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犬・猫の年間殺処分数「14,457頭」。動物との共生社会の鍵は?

9月20日から26日は「動物愛護週間」だ。環境省のサイトには「国民の間に広く動物の愛護と適正な飼養についての理解と関心を深めていただくため」動物愛護週間を定めると記載されている。(※1)

しかし、日本では動物に関する悲しい事件がいくつも発生している。2022年、動物愛護管理法違反で摘発された事件は166件あり、過去10年では2番目に多い数字であった。(※2)また2021年4月1日〜2022年3月31日の間で、犬・猫合わせて14,457頭が殺処分された。(※3)

コロナ禍で拡大したペット需要からも、動物との共生社会を築き上げていくことは必要不可欠であると思うが、そのためには課題も残っている。

そこで本稿では、日本の動物愛護の現状に触れ、動物との共生社会を築いていくためには何が必要か、また私たち一人ひとりにできることは何かを考えてみたい。

※1 参考:環境省「動物愛護週間」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/week.html
※2 参考:警察庁生活安全局生活経済対策管理官「令和4年における 生活経済事犯の検挙状況等について」 
p.16 図表18 過去10年間における動物虐待事犯(注)の検挙事件数の推移
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R04_nenpou.pdf

※3 参考:環境省「統計資料 『犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況』」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

日本が抱える殺処分と多頭飼育崩壊の現状

冒頭に触れた殺処分数だが、実はその推移だけ見れば減少傾向にある。以下の統計は1974年(昭和49年)から2021年(令和3年)に殺処分された犬・猫の推移を表したものだ。1974年は、犬・猫合わせて1,221,000頭が殺処分されていたが、2021年には14,457頭に減少している。

出典:環境省「統計資料『犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況』全国の犬・猫の殺処分数の推移」より筆者作成
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

殺処分減少の背景には、地域の動物愛護団体や個人で保護活動を行っている人たちの努力による部分が大きいと考えられる。動物は保健所に保護されてから一定の保護日数を迎えると殺処分されてしまうのだが、その前に保護団体や個人が団体の施設や個人宅にて保護しているのだ。

一方、殺処分の数を減らそうと精力的に活動しても、保健所の収容数の限界が一気に近づく状況が生まれる場合がある。それが多頭飼育崩壊だ。

多頭飼育崩壊とは、無秩序にペットが増え、飼い主が飼育できる範疇(はんちゅう)を超えた結果、経済的破綻とともに、ペットの飼育ができなくなる状況を指している。飼うことができなくなったペットは保健所に引き取られるが、多頭飼育崩壊の場合は1度に引き取られる数が多いため、保健所の収容数の上限に大きく近づいてしまうというわけだ。

また多頭飼育は、周辺住民とのトラブルになることもある。環境省が実施した調査によると、2018年には自治体全体で多頭飼育を原因とする苦情が2,149件寄せられている。さらに苦情が寄せられた事案の飼育頭数ごとの内訳を見ると、2頭以上10頭未満が1,095件と半数以上を占めているのだ。多頭飼育と聞くと、20〜30頭の飼育を想起するかもしれないが、10頭未満でも問題に発展することが多いのだ。(※4)

環境省は多頭飼育問題に関する課題を同調査で整理しており、1番の課題は「飼い主が生活に困窮しており、引取りや不妊去勢の手数料を支払えない」ことであった。そのため、多頭飼育崩壊が発生する多くの場合は、十分な世話がなされておらず不衛生な環境で飼育されているため、病気の症状が見られることも多いのが現状だ。

※4 参考:環境省「令和元年度 社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業 アンケート調査報告書」 p.3 1.1.1.1. 多頭飼育に対する対応の状況(苦情のあった世帯数)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/renkei/r01_04/mat02_2.pdf

