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持続可能なレザーから考えるファッションと環境問題

「この靴のレザーは、フェイクレザーですか、それともリアルレザーですか?」

シューズブランドで働く友人が、最近お客さんからよく聞かれるそうだ。人々の環境問題への意識が高まるなか、靴を購入するか否かの判断基準として、手に取った商品が動物の皮で作られたものか、それ以外の素材で作られたものか、気にする人が増えたということだろう。

流行に左右されやすく、消費スピードが早いファッション業界では、1つ脚光を浴びるアイコンやトレンドが生まれると、業界全体もスピード感を持って舵をきり、消費を促す。その為、ファッション業界の動向は良くも悪くも、社会や環境に対して大きな影響力を持つ。

持続可能な社会のためには1人ひとりの行動変革が大切だと言われる世の中になり、ファッション業界でもその動きは活発だ。そして、近年注目を集めているのがエコレザーやフェイクレザーなどの革製品である。動物性の素材から置き換えられ、世の中に出回っている「代替品」は、本当に地球環境の保護に繋がっているのだろうか。本記事では、レザーに注目して考えてみたい。

ファッション業界における反動物性製品の動き

動物の毛皮や革を活用した衣服は、紀元前1000年から存在する。寒さから身を守るため、つまり生きるために必要な防寒着であったが、その希少性から次第に富や権力の象徴として扱われるようになり、憧れを伴ったファッションアイテムへと変化していった。

ファッションのあり方が、一部の富裕層のみが楽しむ娯楽から、より多くの人が楽しめる娯楽へと一般化したのに伴い、ファッション製品の需要は増大。大量生産、大量消費の時代へと入っていった。その流れはもちろん動物性製品においても同様で、毛皮をとるために動物を飼育する工場が生まれた。世界35カ国に拠点を置き、ファーフリーな世界の実現を目指す国際連合FUR FREE ALLIANCEによると、世界中で販売されている95%以上の毛皮が養殖された動物のものであるという。(※1)

しかし、ファッション業界に目を向けてみると、SDGsが今ほど浸透するよりも前から、動物愛護の観点を主としてファーやレザーを使用しない、という動きが広がっている。「カルバン・クライン」は1994年にファーフリーを宣言しているし、「ステラ マッカートニー」は2001年のブランド設立以来、ファーフリー・リアルレザーフリーを貫いている。2000年以降、その動きはより際立ち、「ラルフローレン」「ジョルジオ アルマーニ」「プラダ」「コーチ」といった、世界的に有名なハイブランドが、次々と動物性素材の使用禁止やファーフリーを宣言した。

その考え方はムーブメントとして消費者の間でも広がりを見せた。2021年には、ファッション誌『ELLE』が毛皮製品を一切使わないことを発表。ファッション誌としては初のファーフリー宣言として話題になった。国内に目を向けると、2016年に国内全てのミンクファー製造工場が廃業し、当時「毛皮産業は終焉を迎えた」とまで言われた。ファーに限らず、同様の流れはレザーにおいても起きており、「フェイクレザー」や「エコレザー」「ヴィーガンレザー」という言葉とともに、動物由来の素材を使用しない製品や代替品が増えてきた。

※1 参考:The Fur Free Alliance “Fur Farming”
https://www.furfreealliance.com/fur-farming/

フェイクレザーとエコレザー、ヴィーガンレザーの違いとは?

フェイクレザーとは、合成皮革を意味し、布に合成樹脂を塗り重ね天然皮革に似せて作られたものを指す。長年、リアルレザーの代替品として、幅広く活用されてきた。

一方で、エコレザーは、環境に配慮し、原料を無駄にしないレザー製品という意味を持つ。リアルレザーを使用しない、という訳ではなく、リアルレザー製品を加工する際に出た端切れを細かくし、天然素材や樹脂を混ぜて加工した素材を指す。そして、加工に使用する物質や、廃棄物の処理や排水管理などの製造過程における環境負荷に対する一定の基準を満たしたものだけがエコレザーと呼ばれる。一般社団法人日本皮革産業連合会が運営する「日本エコレザー基準認定事業」のホームページ(※2)によると、エコレザーは1990年代半ばにヨーロッパを中心に普及・発展し、日本では2006年に「日本エコ基準(JES)」が制定された。2023年現在も、同協会が定める基準に沿って審査が行われ、認定を受けた製品には「エコレザー」を示す認証マークが付与される。

さらに、ここ数年で台頭してきたのが「ヴィーガンレザー」だ。ヴィーガンというと、“動物性の食材を一切取り入れない食指向”が思い浮かぶだろう。ヴィーガンレザーも同様で、動物性原材料を一切使用しないレザー代替製品を指す。素材は主に「合成皮革」「人工皮革」「植物性皮革」に分類される。広義では、先述したフェイクレザーも含まれるが、近年では、「アニマルフリー」であることに加えて、「エコ」であるという視点が重視されるようになってきた。

※2 参考:一般社団法人日本皮革産業連合会 日本エコレザー基準認定事業ホームページ
https://ecoleather.jlia.or.jp

「レザー製品は、基本的には副産物である」…?

