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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【池田有希子の場合】ーLIFULL STORIES×あしたメディア共同企画ー

誰かと一緒に生きていきたい。そう思ったとき、あなたは誰とどんな関係性で生きていくことを望むだろうか。心地よいパートナーシップは、一人ひとり違う。しかしながら、パートナーシップのあり方にはまだまだ選択肢が乏しいのが現状だ。

既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」では、一般的な法律婚にとどまらず、様々な形でパートナーシップを結んでいるカップルに「心地よいパートナーシップ」について聞いてみることにした。既存の価値観にとらわれず、自らの意志によって新しいパートナーシップの在り方を選択する姿には、パートナーシップの選択肢を広げていくための様々なヒントがあった。

今回話を聞いたのは、俳優の池田有希子さん。タレント、ミュージシャン、ジャーナリストなど幅広く活躍するモーリー・ロバートソンさんと、事実婚という形でパートナーシップを築いている。池田さんの視点から見た「心地よいパートナーシップ」について話を聞いた。

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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【モーリー・ロバートソンの場合】

「次は2人で何しよう!」交際を始めてから現在まで、お互いに刺激を与え合う関係

2人の出会いは2006年。当時、池田さんは出演舞台『皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと』の稽古中だった。モーリーさんが取材でその稽古場に訪れたことをきっかけに交際が始まったのだという。

「その作品はすごく前衛的な内容だったんですが、モーリーはそんな特殊な現場に入ってきても、気圧(けお)されずに新たな風を吹かせてくれるエッジィな人、というのが第一印象でした」と池田さんは話す。

付き合い始めてからも2人は、お互いのエネルギーと知的好奇心で刺激を与え合うような関係だった。

「俳優としての活動を続けながら、モーリーのパートナーとして、彼が当時情熱を注いでいたPodcastのプロジェクトを一緒に進めました。プライベートな関わりだけで仲を深めていったというより、『次は2人で何しよう!』と考えて協働する感覚が強かったですね。当時の配信技術を実験する目的もありつつ、ジャーナリズムの一環で、中国のチベット自治区と新疆ウイグル自治区へ向かい、政治的な課題を目の当たりにしたこともあります。

いまでこそYouTubeをはじめさまざまな媒体があり、音声や動画配信が当たり前にできるけれど、これは当時からするとだいぶ先駆的なプロジェクトでした。もともとモーリーはジャーナリストですし、私も好奇心旺盛な性格です。なので、それぞれ1人でもいろいろなチャレンジをしていたと思うけれど、Podcastのプロジェクトでは2人だからこそできたこともたくさんあったと思います」

プロジェクトのほかにも、2人で助け合って関係を続けてきた側面は大きい。

「モーリーは外国籍なので、以前は日本で家を借りられないことがありました。いまは名前が知られてきたことで借りられるようになりましたが、私の名義で2人の家を借りていたこともあります。

また、2019年には彼のマネジメント会社を設立し、私が代表を務めています。そういう部分で2人で共有する社会的な責任が生まれて、だんだんと『事実婚カップル』という実感が出てきたかもしれません」

そう話す池田さんは、どのような考えからモーリーさんと事実婚をすることにしたのだろうか。

自分たちの意思で関係を続けたい

「実は、私は事実婚でも法律婚でもどっちでもいいんです。婚姻届を出さないことにこだわりがあるのはモーリーの方で、私は自分たちの意思で関係を続けていけるのなら婚姻届を出してもいいと思っています。ただ、私は以前法律婚をしていた経験があるのですが、前の夫との法律婚を振り返って、私にとってメリットはとくにないと感じたんですよね。

法律婚の実質的なメリットがあるとしたら、税金の控除が受けられるなど、経済的な部分だと思います。でも私の場合は扶養に入るわけではないし、子どももいないので、それらの恩恵を受けるわけではない。それなら法律婚じゃなくていいかな、という考えに行き着きました」

お互いの考え方を大切にしたうえで事実婚を選んだ2人だが、法的に家族として認められ、かつ経済的に不利にならないよう、婚姻届を出す代わりに契約書を交わしているという。

「契約書を作ったとき、弁護士さんに『2人の間でルールにしたいことがあれば入れられますよ』と言われました。でも結局、盛り込んだのは『毎年人間ドックを受けること』というルールだけ。

たとえば、『不倫禁止』というルールを守るために不倫しないのではなく、『相手と良好な関係を続けたいから』『相手を傷つけたくないから』という自分たちの気持ちを前提に不倫しないほうがいいと思うんです。ルールを守ることが最優先になってしまい、お互いの気持ちを考えなくならないためにも、健康に気をつけることだけを決まりにしました」

また、自分たちの状況も社会の仕組みも変わっていくからこそ、契約書を作って終わりにせず、それぞれ知識をアップデートし続け、お互いの理想の関係性や事実婚でいることの意味について話し合うことが欠かせないそうだ。

本当に自分が欲しいもの、したいことはなんだろう

池田さんのお話からは自立したしなやかな在り方が感じられるが、メディアに露出する仕事のなかでは「夫の働きを支える妻」というテンプレートに当てはめられるような場面もあるそう。

