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止まらない日本の少子化。母親・家族像の「あるべき論」も影響している?

202211月、世界の人口が80億人に達した。このままいくと、2080年代には約104億人となりピークに達する予定だ。(※1)一方で日本では少子化が叫ばれて久しく、様々な子育て支援策が打ち出されている。私たちの生活では少子化を課題とする声が日常になりすぎているが、改めて考えたとき、人口の増減は社会生活や地球にどのような影響があるのだろうか。また、なぜ日本では少子化が改善の兆しを見せることなく、問題として叫ばれ続けているのだろうか。今回は、とくに家族や子育て・母親に向けられる日本の固定観念を軸に考えてみたい。

※1 参考:国際連合広報センター「世界人口は20221115日に80億人に達する見込み(2022711日付 国連経済社会局プレスリリース・日本語訳)」
https://www.unic.or.jp/news_press/info/44737/

人口増加はアフリカに集中。SDGsの飢餓や教育、ジェンダー平等に課題

まず世界人口の増加について、少し補足したい。2080年代にピークに達すると見られるが、2050年までに増加する人口の半数以上はサハラ以南のアフリカの国々(※2)に集中すると見られている。2050年には、世界の4人に1人がアフリカの人々になるという予測もある。これらの急速に人口が増加している国では、飢餓や栄養不良への対応、保健や子どもたちへの教育機会の提供などが喫緊の課題となる。

一方、現時点で世界人口の3分の2は、女性1人あたりの生涯出生率が2.1人未満と比較的出生率の小さいエリアに暮らしているそうだ。少子化が顕著な国では労働力の減少、高齢者増加による現役世代への負担増といった課題への対応が求められる。このように、人口の増加・減少それぞれの状況によって、課題となる内容やその対策は大きく異なるのだ。また、世界規模で人口の増減を捉えた場合、とくに保健や教育、ジェンダー平等に関するSDGs目標を達成するためには、出生率を下げ世界人口の増加を遅らせることが求められるという見方もある。

※2 参考:具体的に人口増加が見込まれる国々は、コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニアの8カ国とされる(※1のデータを参照)。

日本は1年間で10万人減少

少子化と言われている日本の現状はどうなのだろうか。国連人口基金(UNFPA)が20223月に発表したデータによると、2022年の日本の人口は12600万人で世界11位となった。結果だけ見ると国土が小さい割に人口の多い国のように見えるが、昨年と比べて約10万人減少している。全人口の0.1%近くの減少率だと考えると、そこそこ大きなインパクトではないだろうか。(※3

人口減少の大きな要素である出生率について見てみると、内閣府が発表したデータでは2020年の合計特殊出生率(※4)は1.33人となった。人数にすると84835人であり、これは過去最低の出生数だ。欧米諸国でも同年の出生率は1.21.8程度と低い数字であるが、日本はなかでも減少傾向が強いと言える。一方でアジア諸国では全体的に1.0前後の出生率が記録されており、香港や韓国などが0.80.9程度を記録していることと比較すると、日本の数字はまだ高い状態と言える。(※5

出典:内閣府「令和3年度少子化の状況及び 少子化への対処施策の概況 (令和4年版少子化社会対策白書)」p.2 (2023年1月4日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2021/r03pdfhonpen/r03honpen.html

日本の少子化の主な理由としては、若者の価値観・ライフスタイルの変化や晩婚化・未婚化をはじめ、子どもを産んだ場合の金銭面への不安、子育てと仕事の両立への不安など多岐にわたる。

2021年に国立社会保障・人口問題研究所が実施した「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(※6)でも、その傾向は顕著に表れている。たとえば「理想とする女性のライフコース」を問う設問では、男女ともに「専業主婦」を理想とする人が昨年比で大きく減り、「仕事と子育ての両立」を求める人が増えている。また、「子どもを持つべきだ」「夫は仕事、妻は家庭」といった価値観への賛成数も大きく減少している。

