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シンパシーとは?その意味やエンパシーとの違い、「同情」の力とその影響について

シンパシーとは?その意味やエンパシーとの違い、「同情」の力とその影響について

シンパシーとは

友達と同じような気持ちを感じたときや、誰かと心が通じ合ったとき、私たちは「シンパシー」という単語を使用することがある。「シンパシーを感じる」という文章が一番よく使われる例文だろう。

では、「シンパシー」という単語にはどのような意味があるのだろうか。シンパシー(Sympathy)とは日本語に訳すと「同情」や「思いやり」などに当てはめられる。

「シンパシー」の意味と概念

Cambridge Dictionaryの定義によるとシンパシーとは「​​(an expression of) understanding and care for someone else's suffering」(※1)、「誰かの苦しみを理解したり労(いた)わったりすること、またはその行動の表出」を意味する。(ちなみに、「労(いた)わる」とは、苦労をした人や弱い立場にいる人に対して優しく丁寧に接することを指す。)

例えば、テレビで自然災害の被災者を目にした際に「大変そうだ」「つらそうだ」と感じることや、誰かと話をしたときに相手の話の中に自分と同じ経験や感情を発見し「分かる」「自分もそうだ」と感じることがシンパシーだと言える。

反対語には「antipathy」があり、この単語は逆に「他者に対して反感や嫌悪を感じること」を指す(※2)。

※1 参考:Cambridge Dictionary「sympathy」(筆者訳)
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/sympathy
※2 参考:実用日本語表現辞典「symapathy,シンパシー」
http://www.practical-japanese.com/2023/05/sympathy.html

「シンパシー」の意味と概念

シンパシーとエンパシーの違い

シンパシーとよく混同される言葉にエンパシー(empathy)がある。しかし、シンパシーとエンパシーは異なる概念である。それでは、その違いはどこにあるのだろうか。

エンパシーとは

エンパシー(empathy)とは日本語で「共感」や「感情移入」と訳される。Cambridge Dictionaryでは、エンパシーは「the ability to imagine what it must be like to be in someone's situation」(※3)と定義される。日本語では「他人の状況がいかなるものであるかを想像し、分かち合う能力」と訳すことができる。

エンパシーの具体的な意味に関しては、こちらの記事を参照されたい。

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シンパシーとエンパシーの具体的な違い

シンパシーが「同情」「相手を理解すること、労わること」を指すのに対して、エンパシーは「共感」「相手の状況を想像し分かち合う能力」を意味する。シンパシーとエンパシーの違いとは、シンパシーが「自分の立場から相手を理解する」ことに対して、エンパシーは「相手の立場に立って共感しようとする」という点である。

シンパシーの邦訳である「同情」と聞くと、少し上から目線の言葉のように思えるが「思いやり」と考えてみるとイメージが変わるかもしれない。

他人に対して、エンパシーを持つこと、すなわち「共感をすること」は簡単なことではない。人間が1人ひとり違う状況を生きているなかで相手に共感するためには、相手のバックグラウンドや現在置かれている状況、性格、社会の動向など複雑に絡まった要素を深く理解する必要がある。「共感」はよく使われる単語でありながらも、実際に行動に移してみようとすると難しい行為だ。

しかし、私たちは今も続く戦争とそれに苦しむ人たちや、歴史上の出来事に接したとき「大変だっただろう」「つらかっただろう」という感情を持つことはできる。そしてそれが状況の把握や、より深い知識の獲得など何かのアクションにつながることもあるだろう。

エンパシーとシンパシーの関係は、自分の視点から相手を理解し(=シンパシーの発生)、その感情を受けて相手の立場に立ち共感しようとする(=エンパシーの発生)というように、感情の発生から行動という繋がり方で存在する場合が多い。

ただし、シンパシーの日本語訳にはエンパシーと同様に「共感」という意味も含まれる。そのため、ときに「シンパシーを感じる」が「共感する」という意味で使われることもあり、シンパシーとエンパシーの区別が曖昧になることも少なくない。

※3 参考:Cambridge Dictionary「empathy」(筆者訳)https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/learner-english/empathy

シンパシーとエンパシーの具体的な違い

シンパシーの心理学:なぜ私たちはシンパシーを感じるのか?

