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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【能町みね子の場合】ーLIFULL STORIES×あしたメディア共同企画ー

誰かと一緒に生きていきたい。そう思ったとき、あなたは誰とどんな関係性で生きていくことを望むだろうか。心地よいパートナーシップは、一人ひとり違う。しかしながら、パートナーシップのあり方にはまだまだ選択肢が乏しいのが現状だ。

既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」では、一般的な法律婚にとどまらず、様々な形でパートナーシップを結んでいるカップルに「心地よいパートナーシップ」について聞いてみることにした。既存の価値観にとらわれず、自らの意志によって新しいパートナーシップの在り方を選択する姿には、パートナーシップの選択肢を広げていくための様々なヒントがあった。

今回話を聞いたのは、エッセイストやイラストレーターとして活躍する能町みね子さん。ゲイライターのサムソン高橋さんと恋愛感情なし・婚姻届も出さない「結婚(仮)」という形で同居を始めて5年が経つ。能町さんの視点から見た「心地よいパートナーシップ」について話を聞いた。

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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【サムソン高橋の場合】

「『結婚』と言い張っているのは私なんです。『シェアハウス』というとなんだか人数が増えそうな気がして嫌だし、いつでも終わりそうな関係性よりは続く雰囲気があったほうがいい。あとは単純に、『結婚』と言ってみるのがおもしろいんじゃないかという理由です。

法律婚はアキラ(サムソンさんのこと)が乗り気じゃなかったからしなかったけれど、してもよかったと思っています。別に婚姻届を出したところで特別な責任が生じることもないはずだから。それに、もし互いに負担を感じてしまうようになったら、離婚すればいいだけですよね」

ピンと来なかった「恋愛」、世間的に意味が重すぎる「結婚」

そんな能町さんは、もともとどのような恋愛観やパートナーシップ観を持っていたのだろう。

「20代の頃は恋愛をしたいと思っていました。みんなが楽しそうに恋愛をしているから、自分も味わえるなら味わいたかった。22歳くらいのときに映画『アメリ』(2001)を観て、『私もアメリみたいに男の子のバイクの後ろに乗りたいな』と思ったとか、そういう気持ちを覚えています」

けれど、彼氏ができたときも相手を好きになることはなく、長く付き合わずに関係が終わる場合が多かったのだそう。

「結局、自分から好きになって誰かと付き合ったことは1回もなかったですね。いま考えると、恋愛への憧れは少女的で素朴なものだったと思います。うっすらと好きだった人はいたのですが、付き合う想像はできなかったし上手くいく気は全くしませんでした。

最後の彼氏がいたのは30代半ばの頃。その人と別れて、なんとなく『恋愛はもういいや。おもしろくなかったな』という気持ちになりました」

「もともと恋愛欲や性欲は薄いほうですよね?」というサムソンさんの質問にはこう答える。

「薄いんだと思います。失恋してすごくへこむ気持ちとか、あんまりピンと来ないんですよね。彼氏と別れたときも1日くらいは暗い気持ちになりましたけど、すぐにどうでもよくなりました。どこかに出かけたり、性的な関わりがあったり、彼氏がいるときの楽しみはそれなりにあるんですけど、その人といるからすごい幸せ、という感情は抱いたことがないかもしれません」

「恋愛」やその延長線上にあるとされがちな「結婚」について、能町さんは「もちろん楽しめる人は楽しめばいい」と話す。

「恋愛も結婚も、したい人がするのはいいと思うんです。でももう少し社会のなかでその意味が軽くてもいいのに、と思います。たとえば、サッカーが好きな人もいるけれど、全く興味がない人がいても別におかしくないですよね。でも未婚だと、『当然するはずの結婚を、なぜしないのか?』と訝(いぶか)しがられる感じがします。

好きな人がいることや、恋愛や結婚をすること、その相手との関係性が上手くいくことが、世の中の『当たり前』だとされなくなるといいんじゃないかと思います」

辿りついたのは恋愛のない結婚

そんな違和感を抱いていた能町さんが、理想的な結婚の形を思いついたときのことは、著書『結婚の奴』(平凡社、2019年)に綴(つづ)られている。きっかけは、それまで20年近くしてきた1人暮らしに嫌気がさしたことだ。

自分の世話はしたくなくとも、実際問題、自分が世話をされない状態だと生活はどんどん荒んでいく。

引用元:能町みね子『結婚の奴』(平凡社、2019年)

炊事も掃除も洗濯も面倒だが、きちんとした生活を送っていない自分のことが許せない。ならば生活を立て直すために誰かと同居するべきなのではないか。

でも、誰と?女友達の多くは結婚して子どももいる。男性と同居するにも、交際や恋愛は無理だ。

そこで考えたのが、恋愛関係になることのない、ゲイの男性との同居。さらに、その同居生活を「結婚」ということにすれば、未婚であることに引け目を感じさせられなくて済むのではないか、という考えに至ったのだという。

そんなとき、能町さんの頭に浮かんだのがサムソンさんの存在だった。それから能町さんはサムソンさんへのアプローチを始める。

恋愛感情を伴わない「お見合い」「デート」「プロポーズ」を経て、週に1度「結婚生活の練習」として能町さんがサムソンさんの家に泊まるようになり、その後同居することに。サムソンさんが3階建ての家に1人で住んでいる状況だったのもちょうどよかった。

「アキラが拒否しないのをいいことに転がり込みましたね。それまで他の男性のところに押しかけるようなことは全くありませんでした。やはり互いに恋愛感情がないからこそ、もつれずに『結婚という共同生活をする』という目標に一直線で向かえたのだと思います」

