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フィルターバブルとは?その意味と事例、エコーチェンバーとの違いを徹底解説

フィルターバブルとは?

社会的な問題としても取り上げられる“フィルターバブル”。どのような状態のことを指すのだろうか。

フィルターバブルの意味

総務省が発表している「令和元年度版 情報通信白書」によると、フィルターバブルは以下のように説明されている。

アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を指す。(※1)

1人ひとりが自分だけの価値観のバブル(泡)の中に留まり、外の情報がぼやけて見えない、そもそも触れることができない、状態だという。ではどうしてこのような現象が起きるのだろうか?

フィルターバブルが起こる仕組み

フィルターバブルは、ユーザーの利便性向上を目的としてウェブサービスに導入された、以下の3つの機能によって引き起こされる。

  • トラッキング機能

ウェブサイトに訪れたユーザーを追跡する機能。流入元はどこか、どれほどそのサイトに滞在したのか、などを記録する。

ウェブサイトにアクセスした際に、「Cookieによる記録を承認するか」や「クッキーを使用しています」という注意書きが提示されることがあるだろう。このCookieというのが、トラッキングデータを記録したファイルの名前を指し、私たちのネットでの行動を記録している。たとえば、海外のショッピングサイトにアクセスしたときにも以下のようなアテンションが表示され、そこでは「より個人の好みに合わせた商品を提供できるようにCookieを使用しています」という文言と共に、承認するか否かを問うてくる。これを承認すれば、このサイトでの行動が記録され、その情報を検索エンジンが学ぶ。そうすることで、それ以降のウェブページでの表示が、より個人好みのものになるという仕組みだ。

写真:ウェブサイトにおけるCookieに関する表示(筆者撮影)
  • フィルタリング機能

トラッキングにより、ユーザーの行動様式を学んだ検索エンジンが、個人が検索したときに「より好まれそう」「個人にとってより有益な情報であろう」と思うものを、作為的に検索上位に表示する機能を指す。個人の嗜好に合わせる機能で、好きな情報に効率的にたどり着けるメリットがある一方で、検索エンジンに興味関心がないと判断された情報からは、個人の意思に関わらず遠ざかってしまう。これは、フィルターバブルを引き起こす大きなきっかけの1つと言える機能だ。

  • パーソナライゼーション機能

トラッキング、フィルタリング機能に加えて、より個人の好みや価値観に合わせた情報を表示するのが、パーソナライゼーション機能だ。その言葉の通り、表示される情報が個人最適化される機能を指し、その対象範囲は、ウェブ広告や検索結果に留まらず、ニュース記事やSNS投稿1つなど、より広範囲に広がっている。

たとえば、ニュースサイトを見ていたとしよう。記事の末尾で「こんな記事も興味あるかも」や「この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます」というような他の記事のリンクが出てくることはないだろうか。あれらは、まさにパーソナライズされた情報であり、1人ひとり異なる記事が表示されている。

ユーザーの利便性を高めるためのこれらの機能により、私たちのインターネット生活は快適になっているが、その一方で知らず知らずのうちに偏った価値観の中でしか情報が得られない、という状態に陥っているのだ。

エコーチェンバーとの違い

フィルターバブルとよく一緒に語られるのがエコーチェンバーである。

エコーチェンバーは、TwitterやFacebookなどに代表されるSNSにおいて、自分の興味関心にしたがってユーザーをフォローする結果、似たような意見が集まる現象を指している。SNS環境で起こるエコーチェンバーに対して、フィルターバブルは情報検索の環境で起こる現象だ。それぞれの関係性を考えると、フィルターバブル状態に陥っている個人が集まり引き起こされる現象がエコーチェンバーと言える。

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フィルターバブルのメリット

ユーザー個人におけるフィルターバブルのメリットは、先述の通り、効率的に自分好みの情報や近い価値観の情報にたどり着けるということだ。

個人以外にメリットを享受しているのが、広告主や事業者だ。彼らは、ユーザーが似たような情報を消費し続けるというフィルターバブルの効果により、コストをかけずにターゲットやペルソナ(※2)を検出し、効率的に広告戦略を展開することが可能になった。

※1 引用:総務省「令和元年度版 情報通信白書 第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0 第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア 」(2023年2月5日閲覧)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114210.html
※2 用語:マーケティング用語。商品開発やwebサービスについてビジネスを考える際に、年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、家族構成、趣味、特技、価値観、ライフスタイルなど、実際に実在しているかのように作り上げた、リアリティのある仮想の顧客プロフィールを指す。

フィルターバブルがもたらす影響

では、フィルターバブルは実際に、私たちにどのような影響を及ぼしているのだろうか。個人、社会、ビジネスの視点から総括的に解説する。

個人レベルでの影響: 情報収集と意見形成

・情報の偏り

先にも述べたように、フィルターバブルの状態に陥ると、 ユーザーがインターネットで検索したとしても表示される情報や閲覧できる情報がが限られ、多様な情報や価値観、異なる視点に触れる機会が失われる可能性がある。

・意見の固定化

フィルターバブル内では、近しい情報や意見ばかりを目にし続ける(他の情報がリーチしづらい)ため、偏った情報を頼りに自身の意見や信念が形成されてしまい、異なる意見への寛容性が低下する可能性がある。

・情報過多と選択 

パーソナライズされた情報提供による便利さはあるが、個人にとって本当に必要な情報なのかを見極める能力が求められる。

社会レベルでの影響: 分断される社会とは?