人間と動物が共生する社会の実現に向けて

これらの問題に対応するにはどうすればよいのだろうか。2019年に内閣府が行った環境問題に対する世論調査を見てみる。その中の「人間とペットが共生する社会の実現にはどのような施策が必要であるか」という質問に対し、「飼い主の迷惑行為に対する規制や指導を強める」が54.4%、「ペットの愛護や正しい飼い方について、学校や社会教育の場で取り上げる」が46.9%、「テレビ、新聞、インターネットなどでペットの愛護や正しい飼い方の重要性を訴える」が40.7%という順に回答が多かった。(※5)

出典:内閣府「令和元年度 環境問題に関する世論調査」
2 調査結果の概要 (10)人間とペットが共生する社会の実現に向けた施策 図15 人間とペットが共生する社会の実現に向けた施策
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-kankyou/2-2.html

このことから日本で動物との共生社会を推進していくために、「適切な制度やルールを整備すること」や「動物愛護に関する正しい知識を身につける機会」が必要だと考えることができるだろう。

では海外ではどのような制度やルールが存在するのだろうか。ここでドイツの例を見てみたいと思う。

※5 参考:内閣府「令和元年度 環境問題に関する世論調査」
2 調査結果の概要 (10)人間とペットが共生する社会の実現に向けた施策
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-kankyou/2-2.html

ドイツの制度を見てみよう

ドイツでは、飼い主に管理者としての責任を課すために、犬によって発生した事故への対策として損害賠償責任保険への加入が義務づけられたり、犬を飼育するためにライセンスの取得を課したりしているケースがある。ライセンスの取得に必要な手順も厳格に定められており、授業料を支払う以外にも、筆記試験と実技試験が必要だ。

他にも動物を虐待したり、ネグレクトしたりしている人には、保護のためにその動物を押収する場合がある。なお、その際に要する飼育コストは飼い主に請求される。またペットを放棄した場合の罰金は最高で2万5千€で、1€=150円で換算すると約375万円になる。日本で遺棄した場合の罰金額は100万円以下(または1年以下の懲役)なので、ドイツは日本の3倍の上限額が設定されているのだ。

また、犬のための訓練施設が国中に数多く存在することから、犬のしつけや訓練、飼い主の知識習得ができる環境が広く整っていることもドイツの特徴だ。(※6)

※6 参考:環境省「平成 29 年度 訪独調査結果」
https://www.env.go.jp/council/14animal/900434944.pdf

「多頭飼育に届け出が必須」「14日の保護期間」各自治体の取り組みとは?

では、日本ではどのような施策がなされているのだろうか。国は1973年に動物愛護管理法を制定し、定期的に改正を行なっている。直近の改正は2020年に施行された改正で、犬・猫に対するマイクロチップ装着の販売業者による義務化、飼い主の努力義務が制定された。

また、動物愛護管理法以外にも自治体ごとに条例が定められている。たとえば、埼玉県、千葉県、長野県などでは多頭飼育を行う場合には自治体に届け出る必要があり、届け出がない場合は3〜5万円以下の過料が課される。(※7)

また、和歌山県では自分が飼っている猫以外に餌をあげる人に対し、以下のような遵守事項が定められている。

  • 生殖することができない猫((不妊去勢手術を受けたものにあっては、規則で定める措置が行われたものに限る。)にのみ給餌等を行うこと。
  • 次に掲げる方法により給餌等を行うこと。
    • 時間を定めて行うこと。
    • 実施後は、飼料及び水を速やかに回収すること。
    • 給餌等に起因して給餌等に係る場所を汚さないこと。
  • 給餌等を行う際に、猫の排せつのための施設又は設備を設置するとともに、排せつ物を速やかに当該施設又は設備から除去し、適正に処理すること

(※8)

他にも保健所で保護された動物の保護期間は自治体により異なる。北海道旭川市の動物愛護センターであれば、最低14日間の保護期間が定められているが、自治体によっては5日間などもっと短い期間が設定されている。

動物愛護センターの広さや収容数の上限などから、収容日数に差があることは仕方がないと言えるが、これらの日数が殺処分数に与える影響は決して小さくないはずだ。実際に、旭川市は2021年度、犬・猫の殺処分数0を記録している。(※9)