思いがけず能町さんからアプローチを受けたサムソンさんが、結婚の提案を受け入れた決め手は「みね子がちょっと有名人だから(笑)」。サムソンさんは以前から能町さんの書く文章に一目置いていたそう。同居し始めた頃を振り返って、能町さんも「『この人(サムソンさん)、私のファンなんだな』と思いました」という。

能町さんも能町さんで、サムソンさんに「名文を書くんだから、もっと書く仕事をすればいいのに」と伝える。

「締め切りがいつだったのか分からなくなるくらい遅れた上で、ソファーで2時間くらいで書き上げる割に、いい文章を書くんですよね」

「普段はもうお互い雑な扱いです」と口を揃えるが、さらりとしたお互いへの尊敬が垣間見えるやりとりだ。

「結婚生活(仮)」で得られた健康と我が子

暮らしのなかでは、お互いを補い合うような場面も。2人の共同生活では能町さんが生活費プラス家事代を支払い、サムソンさんが家事のほとんどを担当している。また、能町さんは自炊が「全くだめ」で、お皿洗いは嫌いじゃない。対するサムソンさんは炊事は引き受けているが、お皿洗いが嫌いであるため、自然と役割分担がなされているのだという。

そんな生活を始めてからの変化について、能町さんはこう語る。

「やっぱり健康的になりますね。実はいま、引っ越しの途中でしばらく別居状態なのですが、取材のために昨日から一緒にいたので、久しぶりにちゃんとした朝食を食べられました。1人だといつもどうしようもない、果物を何粒か食べるだけのような朝ごはんですけど、今日はご飯とお味噌汁とスムージーをいただきました」

もう1つの変化は、猫の小町ちゃんを迎えたことだ。

サムソンさん曰く、「小町の存在のほうが(サムソンさんの存在より)大きいでしょ」。「小町が家のなかで行方不明になったとき、マンションから落ちたのかと思いこんでみね子が泣き崩れちゃって。あんなみね子初めて見た」

能町さんは「そりゃそうなりますよ。我が子ですから」と返す。

「私が飼いたいと言ったので基本的には全部世話をするんですけど、留守にするときはアキラに面倒を見てもらっています。1人暮らしだったら飼えなかったですね。でも私は小町の母だけど、アキラは父じゃない。一緒に育てているという感じではなくて、アキラは私がいないときに世話を焼いてくれる、いわばベビーシッターです」

恋愛感情がないからこそ、期待しないでいられる

「結婚(仮)」をしてから、恋愛観やパートナーシップ観に変化があったかどうかも伺った。

「同居し始めたのが38歳のときで、その頃にはすでに『恋愛はもういいや』と思っていましたが、いまは本当にそういう欲がなくなりましたね。昔は幸せそうなカップルを見ると嫉妬みたいな気持ちも少しあったけれど、いまは若いカップルを見るとわくわくしちゃう。『楽しそうね、いいことあるといいね』って」

それは大きな変化のようにも感じられるが、能町さんは「アキラと同居し始めたからというわけではないと思います。加齢の影響かもしれない」と続ける。

最後に、能町さんにとって心地よいパートナーシップの形について伺うと、「いまがベストじゃないですかね」と答えてくれた。

「さすがに友達としての情はありますよ。でも恋愛感情は本当にゼロです。お互いにいい意味でどうでもいいと思っているからこそ、相手への期待や求めることがないのがちょうどいい。

家事に関しては、同居をスタートするときから、お金を払って全部アキラにやってもらおうと思っていました。実際に全部任せてしまっているけど、たとえばある日アキラが急に『今日は料理したくない!』と言っても、別にいいやと思います。『掃除したくない!』とさぼったとしても、自分でやるからいいかって。

アキラは月1くらいで旅行に行きますし、私も夏は数ヶ月青森に滞在しています。そうやって適度に離れるし、一緒にいてもベタベタすることはない。嫌になることがそんなにないんでしょうね」

能町さんは、心地よいパートナーシップの在り方、ひいては心地よい生き方として、サムソンさんとの恋愛感情なしの「結婚(仮)」という形に辿りついた。地続きとされる場合が多い恋愛と結婚を分けて考えることで、互いに期待しすぎずに生活を共にできる、程よい距離感の関係性を築いたのだ。そんな能町さんと同じように「恋愛や結婚は誰もがして当たり前」という価値観に違和感や抵抗感を抱く人も少なくないのではないか。心地よいはみんな違う。他人に在り方をジャッジされることなく、それぞれが自分の心地よい在り方を探し、選択していける社会がつくられるべきだとあらためて感じる取材になった。

結婚(仮)の相手のサムソンさんのお話では、能町さんとは違った視点で2人の生活を捉える様子が分かる。サムソンさんに伺ったお話をメインにまとめた記事も、あわせてチェックしていただきたい。

▼サムソン高橋さんにお話を聞いた記事をLIFULL STORIESで読む
心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【サムソン高橋の場合】

 

能町みね子
文筆家。恋愛感情ぬきでサムソン高橋と暮らすに至るまでを綴った『結婚の奴』(平凡社、2019年)のほか、近著に『皆様、関係者の皆様』(文春文庫、2022年)、猫の小町ちゃんとの生活を綴った『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』(東京ニュース通信社、2022年)がある。週刊文春では、能町さんが日常生活のなかで引っかかった言葉を取り上げ、その違和感の正体を明らかにするコラム、『言葉尻とらえ隊』を連載中。
Twitter:@nmcmnc
猫の小町ちゃんを投稿するInstagram:@komachinomachi

 

取材・文:日比楽那
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生