「仕事として割り切って受け入れる場合も当然あるけれど、結果的に次世代の女性の社会進出やその人らしい生き方を阻むことにつながったらどうしよう、とも思います。若い人たちには自分の人生を歩んでほしいから、そういった自分の考えを制作側に伝える場合もありますね」

そんな池田さんが思い描くよりよい社会とはどのようなものか。

「まず同性婚ができるようになるというのは、当たり前のように実現されてほしいですよね。養子縁組の制度がもっと柔軟になるといいなとも思います。あとは、社会をつくっている一人ひとりの個人も、自分自身の思い込みを紐解いていく必要があるんじゃないかな。

たとえば子どもの頃、名字について親に尋ねたことがありました。『池田』は父の姓で、母の旧姓が『小池』なので、『なんでうちの名字は小池田にならなかったの?』と聞いたんです。でも大人になるとそういう柔軟な発想がなくなって、『そういうものだから』と受け入れてしまうことがありますよね。

ほかにも、子どもの頃にモンチッチがすごく流行っていて、親に『買って』と言ったら『本当は欲しくないでしょう』と言われたことがあったんです。みんなが持っているからなんとなくおねだりしたけれど、私自身はそんなに欲しいと思っていなかったのを見透かされましたね」

そんな幼少期の出来事を思い返し、「本当に自分が欲しいもの、したいことはなんだろう」と突き詰めるようにしているという池田さん。

「私の場合、一番やりたいことはやっぱりお芝居です。でも、資本主義のなかでコマーシャルによって『〜しないと私は幸せになれない』と思い込まされることもたくさんありますよね。『本当に私は結婚したいのか』というのもそうだけれど、一人ひとりが思い込みを解けるようになると、よりよい社会に近づいていくんじゃないかと思います」

お互いに自立していても平等は簡単じゃない

「やはり、私たちカップルの間でもジェンダーギャップはなくしていきたい。けれど、お互いに自立していても生活のリアルな部分を見つめると、平等が遠く向こうに感じることもあります。

モーリーはできることとできないことの差が大きいタイプ。できることはずば抜けてできる分、たとえばモーリーが苦手な炊事は私がやることになります。得意不得意は人それぞれだと自分では納得していても、『男性は仕事ができればいい』『家事は女性がやるもの』という男女の不平等がベースにあるのではないかと感じることがあるんです」

個人として助け合うつもりでも、女性として男性を支えているという構図に見えがちなカップルの問題。池田さんの場合はどのように落としどころを見つけたのだろう。

「もともとモーリーはフリーランスで活動していたのですが、マネージャーなしでは手が回らなくなっていったので、私が手探りでマネジメントをしていた期間がありました。でも私も自分の活動を犠牲にしたくはない。そこで、モーリーのマネジメントについては、会社をつくって人を雇うことにしました。あとは、モーリーのCGのクリエーションを手伝ってくれているアシスタントの子が、ほぼ住み込みで私たち2人の生活のサポートもしてくれています」

「これが家族じゃん」池田さんが考える家族の形

「心地よいパートナーシップとは?」と伺うと、池田さんは「心地よいと聞くと逆に背筋がピリッとします」と笑う。

「たとえば自分1人のことでも、一度怠けてしまうと立て直すのが大変ですよね。体にフィットするビーズソファを買ったときにも葛藤したんですよ(笑)。一度もたれかかったら、心地よくてリラックスできるけれど、立ち上がりたくなくなっちゃうんじゃないかって。だから私は、常にエンジンをかけた状態でいるために、毎日負荷の高いトレーニングをしたいタイプ。ストイックにやればやるほど体は応えてくれます。

その延長で、パートナーシップにおいても常に緊張感を持っていたいと思っています。共同生活に持ち込む自分のテンションはポジティブであればあるほどいい。そうすれば、一緒に生活しているモーリーとアシスタントの子にも、いい影響を与えられるんじゃないかと思うんです」

池田さんとモーリーさん、そしてアシスタントさんの3人暮らしでは、たくさんの会話があるのだそう。

モーリーさんは「いろいろな経験を共有してたくさん会話をするから、自分たちのノリがたくさん生まれるんですよね」という。街で出会った人の話や近所の飼い犬の話といった他愛のない話題から、仕事や社会の話、自分たちの関係性にまつわる話まで、さまざまな会話をするからこそ、創作のアイデアや自分たちで共有して楽しめるノリが生まれるのだそう。池田さんもモーリーさんの言葉に頷きながらこう話す。

「やっぱり、それが家族なんだと思います。家父長制に基づいてお父さんに従うのではなく、その場にいる一人ひとりが対等に話をして、自分たちだけがその時間を共有している感覚が生まれていくのが家族なんじゃないかな。モーリーとは法律婚をしていないし子どももいないけれど、いろいろな経験を共有しているから『これが家族じゃんか』と思います」

 

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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【モーリー・ロバートソンの場合】

 

池田有希子
東京都出身。俳優として、ミュージカルをはじめとする様々な舞台のほか、映画やテレビドラマ等で幅広く活躍する。アメリカ留学の経験を持ち、英語や三味線が特技。直近では、2023年3月〜5月にかけ、ミュージカル「マチルダ」に出演。

 

取材・文:日比楽那
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生