・社会的分断

社会レベルの視点で考えると、フィルターバブルによって同じ価値観や信念を持つグループが形成されやすく、異なるグループとのコミュニケーションが希薄になり、そのことが社会的な分断を及ぼす可能性がある。

・偏見の増加

社会的分断にも通ずるが、一部の情報や意見に触れ続けることで、他者や異なる文化・考え方への偏見や誤解が生まれる可能性がある。

・民主主義の問題点

また、私たちの生活において、有権者が偏った情報のみに基づいて判断をくだすことに繋がる可能性もある。言い換えれば、リーチできる情報が限られてしまうがゆえに、個人がインターネット体験を通じて公平な視点を持つこと自体が難しくなり、討議の質が低下する可能性さえある。

ビジネスやマーケティングへのインパクト

一方で、ビジネスシーンでのマーケティングにおいては、フィルターバブルが効果的に働くことがある。

ターゲティング広告

先に述べたウェブサービスの利便性向上のための3つの機能により、ユーザーの興味や行動に基づく広告表示を効果的に発信することが可能になった。このことは広告主にとっては、コストの削減にも繋がっている。一方で個人の視点から考えると、自分の関心のある情報ばかりが提示され、それ以外の情報の存在に気が付くことすら難しくなってしまう、という問題がある

・コンテンツの最適化、新しい市場の開拓

どのような情報がユーザーに表示されるかのアルゴリズムを理解し、ビジネスのコンテンツ戦略に反映させることが可能になる。また、繰り返し似た情報にアクセスするユーザーの行動を観察することでパーソナライズされたコンテンツの検討や新しい市場が開拓できる可能性もある。

・ブランドイメージにおけるリスク

一方で、ユーザーが限られた情報の中でのみブランドを認識することによる、ブランドイメージの偏りや誤解が発生する可能性もある

フィルターバブルの問題点

「フィルターバブル」という言葉の生みの親であるアメリカのインターネット活動家、イーライ・パリザーは講演会でフィルターバブルの問題点を以下の通り指摘する。

フィルターで囲まれた世界はあなただけの小さな情報の世界を作り、その世界に含まれる情報は、あなたがどんな人で何をしているかによって決定される。しかしその決定はあなたがするのではないし、その決定の結果どの様な情報が取りこぼされているのか、を知る由もない。(※3)

講演内容の引用は筆者により、抄訳・編集

私たちは、ただ日常的にインターネットを使用しているが、使えば使うほどに自分の意思の及ばないところで情報が操作されているのだ。

フィルターバブルが問題となった事例

フィルターバブルが問題となった代表的な3つの事例を紹介したい。

  • 2016年 米国 大統領選挙(ドナルドトランプ元大統領 当選)

バラク・オバマ氏の後任として、ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が争った2016年の米国 大統領選挙戦。トランプ氏を支持する内容のCNNの記事「Why I'm voting for Trump」は、選挙当時フェイスブックで150万を超えるシェア数を誇ったが、それは主にトランプ支持者のフィードでのみ盛んであり、クリントン支持者のフィードでは表示されなかった、という証言が相次いだという。

  • 2020年 新型コロナウイルス流行

世界中を混乱に貶めた新型コロナウイルス感染症の国内での本格的な流行が始まったのは2020年。「トイレットペーパーが無くなる」というデマ情報が流れ、スーパーやコンビニなどの小売店から紙製品がキレイに無くなったことは記憶に新しい。その他にも「コロナウイルスは50度で死滅する」「マスクをつけている方が、繰り返し菌を体内に取り込むことになる為、かえって体には悪影響である」「お茶でうがいをするとコロナにかからない」などの噂が次から次へと生まれてはネット上で拡散されていった。真実なのかが分からない情報であったとしても、何度か特定のワードで検索したり、SNSで同じような情報を発信している人のフィードにアクセスしたりするだけでも、それ以降は関連記事や興味関心が高そうと検索エンジンが判断したページが優先的に表示されるようになる。そうすると、噂から始まった思い込みは、やがてその人にとっての事実のように強い意味を持ち始める。現に、トイレットペーパーの品薄状態のように、社会的な議論に発展するほどに、フィルターバブルは日常的に起きていると言える。

