- モラルハラスメントとは
- モラルハラスメントの具体的な事例
- モラルハラスメントが起こる原因
- ミソジニーとモラルハラスメントの関連性
- 課題と現状
- モラルハラスメントの影響
- モラルハラスメントを防ぐための方法
- モラルハラスメントの対応策
- モラルハラスメントを無くすための社会全体の取り組み
- まとめ
企業や家庭など、様々な場所に潜むハラスメントの1つ、モラルハラスメント。この記事では、どのような行為をモラルハラスメントと呼ぶのか、またどのようにモラルハラスメントの対策・対応をすればいいのか、詳しく解説する。
モラルハラスメントとは
「モラハラ」とも呼ばれることのある、モラルハラスメント。その定義と、他のハラスメントとの違いは何なのか、紹介していく。
モラルハラスメントの定義と特徴
モラルハラスメントは、「言動や態度などによって相手に精神的苦痛を与えること」を意味する。「モラル=道徳・倫理」と「ハラスメント=嫌がらせ」の組み合わせからなる用語で、「道徳や倫理に反した嫌がらせ」とも言えるだろう。
モラルハラスメントの大きな特徴としては、肉体的暴力と比較し、周囲に気付かれにくいという点が挙げられる。言葉や態度などの目に見えない暴力で加害するため、外部からは見えづらいのである。
このような精神的な暴力に対し、モラルハラスメントという言葉を提唱したのは、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌだとされている。モラルハラスメントと名付けられたことによって、潜在化していた精神的な暴力の危険性に社会が気づくきっかけとなった。
モラルハラスメントと他のハラスメントの違い
モラルハラスメントと似たハラスメントとしてパワーハラスメントが挙げられる。それぞれ下記のような違いがある。
加害者と被害者の関係性
パワーハラスメントは「立場や職権の差を利用して相手に危害を加えること」を指す。とくに職場でのハラスメントを指すことが多く、仕事の中で上の立場にいる上司から部下へのハラスメントなどが該当する。
一方でモラルハラスメントの場合は、加害者と被害者の間に立場の上下は関係ない。たとえば家族やカップルの間で起こることもあるし、会社の同期や友人の間で起こってしまう場合もある。
ハラスメントの内容
また、加害の仕方にも少し違いがある。前述の通り、モラルハラスメントは精神的なハラスメントに限られるのに対し、パワーハラスメントには肉体的な暴力が含まれる場合もある。「指導のため」と言って、上司が部下を殴る・蹴るなどした場合はパワーハラスメントに当てはまる。
モラルハラスメントの具体的な事例
様々な方法で被害者を精神的に追い詰めるモラルハラスメント。具体的には下記のような例が挙げられる。
職場における事例
- 挨拶されたり話しかけられたりしても無視する
- チームやプロジェクトから外し孤立させる
- 陰口や悪口を言う
- 1人だけ残業させられる
- 能力に見合っていない低レベルな業務しかさせない
- 業務に必要な情報を与えない
- プライベートに過剰に干渉する
個人間での事例
- 家庭内で家事や育児を一切手伝わない
- 見下した態度を取ったり暴言を吐いたりする
- 行動を監視し、束縛しようとする
- 「役に立たない」「ダメな人間」と相手を否定する
- 話しかけられても無視する
- 平気で嘘をつく
- 子どもや共通の知人などに嘘の悪口を吹き込んで被害者を孤立させる
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モラルハラスメントが起こる原因
モラルハラスメントが起こってしまう原因はどこにあるのだろうか。加害者個人の特徴と、組織文化の特徴の2点から、モラルハラスメントが起こる要因を説明する。
個人の心理的背景
モラルハラスメントをしてしまう人には、いくつかの共通した特徴があると言われている。モラルハラスメントの提唱者マリー=フランス・イルゴイエンヌの著書『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』(紀伊国屋書店、1999年)を参考に紹介する。
同書の中では、モラルハラスメントの加害者になってしまう人は自己愛的な性格だと繰り返される。自己愛的な性格の人の特徴をもう少し具体的に挙げると下記のようなものがある。
- 自分が偉く重要な人物だと思っている(※1 p.215)
- いつも他人の賞讃を必要としている(※1 p.215)
