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BIGLOBEのサステナブル経営は、「時代遅れ」という危機感から始まった 有泉社長インタビュー (前編)

「あしたメディア」を運営するビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)では、サステナブル経営に注力している。SDGsやサステナブル社会に向けた取り組みは、いまや企業の事業運営に欠かせない要素だ。しかしそれらの言葉は聞こえが良いからこそ、ポーズとして本来の目的を見失った形で使われることもしばしばある。では、実態をともなったサステナブル経営とはどのような形をしているのだろうか。

「あしたメディア」では、有泉健社長へのインタビューを2回に分けてお届けする。前編となる本記事では、BIGLOBEがサステナブル経営に取り組んだ背景と、そこにかける熱い思いについて伺った。

2020年に新たな軸として「社会課題・環境課題貢献型事業」を宣言

BIGLOBEがサステナブル経営に取り組んだ経緯について、まず教えてください。

「サステナブル経営」の旗を揚げたのは、3年前のことです。BIGLOBE1986年の創業から35年ほど、インターネットを中心とした通信事業を軸に事業を進めてきました。私が社長に着任したのは2017年なのですが、その頃から「どうにも社会が変わってきているな」と感じていました。そこで2020年の年始のあいさつで「これからは2軸の経営をします」と宣言しました。1つは、従来からのなりわいである「通信事業」、もう1つは全く新しい「社会課題・環境課題貢献型事業」です。「この2軸で社会的存在意義を高めながら、成長する企業になるんだ!」という宣言だったのですが、あまりに急な発表で社員は驚いたと思います(笑)。

どういう点で「社会が変わってきている」と感じたのでしょうか。

就任後最初の3年程は、従来通りの通信事業を中心に事業を展開していこうと考えていました。SDGsとかサステナブルというキーワードはもちろん知っていましたが、経営の中でそれらをどのように体現していくのか、私自身具体的なイメージが浮かんでいませんでした。それが2020年、SDGsが掲げる目標達成時期である2030年まで残り10年となり、グローバル社会で改めてその重要性が叫ばれるなかで「1000億円を超える収益企業であるBIGLOBEは、この実現に向けて存在意義を果たさなければならない」と強く感じました。収益目標を達成することは当たり前で、SDGs達成目標も経営目標のなかに一体化し、世界の一員としてやっていくべきでしょう、と。

加えて決定的だったのは、若い世代にSDGsやエシカルな概念が浸透していたことです。そういった世代がこれからの購買層の中心になるなかで、我々も視点を変えなければお客さまに選んでいただけない。この危機感が1番大きかったですね。様々なステークホルダーの目線も変わってきていると感じていたので、このままBIGLOBEが「通信事業だけ頑張ってます!」と言うのではまずいと思いました。そこで社会課題・環境課題貢献型事業に力を入れることに決めました。

BIGLOBEKDDIグループの傘下ですが、当時は本体であるKDDIもサステナブル経営に関してまだ具体的な宣言をしていませんでした。それより前に、BIGLOBEではこの経営方針を宣言しました。

「Z世代の価値観に自分たちをフィットさせないとまずい」という危機感

大きな決断だったのですね。社長ご自身の強い想いがあってこそ、舵を切れたのではないでしょうか。

2軸の経営を宣言するより前に、「アメリカではZ世代を軽んじていると痛い目を見る」というブログ記事を見ました。「え?」と興味を惹かれ、それから色々調べ始めました。調べていくと、若い人たちの感性がどうやら私の世代とは違うぞ、と気がついたのです。息子を見ていてもそうですが、価値観が全く違います。世界では若者のひと声が大きなうねりとなり、政府を動かすような動きもあって、このパワーを軽んじていると絶対うまくいかない、と強く思いました。

私たちのような高度成長期を走ってきた世代は、常に上を見て、利益を上げるために奔走してきました。だからこそ、社会に様々なペインが渦巻いていても、ちゃんと目を向けてこなかった節があると思っています。そんな世代に、いきなり「サステナブル」と言っても、なかなか理解できない。それどころか、もしかするとサステナブルに対する意識が高い若い人たちに、「俺たちの時代はこうだった」と古い価値観を押し付けてしまっているかもしれない、そんな危機感を抱いていました。だからこそ、企業活動も意識的に時代にあった価値観にフィットさせていかなければいけないと考えたのです。