  • 2021年 米国 議会議事堂襲撃事件

ドナルド・トランプ氏の支持者の多くが加担したこの襲撃事件。2020年の大統領選で、民主党ジョー・バイデン氏に負けたドナルド・トランプ氏の支持者の間で「当該の選挙で不正があり、本来当選すべきであったトランプ氏が落選した」というフェイクニュースが拡散され、そのニュースを信じた支持者たちが、議会議事堂へ侵入、襲撃することで怒りを表現した。トランプ氏が自身のSNSアカウントを通じて、支持者を煽る投稿をし、支持者を扇動したことも問題視された。「トランプ氏の落選は、選挙不正に拠るもの」「トランプ氏の落選は誤りだ」、といったフィルターバブル内の情報に触れつづけた支持者たちは、強い思い込みと共に、死者をも出す前代未聞の襲撃事件を起こしてしまった。

これらの例をみても分かる通り、フィルターバブルを原因とする問題は、選挙などの政治に関わる場面でよく起こる。これは、政治の話題が、その人の意思や価値観が色濃く表れやすい、ということが影響しているだろう。しかし、フィルターバブルによって作られた情報世界に閉じこもっていては、異なる価値観や多面的な意見に触れて考えを深めることは難しくなる。また、似たようなニュースや価値観に繰り返し触れることで、知らず知らずのうちに誤った思想が強化される結果になりうる。

では、私たちはどうしたらフィルターバブル状態にならずに済むのだろうか。どんな対策があるのだろうか。

※3 TED 「イーライ・パリザー:危険なインターネット上の「フィルターに囲まれた世界」https://www.youtube.com/watch?v=B8ofWFx525s

フィルターバブルへの対策

フィルターバブルへの対策にはさまざまな方法がある。

ウェブサイトや接する情報による対策

AllSides」というニュースサイトでは、1つのトピックスに対して、右派(Right)、左派(Left)、そして中立派(Center)の3つの視点の記事が掲載されている。同じ内容でも、さまざまな異なる視点の意見に自らアクセスすることで、フィルターバブルの外の情報に触れられ、情報を比較し、偏りを認識することができる。

※AllSidesのニュースページ(筆者撮影)

またウォール・ストリートジャーナルが運営する「Blue Feed, Red Feed」をチェックしてみるのもフィルターバブルを破る1つの手段と言える。これは同じトピックスにおいて、革新派(左派)のフェイスブック投稿と、保守派(右派)のフェイスブック投稿が比較・表示されるというものだ。横に並んだ青いフィードと赤いフィードの情報を読み比べることで、多角的な視点を得ることが期待できる。

※「Blue Feed, Red Feed」のページ(筆者撮影)

いずれもアメリカのサービスであるが、世界のニュースやトピックスについて知るには十分であろう。

検索エンジンによる対策

私たちが普段使用している検索エンジンによる対策も有効だ。

DuckDuckGo」は、追跡を一切行わない検索エンジンサービスだ。トラッキングはもちろん、個人情報を一切得ないサービスとなっており、パーソナライズ機能も何もついていない為、よりフラットなインターネット生活を送ることができる。

また、現在使用している検索エンジンの設定を、追跡をさせないモードに切り替えることも有効だ。プライベートブラウジングやシークレットブラウジングなど、ブラウザによって呼び方は異なるが、トラッキングやCookieの取得を一切させないという設定でインターネットを使用することにより、勝手な情報の取捨選択を防ぐことができる。

ただし、ブラウザのアルゴリズムの全容は発表されていない為、設定変更によりフィルターバブルを完全に防ぐことができる、とは言い切れないのが現状だ。

そのほかの対策としては、インターネットから離れ、新聞や本、テレビなど追跡されない場所で情報に触れるという方法もある。ただし、そこで触れる情報が、どのような信念に基づいて発信されたものなのか、を理解しておくことが大切だ。

新聞を例に挙げると、現在、国内では朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・日本経済新聞・産経新聞と、5つの全国紙が発刊されている。ジャーナリストの池上彰氏は、新聞の読み方を説明する記事の中で、朝日・毎日は左派、読売・産経は右派、日経は中立、と分類している。(※4)このような、各新聞社のスタンスを理解したうえで、情報に触れることは、フィルターバブル対策として有効だろう。(ただし、この各新聞社のスタンスは、社会情勢とともに変化し続けるものである、というのも忘れてはならない)

※4 参考:東洋経済 ONLINE「池上彰が解説『今さら聞けない新聞の読み方』」https://toyokeizai.net/articles/-/312181?page=3keizai.net

情報社会を生きるために

フィルターバブルという、独立した個人の世界で生き続けることは、思想の偏りを生み、他人の意見を受け入れない(目にすることも難しい)状況は、人を孤立させる。

情報が溢れかえる世の中で、効率的に生きるための代償は、私たちが想像する以上に大きいのかもしれない。

まずは、「自分もフィルターバブルの中で生活しているのだ」と認識し、バブルの外に広がる世界を想像してみることから始めたい。

 

文:おのれい
編集:日比楽那