- 人間関係のなかで相手を利用することしか考えていない(※1 p.215)
- 他人に共感することができない(※1 p.215)
- 他人を羨望することが多い(※1 p.215)
同書では「人は誰でも精神的に追いつめられると、自分の身を守るためにモラル・ハラスメント的な行ないをすることがある」(※1 p.209)とも述べられている。さらに「自己中心的であるとか、人から賞讃されたいとか、批判を認めないとか、モラル・ハラスメントの加害者に特有な自己愛的な性格は、誰もが持ちあわせている」(※1 p.209)とも書かれている。
自己愛的な性質は誰もが持ち合わせるものではあるが、モラルハラスメントの加害者はその自己愛的な性質にブレーキが効かない状況に到達してしまった人である。加害者自身が、自分の身を守り、生きていくために他人を加害するようになってしまっているのだという。
※1 引用:マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』紀伊国屋書店、1999年、p.209
組織文化とその影響
個人の特徴に加えて、モラルハラスメントが発生しやすい環境も存在する。職場や家庭などに焦点を当てて、モラルハラスメントが起きやすい組織文化を紹介する。
過剰な成果主義
とくに職場においては、過剰な成果主義に縛られた組織でモラルハラスメントが起こりやすいと言えるだろう。社員同士が心地よく働けることが度外視され、成果のみが重視されることで倫理的に誤った働き方を要求してしまう者が出てきそうだ。また、成果に追われるプレッシャーやストレスを受けることは、加害を増長させる原因になりかねない。
失敗が許されない
成果主義に関連して、失敗が許されない環境も、モラルハラスメントにつながりやすいだろう。些細なミスだとしても、必要以上に厳しくペナルティを与えられたり、威圧的な態度で接せられたりする可能性がある。このような態度、言動はモラルハラスメントに当たる。
コミュニケーションが少ない
組織に所属するメンバー同士のコミュニケーションが少ないことも、モラルハラスメントを増長させる原因になりかねない。そもそもコミュニケーションが少ない状況では、メンバー同士の関係構築が難しいため、適切な接し方を選択しにくい。
また、コミュニケーションが少ない環境でモラルハラスメントが起こった場合、周囲に気付いてもらいにくいという問題もある。被害を受けている自覚があっても周囲に相談しにくかったり、相談したところで助けてもらえなかったり、といった課題があるだろう。
閉鎖的な環境
コミュニケーション不足と関連して、閉鎖的な環境でもモラルハラスメントは起きやすい。とくに家庭での例に顕著だが、加害者と被害者が1対1で存在するような環境で発生しがちだ。外部からは見えにくいため、モラルハラスメントが起きている状況に気付かれづらい。また、依存関係に発展しやすく、当事者同士もモラルハラスメントが起こっている状態を自覚しにくい。
モラルハラスメントをしやすい人の特徴
これまでにも心理的背景を述べてきたが、モラハラの加害者になりやすい人には、以下のような特徴を持つ傾向がある。
- 他人と比較して自分は優れた存在だと感じている
- 人から賞賛されたいと思う
- 他人に嫉妬することが多い
- 見栄っ張りで、他人からどう評価されるかを気にする
- 批判や失敗を過剰に恐れる
- 他人へのリスペクトがない
常に自分が正しいという考えがあるため、他人の意見を受け入れたり、他人を認めようとしない。その一方で、自分への自信がないため、他人に嫉妬したり、不安から失敗を責任転嫁することもある。
その結果、モラハラをしていることを自覚しないまま、他人に加害してしまうのである。
モラルハラスメントを受けやすい人の特徴
反対に、モラハラの被害を受けやすい人には以下のような特徴がある。
- 真面目で素直
- 「自分が悪かったのではないか」と考えがち
- 責任感が強く、断れない
- 嫉妬の対象となりやすい
優しく、他人への思いやりのある人ほど被害者になりやすいと言えるだろう。また、責任感の強さから、被害を受けている時にも早い段階で周囲に相談できず、状況を受け入れてしまうこともある。その結果、よりモラハラが加速してしまうという可能性もある。
ミソジニーとモラルハラスメントの関連性
モラルハラスメントのなかには、ミソジニーと関連した加害が見られる場合もある。ミソジニーとは「女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視」を指す。加害者の性別は問わず、「女性らしい」と定義されるものを体現する女性に対して行われる嫌がらせなどがある。