一方で、レザー製品はもともと廃棄物を出さないエコな製品である、という意見もある。レザーは畜産業の副産物である、という話を聞いたことがあるだろうか。食肉用として屠殺(とさつ)される動物の命を無駄にせず、最後まで活用させてもらう。その一環として、皮を加工したレザー製品が作られている、というのだ。牛・山羊・羊・豚などの皮は、家畜産業が存在する限り発生するものであり、それらを廃棄物とすることの方が環境負荷がかかる、という意見もある。

とはいえ、ワニ皮やダチョウの皮など、希少性の高い動物は、革製品のために屠殺(とさつ)されることもあり、全ての革製品が“副産物”である、とは言い切れないのが現状だろう。

では、アニマルフリーで、“持続可能なファッション”としてのレザー製品は、どのように実現されつつあるのだろうか。

パイナップル、サボテン、キノコまで。多様な植物性ヴィーガンレザーの数々

ヴィーガンレザーは、素材は主に「合成皮革」「人工皮革」「植物性皮革」に分類されるが、その中でも注目が高まっているのが100%植物由来の生分解性素材で作られたものだ。世界中の企業が、様々な素材を用いてその開発に挑んでいる。その一部を紹介したい。

パイナップルの葉を使用した「ピニャテックス (piñatex®)」

イギリス・ロンドンに拠点をおくANANAS ANAM社が開発したのが、パイナップルの葉を使用したヴィーガンレザー製品「ピニャテックス (piñatex®)」だ。ピニャテックスは、果物産業において、大量に廃棄または焼却されていたパイナップルの葉を“副産物”として活用して開発された。

材料になる、パイナップルの葉の繊維質

2021年には、大手スポーツブランドのNIKEがピニャテックス(piñatex®)を活用したコレクション「Happy Pineapple」 コレクションを発表し、話題となった。

NIKE「Happy Pineapple」 collection

ANANAS ANAM社が発表している「ananas anam 2021 IMPACT REPORT」(※3)によると、ピニャテックス製品を制作することでパイナップルの葉の廃棄量を削減し、そのことが約267トンものCO2の削減に繋がったという。また、提携しているフィリピンのパイナップル農家にとっても、新たな収入源や雇用を生むという結果をもたらした。すでにある材料を活用することで、新たな製品を生み出し、環境負荷を減らすことができる。まさに持続可能な社会を実現する素材といえる。

サボテンを活用した「Desserto(デセルト)」

メキシコの企業ADRIANO DI MARTIは、サボテンを原料としたヴィーガンレザー「Desserto(デセルト)」を開発した。(※4)

原材料のノパルサボテンは、メキシコの街中でよく見かけるサボテンで、食用としても流通している。共同創業者で開発者でもある、エイドリアン・ロペス・ベラルデとマルテ・カザレスは、自動車やファッション業界で働いた経験を通じて、大量生産・大量消費が環境汚染にもたらす影響を実感し、動物革に変わる製品を開発することをミッションとして開発に挑んだ。サボテンは、砂漠地帯にも自生するなど少量の水で育成することができ、成長スピードも早く、6〜8ヶ月に1度のペースで採取が可能だ。また、大気中のCO2を吸収する作用も非常に強く、カーボンシンク(※5)としての役割も大いに期待できるという。そのインパクトは非常に大きく、同社によると、14エーカーのサボテン畑で年間約8100トンものCO2を吸収することが可能だという。(※6)(日本人1人当たりのCO2排出量は年間約9~10トンと言われいてる)

キノコから開発されたヴィーガンレザー「Mylo(マイロ)™️」

アメリカ・シリコンバレーにあるバイオテックベンチャー企業 BOLT THREADSが開発したキノコ由来のヴィーガンレザー「Mylo(マイロ)™️だ。キノコの菌糸体を原料とするヴィーガンレザーは、湿気に強く、牛革と同程度の強度が保たれるという。

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サボテンレザー同様、成長スピードが非常に早く、BOLT THREADSによると、マイロ™️の原材料となる菌糸体は14日間程度で育成可能だという。(※7)動物が育つ年月に比べると、そのスピード感は一目瞭然である。また、100%再生可能電力を活用し、制限なく培養が可能な生分解性素材である、という点からも環境負荷が非常に低い製品といえる。

※3 参考:ANANAS ANAM「ananas anam 2021 IMPACT REPORT」https://mcusercontent.com/03e5e1519304764711156f2f5/files/dc3e7091-8e16-c56a-44d0-e422d04af27a/Ananas_Anam_Impact_Report_2021.01.pdf
※4 参考:ADRIANO DI MARTI
https://desserto.com.mx/adriano-di-marti-1