結婚そのものに対する価値観にも変化が見られる。同調査では、「生涯独身は良くない」「男女が暮らすなら結婚をするべきだ」といった設問への賛成数が大きく減っており、「離婚を避けるべき」「結婚に犠牲は必要」といった考えへの賛成数も減少した。結婚することが必ずではないし、結婚をしたとしても自由のある関係性や従来の型に囚われない結婚観が見て取れる。

一方で、同調査は独身の男女(18歳〜34歳)に「いずれ結婚するつもりがあるか」についても尋ねている。結果として、男女共80%以上の男女が「するつもりだ」と回答しており、年々減少傾向にありつつも、多くの人が結婚願望を持っていることが分かった。結婚願望はあるが、結婚それ自体や結婚後の関係性の自由については肯定的に捉えている人が多いと考えられる。この結果からは、結婚の形や夫婦のあり方について、これまで「こうあるべき」とされていた概念が変化していることが見て取れる。

※3 参考:UNFPA “state of world population 2022”
https://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/EN_SWP22%20report_0.pdf
※4 用語:「1549歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」であり、1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する。ある1年における出生率を記録したものと、同一世代の出生率を過去から積み上げたものの2種類があり、国際比較では前者が用いられる。
※5 参考:内閣府「令和3年度少子化の状況及び 少子化への対処施策の概況 (令和4年版少子化社会対策白書)」(202314日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2021/r03pdfhonpen/r03honpen.html
※6 参考:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp

母親の負担を軽減するのは、現金より「現物支給」

このような現状を踏まえ政府も対策を進めている。20205月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」(※7)では、以下の内容が重点取り組み事項としてあげられている。

1 結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる

2 多様化する子育て家庭の様々なニーズに応える

3 地域の実情に応じたきめ細かな取組を進める

4 結婚、妊娠・出産、子供・子育てに温かい社会をつくる

5 科学技術の成果など新たなリソースを積極的に活用する

※7

この中には、若年層雇用の安定や希望者への結婚支援、保育環境の拡充や児童手当の支給など、様々な内容が盛り込まれている。これらの対策に関して、海外との興味深い比較があるので見てみたい。昨今日本では、子育てをしている家庭へのクーポン・現金などの「現金給付」が目立つが、「現物給付」の方が少子化対策に貢献するというデータがあるのだ。(※8

出典:内閣府「選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像 第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題 第1節 人口をめぐる現状と課題」(2023年1月4日閲覧)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_2.html

「現物給付」とは、具体的には保育所の拡充や運営費、児童福祉施設の整備費などが挙げられる。これらの「現物給付」の割合が増えることは、育児をする「母親」の負担減少に直結することが理由として考えられている。一方で欧米他国と比べ、日本は「現物給付」の割合が小さい。

そもそも前提として日本は、社会保険給付の中でも高齢者関係給付に対して家族関係給付(※9)が小さい傾向にある。2019年の実績では、高齢者関係給付が社会保障給付費のうち37.9%であったのに対し、家族関係給付は7.6%であった。(※10)2002年の実績では高齢者関係給付が69.9%、家族関係給付が3.8%だったことと比較すると、かなり変わってきていると言えるが、高齢者給付の割合は他国と比較しても高い水準であるようだ。(※11

これまで見てきた内容を踏まえると、若者の結婚観は従来の結婚・夫婦の「あるべき論」から変化してきている。「妻は家庭」という価値観が薄れてきたその一方で、子育て支援対策は「現金支給」が中心のままであり母親の負担軽減に繋がりにくい状況であることや、社会保障が依然として高齢者中心となっていることは、少子化の現状に対して適切な打ち手になっているのか、改めて考える必要があるかもしれない。2023年の年頭、岸田首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と決意を表明した。20234月に新設される「子ども家庭庁」も相まって、一層力強く取り組みがなされていくことを期待したい。