たとえば、専業主婦の妻や母親に対して「仕事をしていないくせに」「誰に食わせてもらっていると思っているんだ」などと言うのは、ミソジニーに基づくモラルハラスメントだと言えるだろう。
さらに詳しくミソジニーについて知りたい人は、下記の記事を読んでみてほしい。
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課題と現状
モラルハラスメントの現状について見てみよう。
HR総研が2022年2月に実施した、職場におけるハラスメントに関するアンケートの結果が下記だ。職場においてどのようなハラスメントの相談が多かったかを示している。
上記のアンケートによると、相談があったハラスメントのうち33%がモラルハラスメントだったという。
また、各都道府県の労働局などに設置されている総合労働相談コーナーへの「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2007年度で28,335件、2019年度には87,570件と約3倍に増加している。(※2)また、2020年に厚生労働省がまとめた「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」では、その相談の内容は言動による「精神的な攻撃」が最も多く、その次に「過大な要求」が多い。(※3)モラルハラスメントという概念自体の認知度が上がっている影響もあるだろうが、相談は増加し続けているようだ。
このような状況において、大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から「ハラスメント規制法」(※4)への対応が義務付けられている。具体的には、就業規則等にハラスメントに対する事業主の方針(処分等)を明記したり、研修等を通じて社員にハラスメントの内容や会社の方針を周知したりすること、相談窓口の設置などが義務付けられた。この法律では、モラルハラスメントのみならず、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントへの対応も求められている。
また、職場だけでなく家庭におけるモラルハラスメントも数多く報告されている。下記は「男女共同参画白書 令和4年版」に掲載されたDV相談者の年齢・相談内容のグラフだ。
上記によると、DV被害者のうち6割以上が精神的DVについての相談をしている。精神的DVはモラルハラスメントと重なる部分が大きい。家庭内におけるモラルハラスメントの深刻さが見て取れる。
しかし、全ての被害者が相談窓口に辿り着いているわけではないだろう。そのため、上記で報告されているよりも多くの潜在的な被害者がいると考えられる。かつてよりもDV相談窓口などの設置が進んできているものの、まだまだ被害が可視化されておらず、十分な対処ができていないのが課題と言えるだろう。
※2 参考:厚生労働省 「改正労働施策総合推進法の解説」(令和3年12月10日実施「ハラスメント対策シンポジウム」パネルディスカッション資料)p.2
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/sympo2021_panel_1.pdf
※3 参考:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」p.17
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000783140.pdf
※4 参考:ハラスメント規制法は、「男女雇用機会均等法」「労働施策総合推進法」「育児・介護休業法」などで定められたハラスメントに関する法律の総称。「パワハラ防止法」とも呼ばれている。
モラルハラスメントの影響
モラルハラスメントは、被害を受けた人や企業に大きな影響を及ぼす可能性がある。たとえば、下記のような影響を与える可能性がある。
被害者への影響の例
心身症 | ストレスが体に現れる症状の総称。たとえば、頭痛、腹痛、蕁麻疹、円形脱毛症、気管支喘息、胃・十二指腸潰瘍などが心身症と見なされる場合がある。 |
うつ病 | モラルハラスメントによって「自分はダメだ」「悪いのは自分だ」といったネガティブな思考のループに陥る。その結果、判断力や思考力が低下し、脳の働きに問題が生じ、無気力になったり睡眠障害や食欲の低下につながったりといったうつ傾向に陥る場合がある。 |