※5 用語:カーボンシンクとは、大気中に存在するCO2を地中や海底に吸収することをいう。陸地に生える植物や、海中の海藻などが大気中のCO2を地中や海底に吸収する役目を果たす。
※6 参考:ADRIANO DI MARTI「SUSTINABILITYーWHY CUCTUS?」
https://desserto.com.mx/why-cactus%3F
※7 参考:BOLT THREADS「MYLO IMPACT」
Impact | Mylo™ | Unleather (mylo-unleather.com)

社会問題を解決する糸口にもなるヴィーガンレザー

環境保護だけでなく、社会問題をも解決するヴィーガンレザーも存在する。それが、インドのスタートアップ企業Phoolが開発した「Fleather(フレザー)」だ。廃棄された花から生み出されるヴィーガンレザーである。

インドのヒンドゥー教では、日々の神事においてマリーゴールドを主とした大量の花を献花する習慣がある。神に捧げた花を捨てられない、という理由から、寺院はそれらをガンジス川へ流すことが常となっており、Phoolの前身・Help Us Green社の発表によると、その量は1日2.5トンにもなるという。(※8)しかし、農薬が使われた花が大量に川に流されることで、川の水質汚染はもとより、川に住む生き物の生態系が崩れ、人体への悪影響も問題視されている。そこでそれらの問題の解決の糸口となったのが、花を活用したヴィーガンレザー「Fleather」だ。

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Phoolは、寺院を回り、川に投げ入れられる前の花を回収・加工することで、環境汚染から川の生態系や人々の生活・健康を守っている。環境保護に限らず、インドのカースト制度で最下層といわれる「ダリット」に生まれた女性を“flowercyclers”として雇っているという。その数は163名以上にのぼる。

インド国内でカースト制度が廃止されてから70年以上が経つが、いまだに等級を理由とした根強い差別が存在することは、社会問題としても多々語られてきた。ダリットは「不可触民」と訳され、彼らが就ける仕事といえば、ヒンドゥー教で“不浄”とされる、葬儀の準備や死んだ家畜の処理などに限られていた。長年しいたげられてきたダリットの女性への就業機会の提供は、彼女らの生活水準を上げ、そのことにより子どもへの教育機会の提供まで実現しているという。「Fleather」をはじめとして、良い連鎖が発生しているのだ。

2022年には、「THE EARTH SHOT PRIZE」(※9)ファイナリストにも選出され、地球環境の保護・改善に影響を与えた企業・製品として注目を集めた。

環境に配慮した製品であることは前提として、インドに暮らす人々の宗教や文化を尊重しながら、雇用を生み出し、生活を守る製品としての「Fleather」。ヴィーガンレザーの役割をこれまで以上に拡張し、ファッション業界から持続可能な社会の実現を目指すにあたっての大きな鍵になると言えそうだ。

※8 参考:Help Us Green 「Impact」
https://www.helpusgreen.com/pages/impact

※9 参考:地球が直面する最大の危機である環境問題に対して、解決策を見出すことを目的とした賞で、毎年5人が選出される。歴史上でもっとも権威ある世界的な地球環境賞と言われている。
THE EARTH SHOT PRIZE「2022 FINALIST BUILD A WASTE-FREE WORLD FLEATHER」
https://earthshotprize.org/winners-finalists/fleather/

使わないと廃棄される皮があることも、決して忘れてはならない

ここまで、次世代を担うであろう多様なヴィーガンレザーを紹介してきたが、リアルレザーが絶対悪という訳では決してない。現に、畜産業は私たちの生活に欠かせない産業であり、畜産業が存続する限り、その副産物として加工されるべき皮も出てくるのだ。日本発の革製品ブランド「genten」は、ホームページで以下のように語っている。

いのちを余さず活用するために。
革という素材を使います。

 

食べるためにいただく命を、余さず活用したい。その観点から、gentenでは革という素材を中心に、天然素材をおもに使った製品を作っています。牛・羊・山羊・豚など食肉の副産物として生産された革や、その他、害獣駆除された動物の革などを積極的に使用しています。

革製品は「日本最古のリサイクル製品」と言われることもある。私たちの生活を支えている食肉産業と古くから密接に関わり、「副産物」を加工しているという点でこのように言われているのだろう。

では、あなたは革製品をどう捉えるのが心地よいだろうか。いまあなたが大切にしたいことは、動物愛護だろうか、地球環境に優しい循環だろうか、それとも命を無駄にしないことだろうか。こうした視点を持って、身につけるものを選択する。その積み重ねの中で、ファッション業界における持続可能な社会の実現に向けた道が少しずつ見えてくるのかもしれない。

※7 引用:gentenホームページ「gentenの約束」
https://genten-life.kuipo.co.jp/contents/492/

 

文:おのれい
編集:篠ゆりえ