社員からはどのような反応があったのでしょうか。

宣言自体が急だったので、社員は「なんのこっちゃ」という感覚だったと思います(笑)。昔からサステナブル経営を志している企業でもなく、後付けの概念だったので、社内に浸透させることもとても難しかった。でもお仕着せの言葉でサステナビリティを語るのではなく、社員のごく普通の発言の中でもサステナビリティ意識の高さを感じてもらえるような、そういった文化を社内に作りたいと思いました。世代による価値観の違いがあるなかでも、みんなが同じゴールに向かう環境を作るのが社長の仕事だなと。

そこで、サステナビリティに向かう世界観を日々の業務に浸透させようと考えたんです。我々が事業の中で取り組んでることが、世のため人のためになっているんだなと、社員に実感してもらうところから始めたい。また、やはり企業としてSDGsに取り組むときには、経済合理性も重要になります。経済合理性を伴ってSDGsに取り組む状況に、社員に自然と関わってほしいと思いました。社長が号令をかけると「社長に言われたのでやります」と言う社員もなかにはいます。そうではなくて、社員1人ひとりが「私は今後の社会、環境、生活はこうあるべきだと思う」と自分から語れるようになってほしいと考えています。

宣言から約3年。徐々に社員もサステナブル経営の意義を体感

そのような企業文化を作りを、具体的にはどのように事業として進めていったのですか。

社会課題・環境課題貢献型事業を掲げたものの、具体的にどんなことをしていくかは決まっておらず、課題として残っていました。社内で手を挙げる人もいなかったですし、「社長が何か言ってるけど、何あれ?(笑)」と距離を取って見ている社員もいたと思います。そこで社長室という部署で旗を振り、常識にとらわれずに発想できる社員を呼んできて「これやってみない?」と話す場を定期的に設けました。そこから少しずつ出てきたキーワードを、若い社員を中心に具体化していきました。

さらに、そこで出たアイデアを各事業部の取り組みに紐づけました。そうすることで、「社会課題・環境課題貢献型事業は一部の部署だけがやっている」とはならずに、関わる社員が増えることになります。各事業部の中に、社内向けの見え方をコントロールするインナーブランディング担当を決めて、様々な事例や社内で生まれた取り組みをブログで発信するなどの啓蒙活動も始めています。

具体的な取り組みのアイデアを出すことにも、難しさがあったのではないでしょうか。

自分たちだけでは難しい部分もあったので、社外のチームに力を借りました。KDDIの中に「KDDI DIGITAL GATE」というチームがあり、デザインシンキングなど発想力を高める研修を提供しています。そこに若い社員を送り込み、アイデア出しをしていきました。研修と聞くと部屋にこもるイメージがあると思いますが、そのときは自分たちが現場で体感することを大切にしました。社会課題・環境課題貢献型事業の1つである「ONSEN WORK」もこのデザインシンキングの中で生まれたものですが、実際に予約からひと通りカスタマージャーニーを経験したんですよね。そうすると、どんどんとペインが出てくる。「いま考えている形では誰も利用しないのでは」という結果になり、それじゃあどうしよう、と議論が進んでいきました。

そこでも若い世代の力には驚きましたね。前提として「課題を解決する」というマインドを皆が持っているので、解決策に至るまでの議論がすごく速い。この人たちは、ソリューションの世界で即戦力だと感じました。デザインシンキング研修はいまも継続していて、若い人だけでなく、広く社内から参加者を募っています。

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いま、社内のサステナブル経営に対する機運は、どのような地点にあると感じていますか。

3年経ったいま、それぞれの事業で一定の収益が出るようになり、社内でも少しずつ理解が深まってきているのではないかと思います。やはり、体感が大事なんですよね。概念としては腹落ちしていても、体感しないことには自分ごとにならない。各事業部で事業に関わることで、「やればできるかも」「これ、結構面白い」といった実感が生まれ、その後の自発的な行動に繋がると思います。とは言え、まだまだ途についたばかりの事業です。道のりは長いので、息長く続けていきたいと思います。

社長の強い想いを伴い走り出したBIGLOBEのサステナブル経営。後編では、具体的な取り組みについて紹介していく。

ashita.biglobe.co.jp

 

取材・文:大沼芙実子
編集:おのれい