テレビでその日初めて見た人や、本に書かれている人のことを知ったときに、かれらのストーリーを聞いて涙を流した経験はないだろうか。深く相手のことを知っているわけではないのに、我々はなぜ感情が動かされ、悲しい気持ちになったり、心が痛くなったりするのだろうか。

進化生物学的視点から考えるシンパシー

進化生物学あるいは進化学は生物学の一分野である。あまり聞きなれない学問分野かもしれないが、シンパシーとどのような関係があるのだろうか。

進化生物学研究者、東京大学の石川麻乃氏は進化生物学について「すべての社会課題に隣接するとは言えないが、気候変動や健康、農業・林業・水産業など、社会課題が人間と環境、生物に関わる限り、それ自体が進化生物学の対象であり続ける」と話している。

そして、ポスト印象派の画家ポール・ゴーギャンの「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」という問いを引用しながら、「我々」には人間だけではなく全ての生き物が含まれるとしながらも、我々はどこから来て、どこに行くのかを明らかにしようとする学問が進化生物学であると話す(※4)。

つまり、進化生物学とは生物が進化してきた過程を研究し続ける学問であり、その研究の中で私たちが他者に同情したり共感したりする過程や理由、シンパシーが人間に与えた影響などが明らかになってきたのである。シンパシーとはあらゆる生物の中でも人間が有する特徴的な要素なのだ。

感情の獲得過程に関しては、進化生物学だけではなく人間行動進化学などの観点からも研究が進められている。

動物行動学、進化心理学の研究者である東京大学名誉教授 長谷川寿一氏は以下のように述べている。

「チンパンジーは自分の食い扶持を自分自身で賄う生活を基本とするが、我々の祖先は、根茎や木の実、肉といった食物を皆で採集・狩猟し、さらに処理や調理も共に行い、霊長類では例外的な共同での子育て(共同繁殖)というライフスタイルを身につけた。

その中で、他者の心の理解、同情や共感、模倣、教育、言語コミュニケーションなど、ヒトに固有な諸能力が培われていったのである。

(※5)

私たちは、果てしなく長い歴史と進化の過程で他者に同情する「シンパシー」を獲得してきたのだ。

社会文化的視点から考えるシンパシー

ここ数年の性のあり方や、生活のあり方、社会のあり方の変容により、世界はこれまで以上に多様で複雑であらゆる価値観が溢れている。

現代は、「通常」「当たり前」「一般的に」と表現される型は存在感を弱め、価値観の多様さを受け入れる社会になりつつある。その社会において、相手を思いやる感情やそれを理解しようと努める行動の必要性も増してきている。もちろん、相手の立場にたち状況を深く理解することで相手にエンパシーを感じることは重要なことだ。しかし、本文内で言及した通り、相手に「共感」することは簡単ではない。それでも、私たちは瞬時に「シンパシー」を感じることはできる。

多文化共生社会の中でシンパシーを持つことは、1人ひとりが生きやすい社会を作っていくための第一歩と成りうる。

※4 参考:公益財団法人日本学術協力財団「学術の動向 学術と社会の未来を考える『基礎学問とし の進化生物学と社会の未来を考える』」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/26/3/26_3_94/_pdf

※5 引用:国立研究開発法人科学技術振興機構 「学術の動向 行動生物学のカッティングエッジ『人間行動進化学の動向』」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/16/4/16_4_4_81/_pdf

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シンパシーの効果:人間関係と社会的結束力

ここまでシンパシーの特徴やエンパシーとの違いを見てきたが、それではシンパシーが社会に与える効果にはどのようなものがあるのだろうか。

シンパシーが人間関係に与える影響

シンパシーを示すことは、人間関係にさまざまな影響を与える。例えば、周囲の誰かがつらい感情や苦しい感情を抱えている際にその人にシンパシーを示す場合を考えてみる。

エンパシーの気持ちを表現してもらい、悩みを聞いてもらったり、励ましを受けた人は安心感を覚える場合や、そのことで気分が楽になり、再び自信を獲得することがある。結果として、相手に悩みを相談しやすくなったり、人間関係が良好になったりすることも考えられる。

