫大な影響となる。彼女が2021年にリリースしたアルバム「Happier Than Ever」のためのツアーでは、15,000 トン以上の CO2を中和し、気候変動関連の組織とプロジェクトに 575,000 ドル以上の資金を提供したという(※2)。

2022年、有明アリーナでの来日公演時も、実際に給水スポットの設置やプラントベースのフード提供が行われた。日本国内のライブでもなかなか見ない取り組みだが、日本のライブ会場においても実現可能であることを示した。また全世界を周るツアーで、彼女は他のアーティストのようにプライベートジェットを用いず一般の旅客機を使用。無駄な燃料の消費を極力減らしているのだという。

またその取り組みは彼女のソロツアーだけではなく、出演する音楽フェスにおいても実施している。2023年にスペインで実施されたフェス「ロラパルーザ」では、前述したREVERBの協力のもと、舞台で使用する電力の供給源として太陽光発電を使用した。(※3)

彼女は、VOGUEのインタビュー(※4)において「本来私はなにも作るべきではないが、創作をやめることはできない。だからできる限り最善の方法でもの作りをする」と謙虚に話し、ともにインタビューに参加した環境活動家へ敬意を払った。しかし彼女のひたむきな努力は、今後の音楽シーンの考え方に大きな影響を及ぼしただろう。

・ほか、海外アーティストの事例

もちろん、気候変動について声をあげるのは彼女だけではない。ビリー・アイリッシュが共同でプロデュースしたドキュメンタリー「OVER HEATED」では、若い世代に注目を集めるシンガー、ガール・イン・レッドやヤングブラッドも出演し、気候変動への呼びかけを行い、自身の対応について語った。その他にもこのムービーでは様々な背景を持つアーティストが参加し、気候変動は未来のことでなく現在進行形で体感している災害なのだと話している。

また、グラミー賞をこれまで7回受賞したイギリスのロックバンド・コールドプレイは、2022年から始まったツアーにおいて、二酸化炭素の排出をこれまでのライブの50%に削減すると発表した。(※5)彼らは2019年に、環境に優しい方法を発見するまではツアーの実施を休止すると発表しており、今回満を持して具体的な目標とともに催行を決定した。一部、環境への配慮に欠ける企業によるスポンサーシップが発覚し議論を生んでいるが、そういったことが彼らの批判となるほど、環境課題への対応は話題となっている。

他にも、ハリー・スタイルズやボーイジーニアス、オデッサ、ルミニアーズなどのバンドも先述したREVERBの支援のもと、ライブを催行している。ツアー会場で参加者が持参するマイボトルへ給水を行なったり、寄付を呼びかけたりするほか、ツアー中に出る廃棄物を極力リサイクルしたり、使用するウェアやカップなどの備品を再生可能な物質で作られたもに選定したりと、バックステージでの対応も公表している。アーティスト自身の意識と、それをサポートする団体や寄付者によって、環境に配慮したツアーが挙行されているのだ。

・国内アーティストの事例

このように、海外の事例を見てきたが、もちろん日本国内でも気候変動に具体的なアクションを示しているアーティストや音楽イベントがある。

例えば、「Climinate Live」という活動もその1つだ。これは2021年にイギリスから始まり世界20カ国以上で実施されている、音楽を通して気候変動を考える活動で、同年に日本でも実施されている。公式SNSやサイトからの発信や、音楽イベントを通じて関心を持つきっかけを作っている。2022年のイベントには、元水曜日のカンパネラ ボーカルであるコムアイやあっこゴリラが参加。ライブの間にスピーチやトークセッションを組み込み、関心を呼びかけた。

youtu.be

また、毎年9月頃に行われる野外音楽フェス「中津川THE SOLAR BUDOKAN 2023」は、なんと2012年から太陽光発電を使用する取り組みを行っている。会場ではリユースカップの利用を促したり、古着の回収を呼びかけたりと、色んなかたちで参加者がアクションできるきっかけを作っている。

