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クィアとは?その歴史や文化、Xジェンダーやノンバイナリーとの違いを解説

クィアとは?

「クィア(Queer)」はもともとは英語で「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」という意味がある。セクシュアルマイノリティを包括的に考える言葉であるが、多様な性自認や性的指向への理解がなかった時代には、同性愛者への蔑称として使われていた。

「クィア」という言葉の広がり

もともとは差別用語であった「クィア」は1980年代頃から肯定的な意味で用いられることが増えた。クィア当事者たちが「自分は風変わりではない」とアピールするためにあえて「クィア」を使い始めたことや、エイズの流行によって強まっていた同性愛者やトランスジェンダーへの嫌悪への抵抗運動(クィア・ムーブメント)においてクィア当事者が連帯の合言葉「We are here, We are queer. Get used to it.」を用いるようになったことで「クィア」という言葉は広がっていった。

現在では「クィア・スタディーズ」「クィア・アート」「クィア・ポリティクス」など、クィアと冠した分野が多数存在している。

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欧米社会でのクィアの浸透

日本と比較すると、欧米社会ではクィアに対する理解の浸透が進んでいるといえる。生活レベルまで根付いたクィアに対する取り組みの一例を紹介する。

クィアの存在を顕在化させる取り組み

アメリカでは、2010年から国勢調査において「同性カップルの集計・発表」を行っており、2019年度には90万組以上の同性カップルが存在することが明らかになった。また、このデータに基づいて「同性カップル の子育て支援など社会政策的な活用」を実施している。(※1)

加えて、2020年6月には世論調査を行うギャラップ(Gallup)社が18歳以上のアメリカ人1万5000人を対象に、彼らのセクシュアリティーやジェンダーについて電話で聞き取り調査を行った。

調査対象者に「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」のカテゴリーに「はい」「いいえ」で答えてもらうのではなく、自分がどのカテゴリーに当てはまると思うか、「その他」という選択肢も用意した上で詳しく説明してもらった。この調査により、アメリカの成人の5.6%がLGBTQ+を自認していることが明らかになった。(※2)

クィア人口の集計・発表はクィアに対する具体的な支援や認知を促す重要なきっかけになりうる。日本でも公益社団法人「Marriage For All Japan —結婚の自由をすべての人に」と共同発起団体8団体が国勢調査における「同性カップルの集計・発表」を求めたが、実現には至っていない。(※3)

※1参考:岩本健良「国勢調査による同性カップル集計をめぐる動向―日米比較からみたマイノリティの統計的可視化の意義―」
 http://www.jfssa.jp/taikai/2017/table/program_detail/pdf/351-400/10363.pdf
※2参考:BUSINESS INSIDER「認知と受容の高まりを反映か…… アメリカのZ世代、6人に1人は『LGBT』」を自認」
https://www.businessinsider.jp/post-230319
※3参考:PR Times「国勢調査100周年を前に、LGBTQ9団体が共同発起で総務省に要望書を提出」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000054117.html

クィア文化の発展

欧米では、文化的にもクィアが浸透している。例えば、Netflixで制作された『Queer Eye(クィア・アイ)』は多彩な特技を持つ5人のゲイとノンバイナリーが悩める人々の問題を解決していく番組だ。2019年には『クィア・アイ in Japan! 』が制作され人気を博した。また、メンバーの1人であるジョナサン・ヴァン・ネス(Jonathan Van Ness)は2019年に性自認がゲイからノンバイナリーに変わったことを明らかにしている。クィアアイは番組としての面白さはもちろん、多様な性のあり方を考えることができるプログラムだ。『Queer Eye』以前から、このような「変身」の前後を映したドキュメント番組(メイクオーバー番組)を中心に、「クィア」な人々がポップ・カルチャーの中へと組み込まれてきた。

 

 

 

また、ロンドンでは2022年初夏に、クィア・アートを専門に扱う美術館Queer Britainがオープンした。この美術館はLGBTQ+に焦点を当てたイギリス最初の美術館であり、「英国内外のクィアコミュニティに内在する物語、人々、場所」をたたえることを目的に設立された。

 

日本ではまだ「クィア」という言葉が知られ始めた段階だが、欧米では国勢調査を受けたり、街を歩いたりといった日常生活の中でもクィアについて考え、知ることができる環境が着実に整備されているといえるだろう。