シンパシーにはポジティブな一面もあるが、ネガティブな面もある。

安易な同情はかえって相手を傷つけてしまう可能性もある。しかし、それではエンパシーをすればいいという簡単な話ではないだろう。

自分が相手にシンパシーができる状態なのか、それともエンパシーを与えられるのか、そして相手がシンパシーを求めているかどうかも人間関係を構築する重要なポイントであろう。エンパシーつまり共感には非常に大きなエネルギーが必要だ。

シンパシーと社会的なつながり

「弱い紐帯(ちゅうたい)」という概念がある。家族や友達、職場の上司部下の関係などの関係が深いつながりではなく、知り合いや顔見知り程度の弱いつながりのことを指す言葉だ。一般的に、ビジネスの分野で使われる言葉でもある。

ただ、弱い紐帯はシンパシーとも関連があると言えるのではないか。

例えば、ご飯屋さんのカウンターで隣に座った人や、顔見知り程度の知り合いに悩み相談をしたあとに、心が軽くなった経験がある人も多いのではないだろうか。弱い紐帯という社会的なつながりの中でのシンパシーが不安を解消することや、安心感を得ることにもなるだろう。

シンパシーと社会的なつながり

日常生活でのシンパシー

私たちの生活は、シンパシーであふれている。シンパシーが登場する場面は、友人との会話の最中、テレビを見たとき、本を読んだときなど多様だ。それでは、私たちはどのようにシンパシーを深めたり、コミュニケーションに活かしたりできるだろうか。

シンパシーを深めるための方法

先述したようにシンパシーを深めた先にはエンパシー(共感)があると言っても過言ではないだろう。アメリカのPsychiatric Medical Careは、エンパシーに必要な能力を以下のように定義する。

1.Listen Without Judgement(判断せずに聞く)

2.Listen With Intention(意図を持って聞く)

3.Listen Without Advice(助言をせずに聞く)

4.Listen With Understanding(理解を持って聞く)

5.Listen With Vulnerability(傷つきやすさを想定して聞く)

(※6/筆者訳)

全ての項目を満たすことができたら、エンパシーを実践できると記事では言及されている。シンパシーとエンパシーの関係性の段落でも記載したように、シンパシーとエンパシーは深いつながりを持っている。上記の項目を満たすためにはまずは、「相手の痛みを自分も感じ思いやる」つまり、シンパシーを感じることが前提としてある。シンパシーを深めるためには上記の項目を少しずつ取り入れてみることが方法の1つと言えるだろう。そして、その行動は結果としてエンパシーをもたらすかもしれない。

シンパシーを通じたコミュニケーション強化

本文内でも言及したように、シンパシーは人間関係に良い影響を与える場合がある。誰かの話を聞いたり、誰かに話をしたりするなかでシンパシーを表明することで私たちは誰かと今までよりも深い関係を築くこともできる。シンパシーを通して、コミュニケーションを活性化させたり、強化させたりできるとも言えるだろう。

※6 引用:PMC「The Difference Between Empathy and Sympathy」https://www.psychmc.com/blogs/empathy-vs-sympathy

まとめ

一般的にシンパシー(同情)はエンパシー(共感とそのことを分かち合おうとする行動)よりも、価値が低いものだと思われがちだ。しかし、エンパシーは多くのエネルギーを要する場合がある。そして、すぐにできることとも言い切れない。しかし、シンパシーはその場で相手を労ったり、慰めたりできる。シンパシーとエンパシーを両立させながら、皆が心穏やかに過ごせる社会を私たち1人ひとりが作っていくことが必要だろう。

 

文:小野里 涼
編集:おのれい