適応障害 | 特定の状況で心身や行動に症状が現れる。たとえば、会社でモラルハラスメントを受けたため、会社に向かう電車に乗ると体調や気分が悪くなってしまう、などの事例がある。 |
心的外傷後ストレス障害 (PTSD) |
モラルハラスメントによって強い恐怖と深い傷を負い、その記憶を何度も思い出してしまう。モラルハラスメントだけでなく、災害や事故に遭った人が同様の症状に陥ることがある。 |
企業への影響の例
離職率・休職率の増加 | モラルハラスメントの被害者は、離職や休職を考える可能性がある。また、直接の被害者でなくとも、モラルハラスメントが蔓延した職場で働きたいと考える社員は少ないだろう。その結果、離職や休職が増加してしまう。 |
生産性の低下 | 日常的に無視されたり、圧力をかけられたりしている状況で良いパフォーマンスを発揮できる社員は少ないだろう。また、上述の通り、休みがちになる社員もいるかもしれない。社員の意欲を削ぎ、業務の生産性を低下させる原因になりかねない。 |
企業イメージの低下 | モラルハラスメントの発生が世間に知れ渡ると、企業イメージの低下につながる。その結果、自社製品やサービスが売れない、入社希望者が減るといった損失につながる可能性がある。 |
精神的な攻撃であろうと、人を死に追いやってしまう可能性もある。モラルハラスメントは、被害者個人にも、企業全体にとっても大きな損失を与える、深刻なハラスメントとして捉えるべきである。
モラルハラスメントを防ぐための方法
深刻なモラルハラスメントを防ぐために、どのようなことができるのか。個人と組織の観点から紹介する。
個人としての対策
第一に、モラルハラスメントとは何なのかを知っておくことが重要である。家庭でも職場でも、追い詰められた被害者は自分がモラルハラスメントを受けていると自覚できず、「自分が悪いのではないか」と考えてしまう場合がある。もしものときに備えて、モラルハラスメントに関する知識をつけておくべきだ。
また、相談できる相手を探しておくことも大切である。前述の通り、閉鎖的な環境やコミュニケーション不足な環境においては、モラルハラスメントが深刻化しやすい。気軽に相談できる第三者との関係作りが必要だ。
さらに、自分もモラルハラスメントの加害者になりかねないという意識を持っておくことも非常に大切だ。あしたメディアで過去に取材した記事の中でも、気付かないうちに自分が加害者になっていたという例が紹介されている。誤った認識をしないためにも、誰でも加害者になってしまう可能性があることを理解しておこう。
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組織としての対策
職場など組織においても、モラルハラスメントを防止する取り組みが考えられる。まず、モラルハラスメントをはじめとする、ハラスメント行為が許されない行為だということを組織的に周知する必要がある。たとえば社員向けにハラスメント講習を開いたり、ルールブックなどを作成して啓発したりするのも効果的だろう。また、モラルハラスメントが起こった場合の罰則についてもあらかじめ周知しておくことも重要だ。加害者になった場合に受ける不利益をあらかじめ告知しておくことは、ハラスメント抑止に効くだろう。
また、ハラスメントの発生に備えて社内外に相談窓口を設置する必要もある。社員がいつでも気軽に相談できるよう、人事部や総務部内、あるいは外部のカウンセラーなどの配置をしなければならない。
これらは前述の通り、ハラスメント規制法においても義務付けられている。各企業が適切に対応することで、ハラスメントが抑制されていくことに期待したい。
モラルハラスメントの対応策
上記のように、様々な対策を講じても、モラルハラスメントが発生してしまう場合がある。そのような場合には、次のような対応策が考えられる。
被害者本人にできる対応
自分がモラルハラスメントの被害者になってしまった場合、どうすると良いだろうか。まず、できる限り加害者との距離を離すのが理想だ。職場であれば席替えをしてもらったり、部署の異動をしたりといったことが有効だろう。家庭や知人の場合なども、できるだけ会わなくて済む環境に移動するなどが考えられる。
また、被害に遭ってしまった場合には、音声や動画、メールの内容など、モラルハラスメントの証拠を残すことも重要だ。第三者に被害の深刻さを証明したり、裁判などになった際の証拠材料としてこれらの素材が役立ったりすることもある。
第三者にできる対応
