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待機児童が減っているって本当?日本の保育園問題の背景を調べてみた

「また今月も保育園落ちた…」最近よく、Facebookでそんな投稿を目にする。出産を経験した知人が増えるとともに、急に待機児童の問題が身近なものに感じるようになった。

待機児童問題と言えば、2016年に「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのブログ記事が大きな話題になった。数年経った今でも、この問題が完全に解決されたとは言えない状況なようだ。「少子化問題が深刻だ」と言う割に、待機児童問題は解消されていないのだろうか。そして、なぜこのような問題が起こっているのか。待機児童問題の現状と、その背景にある課題について調べてみた。

主な保育施設の種類

保育施設にはいくつかの種類があり、サービスの内容や呼び名が異なる。まず、主な保育施設の種類を紹介したい。

①認可保育園

国が定めた施設の広さや職員数、設備などの基準を満たした厚生労働省管轄の施設。都道府県知事に認可された施設で、ここに入園するためには各市区町村に申請する必要がある。保育料は、保護者の収入によって変動し、各市区町村へ払うことになる。国や自治体からの補助金も受けながら運営されており、「保育所」と呼ばれる場合もある。

なお、認可保育園の中にも、各市区町村が運営する「公立保育園」、NPO法人や企業などが運営する「私立保育園」、国や自治体が設置して業務は民間が行う「公設民営保育園」の3種類が存在する。

②無認可保育園

国が定めた設置・運営の基準よりも緩やかな基準で運営されている保育施設を指し、「認可外保育園」「認可外保育施設」と呼ばれる場合もある。ベビーホテルや企業主導型保育施設が無認可保育園に含まれる。夜間保育や休日保育に柔軟に応じてくれるなど、保護者の多様なニーズに答えたサービスを用意している無認可保育園は多い。また、モンテッソーリ教育(※1)や英語教育などに特化した園もある。保育料は各施設が自由に設定することができ、直接、保育施設に支払われる。

③幼稚園

幼稚園は正確には、小学校や中学校と同じ学校教育法で定められた「学校」の一種だ。3歳から小学校入学前までの子どもを対象に、全国共通の幼稚園教育要領に基づいた教育を提供している。教育機関であるため、預かり時間は4時間程度と保育園より短い。ただし、保護者のニーズの広がりによって、保育園と同様に朝や夕方、長期休暇中の預かり保育などを実施している幼稚園も増えている。

幼稚園に入園する場合には、各幼稚園に直接申し込みをし、園長が入園を許可した場合に入園できる。公立の他に、個人や企業による私立幼稚園も存在する。費用は園ごとに異なるが、保護者の収入に関わらず一定の保育料が設定される。また、時間外預かりや送迎費、行事費用などが別でかかる場合もある。

④認定子ども園

2006年からは、保育園と幼稚園を掛け合わせた認定こども園という制度も開始されている。0歳から就学前の子どもまで、保護者が働いている・いないに関係なく利用することができる。(※2)大きく分けて「幼保連携型 認定こども園」「幼稚園型 認定こども園」「保育所型 認定こども園」「地方裁量型 認定こども園」の4つがあり、それぞれ職員の条件や提供するサービスの内容が異なる。保育料は、各市町村が定めた基準に基づいて、保護者の収入によって変動する。

保育料無償化

2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」が実施されていることはご存じだろうか。上述の保育施設のうち、保育所、幼稚園、認定こども園は、国立・公立・私立の区別なく、条件付き(※2)ではあるが保育料が無償とされている。無認可保育園の利用に関しては補助金は出るものの、その他の施設と比較すると費用がかかる。