ツアーやイベントだけではない。シンガーソングライターのSIRUPは国際環境NGO「Green Peace」とコラボし楽曲を作成。彼は音楽プロデューサーでありギタリストであるShin Sakiuraとともに、里山でフィールドレコーディングを実施。出来た楽曲『FOREVER』の配信による売り上げを同団体に寄付。(※6)一連の取り組みを通じてファンへ気候変動への関心を呼びかけた。

※1 参考:GLOBAL CITIZEN「6 Times Billie Eilish Spoke Out Against the Climate Crisis」
https://www.globalcitizen.org/en/content/what-has-billie-eilish-said-about-climate-change/
※2 参考:REVERB「HAPPIER THAN EVER WORLD TOUR IMPACT REPORT」
https://reverb.org/impact_report/happier-than-ever-world-tour-impact-report/

※3 参考:udiscovermusic.jp「ビリー・アイリッシュ、今週開催のロラパルーザのステージに革新的な太陽光発電システムを導入」
https://www.udiscovermusic.jp/news/billie-eilish-reverb-lollapalooza-solar-powered-intelligent-battery-systems

※4 参考:VOGUE JAPAN「ビリー・アイリッシュと8人の活動家たちが語る、気候変動とポジティブな未来への希望」
https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/us-vogue-billie-eilish-climate-activism-january-cover-2023-video

※5 参考:FRONTROW「『環境に優しいツアー』はどうやって実現する?コールドプレイの徹底ぶりがすごい」
https://front-row.jp/_ct/17488497

※6 参考:Spincoaster「SIRUP × Shin Sakiura、国際環境NGO『グリーンピース』とのコラボ曲『FOREVER』リリース」
https://spincoaster.com/news/sirup-x-shin-sakiura-release-collaboration-song-forever

私たちが取るべき、具体的なアクションとは?

ここまで見てきたように、海外だけでなく日本でも気候変動に対する施策を行なっているライブや音楽イベントは存在する。これまでは「できればする」という認識の人も多かったかもしれないが、迫る気候変動による災害を前にして「しなければいけない」という認識を持たざるを得ないだろう。主催者やアーティスト側だけでなく、観客として私たちにできることはどのようなことだろうか?

いち参加者としても、できることは沢山ある。

  • マイボトル、エコバックを持参する
  • 繰り返し使えるレイングッズを持参する
  • ライブに行く際の交通手段を見直す(車の相乗りなど)
  • グッズは環境に配慮しており、長く使えるものを購入する
  • イベントやツアー主催者へ対応に関して問い合わせる

実際に「フジロックフェスティバル」や「森、道、市場」といった規模の大きい音楽フェスでも、過去に給水所を設けていた事例もある。調べると、環境に配慮しているイベントは多いかもしれない。

ビリー・アイリッシュのライブで太陽光発電のプロデューサーを務めたタナー・ワット氏は、「本当に重要なことは、ライブ会場にその選択肢がない時に、サイトなどで主催者に対してコメントを送ることだ」と述べている。彼は、ライブは観客あってこそ成立するものであるから、観客が声を上げ続ければ、その取り組みが採用される可能性が高いという。制度がないからと諦めてしまえば、変わらない。その方法は問い合わせやSNSでもいい。メールを送る自分自身はひとりでも、重なれば皆の声となり、制度が変わるのだという。

主催者側の配慮はもちろんのこと、それに参加する1人ひとりの意識なくしてはこの気候変動の問題は解決しない。音楽が好きな人にとって、ライブやイベントに行けなくなることが何よりもつらいという人は多いだろう。しかし近い将来、気候変動の問題によってそれが叶わなくなることは、あり得るのだ。実際に、災害によって行動を制限されている地域はいくつもある。

今の時代を生きる人たちすべてが、切り離して考えることはできないところまで来ている気候変動。音楽フェスやライブにおける事例を通して、日本にいる私たちにできることがあるか、改めて一緒に考えてほしい。

声をあげるまでのハードルが高いかもしれないが、自分の指先からメールを1通送る事で、変えられることもあるかもしれない。それは1つの、現状を変えて行く具体的なアクションになり得るだろう。

 

文:conomi matsuura
編集:柴崎真直