クィア映画や音楽の影響

欧米社会でのクィアの浸透の背景には映画や音楽といった分野での作品の影響も大きい。

日本ではクィアはおろか同性愛への不寛容さが蔓延していた、今から40年近く前の1987年には、青年2人の葛藤と愛を描いた『モーリス』がイギリスで発表された。

近年では、アカデミー賞で作品賞を含む3部門で受賞を果たした『ムーンライト』(16)や、ティモシー・シャラメが主演を務め、映画祭で多数の賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』(17)など、クィアの恋愛をテーマにした映画が、公開だけに留まらず社会的にも高い評価を受けていることがわかる。

また、音楽シーンにおけるクィアミュージックも注目に値するだろう。ユニバーサルミュージック合同会社が運営する日本版Webメディア「uDiscoverMusic」では『LGBTQを讃えるアンセム20曲:孤立感や他者との違いからくる苦しみや自らを愛する喜びを表現した歌』という記事において、欧米のアーティストたちが生み出してきクィアミュージックを紹介している。クィア映画がアカデミー賞を始めとした権威ある賞を受賞していることには触れたが、クィアミュージックにおいても2023年の第65回グラミー賞でノンバイナリーであるサム・スミスとトランスジェンダーであるキム・ペトラスが最優秀ポップ・パフォーマンスを受賞した。キム・ペトラスは同賞を受賞した史上初めてトランスジェンダー女性となった。

性的マイノリティーの感情を代弁し、寄り添い、時にはミュージシャンでありながら性的マイノリティ当事者として生み出されてきた曲の数々は多くの人の耳に届き、クィア文化の浸透に貢献したと言えるだろう。

クエスチョニングやXジェンダー、ノンバイナリーとの違いは?

クィアと関連する言葉としてクエスチョニングやXジェンダー、ノンバイナリーといった言葉があるが、それぞれどのような意味を持つのだろうか。

それぞれの概念を簡単に表でまとめると以下のようになるだろう。

※以上の表はあくまでも理解を推進するためのものであり、絶対的な解釈ではない

クィアの特徴

「クィア」は性的マイノリティに対する偏見や差別が強まる中で、ゲイやレズビアンなどの各アイデンティティごとに独立するのではなく、性自認や性指向の差異を超えて結束するために使われるようになった言葉である。クィアの他に、クエスチョニングやXジェンター、ノンバイナリーといった性のあり方があるが、それらはクィアとどのような関係があるのだろうか。

クエスチョニングとの違い

LGBTQ+のように頭文字をとって表現されるとき、クエスチョニングはクィアと共にQに区分されることも多い。クエスチョニングがクィアと異なる部分は、「自分の性別がわからない」「性対象がわからない」「決まっていない」「探している最中」「流動的である」という点だ。クィアの場合は、「自分はゲイだ」「私はレズビアンだ」と自認している場合にも、クィアと表すことができる。

Xジェンダーとクィア

クィアに関してはヘテロセクシュアル(異性愛者)、シスジェンダー(生まれたときの性と自身の性自認が一致している)以外のすべての性のあり方を指す言葉であるため、Xジェンターはクィアの中に含まれるといえる。

Xジェンダーの特徴は、自分を「男性でも女性でもない」と思っている性自認を指す点だ。自己の性自認などを探している状態のクエスチョニングとは異なり、Xジェンダーは「性自認が男性と女性の間で揺れ動いていること」を自覚している人を表現することが多い。

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ノンバイナリーとクィア

ノンバイナリーも「クィア」に内包されるが、自分のジェンダーアイデンティティや性的アイデンティティをあえてどの枠組みにも当てはめないのがノンバイナリーの特徴だ。2021年6月に歌手の宇多田ヒカルさんが自身がノンバイナリーであることを公表し、話題となった。

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クィアとは性的指向なのか、ジェンダーアイデンティティなのか

それでは、そもそもクィアとは性的指向(=好きになる性)を表すのだろうか、それともジェンダーアイデンティティ(=体の性ではなく、自分で認識している自分の性)を表すのだろうか。

結論から言えば、クィアの定義は人によって異なるため、誰がクィアであるかを判断することはとても難しい。ただ、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関わらずどちらのアイデンティティを説明するときにも用いることができる。まさに、多様な性のあり方を包括する言葉である。そして、「クィア」を使用することで、当事者はそれぞれのアイデンティティから「受け入れられた」という感覚や連帯感を感じられる場合もある。

クィアを取り巻く現代の社会問題

ここまでクィアという言葉の意味、クィアを取り巻く文化などを紹介してきた。それでは、現代社会においてクィアが抱えている問題にはどのようなものがあるだろうか。

クィアの権利問題

「クィア」という言葉そのものの浸透率は以前に比べて高まってきたと言える。しかし、クィアという言葉の認知度が高まったからといって、同時にクィアの人々の権利が認められるわけではない。

