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若者のアルコール離れは本当に問題なのか?

若者のアルコール離れの実態

「若者のアルコール離れ」という言葉が使われるようになって久しい。確かに筆者自身も含め、あまりお酒を飲まない若者は割と多いと感じる。実際のところどうなのか、気になって調べてみた。

以下のグラフは、1999年と2019年の世代別飲酒習慣を比較したものだ。週に3回以上飲酒し、飲酒日には1日あたり1合(約180mL)以上飲酒する人を「飲酒習慣のある者」として、集計している。

出典:1999年と2019年の「国民健康・栄養調査報告」をもとに筆者作成

確かに、若者世代の飲酒量の減少幅は大きい。特に、20代男性では約22%、30代男性では約24%も飲酒習慣のある人が減っている。同世代の女性でも減少が見られ、20代女性に関しては、飲酒習慣のある人は2019年度時点でわずか3%だ。1999年度時点でも、飲酒習慣のある若者は少なかったが、ここ数年でさらに減少している。

一方、40〜60代の女性のみ飲酒習慣が増加しているのは興味深い。これはおそらく、かつてよりも女性の社会進出が進んだことにより、この世代の女性が会食に参加する機会が増えたり可処分所得が増え、外で飲酒したり家庭でも飲酒する機会が増えてきたためだと考えられる。

さらに、以下のグラフを見てほしい。

出典:国税庁「酒レポート 令和4年3月」p.2
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2022/pdf/001.pdf

これは、国税庁が2022年に発表した「酒レポート」内で示された、直近30年における成人1人あたりの酒類消費数の変化を表すグラフだ。実際、成人1人当たりの酒類消費量が右肩下がりに減少し続けている。人口減少に伴って成人人口も停滞しつつあるのに加え、「アルコール離れ」が起きたことによって、国内の酒類市場は縮小している。

日本全体の傾向としては、飲酒習慣が減少しており、その中でも特に若者の「アルコール離れ」が起きていると言えそうだ。

お酒を飲まない理由

では、なぜ特に若者がアルコールから離れていっているのだろうか。

飲めるけれど、あえて飲まない

以下の表は、厚生労働省が2019年に発表した「国民健康・栄養調査」にて示された、世代別飲酒頻度を表したものだ。

出典:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」p.209
https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf

この中で、「飲まない(飲めない)」は、体質的にもともとお酒が飲めない人などを含む、飲酒習慣が全くない人だ。対して、「ほとんど飲まない」「やめた」の2つは、「飲めるけれど、あえて飲まない」層になる。ここでは、この「飲めるけれど、あえて飲まない」層に着目したい。

「飲めるけれど、あえて飲まない」層は、全体では17.9%、男性では16%、女性では19.8%に上る。対して、20代に絞ると、男性では26.8%、女性では27%が「飲めるけれど、あえて飲まない」層に当てはまる。「飲まない(飲めない)」の分布を見ると、20代の割合が特別高いわけではない。つまり、若い世代ほど、「あえて飲酒をしない」という選択をしている。
似たような傾向として、欧米のミレニアル世代を中心に「あえて飲酒をしない」ライフスタイル、「ソバーキュリアス(Sober Curious)」の広がりが見られる。飲みたいけれど我慢する「禁酒」とは異なり、飲酒しないことをポジティブに捉え、あえて飲まない考え方を指す。上記の調査で、「あえて飲酒をしない」層の中には「禁酒」をしている人も含まれるかもしれないが、ソバーキュリアスに近い感覚で、あえて飲まない選択をしている若者も少なくないのではないか。では、ソバーキュリアスを選択する人は、なぜ飲酒しないことを良いことだと捉えているのだろうか。

なぜ、あえて飲まないのか

健康に良くないから

「ソバーキュリアス」がブームとなった大きな要因は、健康意識の高まりや医療に関する知識が以前より広まったためだと言われることが多い。もちろんそれは、日本の若者のアルコール離れの要因の1つとしても考えられるだろう。具体的には、若者はどんな面で健康を意識しているのだろうか。健康といっても、運動習慣の変化や、睡眠時間の変化、通院・健診の頻度の変化などいろいろな要素があるが、特徴的なデータがあった。