ここにあげた保育施設の中でも、1番多くの保護者が申し込むのが認可保育園だ。十分な設備等の基準を満たしていることに加え、預かり時間も長く、安価に利用可能だからだ。

※1 用語:子どもの自主性を活かした教育方法。大人は、子どもが好きなように道具を選んだり、子どもの好奇心を刺激するような環境を整えることが求められる。子どもはその環境において日常生活から言語や算数まで、自己教育力を発揮して学んでいく。
※2 参考:厳密には、子どもの年齢や保育に必要な事由などから決められる保育認定の区分において、1号・2号・3号の認定を受けた場合のみ利用できる。
※3 参考:原則的には、無償化の範囲は「利用費」のみであり、給食費や送迎費などは徴収される。また、無償化制度を活用するためには、「保育の必要性の認定」を受ける必要がある。保護者の就労形態や親族の介護状況、子どもの年齢等から使用できる保育施設や預け時間が決められる。

待機児童の実態

次に、直近の待機児童数はどのくらいいるのか調べてみよう。

厚生労働省の発表しているデータでは、2022年8月時点で全国の待機児童数は過去最少の2,944人とされている。実は、この数年で待機児童の数は急激に減っているのだ。

出典:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和4年4月1日)」p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000979606.pdf

ピークの2017年と比較すると、約9分の1まで減少している。このデータだけ見ると、待機児童問題は解決しているように見えるかもしれない。しかしここで注意したいのが、そもそも「待機児童」の定義がどうなっているのかという点だ。

「待機児童の数=保育所に入れなかった児童の数」ではないことはご存知だろうか。現行の待機児童の定義では、「保育所に入れなくても、無認可保育園に入れている児童」は待機児童にカウントされない。さらに、自宅から遠くの保育施設を勧められて辞退した場合も、「特定の保育所等を希望している児童」として待機児童に含まれなくなる。このようにカウントされていないものの、実際には思うように保育園に通えていない「隠れ待機児童」が存在する。2022年時点でも7万人以上もの隠れ待機児童が存在するという推測もある。

とはいえ、待機児童解消に向けた動きが全くないわけではない。

出典:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和4年4月1日)」p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000979606.pdf

上のグラフからもわかるように、保育施設の数は年々増加している。では、なぜいまだに多くの待機児童が残ってしまっているのだろう。

保育士不足の背景

待機児童問題の根幹にある大きな問題の1つが、保育士不足だ。増加する保育施設の数に反して、保育士不足は年々、深刻な問題になっている。2022年10月の保育士の有効求人倍率は2.49倍であった。全職種の平均有効求人倍率が1.35倍なのを考えると、その差がわかるだろう。(※4)

たとえ保育士資格を保有していても保育施設に就職しない者が多いのも特徴的だ。以下のグラフからわかるように、保育士登録者のうち半分も保育施設では働いていない。

出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組について」p.22 
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

また、保育士は勤続年数が短い場合が多く、現場で働いている保育士のうち、経験年数8年未満の保育士が約半分を占めている。(※5)つまり、離職が早く、定着率が低いということだ。

なぜ保育士はあまり人が集まらず、続けにくい職業になってしまっているのだろうか。2019年の調査では、過去に保育士として就業した者が退職した理由として、「職場の人間関係」(33.5%)、「給与が安い」(29.2%)、「仕事量が多い」 (27.7%)、「労働時間が長い」(24.9%)などが挙げられている。(※6)

給与や仕事量などの待遇の悪さは、保育士不足の大きな要因の1つと言えそうだ。2021年の調査では、保育士の平均月収は25.5万円、年間賞与が74.1万円とされている。(※7)年収ではおよそ374万円となるが、同年の全ての給与所得者の平均年収が443万円とされている(※8)ので、それと比較しても少し低めである。

加えて、保育士の給与が上がりにくいという問題もある。特に、保育士の給料は、国などの補助金と保護者が支払う保育料で賄われている。ここでの保育料は「公定価格」という、施設ごとに国によって定められた金額になる。そのため、保育所は保護者から徴収する保育料を勝手に定めることはできないのである。もちろん、保育施設に対する、国や自治体からの補助金も必要最低限のものだ。さらに、2019年11月からは「幼児教育・保育の無償化」の動きもあり、条件によっては保護者からの保育料を徴収しない場合もある。一般企業のように、売り上げ拡大に応じて財源が増え、保育士の給料も上がるといった構造にはならないのである。