また多頭飼育についても、一部の自治体では問題が深刻化する前の予防・発見に取り組んでいる。

滋賀県甲賀市では、官民連携のもと社会福祉関係者と動物愛護管理関係者が集まり、多頭飼育問題を含む動物と人の問題について情報共有する場を設けている。また普及啓発の一環として、猫に関する知識を身につけるチラシを作成したり、多頭飼育崩壊危険度を判断するためのフローチャートを作成したりしている。

神奈川県川崎市でも独自の取り組みを行なっており、動物と暮らす上での留意事項をまとめた冊子等を配布し適切な飼育の普及啓発を行なっている。また繁殖が問題になりやすい猫の不妊去勢手術費用の補助も実施しており、メス1頭につき3,000円、オス1頭につき2,000円の補助を1世帯あたり6頭まで受けることができる。

これらの取り組みの成果か、川崎市では路上で回収される猫の死体の数や動物愛護センターに収容される猫の数は減少傾向にあるそうだ。

※7 参考:環境省「統計資料 『動物愛護管理行政事務提要』<Ⅰ> 条例等の現況 1.動物愛護管理条例 (2) 動物愛護管理等条例の概要」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r04/1_1_2.pdf
※8 引用:和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例 第14条https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/010100/reiki/reiki_honbun/k501RG00000583.html
※9 参考:環境省「統計資料 『犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況』 
(3)犬・猫の引取り及び処分の状況(都道府県・指定都市・中核市別)」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r04/2_4_3a.pdf

動物との共生社会の実現は、動物と暮らしていない人の理解や協力が鍵を握る

日本が抱える問題やその現状、各自治体の取り組みを見てきたが、私たち一人ひとりに一体何ができるだろう。

まず、近隣で動物の虐待を見かけたら通報することはその1つになるだろう。冒頭で、2022年の動物虐待に関する検挙は166件で、過去2番目に多いと説明したが、近隣住民の通報が増加していることから、検挙数も増加しているとも考えられる。

また動物と暮らしたいと考えている人が、安易に動物をお迎えしないことも重要だ。2017年に実施された、関東地方の動物愛護団体に動物保護依頼をした149人に行なった調査結果によると、保護を依頼した背景として3番目に多い理由が「転居」、4番目に多い理由が「経済的理由」であった。動物と暮らす前に、自分自身の転勤の可能性を検討することや、犬や猫を育てるのにどれぐらいのお金がかかるのかを調べてみる必要があるだろう。(※10

また、「動物は好きだけど一緒に暮らすことは大変だ」と思う人は、動物愛護団体に寄付をしたり、地域猫活動(※11)に協力したりすることで動物との共生社会に貢献できる。人手や資金が不足している団体はきっと少なくないはずだ。

動物と暮らしている人が適切な飼育を行うことや、適切な知識を身につけることはもちろんだが、動物と共生する社会を築いていくためには、動物と暮らしていない人の理解や協力が鍵を握るのではないだろうか。

動物と暮らした経験がなくても、SNSでかわいい動物の動画を見て癒された経験ならあるという人は少なくないはずだ。癒しをもらったことへのギブアンドテイクというわけではないが、余裕があるときに少しアクションを起こして欲しい。100円の寄付、目に止まったネット記事を読むなど、小さなアクションかもしれないが一人ひとりの行いで動物たちを取り巻く問題が好転するかもしれないのだ。

※10 参考:帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 濱野佐代子、帝京科学大学大学院 理工学研究科 髙鍋沙代、帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 大林駿斗
「ペット飼育放棄要因の抽出と終生飼養サポートの検討 ー動物愛護団体における調査からー」https://www.jpc.or.jp/animal/wp-content/uploads/2018/05/H29_hamano.pdf
※11 用語:地域住民が主体で、野良猫の不妊去勢手術を行なったり、餌やりや糞尿の始末に関するルールを定め、地域ぐるみで野良猫を適切に管理していくこと。

 

文:吉岡葵
編集:大沼芙実子