以下のグラフは、2021年の「消費者動向調査」の一部だ。食において何を大事にするのかという志向を、大きく3つの軸から比較している。

出典:日本政策金融公庫「食に関する志向 「健康志向」が2半期連続で上昇」p.5
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_210921a.pdf

コロナ禍の影響も大いにあるだろうが、多くの年代で、食において健康志向を重視する人が増加している。

少量の飲酒であれば、食欲の増進やリラックス作用があるとされている。その一方で、飲酒には急性アルコール中毒やアルコール依存症などの大きなリスクもある。ソバーキュリアスのライフスタイルにすると、そのような大きなリスクを抑えられる他、睡眠の質が向上したり、二日酔いになることがなくなったり、生活習慣病の防止につながったりと、健康上のメリットはたくさんある。

お酒を飲み始めるきっかけがない

さらに、近年は職場での飲み会などの減少による影響も、要因のひとつとして考えられるだろう。ハラスメント防止の観点などから、かつてよりも飲み会のハードルは上がっているし、飲み会があったとしても飲酒を強要されるようなことは以前より減っているだろう。その結果、飲酒習慣ができるきっかけやお酒について知る機会も減少しているように感じる。

また、この流れはコロナ禍でさらに顕著になり、職場だけでなく友人・知人同士でも飲み会に行ったことがほとんどないという若者も増えたと考えられる。

きっかけがないが故に、美味しいお酒に出合ったり、お酒にハマるといったことがなく、自らすすんで飲酒する若者は少なくなってきているのかもしれない。

飲まなくても楽しめる

また娯楽の多様化も、「若者のアルコール離れ」の一因として考えられるのではないだろうか。飲み会以外にも多くの娯楽がある現代において、若者は「コスパ」や「タイパ」(※1)を重視するといった情報が数多く出ている。

そんな中で、健康上でも社会的にもリスクがある飲酒を、あえて娯楽として選択する若者は減っているのかもしれない。「飲まなくても楽しめる」から、「あえて飲む必要はない」といった価値観の変化によって、ソバーキュリアスになっている人も多いだろう。

※1 用語:タイムパフォーマンスの略。「時間対効果」のことで、かけた時間に対する満足度を表す。

お酒業界は進化している?

ここまで、日本におけるお酒の消費量の減少や、若者の飲酒への向き合い方について紹介してきた。酒類業界は停滞していっているのかとおもいきや、実はかつてよりも多様化が進んでいる。もはや、ある意味で進化しているともいえるかもしれない。

これは国税庁が2022年に発表した、酒類課税移出数量の推移を表したグラフだ。課税移出数量とは、製造場から課税されて移出されたお酒の数量のことを指し、このグラフから、市場に出回っているお酒の分布の変化がわかる。

出典:国税庁「酒レポート令和4年3月」p.2
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2022/pdf/001.pdf

このグラフを見ると、かつてはビール一強だったのに対し、ここ20年ほどでリキュールの割合がどんどんと大きくなった他、果実酒などの割合も増加している。このことからわかるように、市場に出回るお酒の種類は多様化しているのである。

この背景にも、「若者のアルコール離れ」が関係するのではないだろうか。例えば、以下のようなお酒が登場している。

低アルコール・微アルコール

低アルコール商品がさらに増えてきている。低アルコールとは、明確な基準はないが、アルコール度数を10%未満に抑えた物を指す。前述の通り、健康志向の高まりに合わせて増えてきた商品群だろう。
例えば、低アルコール商品の中のいちジャンルとして最近登場したのが、「ハードセルツァー」だ。ハードセルツァーとは、アルコール入りの炭酸水のことである。フルーツのようなフレーバーながら、すっきりと飲むことができる。アルコール度数は2〜5%で、チューハイなどよりもさらに低アルコール、低カロリー、低糖質と、健康的な面で注目を集めている。

アメリカで生まれた新しいお酒だが、日本でも、大手メーカーがぞくぞくとハードセルツァーを販売し始めている。実際に販売されている中から、いくつか事例を紹介したい。

コカ・コーラ「トポチコ ハードセルツァー」

2020年9月から販売された、コカ・コーラのグローバルアルコールブランドだ。日本では、2021年9月から関西エリア限定で販売されている。アルコール度数は5%で、「タンジーレモンライム」「アサイーグレープ」「パイナップルツイスト」の3種類のフレーバーが販売されている。

