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AWSの最適な活用で省エネに。BIGLOBEが目指すデジタルインフラのあり方とは。

近頃、広告でよく耳にする「クラウドサービス」。その代表例が、ネット通販や動画配信サービスでお馴染みのAmazonが提供するアマゾンウェブサービス(以下、AWS)だ。実はAWSを最適に活用することで省エネにつながるという。クラウドサービスを用いることが、なぜエネルギーの削減につながるのか。実際にクラウドサービスを活用し、効率的なサービス運用を実現したビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)のネットワーク技術部の南雄一さんとクラウド技術部の佐々木貴彦さんに話を伺った。

AWS活用によって583メガトンのCO2を削減

そもそもAWSとはどのようなサービスなのだろうか。AWSを理解するためには、クラウドサービスについて理解する必要がある。クラウドサービスとは、インターネット経由で、サーバ、ストレージ、ソフトウェア、データといったウェブサービスを利用することを指す。従来はこれらを利用者で保有、管理していたが、クラウドサービスを利用することでその必要がなくなった。

サーバを運用する会社はクラウドサービスが登場するまで、自社の建物やデータセンター(※1)にサーバ機器を設置する必要があった。このような運用形態を「オンプレミス」という。オンプレミスではサーバ機器の購入費用や管理費用などのコストが発生するのはもちろん、サーバを設置する物理的なスペースも必要になる。しかしクラウドサービスは利用量に応じて料金を支払う従量課金制であるため、サーバ機器などの購入費用は発生しない。また自社でサーバを持つ必要がないため設置スペースも不要になり、購入から設置にかかるリードタイム(※2)が発生しなくなるのだ。そのため新規サービスを提供する際に、サービス規模の拡大に応じて大きな構成にするなど、環境変化への柔軟な対応や短期間でのサービス立ち上げが可能となる。

これらのメリットがあるクラウドサービスをAmazonが提供しており、それをAWSと呼ぶ。AWSは世界中で最も多くの人が利用するクラウドサービスだ。

ではなぜAWSの活用が省エネの実現につながるのか。佐々木さんに伺ったところ、AWSを利用することで得られる4つのメリットが省エネ実現に貢献しているという。

1つ目は最新の機器を用いているのでエネルギー効率が良いという点だ。エアコンを買い替えたとき、例えば夏場に利用する際に、今までより設定温度を高くしても涼しく感じた経験はないだろうか。これは最新機器であれば少ないエネルギーで効率よく部屋を涼しくできるからだ。AWSでは常に最新の機器を用いて運用しているため、少ないエネルギーで良い作業効率を維持することができる。

2つ目はリソースの最適化だ。世界中の人がAWSを利用しているため、稼働率が低いサーバが少ない。そのため、サーバを無駄に稼働させる必要がなくなる。つまりAWSを利用することで利用者が排出するCO2も最小限に抑えることができるというわけだ。

3つ目はデータセンターレベルでのエネルギー効率の向上だ。熱くなるサーバを冷やすためにAWSでは高度な冷却技術や配電システムが採用されており、自社でのデータセンター運用に比べて省エネにつながるのだ。

4つ目は、再生可能エネルギーを積極的に活用し運用されているAWSを利用することで、持続可能な社会の実現に貢献できるという点だ。Amazonは炭素排出量を2040年までにゼロにするという目標を掲げている。その実現のために、2025年までに自社事業における再生可能エネルギー使用率100%を目指しているのだ。同社はすでに2021年に事業全体で85%の再生可能エネルギー化を達成している。(※3)

佐々木さん

AWSを使えば省エネにつながることはわかったが、具体的にどれほどの効果があったのか。AWSでは、AWSの運用中に排出されるCO2量とAWSの利用により削減されたCO2量を計測することができる。具体的な数値を佐々木さんに伺ったところ、AWSを用いたことで、2022年1月から同年9月の間で583メガトンものCO2排出量の削減につながったそうだ。1メガトンCO2は自動車約30万台が1年間で排出するCO2量に相当する。(※4)つまりAWSへの移行により、約1億7490万台の自動車が排出するCO2量を削減したのだ。

※1 用語:ネットワーク機器やサーバの設置に特化した建物。ネットワーク機器を設置するスペースやサーバを収納するラックが設置されている。また、インターネットなど外部と接続するための高速回線、熱くなった機器を冷やすための冷却装置、大容量電源など、サーバ運用に必要な設備が整えられている。
※2 用語:商品の発注から納品に至るまでの生産や輸送などにかかる時間のこと。
※3 参考:Amazon「環境への取り組み 持続可能なオペレーション」
https://www.aboutamazon.jp/planet/sustainable-operations
※4 参考:PR TIMES TeamViewerジャパン株式会社「チームビューワー、年間37メガトン相当の二酸化炭素の排出回避に貢献:二酸化炭素排出回避に関するグローバル調査で明らかに」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000034559.html

自社と利用者へのメリットを鑑みたAWS移行

BIGLOBEでは、2019年ごろオンプレミスからAWSへの移行を始めた。2023年度の上期には移行の第1フェーズが完了し、すべてのサーバがAWSに移行する。AWSへの移行はなぜ行われたのか。その理由について「自社のメリットとお客様(利用者)へのメリットを鑑みてAWSへの移行を決めた」と佐々木さんは言う。