※7 参考:内閣府「少子化社会対策大綱」(202314日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/pdf/r020529/shoushika_taikou_g.pdf
※8 参考:内閣府「選択する未来 -人口推計から見えてくる未来像 第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題
1節 人口をめぐる現状と課題」(202314日閲覧)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_2.html
※9 補足:家族関係給付には、就学前教育・保育の給付や育児休業給付など、子どもに関する支出が含まれる。
※10 参考:国立社会保障・人口問題研究所「令和元(2019)年度 社会保障費用統計(概要)」
https://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-R01/R01-houdougaiyou.pdf

※11 参考:内閣府「平成16年版 少子化社会白書 第3章 少子化はどのような社会的・経済的影響を及ぼすか 第3節 少子化の経済的影響」(202314日閲覧)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g1332010.html

デンマークの「家族の形」は37種類

結婚や夫婦の形について価値観が変化してきていることは、「家族」のあり方の変化にも繋がる。日本でも近年、同性パートナーシップ制度を導入する自治体が増えるなど、様々な家族をサポートする制度が生まれてきている。一方で、国としての導入は進んでいないのが現状だ。

海外に目を向けると、多様な「家族のあり方」を認めている国も存在する。その国とはデンマークだ。デンマークでは人口統計上、家族の形がなんと37種類に分類されている。たとえば、異性との法律婚、同性との法律婚、非法律婚(カップルの実子と同居)、同棲(カップルの実子ではない子どもと同居)、シングル、同性との登録パートナーシップ、といった形である。(※12)たとえ夫婦関係が解消したとしても過去のパートナーと頻繁に連絡をする家族も多く、子どものお祝いなどには過去・現在のパートナーを含めて広く「家族」で時間を共有するそうだ。デンマークの出生率は日本より高く、1.7%程度となっている。

伝統という考えももちろん大切ではあるが、時代の流れにそって柔軟に変化していくことができなければ、実態に合わず窮屈になってしまったり、ただの押し付けでしかなくなってしまったり、ネガティブな見方を伴う考えになってしまう。その点、多くの選択肢が等しく並ぶデンマークのような社会のあり方は、「あるべき論」の輪郭が薄まった社会で自分に合った子育て環境を選択できるという点で、子育てをより前向きに捉えられるヒントになるかもしれない。

※12 参考:日本経済新聞「『まず結婚』が招く少子化 北欧は婚外子5割、支援平等 人口と世界 わたしの選択(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA30AVH0Q2A930C2000000/

求められる「母親像」も少子化の1要素かもしれない

固定観念という点では、「母親像」も「あるべき論」を求められる要素かもしれない。

「チャイルドペナルティ」という言葉をご存知だろうか。この言葉は、子どもを持つことによって生まれる社会的に不利な状況を指す。別名「マザーフッドペナルティ」とも呼ばれるが、それは圧倒的に女性、つまり「母親」がこの状況に陥る可能性が高いことに起因している。日本の育児が女性に偏ることは、長年言われ続けている。2022年には、男性の育児参画を進めることが女性の負担を軽減し少子化対策の一翼を担うということから、「産後パパ育休」などの制度が制定された。日本国内でも、育児は母親だけでなく家族でするものという機運が高まってきている。しかしながら、現実としてはまだ、男女差が大きいのが事実だ。

ここに、各国のチャイルドペナルティを比較したデータがある。出産後の女性の収入推移を示したデータだ。「Event Time」と記された赤い縦線が第1子を出産した日で、その前後で収入がどう変化したかを示しており、赤が日本、青がアメリカ、黄緑がドイツ、黄色がデンマークである。各国出産の前後で収入が下がっているが、日本はその中でも水準が低く、出産当初から数年後まで上昇しないことが特徴である。(※13)このようなデータを見ると、女性は「母親になること」で家庭に費やす時間が増え、労働機会ならびに収入確保が難しくなる現状が見て取れ、育児による負担を感じてしまう。これは、社会通念化している「母親像」から未だ抜け出せず、女性の負担が軽減されていない実態だと捉えられるのではないだろうか。