モラルハラスメントが起きたときには、加害者・被害者といった当事者だけではなく、第三者が介入することでその被害を小さく収めることができる可能性がある。
第三者の立場でまずやるべきことは事実確認だ。モラルハラスメントは、被害が分かりにくかったり、加害者が加害の事実を隠したり誤魔化したりする場合がある。判断を誤ると、モラルハラスメントが止められないどころか加速してしまう、といった事態もあるだろう。もし被害者から助けを求められた場合には、被害者・加害者双方の言い分に耳を傾けたり、周囲の人に事実確認を行ったりするのが重要だ。
次に、被害者へのケアが欠かせない。モラルハラスメントの被害者は大きなダメージを受けることになる。前述の通り、モラルハラスメントによってトラウマを背負い、仕事に復帰できなくなったり社会生活に困難を来したりしてしまう場合もある。モラルハラスメントが発生していると分かった時点で、最優先にすべきは被害者のケアだと言えるだろう。
第三に、加害者への処置をする。企業であれば、モラルハラスメントの加害者に対しては、出勤停止や自宅待機などの処置が言い渡される場合がある。モラルハラスメントは被害者・企業の双方に大きな損害を与える行為である。同じようなことが起こらないようにするためにも、厳格な処置が必要だ。
モラルハラスメントを無くすための社会全体の取り組み
ここまで書いてきたように、個人や企業の努力でできる対策ももちろんある。しかし、それだけではモラルハラスメントを減らすためには不十分だろう。社会全体で、モラルハラスメントをはじめとするハラスメントの発生を防止する取り組みが必要だ。
そのような取り組みの例として、下記のように法律や行動規範を設定している国や国際機関も存在する。(※5)
国際機関/国 | 枠組 | 取り組み |
EU | 職場のハラスメント及び暴力に関するEU社会対話枠組協約 | 企業はハラスメント・暴力が許されないことを明確に宣言する必要がある。 ハラスメント・暴力が生じたことが確認された場合は、加害者に対して適切な措置が執られる。それには解雇を含む懲戒処分が含まれる。 被害者は援助を受けるとともに、必要に応じ職場復帰への支援を受ける。 など |
フランス | 労使関係近代化法 | (モラルハラスメントを)受けたり、受けることを拒否したことを理由として、またはこうした行為について証言したり、口外したことを理由として、制裁を受けたり、解雇されたり、直接又は間接に差別的な措置を適用されることがあってはならない。 事業主はこれら行為を予防するためにあらゆる措置をとる義務が課され、行為を行った労働者も制裁を受ける。 左記法律の施行に伴う刑法典の改正により、職場のモラル・ハラスメントに対して、1年の禁固刑又は1万5千ユーロの罰金が規定された。 など |
ベルギー | 職場における暴力、 モラル・ハラスメント及びセクシュアル・ ハラスメントからの保護に関する法律 | 使用者は総合予防計画と年次予防計画を作成し、労働者がいじめや暴力を受けたときに苦情を申し立てるべき者を明示しなければならない。 すべての企業は、労働者の心理社会的側面に技能を有する予防アドバイザーを指名しなければならない。 いじめの被害を受けたと思う者はまず予防アドバイザーに申し立て、予防アドバイザーは企業内での解決を図るが、これがうまくいかない場合は、雇用労働省の衛生監督官が対応に当たり、それでもうまくいかない場合には労働監察官に委ねられる。 いじめた側への挙証責任の転換、被害者や目撃者、予防アドバイザーの解雇からの保護、苦情処理を不当に用いない労働者の義務(不当に用いた場合には懲戒する旨の就業規則)も規定。 |
日本においても、ハラスメント規制法がある。個人・企業の意識や取り組みだけではなく、国や国家機関などからより強力に防止・対策していくことは重要だろう。
※5 参考:厚生労働省「国際機関や諸外国の取組①②」p.2-3 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001qtzp-att/2r9852000001qu2r.pdf
まとめ
モラルハラスメントという言葉自体は認知されているが、その深刻さはまだ理解されていないのではないだろうか。精神的な暴力は目に見えにくいが、肉体的な暴力と同様に被害者に大きなダメージを与えるものである。被害者の心がけや意識だけでは防止・改善できない場合が多く、加害者の変容と組織・社会的な仕組みによって改善されていくべきである。
文:武田大貴
編集:大沼芙実子