アサヒビール「アサヒ FRUITZER(フルーツァー)」

2022年4月から発売された、アサヒビールの新商品だ。人工甘味料を使用せず、果汁由来の自然なすっきりとした甘みのある味わいが特徴だ。アルコール度数は4%で、「レモン&ライム」と「ピンクグレープフルーツ」の2種類のフレーバーが販売されている。

キリンビール「スミノフセルツァー」

日本ではキリンビールが販売する、ウオッカブランド「スミノフ」から、2022年3月に発売された商品だ。アルコール度数は4%。「オレンジ&グレープフルーツ」と「ホワイトピーチ」の2種類のフレーバーがあり、どちらも250mlのスリム缶で販売されている。

またハードセルツァーの他にも、「微アルコール」というジャンルも、近年人気を博している。これまであった「低アルコール」よりもさらに度数の低い、アルコール度数1%以下のお酒を「微アルコール」として販売している。例えば、以下のような商品がある。

アサヒビール「アサヒビアリー」

微アルコール飲料の先駆けとも言われる商品で、2021年3月に発売された。アルコール度数は0.5%ながら、ビールの本格的な味わいを楽しめるとして人気を得ている。ビールを1度醸造してから、アルコール分だけを取り除く手法をとるため、そのような味わいが実現できるという。
なお、アサヒビールは、2025年までにアルコール度数3.5%以下のアルコール商品、及びノンアルコール商品の割合を20%まで増やすことを目指している。これは、社会全体の「アルコール離れ」に対応した動きととれるのではないか。

クラフト系アルコール飲料

他にも、原材料や製法にこだわったクラフト系のお酒も人気を集めているのをご存じだろうか。

前述の通り、ビール市場は縮小しているが、その中でクラフトビールはわずかながら成長を見せている。クラフトビールは、フルーティな香りがして飲みやすい。さらに、大手企業だけではなく各地の小規模醸造場が製造しているため、地域性の高いプレミア感も相まって、若者を中心に人気を集めている。

例えば、クラフトビールの定期便サービス「Otomoni」では、ここ3年で20代のユーザーの登録率が11%から28%まで伸びたという。(※2)

1度あたりの飲酒量も、飲酒の頻度も少ない若者にとって、今までのように一気にビールを飲み干すような飲み方はフィットしていない。対して、例えば製品ごとの温度変化も楽しみ方の1つといわれるクラフトビールは、飲みかたの面でも若者に合っているのだろう。
また、クラフトビール以外にも、若者からの人気を集めている「クラフトカクテル」のブランドもある。2021年にローンチした「koyoi」だ。保存料や人工甘味料、着色料などを使用せずに作られており、アルコール度数も3%以下だ。

引用:株式会社SEAM「低アルコールクラフトカクテルkoyoi、店頭取り扱いの卸販売を本格始動」
https://koyoi.jp/shop

koyoiは主に20〜30代の女性向けに作られている。20〜30代の女性といえば、最も飲酒習慣の少ない層だ。それらの層に届く商品にするためにも低アルコールで素材にこだわり、クリエイティブ面でも若い世代を意識したビジュアルを作りこんでいる。

※2 参考:ビールタイムズ「若者はやっぱりHAZY、たくさんJUICY。「HAZY JUICY みんなでHAPPY!! U29に人気の個性が光る最先端クラフトビールセット」を販売開始」
https://beertimes.jp/4386/

まとめ

「若者のアルコール離れ」は実際に起きているし、今後さらに飲酒習慣の減少は続いていきそうだ。ただし、若者は必ずしも「お酒が嫌い」なのではない。あくまでも頻度が落ちたり、飲む場所が変わったり、飲むお酒の種類が変わったり、とお酒との付き合い方が変化してきているのだろう。
人々のお酒との付き合い方の変化に伴って、市場に出回るお酒の種類にも変化が生じていることがわかった。そう考えると、「若者のアルコール離れ」は単なる酒類業界の停滞を引き起こすのではなく、イノベーションのきっかけにもなり得るだろう。今後も、どんなお酒が登場してくるのか注目していきたい。

 

取材・文:武田大貴
編集:たむらみゆ