「あしたメディア」を運営するビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)では、サステナブル経営に注力している。「あしたメディア」では、有泉健社長へのインタビューを2回に分けてお届けする。前編では、サステナブル経営を始めた経緯とそこにかける思いを伺った。後編となる本記事では、サステナブル経営のために取り組んでいる具体的な事業と、継続のために重要視しているポイントについて詳しく伺った。
通信事業に加え、地域活性化やエネルギー分野でも新サービスを開始
ここからは、サステナブル経営につながる「社会課題・環境課題貢献型事業」の具体的な取り組みについて伺います。まず、既存事業である通信事業に関連した取り組みはあるのでしょうか。
2020年、私は2軸の経営を掲げ、従来の「通信事業」に加えて「社会課題・環境課題貢献型事業」を打ち出しました。全く新しい方針だったので、社内でこの概念が浸透することは簡単でないと考えていました。そのため、まずは通信事業の延長でサービスを展開したいと2021年7月に立ち上げたのが、モバイルサービスブランド「donedone(ドネドネ)」です。格安SIM事業なのですが、それだけではすでにたくさんのサービスがあります。そこでBIGLOBEは、月額料金2,480円(税抜)の使用料のうち、月50円を自動的にドネーションするというオリジナリティを設けました。お客さまご自身が貢献したいカテゴリを選び、その分野で活躍している団体を支援できる仕組みです。こういった入り口から、利用されるお客さまが社会や環境に目を向けるきっかけになればと考えています。
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新規事業としては、「ONESEN WORK」も社会課題・環境課題貢献方事業として立ち上げられているかと思います。どのような内容でしょうか。
まさに、「ONSEN WORK」も社会課題・環境課題貢献型事業の1つです。BIGLOBEにとっては全く新しい、地域の経済活性化を目指したものです。これは、企業の中で行われている研修や合宿などの活動を、温泉地や温泉宿で行うことを提案し、ご利用いただくサービスです。実施空間を五感を刺激する「温泉地」に変え、湯治(※1)もしつつ研修をやってみませんか?とご提案しています。人的資本経営への関心が高まる中で、企業にとっても社員の成長に繋がったり、テレワークで疎遠になったメンバー同士のチームビルディングに役立ったりしますし、企業はそういった人材育成の取り組みを採用広報に生かすこともできます。受け入れる温泉地としても、企業からの関係人口を増やすことになりメリットがあります。まさに買い手よし、売り手よし、世間よしの三方よしが実現するんですよね。
この事業は2022年10月に正式に開始しましたが、その前にいくつかの企業にお試しで実施していただきました。最近では1度実施した企業が、リピートしてくださることもあります。そういった例も出てきて、事業の意義を社内でも改めて認識できるようになり、非常に期待しています。
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※1 用語:日本に古くから伝わる治療法であり、温泉を休養・保養・療養の場として長期滞在し、入浴すること。
エネルギーに関する取り組みも実施されていると伺いました。
ビルエネルギーの効率化に関するサービスを行っています。ビルは空調や照明など大きな電力を消費しますが、従来は設計段階でファシリティが決まるため、入居後の調整は人がやるしかないんです。こまめに調整しないと空調を冷やしすぎたり、暑くしすぎたり、人がいなくても電気が煌々(こうこう)とついていたり、過剰に電力を消費してしまう。そこをAIが自動調整することで無駄をなくし、効率的にエネルギーを利用するサービスを始めました。電力消費を抑えることで経費も下がるので、利用者としてもメリットがあります。こういうサービスってありそうで、日本にはまだ実績がなかったんですよね。そこに目をつけました。
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パートナーとの連携が新しい事業を生み出した
新しい事業を進めることは、難しさもあったのではないでしょうか。
どの事業もBIGLOBE単体では実施できません。協力してくれるパートナーがあってこそ実現できました。「ONSEN WORK」について言うと、BIGLOBEは旅行業の資格を持っていなかったので、子会社であるジー・プラン株式会社と協力して始められました。また温泉地や自治体とも、どのように事業運営するべきか、それぞれが課題に感じていることをどう解決していくべきか、何度もディスカッションをしました。ビルエネルギー効率化のサービスは、エネルギーマネジメントに長けたパートナーと実施しています。異業種の事業者なので、我々通信業のノウハウと一緒になることで新しいサービスが展開できました。
どの事業もパートナーの存在が大きいからこそ、お互いにwin-winになることが重要です。お互いにないところを補完しあってそれぞれの収益につなげていくことが、事業として継続する鍵だと思っています。
今後、新たに注力したい分野はありますか?
いま注目しているのは、マイクロパワーコレクションという取り組みです。日本語では「超小集電」と言い、自然環境の中で小さな電力を集めて機能する電力にしていくという考え方です。
じつは、土を集めて電極を指すと微量の電気が発生します。土の中にいるバクテリアが有機物をパクッと食べるときに電子を出して、そこに電位差が生じて電流が流れる仕組みなのですが、これを試しにお酒でやってみたり、フランスパンでやってみたり、いろいろなもので試すと、同じように電位差が発生して電流が流れることが分かりました。ものすごく小さな電力量なので、日常的に使われる機器を動かすには足らず、すぐ活用することは難しい。でも発想の転換で、小さな電気も電池にためていけば、それなりに使い物になると思うんです。有事のときにも、電力会社に頼らず電気の自給自足ができるようになります。いまは当たり前のようにどんどん電気を使っていますが、カーボンニュートラルを実現していくなかでは、小さな電力量で機器を使えるように変わっていく必要があると思います。
これもいまパートナーと一緒に取り組んでおり、若手の社員数名をパートナー先に送りこんで、商用化ができないか研究を進めているところです。海外でもこの世界観に賛同し興味を持ってくれる企業もいるようですし、サステナブルな社会を作るという点からも、重要な取り組みだと思っています。
これからも世のため・人のために尽力したい
有泉社長は、2023年3月末で社長を退任されると伺いました。
そうなんです。「退任後はどうするんですか?」とよく聞かれるのですが、ただ世のため人のために働きたいと思っています。これだけ変化の激しい世の中だと、今後どんなところに新たなペインが生まれるか、想像もできません。でも社会的弱者に優しい世の中にしていくことや、世の中のペインを解決するというところに、自分の存在意義ややるべきことがあると思うんです。これまではBIGLOBEの事業の中でやってきましたが、仕事を引退してからも変わらず尽力していきたいと思っています。自分の中で、いまからもう「これは成就させたい!」と思っている課題解決の取り組みもいくつかありますよ。
今後のBIGLOBEのサステナブル経営にも、期待ができそうですね。
そうですね。この3年で芽が出てきた取り組みを継続して、通信事業以外の軸でもBIGLOBEの経営を引っ張っていけるようになってほしいと思っています。そしてそれが、結果としてサステナブルな社会の実現につながっていくことを願っています。
時代の変化を捉える目と、世代論に対する危機感、これまでの価値観に固執しない柔軟さ。これらの感覚を頼りに、社会に渦巻く不自由や痛みを掬い上げ解決を目指してきた有泉社長とBIGLOBE。「社会課題・環境課題貢献型事業」を含む2軸経営を宣言してから、この3年でいくつもの取り組みが生まれ、成果が出始めている。これがBIGLOBEのサステナブル経営の“いま”の地点だ。今後もいち企業の立場から行われる、より良い社会の実現に向けた取り組みが加速していくことを大いに期待したい。
取材・文:大沼芙実子
編集:おのれい