出典:財務総合政策研究所「『仕事・働き方・賃金に関する研究会 一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて』 報告書 
第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ」p.47
(2023年1月5日閲覧)

そのほか、母親には本能的に「母性」が備わっており、子どもに最優先で尽くすことができるとする「母性神話」や、子どもが3歳になるまでは母親がそばで養育すべきあり、保育園に預け仕事に行くことは望ましくないという「3歳児神話」など、母親には何かと固定観念がつきまとう。

このような固定観念に悩む母親も一定数いるようだ。NHKは2022年11月に、母親約6500人(18歳〜79歳)を対象に調査を実施した。(※14)その結果では、「『母親にならなければよかった』と思ったことがあるか」という設問に対し、64%の人が「1回もない」と答えた反面、「思ったことがある」と答えた人は32%ほどいたという。「思ったことがある」と答えた人の理由については、「自分はよい母親になれないと思う」という回答が42%ともっとも多く、次いで「子どもを育てる責任が重い」が40%、「『母親らしさ』や『母性』を求められる」も16%が当てはまると回答した。この悩みを周りに話したことがないという人は全体の半数以上であり、「口に出してはいけないと思った」「母親になることを決めたのは自分だから」などが理由の上位であった。もしかしたら、この気持ちを1人で抱え込み、悩んでいる母親が身近にもいるのかもしれない。

※13 参考:財務総合政策研究所「『仕事・働き方・賃金に関する研究会 一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて』報告書 第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ」
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2021/shigoto_report03.pdf (2023年1月5日閲覧)
※14 参考:NHK「“母親にならなければよかった”?女性たちの葛藤 6000人アンケート結果」
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic099.html

母親像の「あるべき論」を変えていく取り組み

このような状況を前に、旧来の「母親像」に縛られない母親のあり方をサポートする活動も生まれてきている。一般社団法人母親アップデートは、「母親を、もっとおもしろく。」をビジョンに掲げ活動する団体だ。母親の「あるべき論」に悩んだ経験のあるメンバーが発起人となり、母親個人向けのセミナーや情報提供のほか、高校生向けにキャリアに関する講演なども行なっている。母親が「自分」でいられる居場所をつくるため、「母親アップデートコミュニティ」という「オンラインご近所システム」も提供しており、約220人のメンバーが参加しているそうだ。

また、時代に合った夫婦や家族のあり方をサポートする取り組みもある。Logista株式会社では、「人生を共に創ると決めたパートナーと、より良い未来に向けて『対話』を重ね、行動を決める場」として「夫婦会議」という独自の場を定義し、夫婦の対話をサポートするサービスを提供している。夫婦を世帯の共同経営者と位置づけ、共に子育てをしていく協力関係であることを互いに認識し、夫婦間に納得のいく対話が生まれる場づくりを目指している。

子どもを育てる親が、自分らしく子育てができる重要性は高まってきている。「良妻賢母」などという言葉もあるが、そういった「こうあるべき」という姿に縛られないこと、また周りも「母親」などというカテゴリで縛りイメージを押し付けないことも、育児への不安を払拭する一助になるのではないだろうか。

もう少し、肩の力を抜いて子育てができたら

子育てには、大きな喜びとともにたくさんの苦労も伴うだろう。しかし、仕事と育児の両立についても、周囲から求められる「親」「母親」としての役割についても、もう少し気楽に向き合い選択することができれば、もっと子育てに取り組みやすい社会になるかもしれない。その点では、国や地域からのサポート・サービスを受けやすい環境を整えていくことはもちろん、子育てにまつわるあるべき論が少しずつ取り除かれていくことも大切なことなのではないだろうか。日本の少子化の現状を考えるとき、日本に根付く文化とそれに伴う固定観念がより寛容になっていく社会の必要性も、頭の片隅に置いておきたいと感じる。

 

文:大沼芙実子
編集:吉岡葵