BIGLOBEはインターネットサービスプロバイダー(以下、ISP)と呼ばれる事業者だ。ISPは、私たちが自宅や会社でインターネットを利用するための環境を提供している。つまり私たちが自宅でインターネットを楽しめているのはISPが環境を提供しているからということになる。

機器調達の時間やコストを最小限に抑えられるAWSを利用することで、BIGLOBE側はサービスの開発から提供までを迅速に行うことができる。それにより、BIGLOBEのサービス利用者が得られるメリットとは何か。佐々木さんによれば、利用者には大きく2つのメリットがあるそうだ。

1つ目のメリットは、サービスが開発されてから利用者が利用できるようになるまでの期間が短いことだ。従来のオンプレミス環境であれば、サーバ等の機器調達や組み上げ、新しい機器の場合にはその検証にも時間がかかっていた。しかしAWSでは検証済みの環境がボタン1つで提供される。これらの工程に時間を割かなくてもよい分、従来よりも迅速に新サービスの提供が実現できる。

2つ目のメリットは、サーバ環境の優れた拡張性がもたらすサービス提供品質の向上だ。AWSであれば一時的にサーバにアクセスが集中した場合でも、素早くサーバのスペックや台数を拡張できる。それによってサービス提供ができない状況を最小限に抑えることが可能なのだ。

サービス利用者にとっても自社にとってもメリットが多く、AWSへの移行は当然のように思えるが、移行の際に葛藤もあったと南さんは言う。

「オンプレミスでの自社サーバの運用に誇りを持っていたので、AWSへの移行には抵抗もありました。ただ、今思えば当時の決断は正しかったのではないかと思います。オンプレミスでの運用だと自社でサーバを管理する都合上、人員を設備管理などのハード面に割かなければなりませんでした。しかしAWSに移行することで、ハード面から、お客様が直接利用するサービス面にリソースを割くことができるようになりました。それによりお客様へのビジネスにより貢献できるようになったと思います」

南さん

AWSへの移行の次は、AWSに適した形にシステムを作り替えるフェーズが待っている。そのフェーズも終了すると、開発したアプリケーションを今よりもスピーディーに提供することや、今までは技術的に難しかったAIを用いた機能なども提供できるようになる。技術の発達とともに顧客のニーズも進化する。そのニーズに応える速度を上げることは、BIGLOBEとそのサービスを利用する顧客の双方にとって大きなメリットなのではないだろうか。

デジタルデバイドの改善へ

情報通信技術が伝達の中心になった現代社会では、パソコンやスマートフォン、インターネットなどの情報通信技術を使うことができる人と使うことができない人の間に情報格差が生じている。このような格差を「デジタルデバイド」という。これらの格差が起こる原因として考えられているのが、所得や年齢、住む地域だ。

情報通信技術の革新は更なる格差の拡大を引き起こした。またそれは、今後もさまざまな問題に繋がると考えられている。例を挙げると、情報に触れる機会の不平等から引き起こされる教育格差や犯罪や災害などの緊急性の高い情報への対応格差だ。格差を拡大させないために重要なのは、1人でも多くの人がインターネットを利用できることだ。

BIGLOBEがISPとして社会に提供できる価値は、1人でも多くの人にインターネットを利用した便利な生活を送ってもらうことだと南さんは言う。

「インターネットを利用してもらうためにはいくつかの障壁があります。経済的な問題やネットへの心理的な恐怖です。それらの障壁を取り除くために利用料金の値上げをしないことや、システムトラブルを起こさない安全な運用方法、入会方法を分かりやすくすることを心がけています」

BIGLOBEはAWSなどの最新技術を用いることで、ここ数年間利用料金を一定に保つことに成功している。インターネットにまつわる知識や、所得、年齢、居住地に関わらず全ての人が使いやすいサービスを提供することは、デジタルデバイドの解消に繋がるだろう。

インターネットを使うだけでソーシャルグッドな取り組みかも?

今後、BIGLOBEとして社会課題の解決にどのように貢献していきたいか南さんに伺った。

「元々社会を支えるインフラ事業を中心に手がけてきました。ですので、これからも安心安全なサービス提供を続けていきたいです。社会に貢献するということは、今までの事業の延長にあると考えています。今までの事業で培った知識や思いを活かしやすいので、社会課題の解決に取り組む姿勢は、引き続き大事にしていきたいと思います」

一見するとソーシャルグッドなことに直接関わりがないように思えるインターネットだが、今回お話を伺って2つの学びを得た。1つはAWSを用いてCO2削減を実現したり、デジタルデバイドの解決に取り組んだりしている事業者がいるということ。もう1つはこれらに取り組んでいる事業者のサービスを用いることで、利用者のソーシャルグッドな取り組みにもなることだ。

自分が普段利用しているサービスや製品をいつもと違った視点で見ることで新しい発見があるかもしれない。新しく何かを始めなくても、もうすでにソーシャルグッドに取り組んでいる可能性があるのだから。

 

取材・文:吉岡葵
編集:柴崎真直