日本財団が掲載している日本財団ジャーナルにおいて、クィアを含む性的マイノリティの人々が抱える問題が以下のように紹介されている。

・学校での差別やいじめ

・就職や昇進、福利厚生にも影響

・医療や社会保障における格差

(※4)

例えば、性自認が定まっていない場合、医療機関での診察が困難になったり、トイレ利用のたびにストレスを感じたりといった課題が考えられるだろう。性的アイデンティティーを起因として、基本的な権利の享受ができないあるいは遠ざかってしまう現状がみてとれる。

※4 参考:日本財団ジャーナル「LGBTQなど性的マイノリティを取り巻く課題。私たちにできること」
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2022/80401/diversity_and_Inclusion

クィアが直面する偏見や差別

クィアの人々が直面する偏見や差別の例を挙げようとすれば枚挙にいとまがないだろう。クィアや性的マイノリティの人々と偏見や差別の問題について考えるとき、見逃してはいけないのが「無意識」や「思い込み」といった観点だ。

早稲田大学文学学術院専任講師で社会学、クィア・スタディーズを専門にする森山 至貴教授はセクシュアルマイノリティの人々に向けられる偏見や差別に関してインタビューで以下のように話している。

「性の多様性」について大学で授業をしていると、学生からのこんなリアクションに出会うことがあります。「私はセクシュアルマイノリティの友達がいますし、偏見はありません」。

確かに、セクシュアルマイノリティなら性に関する偏見のある人よりない人と友人になりたいと思うでしょう。だからと言って、セクシュアルマイノリティの友人がいるから自分に偏見がないとの「お墨付き」をもらっていると考えるのは誤りです。

本当は相手を傷つけ我慢させているのに、それに気付かない人はかなり多いからです。差別とは傷つけることの常態化でもあるので、マイノリティの側が我慢を押しつけられていることに気付けないことすらあります。

(※5)

クィアの人々に対して、「偏見を持っている」あるいは「差別をしている」と自覚している人よりも、「詳しくはないけど偏見は持っていない」「差別はしていない」と感じている人の方が多いのではないだろうか。そのような思い込みが結果としてクィアの人々への偏見あるいは差別につながっている可能性もあるかもしれない。

※5 引用:早稲田ウィークリー「軽率な言葉で他者を傷つけないために 性の多様性をひもとく『クィア・スタディーズ』を知る」
https://www.waseda.jp/inst/weekly/feature/2017/04/24/23976/

クィアからのメッセージ

ここでは、クィア当事者が発信しているメッセージを紹介する。日本はG7で唯一、性的マイノリティの人々への差別を禁止する法律がない国だ。人権が確保されないかもしれない環境でクィアであることを公表したり、クィアに関する情報を発信したりすることは簡単ではない。

そんな日本社会においても、ここで紹介するメッセージに触れて、読者の方々が少しでも居場所を感じることができたり、クィアについて理解を進める機会になれば幸いだ。

自らがクィアであることを公表しているミュージシャンのリナ・サワヤマはインタビューで

「私たちの権利は絶対に認められるべきで、自分が愛したいと思う人を愛すべきだし、愛されるべきで、自分らしく尊重されるべき権利がある。悪いことをしているわけでは決してないのだから。私もあなたたちと共に立ち続ける、だから一緒に闘い続けてほしいと心から思っています」(※4)

と述べている。

また、カルチャーメディア『Cut』のYouTubeチャンネルでは16歳から65歳までのクィアの人々にアイデンティティについて尋ねたコンテンツが公開されている。動画内では「性的指向・セクシュアルアイデンティティ」だけではなく、「50年後のクィアコミュニティはどうなっているか」「あなたのクィアアイコンは誰か」などの質問に対してクィア当事者たちが回答している。

 

※4 引用 :HUFFPOST「「アジア人でクィアである」ポップスターの誕生。日本生まれのリナ・サワヤマが次世代に伝えたいこと」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_606d151bc5b6885a6f291a27

まとめ

もともとはLGBTだった言葉に、Q(クィア)が追加され馴染んでいったように、今はまだ名前になっていないアイデンティティもこれから名前が生まれ馴染んでいくだろう。もとより、自分のアイデンティティを何かのラベルに当てはめる必要や義務はない。一方で、名前がつくことで安心感を得られる人もいる。

本人が性のアイデンティティをどう表現したい・されたいか、が大切であり、誰もが安心して自己を表現できる環境があることが重要である。

 

文:小野里 涼
編集:白鳥 菜都