そして、給料に対して多い仕事量も問題だ。保育士には「配置基準」があり、子どもの年齢と人数に応じて配置しなければいけない保育士の人数が決められている。最低基準は厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(第三十三条)」で定められており、0歳児3人に対し保育士1人、1〜2歳児6人に対し保育士1人、3歳児20人に対し保育士1人、4歳児30人に対し保育士1人とされている。実際の保育施設の運営時には、この基準を下回らないように各自治体ごとに基準を定めている。

最低基準とはいえ、20人の3歳児を相手に1人で保育をしなければいけないとなったらどうだろうか。1人の子育てでさえ大変な労力がかかるのに、20人もとなれば、とてつもない仕事量になってしまう。保育士の目が行き届かない場面で、事故等が起こっても不思議ではない。現実的に無理があるこの基準をめぐって、全国各地の地方議会で改善を求める意見書が相次いで採択されている。しかし、保育士不足が叫ばれる現代で、この問題の解決は簡単なものではないだろう。

これらの要因によって、もともと足りない保育士がさらに不足し、待機児童もなかなか減らないといった悪循環に陥っているのである。

※4 参照:厚生労働省「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001018261.pdf
※5 参照:厚生労働省(2020)「保育士の現状と主な取組について」p.23 
 https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf
※6 参照:厚生労働省(2020)「保育士の現状と主な取組について」p.24 
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf
※7 参照:国税庁「賃金構造基本統計調査 / 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001164106&tclass2=000001164107&tclass3=000001164111&stat_infid=000032182952&cycle_facet=tclass1%3Atclass2&tclass4val=0
※8 参照:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2021.htm

待機児童ゼロの国の保育園の仕組み

では、待機児童の少ない国ではどんな取り組みがなされているのだろうか。例として、スウェーデンの保育園の状況を見てみよう。

スウェーデンは待機児童がほぼゼロの国として知られている。これを支える仕組みが、学校法において定められている「保護者が保育園への入園を申し込んだら3〜4ヶ月の間に入園できるように席を用意しなければいけない」という決まりだ。これがあるため、基本的に待機児童が発生しないことになっている。

スウェーデンでは、1975年に「就学前学校法」より幼稚園と保育園をまとめて「就学前学校」として扱うようになった。1998年には社会省から教育庁の管轄へと移動し、就学前学校に関する条項は学校法の中で扱われるようになった。これによって、保育園も専門機関として認知されるようになり、保育の質が上がるとともに保育士の社会的ステータス向上にも繋がり、1990年代以降の保育士の給与を押し上げる要因となった。保育士の中には、高校卒業資格でなることのできる一般の保育士と、大学を卒業してなれるティーチャーの2種類がある。一般の保育士では月給25〜32万円程度、ティーチャーでは月給35〜40万円程度の給与水準である。

配置基準についても、日本よりは整っている。スウェーデンでは、1クラスにおよそ3人の大人が配置される。それに対し子どもは、1〜3歳の児童で12人、4〜5歳の児童で15人が1クラスとされているそうだ。さらに、幼児を持つ親は6時間勤務にしても良いと法律で保障されているため、長時間保育園に子どもを預ける保護者は少ない。

このような仕組みによって、スウェーデンでは保育士不足が解消されてきたという。

なお、保育士の配置基準については、他国を見ても、日本よりは潤沢な配置になっている場合が多い。OECD平均では保育士1人に対し子どもは18人が上限になっている。

日本では、2022年に静岡県の保育施設で、送迎バスに園児が置き去りにされ熱中症で死亡した痛ましい事件も起きてしまった。このような事件の防止のためにも、保育士の増加は重要な課題と言えるだろう。

まとめ

共働き家庭の増加に伴って、保育園の需要は増している。しかし、その受け皿となる保育士の労働環境・待遇にはまだまだ問題があることがわかった。少子化が進んでいる今の日本だからこそ、保育士の労働環境にも目を向け、十分な保育環境を整えていく必要があるだろう。

 

文:武田大貴
編集:たむらみゆ